【完結】平民として慎ましやかに生きていたと思っていたのは僕だけだったようだ。〜平民シリーズ②アシェル編〜

華抹茶

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学園でも僕とアーネスト様は英雄として扱われてしまった。


「アシェル!お前凄いな!」

話しかけてきたのはラッシュフォース先生だ。僕の肩をバンバンと叩きながら、興奮気味に捲し立てる。

「ドラゴン討伐に成功したんだって?それもたった5人で!ブレスを撃つ前に口に氷を突っ込んだり大量の氷の槍降らせたり竜巻起こして切り刻んだり!いや~、見たかったなぁお前の本気の魔法!」

なんで僕が使っていた魔法とかそんな事知ってるの!?

「ん?俺は公爵家だぞ。そこは色々と、な。」

そして僕にウインクを一つ。

「それで俺も入ったから!お前の親衛隊!他の先生も結構入会したっぽいぞ。よろしくな!ははははは!」

「は…?」

ちょっと待って…先生も親衛隊に入ったの?なん
で!?


そして僕のいた寮の部屋は引っ越しとなった。英雄がこんな狭い平民部屋にいるのは不敬だと言われて。いや、僕は平民だからこのままでいい!って言ったんだけど聞き入れてもらえなかった。

そして上級貴族の階に行きそうだったところを、必死に止めてせめて下級貴族の階で!と説得してここにしてもらった。それでも僕には広すぎるし困ってしまった。あの狭い部屋も落ち着いて居心地が良かったんだけどなぁ…。


それから貴族至上主義のセイルズ様は、僕がこんなふうに扱われるのが気に入らないらしく、ドラゴン討伐に参加したなんて嘘をつくなと言われてしまった。

でも僕が参加した事を公表したのは国だから、それを疑うという事はつまり国を疑う事と同義だと親衛隊の皆が反撃した。

それからセイルズ様は皆から遠巻きにされる様になってしまった。…パーキンス様の事もあって、僕はいつか仲良くなれたらいいと思ってるんだけど。難しいかな。




「ようこそ、スティード家へ!英雄が2人も来てくれるなんてこんなに光栄な事はないよ!」

今日はフィリップ様のお家にお邪魔させてもらってる。僕とアーネスト様の事をお祝いしてくれるらしい。

フィリップ様のお母様と兄上にもご挨拶してお茶会場所のサロンへ移る。

フィリップ様はとてもご機嫌だ。どうしてか聞いてみたら。

「ふふ。俺の立場がとても良くなったから、かな。」

と教えてくれたけどよくわからない。それ以上は教えてくれなかったから僕も聞かないけど、どういう事なんだろう?まぁご機嫌なら悪い事じゃないと思ってる。


「やっぱりアシェルって凄いよね。最初は1人でドラゴン相手にしてたんでしょ?」

「こんな事普通は出来ないよ~。僕だったら戦う前に気絶しちゃう~!」

「ああ、アシェルの戦いは見事だった。アシェルの家族も凄かったぞ。」

「こんな偉業達成して、国からどんな褒賞が出るんだろうな。」

皆からこんな風に褒められて凄く照れてしまう。純粋に褒めてくれるのがわかるから余計だ。

「アーネスト様も凄かったです。本当に強くてカッコよくて…。アーネスト様が駆けつけてくれたから僕は頑張れたんです。」

うん。本当にカッコよかった。怯まず勇敢に立ち向かって行って…。もっともっと好きになってしまった。

「……あー、2人が幸せなのは分かった。だけど今は2人の世界になるのはやめようね。」

「…ちょっと僕たち恥ずかしいね~。」

はっ!あの時を思い出してアーネスト様と見つめあってしまった!うわぁ!僕の馬鹿!皆の前で何やってるの!

「あとは2人が早く婚約を成立させなきゃだな。じゃなかったらお互い大変な事になりそう。」

婚約っ!? え!僕はそこまで考えてなかったよ!でもそっか…。アーネスト様は貴族だし、いっぱい婚約の打診が来そうだもんね。そうなったら僕は…。

「アシェルもおそらく貴族から婚約話、いっぱい送られてくるぞ。」

え?僕に?なんで貴族から??

「『ドラゴン討伐の英雄』だったら、平民だとか関係なく取り込みたい家は多いだろうな。」

え…。そんな事になるんだ。どうしよう…。平民の僕は断ったり出来るのかな。

「そんな事にはさせない。それに俺の父上もこれで平民だからと簡単に拒否する事は出来なくなった。父上にはもう婚約のことについて手紙を送ってある。」

「お、さすがアーネスト。」

ん?婚約のことについて手紙を送った?

「…アシェル、婚約しよう。」

え。今アーネスト様、なんて言った?

「本当は2人の時に言うつもりだったんだが…。嫌か?」

「い、嫌じゃ無いです!嬉しいです!でも、僕は平民で…。」

嬉しい。婚約しようなんて言ってくれて。でも本当にそんな事出来るの?

「母上からは了承を得ているし、父上も文句は言えないし言わせない。大丈夫だ。だから婚約、しよう。」

「…はい。はい!アーネスト様!」

あまりの事に嬉しすぎてアーネスト様に抱きついてしまった。皆が見てることなんて忘れて。

「うわぁ!おめでとう!」

「アシェル~!よかったね~!僕こんな場面見てちょっと恥ずかしいけど、すっごく嬉しい~!」

「アーネストの父上も文句は言えないって!よかったなアーネスト!」

皆から祝福されて、嬉しいのと恥ずかしいのと幸せなのとでまた泣いてしまった。

僕、皆と友達になれて本当に良かった。


父さん達に手紙書かなきゃ。喜んでくれるといいな。まだ問題はあると思うけど、きっとなんとかなるよね。というか何とかしなくちゃ!




* * * * * * *

~アーネストから手紙を受け取ったアーネストの両親の会話~


「…そうか。アーネストが言っていた子が『ドラゴン討伐の英雄』になったのか。」

「旦那様。これでもまだ平民だからダメだと仰るおつもりで?」

「まさか。こんな事、私でも無理だ。完敗だよ。」

「ふふ。でしょうね。それにしてもアーネストも強くなった事。スタンディング辺境伯の者としてこれ以上にない功績です。きっとその平民の子のお陰でしょうね。感謝しなくては。」

「はぁ…。私はダメだな。平民だからとアーネストの話もまともに聞かず、ただ反対をし、剰え白い結婚を進めてしまった。」

「旦那様の脳筋ぶりは今に始まった事ではないでしょう?それにアーネストの見る目は確かだったようですね。早めに手を打たなければ、他の家が黙ってはいませんよ。」

「そうだな。アーネストへの婚約の打診も来始めているし、おそらくその平民の子の家も同じ事になるだろう。…直ぐに動こう。」 

「ええ。そうなさってくださいませ。」



* * * * * * *

~アシェルから手紙を受け取った2人の会話~

「ライアス。アシェルがアーネスト様と婚約をしたいと手紙が送られてきた。」

「……とうとうその時が来ましたか。…はぁ。」

「あのなぁ。お前も分かってるだろ、今の状況。平民なのにウチにもどこぞの貴族から婚約の打診が送られてきてる。ただアシェルを取り込みたいっていう家なんかより、アシェルの事を大事にしてくれているアーネスト様と一緒になった方が幸せだろ?」

「そうですね。そうなんですけど…。」

「……それとスタンディング辺境伯からも手紙が送られてきた。正式に婚約をさせたいってな。」

「……そうですか。」

「…元気出せよ。いつかはこうなる日が来るって分かってただろ?」

「そうなんですけど……。はぁ…。」

「こりゃ重症だな…。よしよし。」
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