上 下
30 / 56

28

しおりを挟む



僕が出せる全速力で走り、ギルドの扉を思いっきり開いて中へ飛び込んだ。

「ソルズが!ソルズの街が大変なことになってるって!誰かどうなってるのか教えて!」

「っ!アシェル!?……そうか、そいつに聞いたのか。そうだ、今ソルズの街でスタンピードが起こってる。」

スタンピード!? 昔、スタンピードが起こったことあるって聞いた事あるけど、僕はそんなの初めてだ。

「ただのスタンピードならそこまで問題は無いんだがな。…最悪なことにドラゴンが出た。」 

「え…。」

なんて?ドラゴン、って言った?

「お前もわかってるだろうが、ドラゴンは厄災級の魔物だ。本来はこんな人間の街近くに来ることはないんだがな…。原因はわからんが、ドラゴンの特性は元々気まぐれだからな。ふとやって来ただけかもしれん。ただ、ドラゴンに怯えた魔物が大量にソルズの街へ向かって行ったそうなんだ。」

そんな…。ドラゴンが街を襲ったら、ほぼ一瞬で街は崩壊する。そんな危険なドラゴンがソルズの街に…。

「……ギルドマスター!ソルズの街のギルドマスターと繋がった!」

「よし!代われ!」

向こうでバタバタと皆騒がしくしている。「おい、ソルズへ応援へ行ける奴は!?」とか「魔法薬を大量に準備しとけ!」とかいろんな声が聞こえる。

父さん、母さん、ライリー。皆きっと戦ってる。僕はここで何してるの?幸せだなんて1人で浮かれて…。

「…ああ、今アシェルもいる。……待っててくれ。…アシェル!ソルズのギルドマスターだ!こっちへ来てくれ!」

はっとして声の方へ顔を向けると、僕にこっちへ来いと手を振っている。

「通話の魔道具だ。試験的にギルドで使っていてな。…まさかこんな早くに役に立つとは思わなかったぜ。…ほら、デイビットだ。」


「…アシェルです。」

『っ!?アシェル!良かった!今ソルズの街付近でドラゴンが出た。その影響でスタンピードが起こってる。皆総出で対応しているから街はまだ大丈夫だ。お前も今から来れるか?』

「もちろんです!すぐに向かいます!転移門に馬を!馬を用意してください!」

『わかった!方角は西だ!アシェル待ってるぞ!』

行かなきゃ!皆が、家族が危ない!

すぐにここの転移門へ向かおうとしたら、誰かが僕の手を掴んだ。

「っ!? アーネスト様?」

「アシェル、行くつもりなのか?」

何を言ってるの?当たり前じゃないか!ギルドの皆が、僕の家族が命をかけて戦ってるんだから!

「行きます!だから離してください!」

「ダメだ!ドラゴンだぞ!? 君もドラゴンがどれほど危険な魔物なのかわかっているはずだ!死にに行くつもりかっ!?」

「だから!? だから行くのをやめろと!? ギルドの皆も、僕の家族も危険な目に遭っているのに見捨てろと!?」

「そんな事は言ってない!だが相手はドラゴンなんだ!死ぬかも知れないんだぞ!?」

死ぬかも知れない?だから何?

「知ってるよ、そんな事。僕は、僕たちは冒険者だ。命の危険があって当然。その覚悟を持って仕事をしてきた。でもみすみす死ぬつもりなんてない。
貴方は何のために冒険者になったの?理由は何?もしかしてないの?だったら今すぐ冒険者なんてやめた方がいい。僕は守りたい物が、守りたい人がいるから冒険者になった。その守りたいものを守るために、僕は行く!」

アーネスト様の腕を振り払い、外へと駆け出した。
なんで僕の足はこんなに遅いの!

「アシェル!これを使え!」

「!? ありがとう!」

ここのギルドの冒険者が馬を貸してくれた!助かる!これで転移門まで一気に駆け抜ける!

必死に馬を走らせて、転移門へ辿り着いた。この先は馬を入れる事はできないから降りて馬を預ける。

「僕はSランク冒険者です!緊急措置権限を使います!」

Sランク冒険者の特権、緊急措置権限。転移門は簡単には使えない。事前に予約とそれなりに多額のお金を払わなければならない。

でも他の街で何かあった場合、応援に駆けつけるSランク冒険者はその決まりを無視し、直ぐ様転移門の使用が許可される。時間短縮の為になされた措置だ。
まさか僕がこれを使う日が来るなんてっ!

Sランク冒険者のカードを見せながら転移門へ向かう。

「行き先はソルズです!早く!」

転移門の管理者から許可が出るなりすぐに門を潜る。そしてすぐ駆け出して外に出る。

「アシェル!待ってたよ!」

「ケリーさん!」

「デイビットから聞いて馬を用意した!…俺は昔の怪我のせいで前線には出られないけど、ここで負傷者の対応で皆の力になるから。アシェル、頑張れよ!」

「はい!ありがとう、ケリーさん!」

ケリーさんから馬を預かり、すぐに駆け出す。西へ西へ、とにかく早く!お願い!間に合って!


街の外へ出ると、戦ってる皆がすぐ目についた。冒険者だけじゃなく、この街の騎士達も応援に駆けつけてくれてる。

!? ドラゴンはもうこんなに近くまで来ていたの!? まずい!


「やぁ!」

少し強めに火炎玉をドラゴンの顔にぶつけた。ドラゴンの注意が僕に向いた!

よしこのまま僕に引きつけて街から引き離さなきゃっ!

そのまま馬で駆け抜けて街とは逆方向へと向かっていく。

「アシェル!?」

父さんの声が聞こえる。無事だったんだ!やっぱりさすがは父さんだ!

もう街のすぐそばまで魔物が溢れてるけど、皆なら絶対大丈夫!僕の仕事はドラゴンを引き離す事!

早く早く!早くあっちへ!

馬を無我夢中で走らせる。っ!ブレスの準備に入った!ブレスを防ぐために、氷の魔法を口に当てる。

そのせいでブレスを放てなくなったドラゴンは、怒ったように一度吠えると、爪を大きく振り上げて来た。

馬を操作しながら魔法で防ぐ。でも勢いを防ぎきれずに馬が転倒し、僕は投げ出された。

「ぐっ…いったぁ…。」

地面に叩きつけられて体が痛い。でもそんな事言ってる場合じゃない。すぐに立ち上がり僕はドラゴンと対峙した。



* * * * * * *

~エレンside~

「エレン!アシェルがドラゴンを引き離すために馬で向こうへ!」

「なんだって!?」

アシェルこっちへ来たのか!危険な目に合わせたくなかったけど、正直助かる!

「くっそ!なんて数だ!前はこんなに多くなかったぞ!…ライリー!大丈夫かっ!?」

「大丈夫!心配しないで!」

ライアスもライリーもかなりの数の魔物を討伐してるけど、かなり厳しい状況だ。

「っ!ライアス危ない!…おらっ!」

「っ! 助かりました!」

ドラゴンはかなり向こうへ行ったか。アシェル、無事でいろよ!

「エレン!ライアス!お前達はアシェルの援護へ行け!ここは俺たちが受け持つ!」

「デイビットさん!…………っごめん!頼んだ!」

「へっ!任せな!俺は元Sランクだ!それに他の街から応援も来ている!俺たちを信じろ!」

ありがとう!デイビットさん!皆!絶対勝とう!無事でいてくれよ!

「エレン!ライリー!アシェルの元へ!」

「よーし!行くぞぉ!ドラゴン討伐だ!」
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

処理中です...