上 下
3 / 33

3・デブはつらいよ…ダイエット開始!

しおりを挟む
 
 メモを渡したはいいけど本当にその通りで作ってくれるか不安はあったが…。 


 俺の心配をよそに、メニューに書いた通りの夕食が運ばれてきた。だが、食事を運んできた使用人はものすごく不安な顔でテーブルをセットする。

「あの、殿下。本当にこのような食事内容でよろしいのでしょうか」

「ああ、問題ない。俺のリクエスト通りだ。料理長にもよくやったと伝えてくれ。それから今後、俺の食事は俺が指定したものを作ってもらう。そのことも伝えておいてくれ」

 いつもは脂ギッシュな肉肉肉のオンパレードで、激甘のケーキがドドドンとテーブルいっぱいに並べられる。…思い出しただけでも胸焼けがする。

 俺が大丈夫だと伝えても不安が消えず、いつ俺が暴れだすのかハラハラした表情で俺を見つめる使用人。それを無視してゆっくり味わうようにスープを飲んだ。…正直めちゃくちゃお腹が空いている。だけど体のためには我慢だ我慢。


 スープを全て飲み干したら今日の食事はこれでおしまい。正直ぜんぜん物足りない。だが今まで暴食しすぎたせいで胃がおかしくなっているだけだから慣れれば落ち着くだろう。これは前世ですでに経験済みだ。後の空腹感は水を飲んでごまかしていく。

 使用人も下がらせてディルクと2人きりになったところで、サポートしてもらいながらストレッチを始めた。寝る前だからあまり激しい運動はしない方がいい。そんなことをしたら交感神経を刺激して逆に寝られなくなりそうだからな。

「ぐぎぎぎぎぎぎっ…」

「殿下大丈夫ですか?」

 俺の体が硬すぎるっ! まともに運動せずにいたから仕方ないけど。だが継続は力なり、だ。毎日続ければ必ず柔らかくなる。地道に頑張るしかない。呻きながらもゆっくりゆっくりストレッチをしてその日は寝た。

 

 翌朝早朝。なんとか起き上がり庭園で朝の散歩を開始する。…結論から言うと、走れなかった。体が重すぎて走れなかった。だから急遽ウォーキングに変えた。あのまま無理して走っていたら間違いなく膝を壊す自信がある。そして実際歩いているだけでかなり息が上がってかなりしんどい。

「ふー…ふー…ふー…はひー…」

 なんとも情けない声が口から洩れていく。歩くのってこんなに辛いのか。走れるようになるまで一体どれだけかかるんだろうか。隣を見れば涼しい顔をして俺に付き合って散歩をするディルク。くそ、俺も早くああなりてぇ。

「殿下少し休憩いたしましょう。…ちょうどあちらにベンチがありますし」

「そ…そうだな…はひー…。少し、休憩だ…」

 ベンチに腰掛けディルクから水を受け取る。いやマジこの体きっつ。前世含め、こんなに太ったことなんて今までにないからかなり辛い。前世はサラリーマンで営業だったからしょっちゅう外回りで歩いていたけど、デブってこんなに辛いんだな。知らんかった。早く痩せたい…。くすん。

「足はどうですか?痛みはありませんか?」

「ふー…。そうだな、ふくらはぎのところがパンパンだ。ちょっと歩いただけでこのザマだ。俺の体の何とも情けないことよ…」

「失礼します。少しもみほぐしていきますね。……大丈夫ですよ殿下。続けていけば必ず結果は出てきます」

「うん。俺は絶対諦めない。だから俺の心が折れそうになったら叱ってくれよ。…あ~…そこ気持ちいい…」

 本当にディルクはいい奴だよな。俺の体を気遣って足をマッサージしてくれて。本当はこんなことしたくないんだろうが。しかしめちゃくちゃ上手いな。超気持ちいい。
 息が整うまで休憩して足が軽くなったところで再びお散歩再開。

「ふー…ふー…ふー…」

 ぜいぜい言いながらもたっぷり汗をかいて朝の運動は終了。部屋に戻り軽く汗を流すことにする。デブだから汗の量が尋常じゃない。

 シャワーだけでいいか、と1人浴室へ行きお湯を出す。

「殿下、お背中流しますね」

「どわぁぁぁぁ!! ディ、ディルクっ!? だ、大丈夫1人で入るから気遣いありがとうだけど俺1人で出来るから気にしないでくれ本当にありがとうごめんな!」

 入浴の介助をしようといつも通りディルクが入ってきた。慌てて早口でまくし立て浴室から追い出す。バン! と扉を閉めてふ~っと深いため息を一つ。

 いや、男同士だし本来こんなに慌てる必要ないんだけどな。だけどこの世界、男しかいないんだよ…。ということはつまり男同士でセックスするわけで。男の裸でもこの世界じゃかなり恥ずかしい。

 今の俺は10歳の子供でデブだけど、前世の記憶を取り戻した今は男といえども裸を見られることがかなり恥ずかしくなってしまった。もちろん俺の裸を見たところで欲情しないことなんてわかりきってるけど。襲われる心配なんてないってことくらいわかってるけど。それでも嫌なものは嫌なんだ。

 昨日1人で入浴できるって言ったはずなんだけどな。信じてもらえなかったのかなんなのか…。後でもう一度言っとかないと。

 ささっとシャワーを浴びて部屋に戻れば朝食の準備が出来ていた。うんうん、今回もちゃんとメモ通り作ってくれているな。昨日と違って細かいとはいえ具材がある分「食べてる」って感じがする。ゆっくり噛んで少しでも満腹感を得られるようにスープを飲んだ。

「殿下、本当にお1人でご入浴できできるのですね」

「ああ。見ての通り俺は1人で大丈夫だ。だから今後も俺1人で風呂に入るからよろしくな」

 かしこまりました、と一言だけ残してそれ以降何も言われることはなかった。よし、これで今後の風呂問題は解決だな。


 食事の後はいつもの通り勉強の始まりだ。俺も王族だから毎日毎日何かしら勉強をする。ただ内容は「ん?」と首をかしげる内容も多々あるけども…。ドゥクサス神が絡んでくる内容に関しては全く理解が出来ないめちゃくちゃな内容だ。前世は無神論者だったのもあるけど、神話が実話だと言われてもピンとこない。前の俺なら「さすが自分!」と胸を張っていたんだろうけど。

 それになんというか道徳面では納得がいかないことが多い。


 『ドゥクサス神はこの世界の唯一神。他国が祭り上げているのは全て邪神。その邪神の教えから救い解放し、ドゥクサス神がこの世界を納めることこそこの世界が望むことである。この世のすべてはドゥクサス神のためにある。』


 これは要するに、この世のすべてはガンドヴァの物。他国を侵略し我が物にし吸収せよ。この世界の国名はガンドヴァのみである。ということだ。

 馬鹿か? んなわけねぇだろ。なんて自分勝手な考えなんだ。むしろドゥクサス神こそ邪神じゃねぇか。そしてその教えを忠実に守っているのが俺たち王族だ。

 他国が一生懸命築き上げてきたものを全て取り込もうとしている。だからいろんな国と戦争を繰り返し略奪し大虐殺を行ってきた。でもこの国の言い方をすれば『ドゥクサス神の怒りに触れた者たちだが、ドゥクサス神の慈悲深さによって身元へ召喚され罪を償う機会を与えられる。とても有難いことである』だ。

 もう一度言う。馬鹿か? んなわけねぇだろ。

 俺の前世は地球という星の日本で生まれ育った。だから戦争なんて特に忌避感がある。前世の記憶のお陰でいかにこの国が腐ってるかよくわかった。こんな国、滅んでしまった方がいい。


  こんな話勉強する意味ないとは思うけど、この国のことをちゃんと知るためには必要なことだ。いつか絶対この国を変えてやる。

 
 見てろよクソッタレ!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ悪役令息に転生したけど手遅れでした。

ゆゆり
BL
俺、成海 流唯 (なるみ るい)は今流行りの異世界転生をするも転生先の悪役令息はもう断罪された後。せめて断罪中とかじゃない⁉︎  騎士団長×悪役令息 処女作で作者が学生なこともあり、投稿頻度が乏しいです。誤字脱字など等がたくさんあると思いますが、あたたかいめで見てくださればなと思います!物語はそんなに長くする予定ではないです。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

処理中です...