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6・襲われた第五王子

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 ドガァァァァァン!! ドガァァァァァン!!

「っ!? な、なんだ!? 何の音だよ!? おい!?」

 いつものトレーニングを終え朝食後、今日の予定を確認していたらいきなり大きな音と大きな揺れが俺たちを襲った。一体何が起こったんだ!?

「殿下! 今すぐお逃げください!」

 何があったのかわからず動けずにいたら、部屋の扉が勢いよく開いて使用人が飛び込んできて叫んだ。

「はぁ!? 一体何があったんだ!?」

「宮が…宮が襲撃を受けました! 早くお逃げください!」

 は? 襲撃だと?

「殿下! お早く! 火の回りが早いです!…ディルク殿!!」

「殿下、行きましょう!」

 ディルクは呆けて動けない俺の手を取り一目散に窓へ向かって走り出した。ディルクの手には大きな鞄が一つ握られている。

「さぁ窓から出ますよ! 急いで!」

「ま、待って! 皆は!? 皆も逃げないと!」

 窓を開けて俺を外へ出そうと体を押すディルクを制し中へ戻ろうと身をよじる。

「なりません! 私たちは、この宮の者は全員で殿下の脱出のために残ります! 少しでも時間を稼いでいる間に早くお逃げください!」

「は? 何言って…そんなの、そんなの許せるわけないだろう!?」

「ヴォルテル殿下、貴方にお仕え出来たこと心より感謝いたします。どうぞお元気で。…ディルク殿! 早く!」

「…失礼します!」

 一言断りをいれたディルクは動こうとしない俺を抱きかかえ窓から飛び出した。ここ2階!! と俺の心配をよそにスタっ! と着地しそのまま走り出した。

「やめろ! 俺だけ逃げるなんて嫌だ! 皆を! 皆を助けないと!」

「なりません! 皆を思うならどうか逃げてください!」

 ディルクから離れて皆を助けに行きたいのにディルクの力が強すぎてほどくことが出来ない。そのまま俺はディルクに抱えられたまま宮を、俺の住まいだったところから離れていく。

 ドガァァァァァン!! ドガァァァァァン!!

 音につられて俺の宮へ視線を飛ばすとあちらこちらで爆発がおこりもうもうと火の手が勢いよく上がっていた。

「…嘘、だろ。なんで…」

「…おそらくアドリアン殿下の仕業です。少し前にヴェッセル殿から連絡がありました。そろそろ動くだろうから気をつけろ、と」

 なんだって? 嘘だろ…。俺そんなの聞いてない。

「なんで黙ってた!? 知っていたら対策をたてられたかもしれないのに!」

「もう無理だったんです! 殿下の宮は全て包囲されていました。何か怪しい動きをすればすぐに感づかれる。それならば、向こうが仕掛けてごたごたしている間に逃げる方がいいと判断しました。これは、貴方の宮で働く使用人全員の総意です」

 え…。使用人全員…?

「…そろそろ接敵する頃合いです。殿下も戦えますね?」

 そう言ってディルクに下され剣を渡された。

「ここを突破してとりあえず出国します。その為には殿下にも戦ってもらわなければなりません」

 手渡された剣に視線を落とす。いつも鍛錬の時に使っている手に良く馴染んだ俺の剣。こうなることが分かっていて、その荷物も事前に準備していたのか。

「走りますよ!」

 また手を握られ半ば引きずられるかのように全速力で走っていく。俺の頭は混乱から立ち直っていなかった。

 いつか何か仕掛けてくると思っていた。だけど今の今まで何もされず、アドリアンの動きも掴めず、もしかしたらこのまま何も起こらないのかもなんてのんきに考えていた。そんなことあるはずないのに。

 皆は近々何かあることを知っていた。そして俺を逃がすためにその時を待っていた。その時は死ぬ時だとわかっていて。

 どれだけ走っただろうか。庭園を抜け木々が多い茂る中をディルクと2人で疾走する。
 はぁはぁと息が上がっている。日頃毎日のように鍛錬していてよかった。なんて俺の頭は今起きていることが何なのか考えることを放棄している。


「っ!? このっ…!」

「!?」

 ひゅっと音がしたと思ったら矢が飛んできてディルクが剣で叩き落としていた。

「そこまでだ。よくここまで逃げてこられたな」

「アドリアン…」

 サクサクと草を踏み鳴らし現れたのは何人もの兵を連れた第一王子のアドリアンだった。

「まさかこんなところまで来るとは思っていなかったが、念のためにと思ってここへ来ていて正解だったな」

「これは…お前がやったのか」

「そうだ。お前のところだけじゃない。ダミアンもテゲンハルトも、そして王も今頃は屍となって転がっているだろうよ」

 そんな…。俺だけじゃなく全員殺しただと…?

「くくく。これで俺がやっと王となれる。ここまで長かった。王の警戒を解きながら自分の力を大きくし、計画を練ってやっと実行することができた。無能な王ではなく、これからは俺がこの国を導いていく。その為に…特にお前は邪魔だ。ここで死んでもらおう」

 それを合図に周りにいた兵達に一斉に剣を向けられる。

「そんなことは俺が許しません」

 ディルクが俺を庇って前に出る。いくらディルクが強くても多勢に無勢だ。兵士だって弱くはない。
 兵士の1人が動いた。剣を振り下ろしディルクがそれを受け止める。それと同時に他の兵士もディルクに向かって剣を振り下ろす。

「ディルク!」

 とっさに風の刃を放ってその兵士の注意をそらす。その隙にディルクは最初の兵士を斬りつけた。
 でも兵士の数は多い。15人ほどいるだろうか。この数を相手に俺たちはたったの2人。それも俺はディルクみたいに強くはない。

 こんなところで殺されるのか。俺はこんなところで死んでしまうのか…。
 そんなのは嫌だ。嫌だ! あがいてやる! ここを逃げ切って俺は生き残ってやる!

 
 まだ多くいる兵士の相手をするディルクを援護するように風の刃を発動させる。だが兵士はそれを軽くよけ俺に向かって剣を振り上げてきた。

「殿下!」

「俺だってやる時はやるんだ!」

 俺に向かってきた兵士の剣を避けて風の刃を当てる。がすぐに別の兵士が俺に向かってきた。剣を受け止めるも向こうは本職だ。俺が適う訳がない。そのまま弾き飛ばされ無様にも地面に転がる。
 その上から剣が振り下ろされるがそれをごろごろと転がり避けすぐさま立ち上がる。

 ディルクとの鍛錬が無駄になっていない。あの時ディルクにお願いして鍛錬をしてきて本当に良かった。

 だがそこで矢が放たれディルクの右肩に刺さった。

「ディルク!」

「大丈夫です!」

「くくく。頼みの綱の護衛がこのままではお前たちに勝ち目はない。大人しくそのまま殺されてくれ」

 少し離れた場所でアドリアンがさも楽しそうにそれを眺めている。くそっ! 俺がもう少し魔法が使えたら。もう少し剣がうまく扱えたなら!


 また矢が放たれディルクの足に刺さった。そのせいでディルクが一瞬姿勢を崩したのを見逃す兵士じゃない。すかさず剣を振り上げてディルクへと迫っていく。

「ディルク!」

 それを見て氷の槍を発動させるが軽くよけられ、別の兵士がディルクへと迫る。魔法が間に合わない。ディルクが斬られてしまう。
 そう思った時、大きめの風の刃が通り過ぎ兵士を数人真っ二つにした。


「へ?」

 何が起こったのかわからず変な声が出てしまった。俺は魔法を発動していないのに一体何が?

「真打登場! なーんてね。しぶとく生きていましたか。いやー良かった良かった」

「ヴェッセル!?」

 声がする方へ振り向くと神官長のヴェッセルがそこにいた。相変らずにこにこと何を考えているかわからない顔で近づいてくる。

「このまま東へ逃げなさい。馬を用意してあります」

 俺の側へ来るとボソッと聞き取れるか聞き取れないかの声量で用件だけを伝える。そしてそのまま大きめの氷の槍を一本ズドン!とディルクの前に突き刺した。

「早く!」

 ヴェッセルにそう言われ反射的にディルクの側へ駆け寄る。手を取り言われた通り東へと走り出した。

「ヴェッセル! 貴様! お前が動けないよう神殿に隔離していたはずだ!」

「残念でしたね。私にも協力者がいるんですよ。貴方にバレないようにするのが大変でした。あはは。ああそうそう、途中で矢を撃っていた兵士はもうこと切れていますので安心してください!」

 きっと最後の言葉は俺に向けて言った言葉だろう。心の中で感謝してそのままディルクと駆け抜ける。

「私は貴方たちとまともに戦う気はありません。…では」

 後ろを振り返れば大きな炎が立ち上り一瞬にして火の海と化していた。きっとその隙にヴェッセルも逃げるのだろう。
 俺はせっかくのこのチャンスを逃がさないとばかりに必死に駆け抜けた。

 するとあいつの言う通り馬が2頭待機していた。すぐにつながっている縄をほどき馬に乗って駆け出していく。行先なんてわからない。とにかく遠く遠く、ここから離れて国を出る。

「ぐっ…」

「ディルク! 大丈夫か!?」

「大丈夫です、今のところは。このまま行けば小さな村があるはずです。そこを超えて森へ身を隠しましょう」

 わかった、と一言だけ告げて、あとは無言でひたすら馬を走らせた。
 ディルクの言う通り、小さな村があってそこへは立ち寄らず素通り。そしてその奥にある森へと入り川を見つけてそこで馬を降りた。

「ディルク! 怪我の手当てをしないと」

「大丈夫です。少しですがポーションも持ってきています」

 そういうとディルクがここへ来るときに手にしていた鞄からポーションを一本取り出し飲み干した。これで肩や足に受けた矢の傷は大丈夫だろう。


 俺たちはこのままここで休憩をとることにした。

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