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しおりを挟む僕が出せる全速力で走り、ギルドの扉を思いっきり開いて中へ飛び込んだ。
「ソルズが!ソルズの街が大変なことになってるって!誰かどうなってるのか教えて!」
「っ!アシェル!?……そうか、そいつに聞いたのか。そうだ、今ソルズの街でスタンピードが起こってる。」
スタンピード!? 昔、スタンピードが起こったことあるって聞いた事あるけど、僕はそんなの初めてだ。
「ただのスタンピードならそこまで問題は無いんだがな。…最悪なことにドラゴンが出た。」
「え…。」
なんて?ドラゴン、って言った?
「お前もわかってるだろうが、ドラゴンは厄災級の魔物だ。本来はこんな人間の街近くに来ることはないんだがな…。原因はわからんが、ドラゴンの特性は元々気まぐれだからな。ふとやって来ただけかもしれん。ただ、ドラゴンに怯えた魔物が大量にソルズの街へ向かって行ったそうなんだ。」
そんな…。ドラゴンが街を襲ったら、ほぼ一瞬で街は崩壊する。そんな危険なドラゴンがソルズの街に…。
「……ギルドマスター!ソルズの街のギルドマスターと繋がった!」
「よし!代われ!」
向こうでバタバタと皆騒がしくしている。「おい、ソルズへ応援へ行ける奴は!?」とか「魔法薬を大量に準備しとけ!」とかいろんな声が聞こえる。
父さん、母さん、ライリー。皆きっと戦ってる。僕はここで何してるの?幸せだなんて1人で浮かれて…。
「…ああ、今アシェルもいる。……待っててくれ。…アシェル!ソルズのギルドマスターだ!こっちへ来てくれ!」
はっとして声の方へ顔を向けると、僕にこっちへ来いと手を振っている。
「通話の魔道具だ。試験的にギルドで使っていてな。…まさかこんな早くに役に立つとは思わなかったぜ。…ほら、デイビットだ。」
「…アシェルです。」
『っ!?アシェル!良かった!今ソルズの街付近でドラゴンが出た。その影響でスタンピードが起こってる。皆総出で対応しているから街はまだ大丈夫だ。お前も今から来れるか?』
「もちろんです!すぐに向かいます!転移門に馬を!馬を用意してください!」
『わかった!方角は西だ!アシェル待ってるぞ!』
行かなきゃ!皆が、家族が危ない!
すぐにここの転移門へ向かおうとしたら、誰かが僕の手を掴んだ。
「っ!? アーネスト様?」
「アシェル、行くつもりなのか?」
何を言ってるの?当たり前じゃないか!ギルドの皆が、僕の家族が命をかけて戦ってるんだから!
「行きます!だから離してください!」
「ダメだ!ドラゴンだぞ!? 君もドラゴンがどれほど危険な魔物なのかわかっているはずだ!死にに行くつもりかっ!?」
「だから!? だから行くのをやめろと!? ギルドの皆も、僕の家族も危険な目に遭っているのに見捨てろと!?」
「そんな事は言ってない!だが相手はドラゴンなんだ!死ぬかも知れないんだぞ!?」
死ぬかも知れない?だから何?
「知ってるよ、そんな事。僕は、僕たちは冒険者だ。命の危険があって当然。その覚悟を持って仕事をしてきた。でもみすみす死ぬつもりなんてない。
貴方は何のために冒険者になったの?理由は何?もしかしてないの?だったら今すぐ冒険者なんてやめた方がいい。僕は守りたい物が、守りたい人がいるから冒険者になった。その守りたいものを守るために、僕は行く!」
アーネスト様の腕を振り払い、外へと駆け出した。
なんで僕の足はこんなに遅いの!
「アシェル!これを使え!」
「!? ありがとう!」
ここのギルドの冒険者が馬を貸してくれた!助かる!これで転移門まで一気に駆け抜ける!
必死に馬を走らせて、転移門へ辿り着いた。この先は馬を入れる事はできないから降りて馬を預ける。
「僕はSランク冒険者です!緊急措置権限を使います!」
Sランク冒険者の特権、緊急措置権限。転移門は簡単には使えない。事前に予約とそれなりに多額のお金を払わなければならない。
でも他の街で何かあった場合、応援に駆けつけるSランク冒険者はその決まりを無視し、直ぐ様転移門の使用が許可される。時間短縮の為になされた措置だ。
まさか僕がこれを使う日が来るなんてっ!
Sランク冒険者のカードを見せながら転移門へ向かう。
「行き先はソルズです!早く!」
転移門の管理者から許可が出るなりすぐに門を潜る。そしてすぐ駆け出して外に出る。
「アシェル!待ってたよ!」
「ケリーさん!」
「デイビットから聞いて馬を用意した!…俺は昔の怪我のせいで前線には出られないけど、ここで負傷者の対応で皆の力になるから。アシェル、頑張れよ!」
「はい!ありがとう、ケリーさん!」
ケリーさんから馬を預かり、すぐに駆け出す。西へ西へ、とにかく早く!お願い!間に合って!
街の外へ出ると、戦ってる皆がすぐ目についた。冒険者だけじゃなく、この街の騎士達も応援に駆けつけてくれてる。
!? ドラゴンはもうこんなに近くまで来ていたの!? まずい!
「やぁ!」
少し強めに火炎玉をドラゴンの顔にぶつけた。ドラゴンの注意が僕に向いた!
よしこのまま僕に引きつけて街から引き離さなきゃっ!
そのまま馬で駆け抜けて街とは逆方向へと向かっていく。
「アシェル!?」
父さんの声が聞こえる。無事だったんだ!やっぱりさすがは父さんだ!
もう街のすぐそばまで魔物が溢れてるけど、皆なら絶対大丈夫!僕の仕事はドラゴンを引き離す事!
早く早く!早くあっちへ!
馬を無我夢中で走らせる。っ!ブレスの準備に入った!ブレスを防ぐために、氷の魔法を口に当てる。
そのせいでブレスを放てなくなったドラゴンは、怒ったように一度吠えると、爪を大きく振り上げて来た。
馬を操作しながら魔法で防ぐ。でも勢いを防ぎきれずに馬が転倒し、僕は投げ出された。
「ぐっ…いったぁ…。」
地面に叩きつけられて体が痛い。でもそんな事言ってる場合じゃない。すぐに立ち上がり僕はドラゴンと対峙した。
* * * * * * *
~エレンside~
「エレン!アシェルがドラゴンを引き離すために馬で向こうへ!」
「なんだって!?」
アシェルこっちへ来たのか!危険な目に合わせたくなかったけど、正直助かる!
「くっそ!なんて数だ!前はこんなに多くなかったぞ!…ライリー!大丈夫かっ!?」
「大丈夫!心配しないで!」
ライアスもライリーもかなりの数の魔物を討伐してるけど、かなり厳しい状況だ。
「っ!ライアス危ない!…おらっ!」
「っ! 助かりました!」
ドラゴンはかなり向こうへ行ったか。アシェル、無事でいろよ!
「エレン!ライアス!お前達はアシェルの援護へ行け!ここは俺たちが受け持つ!」
「デイビットさん!…………っごめん!頼んだ!」
「へっ!任せな!俺は元Sランクだ!それに他の街から応援も来ている!俺たちを信じろ!」
ありがとう!デイビットさん!皆!絶対勝とう!無事でいてくれよ!
「エレン!ライリー!アシェルの元へ!」
「よーし!行くぞぉ!ドラゴン討伐だ!」
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