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30 アーネストside
しおりを挟む宝石店を出て、また手を繋ぎデートを続ける。
『アシェルは魔法がすごく好きって話だから、それに関連した所が良いと思う。だから…ここの魔道具店と魔法薬の専門店、ここなんか良いんじゃないかな。
この道は綺麗な通りだし、歩いていても気持ちが良いと思う。それから……。』
フィリップにはありとあらゆる情報を教えてもらった。その通りに進めばアシェルはすごく楽しそうにしていた。
フィリップ!良くやった!
「アーネスト様って、街の中詳しいんですね。」
「あ、ああ…。まぁ。何度か王都には来ていたからな。」
何度か王都に来ている事は間違いではない。が、全てフィリップのおすすめだとは口が裂けても言えない…。カッコ悪すぎるだろう…。
そろそろ食事にしようと言ってレストランへ入る。ここもフィリップが薦めてくれた店だ。
雰囲気も良く、落ち着いた店内だ。料理もかなり良いと言っていたしアシェルも喜んでくれるだろう。
席に座る時は椅子を引く。デートなんだからこれくらいしなくては。
料理に関しても任せるとの事で俺が全て対応した。心なしか、アシェルの顔がすごいと言っている様に感じる。そうだったら良いが。
フィリップの言う通り、食事はなかなか良かった。アシェルもにこにこと美味しい美味しいと喜んでくれた。
フィリップ!お前と知り合えて良かった!ありがとう!
食事を済ませ、デートの続きだ。次は有名楽団の演奏を聴きに行く。アシェルが音楽鑑賞を好きかは分からないが、ここは演奏だけではなく魔法による演出がウリだと言う。それならば喜ぶだろうと席を用意した。
その場へ向かっていた時だ。
「あ!アシェルにアーネスト様!ちょうど良かった!」
この人は確か、ギルドで会った事があるな。慌てて一体どうしたんだ?
「ここで会えるなんて運が良い!…おいアシェル、お前はソルズの街の出身だったよな?」
「? はい、そうですけど。」
「ソルズの街が大変なことになってるぞ!今からギルドに来てくれ!」
なんだと?詳細は分からないが、この慌てぶりを見るにとてつもない事が起こっていることは間違いなさそうだ。
アシェルが真っ青になって震えている。兎に角確認が必要だ。
「アシェル、とりあえずギルドに行こう!」
アシェルの手を握りなおし、ギルドへと駆けて行った。
ギルドへ着くなり勢いよく中へと入っていく。
「ソルズが!ソルズの街が大変なことになってるって!誰かどうなってるのか教えて!」
「っ!アシェル!?……そうか、そいつに聞いたのか。そうだ、今ソルズの街でスタンピードが起こってる。」
スタンピードだと!? 滅多に起こることはないが、起これば当然無視などできない。大きな被害が出る前に、冒険者や騎士などが総出で対応する案件だ。
「ただのスタンピードならそこまで問題は無いんだがな。…最悪なことにドラゴンが出た。」
は?なんだと?ドラゴン!?
「お前もわかってるだろうが、ドラゴンは厄災級の魔物だ。本来はこんな人間の街近くに来ることはないんだがな…。原因はわからんが、ドラゴンの特性は元々気まぐれだからな。ふとやって来ただけかもしれん。ただ、ドラゴンに怯えた魔物が大量にソルズの街へ向かって行ったそうなんだ。」
そう言えば、何処かでドラゴンが現れたという話は聞いた。だが、ソルズの街近くでは無かったはずだ。それがなぜソルズに…。
ギルドの中も騒然としている。ソルズへ応援へ行く者、支援の準備をする者、それぞれが慌ただしく動いている。
アシェルの顔色が悪い。自分の出身地だから当然だ。ましてや家族がいる場所。そして家族も冒険者だ。当然スタンピードの対応で今頃は戦っているはずだ。
どう声をかけるか迷っていた時、ここのギルドマスターがアシェルを呼ぶ。
「通話の魔道具だ。試験的にギルドで使っていてな。…まさかこんな早くに役に立つとは思わなかったぜ。…ほら、デイビットだ。」
通話の魔道具…?そんな物があるのか。初めて聞いたぞ。
「…アシェルです。」
『っ!?アシェル!良かった!今ソルズの街付近でドラゴンが出た。その影響でスタンピードが起こってる。皆総出で対応しているから街はまだ大丈夫だ。お前も今から来れるか?』
「もちろんです!すぐに向かいます!転移門に馬を!馬を用意してください!」
『わかった!方角は西だ!アシェル待ってるぞ!』
なに?アシェルは行くのか?ドラゴンが現れているソルズへ?
ダメだ!!咄嗟にアシェルの腕を掴み動きを止める。
「っ!? アーネスト様?」
「アシェル、行くつもりなのか?」
「行きます!だから離してください!」
「ダメだ!ドラゴンだぞ!? 君もドラゴンがどれほど危険な魔物なのかわかっているはずだ!死にに行くつもりかっ!?」
「だから!? だから行くのをやめろと!? ギルドの皆も、僕の家族も危険な目に遭っているのに見捨てろと!?」
「そんな事は言ってない!だが相手はドラゴンなんだ!死ぬかも知れないんだぞ!?」
ドラゴンなんて人が簡単に討伐できる様な魔物じゃない!いくら魔法の腕が確かであろうとも、死んだっておかしくない強敵だ!そんなところへ向かわせるなんて出来るはずがないだろう!
「知ってるよ、そんな事。僕は、僕たちは冒険者だ。命の危険があって当然。その覚悟を持って仕事をしてきた。でもみすみす死ぬつもりなんてない。
貴方は何のために冒険者になったの?理由は何?もしかしてないの?だったら今すぐ冒険者なんてやめた方がいい。僕は守りたい物が、守りたい人がいるから冒険者になった。その守りたいものを守るために、僕は行く!」
アシェルの力強い言葉と瞳に、俺は一瞬力を緩めてしまった。その隙に俺の腕を振り払い駆け出していく。
「アシェル!」
振り返ることなく去ってしまった。
『命の危険があって当然。その覚悟を持って仕事をしてきた。』
俺にその覚悟があっただろうか。その覚悟を持って冒険者をやっていただろうか。
『貴方は何のために冒険者になったの?僕は守りたい物が、守りたい人がいるから冒険者になった。』
俺は何の為に冒険者になった?アシェルの様に、強い信念があって冒険者になったか?冒険者としての誇りはあったのか?
『その守りたいものを守るために、僕は行く!』
俺の守りたいものはなんだ?守りたい人は誰だ?
アシェルだ。
俺はアシェルを守りたい。それは本心だ。だが、アシェルは俺の守りを必要としているのか?こんな甘ったれた俺の守りが必要なのか?
アシェルは俺よりも強い志と強い信念と高い誇りを持って冒険者をやっていた。
だからSランクという地位にある。
そんな俺がアシェルを守りたいだとか、一緒に居たいだとか…。なんて腑抜けだ!俺は俺が恥ずかしい!
何が想いを伝えたいだ!こんな俺の想いなど、アシェルにとって邪魔でしかないだろう!
でも俺はアシェルを諦められない。側にいたい。守りたい。慈しみたい。愛したい。
ならばどうする。俺も意地を見せるしかないだろう!お前は誰だ?スタンディング辺境伯の、国の防衛を担ってきた家の人間だろう!甘ったれるな!!
「誰か馬を!馬を貸してくれ!」
「あんたも行くのか?アーネスト様。」
ギルドマスターが厳しい目で俺を見る。
「ああ、俺も行く!だから…っ」
「ふざけるな!甘ちゃんのくせに何ができる!? お前はアシェルに行くなと言った。危険だからと。死ぬかもしれないと。俺たちはそんな事は重々承知の上でやって来たんだ!」
「分かっている!俺は甘ったれていた!誇りなど無かった!だが俺もスタンディング家の!防衛を担う家の人間だ!愛する者を守れずして騎士などやれない!だから俺は行く!」
「…ほぅ。良い面になったじゃねぇか。合格だ。…おい!誰か馬を2頭持ってこい!俺も出る!」
「え…?」
「なに呆けてんだ。行くんだろ?だが転移門は簡単には使えない。緊急事態の時には緊急措置権限てもんが使える。それが使えるのはSランク冒険者とギルドマスターだけだ。だから俺も一緒に行くんだよ。」
俺の肩をバンっと一叩きするとニカっと笑った。
…俺は認めてもらえたのか。
「…お。馬が用意出来たみたいだ。そんでほれ。丸腰のまま行くわけじゃないだろ?コイツを使え。…おい!応援に出る奴は着いてこい!転移門を開ける!…行くぞ!」
助かる。剣が無ければ何もできないからな。
俺たちは転移門へ向かい、ソルズの街へと飛び出した。
頼む!間に合ってくれ!無事でいてくれ!
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