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3・デブはつらいよ…ダイエット開始!
しおりを挟むメモを渡したはいいけど本当にその通りで作ってくれるか不安はあったが…。
俺の心配をよそに、メニューに書いた通りの夕食が運ばれてきた。だが、食事を運んできた使用人はものすごく不安な顔でテーブルをセットする。
「あの、殿下。本当にこのような食事内容でよろしいのでしょうか」
「ああ、問題ない。俺のリクエスト通りだ。料理長にもよくやったと伝えてくれ。それから今後、俺の食事は俺が指定したものを作ってもらう。そのことも伝えておいてくれ」
いつもは脂ギッシュな肉肉肉のオンパレードで、激甘のケーキがドドドンとテーブルいっぱいに並べられる。…思い出しただけでも胸焼けがする。
俺が大丈夫だと伝えても不安が消えず、いつ俺が暴れだすのかハラハラした表情で俺を見つめる使用人。それを無視してゆっくり味わうようにスープを飲んだ。…正直めちゃくちゃお腹が空いている。だけど体のためには我慢だ我慢。
スープを全て飲み干したら今日の食事はこれでおしまい。正直ぜんぜん物足りない。だが今まで暴食しすぎたせいで胃がおかしくなっているだけだから慣れれば落ち着くだろう。これは前世ですでに経験済みだ。後の空腹感は水を飲んでごまかしていく。
使用人も下がらせてディルクと2人きりになったところで、サポートしてもらいながらストレッチを始めた。寝る前だからあまり激しい運動はしない方がいい。そんなことをしたら交感神経を刺激して逆に寝られなくなりそうだからな。
「ぐぎぎぎぎぎぎっ…」
「殿下大丈夫ですか?」
俺の体が硬すぎるっ! まともに運動せずにいたから仕方ないけど。だが継続は力なり、だ。毎日続ければ必ず柔らかくなる。地道に頑張るしかない。呻きながらもゆっくりゆっくりストレッチをしてその日は寝た。
翌朝早朝。なんとか起き上がり庭園で朝の散歩を開始する。…結論から言うと、走れなかった。体が重すぎて走れなかった。だから急遽ウォーキングに変えた。あのまま無理して走っていたら間違いなく膝を壊す自信がある。そして実際歩いているだけでかなり息が上がってかなりしんどい。
「ふー…ふー…ふー…はひー…」
なんとも情けない声が口から洩れていく。歩くのってこんなに辛いのか。走れるようになるまで一体どれだけかかるんだろうか。隣を見れば涼しい顔をして俺に付き合って散歩をするディルク。くそ、俺も早くああなりてぇ。
「殿下少し休憩いたしましょう。…ちょうどあちらにベンチがありますし」
「そ…そうだな…はひー…。少し、休憩だ…」
ベンチに腰掛けディルクから水を受け取る。いやマジこの体きっつ。前世含め、こんなに太ったことなんて今までにないからかなり辛い。前世はサラリーマンで営業だったからしょっちゅう外回りで歩いていたけど、デブってこんなに辛いんだな。知らんかった。早く痩せたい…。くすん。
「足はどうですか?痛みはありませんか?」
「ふー…。そうだな、ふくらはぎのところがパンパンだ。ちょっと歩いただけでこのザマだ。俺の体の何とも情けないことよ…」
「失礼します。少しもみほぐしていきますね。……大丈夫ですよ殿下。続けていけば必ず結果は出てきます」
「うん。俺は絶対諦めない。だから俺の心が折れそうになったら叱ってくれよ。…あ~…そこ気持ちいい…」
本当にディルクはいい奴だよな。俺の体を気遣って足をマッサージしてくれて。本当はこんなことしたくないんだろうが。しかしめちゃくちゃ上手いな。超気持ちいい。
息が整うまで休憩して足が軽くなったところで再びお散歩再開。
「ふー…ふー…ふー…」
ぜいぜい言いながらもたっぷり汗をかいて朝の運動は終了。部屋に戻り軽く汗を流すことにする。デブだから汗の量が尋常じゃない。
シャワーだけでいいか、と1人浴室へ行きお湯を出す。
「殿下、お背中流しますね」
「どわぁぁぁぁ!! ディ、ディルクっ!? だ、大丈夫1人で入るから気遣いありがとうだけど俺1人で出来るから気にしないでくれ本当にありがとうごめんな!」
入浴の介助をしようといつも通りディルクが入ってきた。慌てて早口でまくし立て浴室から追い出す。バン! と扉を閉めてふ~っと深いため息を一つ。
いや、男同士だし本来こんなに慌てる必要ないんだけどな。だけどこの世界、男しかいないんだよ…。ということはつまり男同士でセックスするわけで。男の裸でもこの世界じゃかなり恥ずかしい。
今の俺は10歳の子供でデブだけど、前世の記憶を取り戻した今は男といえども裸を見られることがかなり恥ずかしくなってしまった。もちろん俺の裸を見たところで欲情しないことなんてわかりきってるけど。襲われる心配なんてないってことくらいわかってるけど。それでも嫌なものは嫌なんだ。
昨日1人で入浴できるって言ったはずなんだけどな。信じてもらえなかったのかなんなのか…。後でもう一度言っとかないと。
ささっとシャワーを浴びて部屋に戻れば朝食の準備が出来ていた。うんうん、今回もちゃんとメモ通り作ってくれているな。昨日と違って細かいとはいえ具材がある分「食べてる」って感じがする。ゆっくり噛んで少しでも満腹感を得られるようにスープを飲んだ。
「殿下、本当にお1人でご入浴できできるのですね」
「ああ。見ての通り俺は1人で大丈夫だ。だから今後も俺1人で風呂に入るからよろしくな」
かしこまりました、と一言だけ残してそれ以降何も言われることはなかった。よし、これで今後の風呂問題は解決だな。
食事の後はいつもの通り勉強の始まりだ。俺も王族だから毎日毎日何かしら勉強をする。ただ内容は「ん?」と首をかしげる内容も多々あるけども…。ドゥクサス神が絡んでくる内容に関しては全く理解が出来ないめちゃくちゃな内容だ。前世は無神論者だったのもあるけど、神話が実話だと言われてもピンとこない。前の俺なら「さすが自分!」と胸を張っていたんだろうけど。
それになんというか道徳面では納得がいかないことが多い。
『ドゥクサス神はこの世界の唯一神。他国が祭り上げているのは全て邪神。その邪神の教えから救い解放し、ドゥクサス神がこの世界を納めることこそこの世界が望むことである。この世のすべてはドゥクサス神のためにある。』
これは要するに、この世のすべてはガンドヴァの物。他国を侵略し我が物にし吸収せよ。この世界の国名はガンドヴァのみである。ということだ。
馬鹿か? んなわけねぇだろ。なんて自分勝手な考えなんだ。むしろドゥクサス神こそ邪神じゃねぇか。そしてその教えを忠実に守っているのが俺たち王族だ。
他国が一生懸命築き上げてきたものを全て取り込もうとしている。だからいろんな国と戦争を繰り返し略奪し大虐殺を行ってきた。でもこの国の言い方をすれば『ドゥクサス神の怒りに触れた者たちだが、ドゥクサス神の慈悲深さによって身元へ召喚され罪を償う機会を与えられる。とても有難いことである』だ。
もう一度言う。馬鹿か? んなわけねぇだろ。
俺の前世は地球という星の日本で生まれ育った。だから戦争なんて特に忌避感がある。前世の記憶のお陰でいかにこの国が腐ってるかよくわかった。こんな国、滅んでしまった方がいい。
こんな話勉強する意味ないとは思うけど、この国のことをちゃんと知るためには必要なことだ。いつか絶対この国を変えてやる。
見てろよクソッタレ!!
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