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番外編

もう一つの運命の始まり①

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デリックとローレンスのお話です。
今回はデリックside、次がローレンスsideです。

* * * * * * * *


「ローレンス・フィンバーです。隣のクリステン王国から留学に来ました。どうぞ宜しくお願いします。」


貴族学園の入学式の日、ローレンスに初めて会った。あの時、何かわからないけど何故かピンと来たんだ。





「デリック様、今日はありがとうございました。また来月楽しみにしています。」

彼はカルム。俺の婚約者だ。
俺とカルムは子供の時に婚約した。お互いの親同士が学園からの友人らしく、その子供同士を婚約させようとして結んだ関係だ。

そのカルムと今日は月に1度の茶会だ。婚約者となってからはこうして定期的に会っている。


カルムは性格も良く、落ち着いていていい奴だ。だけど、俺は彼に恋愛感情というものは持っていない。なんというか、『いい友達』止まりなんだよな。

別に喧嘩したりもないし、カルムに不満があるわけでもない。だけどそれ以上の気持ちになれないまま今まで来ている。

まあ、貴族同士の結婚なんてそんなものだ。家の繁栄の為に決められた結婚をする。そこにお互いの気持ちなんて関係ない。

結婚して子供を儲けて家を繁栄させていく。


俺もそう思っていた。ローレンスに会うまでは。


「モデシット様は寮にいらっしゃるんですね。」

「ええ、俺の家は王都ではなく少し離れた領地になるんです。」

たまたま隣の席だったローレンスと、自然と会話が始まった。

お互い寮住まいとわかって、隣の席だから良く話すようになって、気が合って、名前で呼び合うようになって、気安く話せるようになって。

俺たちは文官科で、テスト勉強はどちらかの部屋で一緒にするようになって。

ローレンスの事を知れば知るほど惹かれている事に気がついた。ローレンスは俺の事なんて、なんとも思ってないけどな。


「ふふっ。デリックってば面白いね。本当に君と居ると退屈しなくていいね。」

いつもにっこりと笑うその笑顔が可愛くて。でもそう思う度にカルムの事を考える。

俺はこのままでいいのだろうか。


ローレンスは俺のことなんてただの『親友』だとしか思っていない。だから俺の気持ちをこのまま封印して、親友として過ごす事が1番なんだ。



「え、ローレンスって婚約者いないの?だって公爵家だろう?」

「そうなんだけどね。…僕は子供の時からここに留学することが決まってて。それで敢えて婚約者は作らなかったんだ。こっちで、もしいい縁があればいいなって感じ。でも当たり前だけど、実際は皆婚約者がいるから難しいんだよね。」

…なんだよそれ。じゃあ俺が相手でもいいって事か?

「でもこの国で婚約者が見つからなくても、あっちに戻ればどこかの家と婚約を結ぶことにはなると思う。家は公爵家だし、縁を結びたい家はそれなりに多いからね。」

ローレンスが俺じゃない誰かと婚約して、結婚して子供が出来て…。

貴族だし、政略結婚なんて当たり前だ。そんな事は分かってる。


でもローレンスに婚約者がいないとは思わなかった。じゃあ俺が婚約を解消すれば…。


馬鹿か。そんなことできるわけない。俺1人の我儘でカルムに迷惑はかけられない。

今でも十分じゃないか。ローレンスと一緒にいられて、話せて、笑い合えて。それ以上を望むなんて考えるな。



それからも俺は自分の気持ちを悟らせる事なく、『親友』としてローレンスと過ごした。

やがてアシェルが入学してきた。アシェルはなんていうか、こんな綺麗な人間いるのかと思うくらいの容姿でかなり驚いた。しかもローレンスの従兄弟だという。

平民の彼とローレンスが従兄弟?最初は意味がわからなかった。でも後日理由を聞いて納得した。

アシェルの容姿は平民というには無理がある。だが公爵家の血を引くと聞いてなるほどなと思った。

ローレンスもどちらかといえば綺麗な顔立ちだ。アシェルの眩しいほどの美貌ではないけど、十分目を惹くと思う。

そんなアシェルを見ても、俺にはローレンスの方が綺麗だと思ったけど。


アシェルを守りたいローレンスは、できる限りアシェルと一緒にいた。だから俺もそんな2人と一緒にいる事になったし、アシェルを守るために親衛隊が出来るきっかけを与えもした。

アシェルの為、というよりはローレンスの為に。ローレンスが少しでも安心して、心穏やかに過ごせるように。





スタンディング辺境伯令息がアシェルをデートに誘った時。

「ふふ。そうみたい。…相思相愛だね。羨ましいなぁ。僕も恋したいなぁ。」

「………意外と近くにいるかもよ。」

「ん?なんか言った?」

「…何も。」


なんてちょっとでも俺を気にして欲しくてあんな事を言ってしまった。…聞こえてなくて良かったと思うと同時に、一生俺の気持ちなんて気づかないんだろうなって寂しくもなって。

気づかない方がいいのにな。俺は何やってんだよ。



それからアシェル達は紆余曲折ありながらも、『ドラゴン討伐の英雄』になったり、スタンディング辺境伯令息と婚約したりと話題になる事が多かった。


「僕の従兄弟、本当に凄いよね。子供の頃から魔法に関しては才能のある子だったけど、まさか『ドラゴン討伐の英雄』となって叙爵されるなんてね。」

そう言った時の顔が本当に誇らしげで、アシェルを大切にしている事がわかる。その顔を見て俺も嬉しかった。



それからも俺とカルムの関係は順調に続いていた。いたんだが…。

月に1度のカルムと会う日だった。その日は王都にある高級レストランで食事をしようとそこへ馬車で向かっていた時。レストランの近くでカルムが知らない誰かと一緒にいるのを見かけた。
その時のカルムの顔がなんだか、甘い顔をしている様な気がして…。


「デリック様、お待たせして申し訳ありません。」

「いや、待っていないから大丈夫だ。」

その時のカルムはいつも通りだった。でもなんか引っかかる気がして、尋ねてみたんだ。

「…さっきここへ来る途中にカルムを見かけたんだ。誰かと一緒にいたようだけど知り合い、だよな?」

「あ…えっと。……少し前に助けていただいたんです。」

「え?何かあったのか?」

聞くと、家で支援している孤児院へ訪問した帰りに馬車が襲われたそうだ。孤児院の場所は貴族街から離れた場所で、スラム街の割と近くだ。たまに訪ねてくるカルムを誘拐目的で襲ってきたらしい。それをたまたま通りがかった騎士に助けてもらったそうだ。

カルムにも護衛はいたけど、破落戸達は人数が多くて危ない状況だったらしい。その助けてくれた騎士に後日お礼をさせてほしいといったが、仕事だから気にするなと言われて名前がわからないままだった。

だがさっきその助けてくれた騎士を見かけて声を掛けていたと。

「…無事で良かった。」

「はい。あの騎士様に助けていただいたおかげです。」


…そのままその騎士の事を好きになってくれれば。そんな淡い期待を持ちながらカルムとの食事会は終わった。


……俺って自分のことしか考えてないんだな。カルムがあの騎士を好きになれば円満に解消できる、なんて。


ローレンスへの想いは学園にいる間だけ、と割り切ったつもりでも毎日会えばどんどん好きになっていく。

アシェル達が幸せそうで、それが羨ましくて眩しくて。


そして俺たちは3学年生となった。ローレンスと一緒に過ごせるのもあと1年しかない。


「もう3学年生か…。早いねぇ。あと1年で僕はクリステン王国へ帰っちゃうなんて寂しいな。ね、デリック。」

その時のローレンスの顔が寂しそうだった。俺と会えなくなるのを寂しいって、残念だって思ってくれてる?…でも例えそうだとしても、『親友』として寂しいんだよな、お前は。


でも学園生活が残り半年になった時。

「…結局いい縁談となる相手は居なかったなぁ。ま、しょうがないか。でもデリックと一緒に過ごせて良かった。」

「え…?」

「だってこんなに仲良くなったのはデリックだけだったし。楽しい学園生活を送れたのはデリックのおかげだよ。本当にありがとう。」

そんなの、俺の方こそすごく楽しい学園生活だったよ。

「…まだ半年あるだろ。明日からもう会えなくなるみたいな言い方すんなよ。」

「ははっ!そうだね。……………のに。」


え?今なんて言った?俺の聞き間違いか?

『デリックに婚約者がいなかったらよかったのに。』

そう聞こえた気がしたんだ。


確かに声が小さかったから聞き間違いかも知れない。俺の幻聴かもしれない。でも、そう聞こえたと思った。


その日から俺は、その言葉が頭から離れなくてすごくモヤモヤした日々を過ごすことになった。


やっぱりカルムに解消を願い出よう。あと数ヶ月もすれば、もうローレンスとは会えなくなる。

学園の間だけって決めていたけど、俺が耐えられそうにない。



それからカルムと会った日。俺はとうとう婚約を解消したい事を伝えた。

「…すまない。こんな事を急に言うなんて。」

「え…本当、ですか?婚約を、解消したいなんて…。」

カルムは目を大きく見開いて、呆然としている。そりゃそうだよな。長年婚約してきたのに、俺がこんな事を言うなんて。

みるみる瞳が潤み出し、とうとう涙を流してしまった。…傷つけてごめん。


「デリック様…ありがとう、ございますっ…。」

「え…?」

ありがとうございます?? なんで礼を言われるんだ??

「僕……好きな人が出来て、その人の事を忘れようとしたんですけどできなくて…。デリック様と婚約しているのにこんなのダメだって思ってて…。でも、誰かを好きになったの初めてで…どうしていいかわからなくて…。」


カルムが好きになった相手は、あの助けてくれた騎士だった。

あれから、たまに見かけて声を掛けるようになった。伯爵家の4男だそうで、家を継ぐ必要も長男を助けることもしなくて良く、自由に騎士として仕事をしていたそうだ。だから婚約者もおらず結婚を考えても居なかった。

だが、その騎士はカルムを好きになって気持ちを伝えられた。カルムに婚約者がいると分かっていて、もう会わないつもりで伝えたそうだ。

それを聞いてカルムはお互い想い合っていた事を知り、婚約を解消する事を願い出ることを決める。

それがなんと今日だった。
なのに、俺からそれを言われるとは思わなくて驚いたそうだ。

怒られると思っていたのに、まさかお互い婚約を解消したいと思っていたなんて、と。

「凄いな。こんな事もあるんだな。」

「本当ですね。…これがもしかしたら僕たちの『運命』だったのかも知れませんね。」


カルムは「両親にも事情を話し、円満解消するよう伝えます。」と言って帰っていった。

俺も両親に手紙を書かなければ。そして…。


「ローレンス!」

寮へ帰るなり、ローレンスの部屋へと行く。

「デリック?どうしたの?」

今日カルムと会う日だと知っているローレンスが、なぜこんな時間に尋ねてくるのか不思議で仕方ない顔だ。

そのままローレンスの部屋へと入り、深呼吸をする。

「…ローレンス。好きだ。」

「え…。」

いきなりこんな事言われて驚いてるだろうな。俺はずっとこの気持ちを悟らせることなんてしなかった。驚いて当然だ。

「ずっと好きだった。…俺と婚約しよう。」

「え、でもっ…。君には婚約者がいるよね?」

「婚約は解消する。それも円満解消だから何も問題ない。…さっきカルムとその話をしてきた。あっちも好きな相手がいたみたいで、喜んでたよ。」

信じられない…。ぼそっと呟いて呆然とするローレンス。そんな彼を初めて抱きしめた。

「デリック…。」

「俺は諦めたくない。ローレンスを諦められなかった。婚約者が居ないと分かって、この国で誰か相手を探すって聞いた時の俺の気持ちがわかるか?俺じゃない誰かがローレンスの隣に立つ姿を想像して胸が苦しかった。
だから俺と婚約しよう。俺じゃダメか?お前の将来を一緒に過ごすには、不足か?」

「デリック…。不足なんてあるわけないよ。君と過ごした時間で君の優秀さも、人の良さも、何より僕と気が合うのも全部知った。これ以上の相手なんていないよ。僕も好きだよ。……嬉しい。」


そう言って俺を強く抱きしめ返してくれたローレンスが、たまらなく愛しくなって口付けた。

「ん…。ずっとこうしたかったなんて、知らなかっただろ?」

「ふふっ。デリックも僕がこうしたかったなんて、知らなかったでしょ?」


そう言ってローレンスは固くなったアレをぐりぐりと押し付けてきた。

「っ!? ローレンス!?おい、ちょっ…。」

「…ごめん、デリック。無理だと思ってた相手に好きだって言われて、我慢できなくなっちゃった。…だから、ね。抱いていい?」

「…俺が抱かれるのか。……いいよ。シよう。俺もシたい。でも今度は俺がローレンスを抱くから。」

「ふふっ。分かった。…じゃあ、寝室に行こう。」


その日、俺たちは初めて同士だったのに朝まで盛り上がった。ずっと抑えてた気持ちが爆発して、お互い止まらなくなったんだ。



両親は驚きはしたが、カルムも解消を望んでいる事もあってすんなりと解消する事を許してくれた。


「デリック様、クリステン王国へ行ってもお元気で。」

「ああ。カルムも今までありがとう。騎士様と幸せに。」

俺とカルムは笑顔で別れた。



学園を卒業してしばらくしてから。俺はローレンスが待つクリステン王国へと移った。


「デリック!…ああ、夢みたいだ。君とここで暮らせるなんて。」

「俺もだよ、ローレンス。これからもよろしく。」


それから俺たちは、その後公爵家当主となったカイル様の補佐としてクリステン王国で過ごしていった。


子供も3人恵まれた。俺が2人産んでローレンスが1人産んで。とにかく幸せな日々だった。




初めて会ったあの日。何かピンときたのは運命を知らせる合図だったんだ。

俺たちの運命はあの日、始まったんだ。




* * * * * * *

明日はローレンスsideで12:00にUPします。よろしければご覧ください。
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