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5・転生者特典のチートはどこですか?

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 あれから5年経った。

 俺は未だにピンピンしている。警戒していた毒の混入は1度としてない。そしてアドリアンが訪ねてくることもなかった。

 王族として、どうしても出席しなければならないパーティーなどで顔を合わせたりはするが特段変わったこともなくそのままだ。だが正直何もしてこないことがさらに警戒を強めている。


 15歳になった俺はかなり背が伸び、体つきも逞しくなった。…とはいっても、なぜか思ったほど筋肉がつかず首がもげそうなほど捻ったが。あれだけ高たんぱくな食事をしてあれだけ筋トレもしたのに…。だが、だぶだぶの肉布団はどこかへ飛び去りあの時の面影は全くなくなった。
 脂肪に埋もれていた顔が出てくれば美少年の誕生か!? と思ったがなんてことはない平凡な顔に毛が生えた程度の顔。不細工ではないが特別イケメンでもない顔だった。

 なんでだよ!? 父親はアレだけど母親はそれなりに美人だったぞ!? なのになんで俺は父親に似たんだよ! クッソ!


 剣もディルクのお陰でかなり腕が上がったし魔法だって扱えるようになった。
 ただ悲しいかな。剣の腕はディルクに遠く及ばないし、魔力量も大して多くはないから魔法だってちょっと扱える程度。


 誰だよ。ガンドヴァの王族がドゥクサス神の子孫だなんて言ったやつ。

 そんな王族が魔力量がしょぼくて顔もいまいちで剣の腕も平凡のチョイ上くらいで筋肉もそんなにつかないはずがねぇだろうが!! チートどこ行った!?

 嘆いていてもしょうがない。これが現実だ。俺は賢い。現実を素直に受け入れたさ。ははは…。ちくしょー。あ、目から水が…。


 そしてこの国も状況が変わりつつある。

 アドリアンがいろいろと手を出してくるようになってきた。リッヒハイムの貴族と手を結びドラゴンをけしかけたり、王都にテロリストよろしく爆発の魔道具をしかけたり。小競り合いを続けてきた父とは違い、内部へと進行し始めていった。

 だが全て失敗に終わったみたいだが。ざまぁ。


 そしてなんとその時の状況を聞かされたとき、もしかして、と思うことが出てきた。

 『通話の魔道具』の存在だ。

 ドラゴンのこともテロを行おうとしたことも、どちらも失敗したのは『通話の魔道具』が関係しているらしいということ。話を聞くとまるで前世の電話そのものだった。それを聞いて俺は俺と同じ転生者がいるんじゃないかと思うようになった。

 リッヒハイムに行きたい。転生者に会いたい。

 それから俺の頭の中はそれでいっぱいになってしまった。だがこの国をなんとかすることが俺の仕事だ。ここをほっぽり出して隣国に行くことなんてできない。

 それに実際問題、ガンドヴァの王族である俺がリッヒハイムに行くなんて殺されに行くようなもんだ。それこそ何も企んでいないのにテロリストとして捕まってしまうだろう。…まぁいきなり問答無用で牢に入れられるなんてことはないだろうが、監視付きの軟禁に近いことはされるだろうな。

 いらん波風を立たせるつもりなんてこれっぽっちもない。

 そしてそれと同時に俺はアドリアンとの差が開く一方で何もできないまま今を迎えている。

 アドリアンは20歳になり、アドリアン陣営もあれからかなり大きくなっている。俺が入り込む隙間なんてこれっぽっちもない状態だ。


 だが面白い味方が俺に出来た。いや、味方と言っていいのかわからないが…。

 ガンドヴァの唯一神、ドゥクサス神を祀る神殿の神官長「ヴェッセル」。2年前に突然俺んところにやってきて「ある日突然人が変わったというのはあなたですか、ヴォルテル殿下」といきなり声を掛けてきた。

 あの時は、不審者!? と慌ててディルクも剣を抜いて対峙したんだが、慌てることなく嫌味なくらいニコニコとしながら自己紹介を始めた。

「ふふふ。やっぱり思った通りだ。貴方の魂はとても変わっていますね。うん、とてもいい。気に入りました」

 そう言ってほほ笑んだヴェッセルの目は碧から金色に光っていた。

 なんでも目に魔力を通すとその人間の魂? が視えるらしい。うさん臭さしかない。ただ物凄く負担がかかるらしくほんの少しの間しか使えないらしい。その後もしばらくその力は使えないそうだ。だがそれで神官長の座を手に入れたと言ってた。

「魂はいわばその人そのものを現しています。貴方の魂はとても面白い。そうですね…どこか別の世界から来たかのようでとても歪だ」

 その言葉を聞いて俺はドキっとした。別の世界の前世の記憶があることがばれたのだろうかと。


 この国の神殿と王家は強い繋がりがある。ドゥクサス神の子孫である王族とドゥクサス神を奉る神殿。だから神殿に勤めるものは王族を神のごとく崇めている。その中でも神官長は王族と唯一言葉を交わすことのできる神殿の最高権力者だ。普段は父である王としか会わないから俺はこいつを知らなかった。

 だがこいつが王宮に来た時に俺の噂を聞いたらしく一目見たいと訪ねてきたんだ。その日の出会いからなぜか俺は気に入られて、アドリアンの動きをそれとなく教えられるようになった。

「貴方が王になったらこの国はさぞかし面白いことになるでしょうね。見てみたいですが現状を考えると難しいでしょう。いやー残念。非常に残念です」

「…俺が王になったら神殿を解体するかもしれないぞ。そうしたらお前の立場もなくなると思うが?」

「それはそれでいいんですよ。もう十分稼がせていただきましたし。そんなことより面白いかどうかです。人生においてね」

 今の自分の立場はどうでもいいとかこいつがよくわからん。それに神官長として「稼いだから別にどうでもいい」という発言はどうなんだ。


 まぁよくわからん変な奴だが、アドリアンが俺に対して怪しい動きをしそうな時情報をくれる。だから毒を混ぜられることもなく今も俺はぴんぴんしているんだが。

 
 それから俺に関わる使用人達だが、俺に対してかなり心を開いてくれるようになった。皆笑顔でいてくれるしびくびくしながら接していたのは遠い昔のようだ。

「貴方様にお仕え出来てわたくし共はとても幸せです。何かあれば命をかけてお守りいたします」

 なんて非戦闘員のはずなのに、どこぞの騎士かと思うような言葉をくれるようになった。

 俺は何も特別なことはしていない。横暴な態度をとることをやめて「ありがとう」とか「よくやった」とか言うようにしたくらい。だけど、今までの王家の人間と比べれば居心地がいいのは明らかだ。

「俺も殿下の専属護衛になれて幸せです」

 ディルクにも笑顔でそう言われて信頼関係がちゃんと築けたのかと嬉しかった。嬉しかったんだが…。


 なんだろうな。最近よく「あれぇ?」と思うことも増えたんだ。例えば…。

「ああ、殿下の綺麗なお手にこんなにもマメが…。お労しい…」

 と言って掌にチュッとキスをしたり、筋トレをしていれば

「素晴らしい体です。とても引き締まっていて美しい…」

 と言ってうっとりしながらつつつーっと体をなぞられたり

「殿下、口の横にソースが付いていますよ。…ん、綺麗になりました」

 と言って親指でそっとぬぐったと思ったらその指をペロッと舐めたり…。

 しかも顔がなんかエロい。エロいんだよ…。そのたびに俺はドキっとするんだが。


 なんなんだろうな、ディルクのこの行動は…。たまに身の危険を感じるんだがまさかディルクに限ってそんな…な?
 それに俺は異性愛者だ。男にときめくことなんてない。ないはずなんだが…。
 
 まぁ俺に対して心を開いてくれたのならばそれでいいんだ。うん。


 そんなことより、俺の今後の身の振り方をどうするか、だ。もうこのままアドリアンが王位を継ぐことは決まりだろう。
 俺もただ指をくわえているだけじゃなく、陣営を大きくしようといろいろやったが無駄だった。

 簡潔に言えば、貴族のほとんどはアドリアン信者と化していた。王族に対して失礼な態度はとることはないが、口を開けば「アドリアン殿下が王になる日が待ち遠しい」といった感じのことを言われるから、「お前がしゃしゃり出てくる隙間などない」と言われているのと同じだった。

 アドリアンはだんだんと政治の中心へと入ってきている。王が変わるのも時間の問題かもしれない。


「これからどうすりゃいいんだ…」

 何も出来ないままここまで来てしまった。

「殿下。何があっても俺は貴方の専属護衛です。どんなことからも側にいて守りますから」

「うん、ありがとう。頼りにしてる」

 目がちょっと怖いけどな。そう言ってもらえると素直に嬉しい。


 そして何もできないまま時間だけが過ぎ、2か月後。俺は命を狙われることになった。


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