上 下
34 / 56

32

しおりを挟む



ドラゴン討伐が終わって、アーネスト様も助かって、皆ヘロヘロだったけど、まだスタンピードで溢れた魔物が残っていた。

皆、一旦ポーションで回復させてまだ戦ってる皆の元へと戻った。
気絶した男はライリーが縄でぐるぐる巻にして連れてった。

アーネスト様は背の高い人だから、父さんが担いで行った。…ちょっと扱いが雑な気がするのは気のせいかな?怪我人なんだから優しくしてあげて。



最初程ではないけど、まだたくさんの魔物が居たから僕はありったけの魔力を込めて魔物を氷漬けにした。

動きを止めた魔物はもう他のメンバーの敵じゃない。そのまま、父さん達も戦いに参加してあっという間に制圧が完了した。

やっと全部終わったぁ…。

僕は力が抜けてその場にへたり込んだ。最後に思いっきり魔力を使ったから、もう何にも残ってない。

「アシェル!お疲れさん!さすがだったぜ!」

「…デイビットさん。へへ…。僕たちドラゴンに勝ったよ。」

「ほんとに、お前達は最高だな!」

デイビットさんに頭をぐりぐりと撫でられる。


ギルドの皆も騎士の人達も、皆ヘロヘロだったからとりあえず解散になった。


縄でぐるぐる巻にして捕まえておいた男は、理由を話して憲兵へと預けた。明日以降また事情を聞きにくると言って。

そして僕たちはそのまま家に帰った。

まさかこんな形で帰ってくる事になるなんて思わなかったな。

「アシェル、アーネスト様は俺が看ておくからお前は先に風呂に入ってこい。」

母さんにそう言われてお風呂に入った。アーネスト様の血を思いっきり浴びたから、凄い事になってるしね。

お風呂から出てアーネスト様が寝ている部屋へと行くと、アーネスト様を母さんが全部綺麗にしてくれてた。

血まみれで泥だらけだったもんね。…うん、顔色もまた良くなってるみたいで良かった。

「アシェル、今日は本当にお疲れ様。お前は本当に強くなったな。」

えへへ。母さんに褒められた。

「アーネスト様はこれから熱が出るだろう。あれだけの大怪我をしたんだ。ポーションで傷は治っても体は一気には治らない。ま、処置が早かったから後遺症なんかもないだろう。…後はお前が看病しろ。な。」

「うん…。母さん、ありがとう。」

「ただ、お前も疲れてるんだからちゃんと寝ろよ。…じゃ、俺も風呂入ってくるな。」

そう言って母さんは部屋を出て行った。残された僕は、アーネスト様の横に座ってアーネスト様の顔をじっと見ていた。


『…俺も…守りたい、人が…いたから…な…。アシェル…愛し、てる……。』


あの時、確かにアーネスト様はそう言った。


ねぇ、その言葉は本当なの?僕のこと、好きなの?早く目を覚まして。もう一度聞かせて。

もしその言葉が本当だったなら…。僕は諦めなくて良いのかな。


ねぇ、アーネスト様。僕もね、大好きだよ。


目を覚ましたらちゃんと伝えよう。だから早く目を覚まして。声を聞かせて。




その後、しばらくするとアーネスト様は熱が出た。濡れたタオルで汗を拭いてあげる。

何度かそうしていたけど、僕もいつの間にか寝てしまった。



「ん…。あ、朝?…アーネスト様は…?」

何かが僕に触れてる感じがしてふと目が覚めた。

そろりと起き上がると、アーネスト様とぱちりと目があった。

「え…?」

「…アシェル…おはよう。」

「アーネスト様…。」

「ああ。……アシェルありがとう。俺は、助かったんだな。」

アーネスト様が起きてる。顔色も完全じゃないけど、すごく良くなってる。

「……アーネスト様ぁ!!」


助かったと言っても僕は不安だったんだ。もしこのまま目を覚さなかったらって。

でもアーネスト様が起きてて、話してて、ちゃんと僕を見てくれてて。

嬉しくて嬉しくて、泣きながら抱きついてしまった。

「良かった…良かった…アーネスト様ぁっ!あのまま…目を覚さなかったらって…怖かった…良かった…。」

「…心配かけてすまない。でも俺はちゃんと君を守れたんだな。」

「助けてくださって、ありがとう、ございましたっ!…でもっでもっ!もうあんな思いをするのは、嫌です!もう絶対に、嫌です!」 

「すまない。ありがとう、アシェル。」

僕たちはしばらくそのまま抱き合っていた。アーネスト様の心臓の音が聞こえる。生きてる。ちゃんと生きてここにいる。

その音がすごく安心させてくれた。


「…アシェル、あの時俺はちゃんと言えてただろうか?」

「え?あの時?」

あの時っていつの話?起き上がってアーネスト様の顔を見つめる。アーネスト様はすごく優しい顔をして僕の目を見つめていた。

「もう一度言い直させてくれ。…アシェル、愛してる。」

「…あ。………本当、ですか?」

「ああ、俺の心からの言葉だ。アシェル、好きだ。愛してる。」

「え…で、でもっ!アーネスト様にはパーキンス様が…。」

「…そうか。まだ言ってなかったのか。もう婚約破棄になっている。だから心配しなくてもいい。」

うそ…婚約破棄に、なってたんだ…。じゃあ、じゃあ僕は本当に諦めなくてもいいの?

「アシェルには迷惑かもしれないが、どうしても伝えたかったんだ。…本当に愛してるんだ。」

「ぼ、僕もっ!僕も好きです、アーネスト様!」

嘘みたいだ。あの時の言葉は嘘じゃなかったんだ…!夢みたいだ…!

「アシェル!」

そのまま僕の唇はアーネスト様と一つになる。角度を変えながら、何度も何度も。

暖かくて柔らかくて気持ちよくて。僕の心には幸せが広がった。

やがて僕たちは離れた。

「嘘みたいだ…。こんな事があるなんて。」

「はい。僕も、そう思います。」

それからまた抱き合って、しばらくお互いの温もりを感じ合っていた。



アーネスト様はまだ本調子じゃないからまた眠った。
それを見届けて部屋を出た。

リビングにはもう皆が集まっていた。おはようと声を掛け合って僕も席に着く。

「アーネスト様、気がついたよ。今はまた眠っちゃったけど。」

「そうか。良かった。数日はまともに動けないだろうから家に泊まってもらおう。お前も看病するだろ?学園には俺から連絡入れておいたから、ゆっくりしてろ。」

「母さん、ありがとう。」

それから数日家でゆっくり、ドラゴン討伐の疲れを癒した。

アーネスト様は2日程体を動かすのが辛そうだったけど、今はもう元気になっている。


それからドラゴン討伐で僕を突き飛ばした男。憲兵によって調べられた話を聞いた。

あの男は、パーキンス様に依頼された男だった。そしてあのドラゴンもスタンピードもパーキンス様の指示だった事がわかった。

パーキンス伯爵家が作った魔法薬。その中でも最近出来たのが『魔物を引き寄せる薬』だった。

近くにドラゴンが現れたことを聞いていて、ソルズの街に来るよう薬で誘導。そしてソルズの街付近にもその薬を撒いた。

ドラゴンが現れたことで、魔物達は一斉に逃げ出した。本来ならあちこちに行くはずが、撒かれた薬のせいでソルズの街へと集まった。

それがスタンピードの原因だった。


そしてなぜそんな事をしたのか、その理由が。

僕と僕の家族が住むソルズの街を潰して、僕を殺す事。

その話を聞いて僕はすごく怖くなった。

もしスタンピードで僕がソルズの街へ戻る事があったら、魔物の大群の中に僕を突き落とせ、と男に命令していたらしい。

僕はドラゴンの方へと行ってしまったから、どうしようかタイミングを見計らっていたそう。

そして、あんな事になった。


僕はパーキンス様が許せない。僕1人だけじゃなく、周りの人も家族も皆巻き添えにした。そしてアーネスト様も。

負傷者の数も多く、中には亡くなった人もいる。


パーキンス伯爵家は今大変なことになっているらしい。今回の事も含めて、厳しい沙汰が下されるだろうと聞かされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

転生場所は嫌われ所

あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。 ※ ※ 最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。 とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった ※ ※ そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。 彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。 16:00更新

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

処理中です...