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29 アーネストside

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あれからアシェルは俺を避けるようになった。

食堂で見かけて話かけても、「ごめんなさい。」と言って直ぐに走り去ってしまう。

なぜこうなってしまったんだ。

「俺も何があったのか聞いたんだけど教えてくれなかったんだよな。」

よく一緒にいるハミッシュ達にも何も話さないという。ただ、すごく思い詰めていることはわかるからどうにかしたいとも言っていた。


そして初めてアシェルが学園の授業を休んだと聞かされた。あの真面目で優秀なアシェルがだ。


『僕と一緒に…平民と一緒にいるのは、ダメです。』


はっきりとした理由はわからないが、おそらくこの言葉の通り『平民だから』というのがあるのだろう。

だが俺たちは『平民』だとか関係なく接してきたはずだ。


もしかすると、この前ノルベルが言った事が原因なのかもしれない。

『お前みたいな汚い平民が居るからおかしくなるんだ!』

アシェルはとても優しい。ノルベルにそう言われてそうなんだと思い込んだ可能性がある。

そんなはずはないのに。俺達がアシェルにしてきた事は伝わらなかったのだろうか…。


それからノルベルだが、ハミッシュとフィリップが調べた内容によると、体調を崩し家から出られなくなっているそうだ。それも薬の副作用によって。

パーキンス家とガンドヴァ王国との繋がりがわかり、それからガンドヴァから輸入されている薬を調べた所、強い幻覚作用と錯乱状態になる危険な薬草が使われていた事がわかった。

この前ノルベルの人が変わった様になったのは、この薬が原因だったらしい。
それに国内でも、その様な人間が出てきていると聞かされた。そこからパーキンス家の罪は色々と明るみになっている。

それと俺とノルベルの婚約だが、強制破棄となった。
何度も婚約破棄の申請を送っていたが承諾されない為、法的措置をとった。パーキンス家の罪が明るみになったことにより、すんなりと強制破棄の申請は通った。

これで俺に婚約者は居ないことになった。

だからアシェルと共に過ごすことも、想いを伝えることにも問題は無くなったのに…。



「アーネスト・スタンディング辺境伯令息、だよね?」

悶々と考えていた時、ふと誰かに声をかけられた。あ、アシェルとよく一緒にいる2学年の。

「僕はローレンス・フィンバー。隣のクリステン王国から留学に来てる。家は公爵家だよ。よろしくね。」

クリステン王国からの留学生で公爵家だと?そんな上級貴族が、それも学年も違う彼がなぜアシェルとよく居るんだ?彼とアシェルが一緒にいる事が前から不思議ではあったが…。

「……アーネスト・スタンディングです。……何か御用でしょうか。」

「うん。アシェルの事でちょっとね。…ああ、誤解しないで。僕とアシェルは別に恋仲とかそういうんじゃないから。兄弟、みたいな感じかな?」

「? …どういう事でしょうか?」

兄弟みたいな?平民のアシェルと留学生のフィンバー公爵令息が??どういう意味だ?

「ふふ。それはいつかアシェルから聞けると良いね。…それでアシェルの事なんだけど、あの子はとりあえず大丈夫だよ。アシェルはちょっと思い込みが強いみたいでね、その事については解決したから。」

「そう、ですか。」

「アシェルは君の事を避けてたみたいだけど、また声掛けてあげて。今度は避けたりしないと思うから。」

「…なぜそれを俺に?」

「君、アシェルの事好きなんでしょ?見れば分かるよ。それに君の事、ちょっと調べたんだけど君なら安心して任せられるかな、って思って。アシェルは僕にとっても大事な子なんだ。だからアシェルの事、頼んだよ。」


そう言うと静かに去って行った。

結局どういう関係なのかは分からないが、敵ではない事は確かだ。

…またアシェルに声を掛けてみよう。俺の想いは諦めなくても良くなったんだ。

ならデートに誘うのもありだな。デートだと言うと断られるかもしれないから、冒険者の師になってくれた礼だと言って。


そして夜、また食堂でアシェルを見かけて声を掛けた。

「…じゃあ僕とデリックは席を外すね。」

フィンバー公爵令息が俺に視線を一つ寄越し隣の席へ。

「…アシェル、昨日は学園を休んだと聞いた。大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしました。すみません。……あと、避けてしまってごめんなさい。」

良かった。もう避けられる事は無さそうだ。

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ。……そうだ、来週の休みに街へ一緒に行こう。」

「え?…ギルドですか?」

「違う。冒険者の師になってくれたお礼。まだしてなかっただろう?」

断られる前に、いつもの時間に待ってる事を伝えてその場を離れた。

よし。少し強引だったかもしれないが、これでいい。




そして約束の日、今日を楽しみにしすぎてよく寝られなかった。何があっても心を乱すなと、幼い頃から訓練してきたはずなのに…。


いつもの待ち合わせ場所へ行くといつもより綺麗になったアシェルがいた。

普段何もしていなくても眩しいくらいなのだが、今日は更に一段と輝いて見える。

ハミッシュ!よくやった!

服もまるで貴族が着る様な上等な物だ。アシェルは冒険者として成功しているから、自分で買ったのだろうか?


「アシェル、すまない待たせたか?」

「あ、アーネスト様! だ、大丈夫です!えっと…全然、待ってません!」

どうしたのだろうか。真っ赤になってしどろもどろになっている。…可愛すぎて抱きしめたい衝動に駆られるが必死でそれを抑える。

「そうか、良かった。…じゃあ早速行こう。」

抱きしめる事は出来ないが、これくらいならば良いだろう。さっと手を握り歩き出す。
驚いた顔をするアシェル。きっと困っているだろうが手を離す気はない。だってこれはデートなのだから。


「…よく似合ってる。普段も綺麗だけど、今日はいつもよりもっと、綺麗だ。」

「えっ!?…あ、あのっ……ありがとう、ございます…。」

……なんだこれは。俺を悶え殺す気か!更に赤くなって目を潤ませて!可愛すぎるだろう!このまま腕に囲って誰もいない所に連れ込んでしまいたい!

「…耐えろ、耐えろ。」

耐えろ俺!そんな事をしてみろ!一気に何もかもが水の泡だ!

そうだ、この後の流れを復習しよう。フィリップのおすすめデートコース・アシェルバージョンを復習だ。他のことを考えていないと俺がおかしくなる!


必死で己の煩悩と戦いながらも目的の宝石店へとたどり着く。

「アシェル、ここの店に入ろう。」

戸惑うアシェルを連れて店内へ。

「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。何かお探しでしょうか?」

「ああ、ネックレスを見せてくれ。」

あまり来た事がないのか、物珍しく辺りを見回している。その間に店の者と相談をする。

ネックレスを贈ることは決めているのだが、重要なのは俺の色だ。
それを伝え、いくつか商品を見せてもらう。……ふむ、これなんか良さそうだな。

「アシェル、これを付けてみて。」

アシェルの細い首に、俺の色のネックレスをかけてみる。

「うん、似合ってる。これなら服の下にも隠せるし普段から使っても可笑しくないデザインだ。…これをもらおう。」

「え!? ちょっと、ちょっと待ってください!僕、こんな高価な物いただくなんてっ!」

「気にしないでくれ。…俺が贈りたいんだ。受け取ってくれ。…よく似合っているだろう?」

「ええ、とても。お美しいお連れ様によくお似合いですよ。」

店の者にも太鼓判をおされる。

アシェルが俺の色を身につけている。チェーンには俺の髪の色を、宝石には俺の瞳の色を。それを見るだけで俺の心は感動に打ち震える。

「あの…ありがとう、ございます。すごく嬉しいです。……大切に、しますね。」

また頬を染めて、心底嬉しそうに笑うアシェルの顔の威力が凄まじかった。

「うぐっ!………ああ、気にしないでくれ…。」

「……お客様。お気を確かに。」

店の者にまで気を遣われてしまった…。アレに何も思わないとか無理だろう。

…お前だって顔を赤くさせているくせに。
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