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38 アーネストside
しおりを挟む俺が助かってアシェルと気持ちが通じてから数日。
腹部に大穴を開けてしまった影響で、しばらくは体を動かすのも辛かった。だが、アシェルの看護と特級ポーションを与えられ直ぐに回復する事が出来た。
アシェルに看護してもらえるなんて…。夢のような日々だった。そしてたまに口付けも交わして…。
俺が連れてこられた場所はアシェルの家だった。正直驚いた。
平民、だよな?と。俺が知る平民の家とはかけ離れていて平民とは?と考えてしまった。
…それもこれも冒険者として活躍しているからかもしれないが。
だが、アシェルの母親と父親に違和感があった。普段の様子ではあまり思わないのだが、俺と話すときの口調や所作が貴族かと思わせたのだ。
…聞いてもいいのだろうか。いや、止めておこう。まだ俺との信頼関係も何もない。そんなうちからあれやこれやと聞くのはマナー違反だろう。
それに父親だが、俺に厳しい視線を送ってくる。普段の様子から子供達を溺愛しているのは目に見えてわかるから、きっと俺の存在が面白くないのだろう。…父上よりも手強いかもしれない。
そしてパーキンス家の現状を聞いた。
既にいろいろと罪は暴かれていたが、今回のことで更に大きな罪を重ねる事となった。
思っていた通り、国を売ろうとしていたんだ。今回の事はその確たる証拠となった。
奴隷として売られた子供たちや違法魔法薬のこと。聞くだけで気分が悪くなってくる。同じ人間とは思えない。
そしてアシェルはソルズの街が襲われたのは自分のせいだと思っていた。アシェルは優しすぎる。アシェルは被害者だろう。説得したが、表情を見るにまだ納得は出来ていないようだ。これからは俺がアシェルの心も支えていこう。
ドラゴン討伐に成功したことで、俺は冒険者ランクがDからSへと一気に上がってしまった。…確かに凄いことなのはわかるし、Sランクの冒険者であってもドラゴン討伐が成功するかもわからない。だが、一気にランクが上がってしまって少し戸惑ってもいる。
たがそれ以上に驚かされた事があった。
魔力剣に始まり、心肺蘇生法などという聞いたこともない救命方法、取引現場で使われた録音の魔道具、ギルドで使われていた通話の魔道具、それらの全てがアシェル達家族が関わっていた事だ。
ただの平民がこんな事できるのか?いや、貴族であっても同じか。こんな事を思いつくだけでも凄い事なのに、研究ししかも成功させてしまっている。こんなの国力が大きく変わる事案だぞ。
これからのリッヒハイム王国は大きく変わっていくだろう。ガンドヴァ王国も黙ってはいまい。たが、上手く交渉に使い同盟国を広げていけばガンドヴァも簡単に手は出せなくなる。
そんな凄い事を、アシェル達家族はしているのだ。本人達に自覚は無いようだが。
これは父上も反対はできないだろう。俺たちは『ドラゴン討伐の英雄』となったのだから。
直ぐに手紙を書いて婚約を成立するよう進言しよう。
そしてドラゴン討伐から7日後、俺たちは学園へと戻った。
ドラゴン討伐に成功した事やメンバーは、既に国から発表されている。魔力剣などの詳細は伏せられて。
そのお陰で、俺とアシェルが英雄となった事は既に知れ渡っていた。
ハミッシュ達には無事でよかったと喜ばれた。かなり心配をかけたようで申し訳ない。
「……で、気になったんだけど。アーネスト、君アシェルの腰ずっと抱いてるけどもしかしてもしかする?」
「そうだ。俺とアシェルは恋仲になった。」
「「えっ!?」」
全員、驚愕の表情をしている。そうだろうな。つい先日、やっとデートだなんだと言っていたのに既に恋仲なのだから。
アシェルの顔は真っ赤になっている。…可愛すぎてどこかに連れ込んでしまいたい程だ。
「やったじゃん!おめでとう!」
「わ、わ、どうしよう、すごいすごい!お似合いだよ~!」
「これはお祝いしないとね。…そうだ!今度僕の家に来てよ!子爵家で大した事出来ないけどお祝いさせて。英雄が来るって言えば誰も文句は言えなしい、むしろ大歓迎だし!ね、皆でお祝いしようよ。」
誰もアシェルが平民だからと、そんな事は言わないし思っていない。ただ純粋に俺たちの事を祝福してくれている。
ありがたい。皆と友人になれた事は俺の財産だ。
そして俺は、アシェルに婚約の事について話してもいないのに、俺の瞳の色でピアスを作った。ただでさえ人気のあるアシェルだ。英雄となったことで手を出そうとする輩も増えるだろう。そんな事させるつもりはない。『俺のものだ』と知らしめる必要がある。
それから数日が経ち、フィリップの家へと招かれた。
「ようこそ、スティード家へ!英雄が2人も来てくれるなんてこんなに光栄な事はないよ!」
フィリップの母上と兄上とも挨拶をする。この2人がフィリップを虐げていたのか。
今の顔を見るに、俺とアシェルが来た事に興奮気味だな。
フィリップからは2人が手のひらを返してきたと聞かされていた。俺たちと友人だと言うのが理由らしい。そして2人を家に招く事にしたと話すと「さすがはフィリップ。貴方ならそんな方達と仲良くなると思っていた。」と言われたらしい。
自分の為にも家に招く事にした、利用してすまないと言われたがこんな事でフィリップの立場が良くなるならいくらでも利用されよう。
「やっぱりアシェルって凄いよね。最初は1人でドラゴン相手にしてたんでしょ?」
「こんな事普通は出来ないよ~。僕だったら戦う前に気絶しちゃう~!」
「ああ、アシェルの戦いは見事だった。アシェルの家族も凄かったぞ。」
「こんな偉業達成して、国からどんな褒賞が出るんだろうな。」
本当にアシェルとその家族の戦いは見事だった。一緒に戦えた事は俺にとって誇りだ。
「アーネスト様も凄かったです。本当に強くてカッコよくて…。アーネスト様が駆けつけてくれたから僕は頑張れたんです。」
アシェル…。頬を赤く染めて微笑みながら俺を見つめる。ああ、可愛い。愛おしい。その唇に口付けたい。
「……あー、2人が幸せなのは分かった。だけど今は2人の世界になるのはやめようね。」
「…ちょっと僕たち恥ずかしいね~。」
…そうだった。2人きりではなかったな。アシェルは真っ赤になって悶えている。…可愛すぎるっ!
「あとは2人が早く婚約を成立させなきゃだな。じゃなかったらお互い大変な事になりそう。」
「アシェルもおそらく貴族から婚約話、いっぱい送られてくるぞ。」
そうだろうな。俺もそれを警戒している。アシェルはどういう事かよくわかっていないみたいだが。
「『ドラゴン討伐の英雄』だったら、平民だとか関係なく取り込みたい家は多いだろうな。」
「そんな事にはさせない。それに俺の父上もこれで平民だからと簡単に拒否する事は出来なくなった。父上にはもう婚約のことについて手紙を送ってある。」
「お、さすがアーネスト。」
きょとんとした顔をするアシェル。婚約なんて考えていなかったって顔だな。
「…アシェル、婚約しよう。」
いきなりの事で驚いただろう。だが、早めに手を打たなければより面倒な事になる。
「本当は2人の時に言うつもりだったんだが…。嫌か?」
「い、嫌じゃ無いです!嬉しいです!でも、僕は平民で…。」
「母上からは了承を得ているし、父上も文句は言えないし言わせない。大丈夫だ。だから婚約、しよう。」
「…はい。はい!アーネスト様!」
断られる事はないと思っていたが、やはりこう言ってもらえると安心する。
アシェルの細い体を受け止める。絶対に誰にも渡すものか。アシェルは俺のものだ。
今日の帰りにピアスも渡してしまおう。俺の印を身につけるアシェル。想像しただけで興奮してくる…。今は抑えろ!耐えろ!今は2人きりじゃない!
「うわぁ!おめでとう!」
「アシェル~!よかったね~!僕こんな場面見てちょっと恥ずかしいけど、すっごく嬉しい~!」
「アーネストの父上も文句は言えないって!よかったなアーネスト!」
素直に祝福を受けるというのはこんなにも幸せな事なんだな。きっとノルベルとだったらこうはならなかっただろう。
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