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18 アーネストside

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野営地を決め準備を始める。

「アシェル!冒険者やってたしこういうの慣れてるだろ?指示出してよ。」

「え!僕が!? そんな、僕平民なのに…。」

「アシェル、平民だとかは関係ない。俺たちより経験があるアシェルが指示を出した方が、より効果的で効率的だ。」

誰よりも経験が多く、適切に判断出来るのはアシェルだけだ。自分は平民だからと遠慮するが、身分が高いからとなんでも出来るわけではない。

「うん。俺もそう思うよ。よろしく『魔法科の銀の天使』様!」

「……じゃあ、テント組と料理組に分かれましょうか。」


俺とハミッシュはテントを組み立てることになった。4人が入れる大きさのテントだ。それを順番に組み立てていく。ハミッシュは初めての経験で、教えながら組み立てて行ったが、意外と早く終わってしまった。


「携帯食で済ませるのかと思ってたけど、ちゃんと料理するんだな。」

「今日一日だけの野営だからそれでも良いんだけどね。途中で魔物肉も薬草も手に入ったから折角だし。」

俺も携帯食で済ませるかと思っていたが、アシェルは今日の獲物を使って料理をすると言う。アシェル達家族は野営の時にもこうして料理をしていたのだろうか。

俺たちは料理などした事は無い。手伝える事といえば水を汲んだり火を起こしたりすることくらいだ。
何もできない事を申し訳なく思ってしまう。

する事もないのでアシェルを見ていると、手際良くさくさくと料理を作っていく。

アシェルの収納カバンからは鍋やら調味料などが出てくる。日頃からよく使っているのだろう。

スープを作り、狩った魔物の肉を焼いていく。すぐに食欲が刺激されるいい匂いが漂ってきた。

「こんな美味しそうな匂いさせて魔物は寄ってきたりしないの?」

ああ、それは俺も同じ事を思っていた。

「実は、この薬草は魔物が嫌がる匂いなんです。僕たちには美味しそうな匂いにしか感じませんけどね。だから寄ってくることは少ないですよ。」

「へぇ~。凄いなアシェルは。」

なるほど。ただ料理をするだけではなく、薬草の特性を活かしているのか。これも冒険者の知識か。なんと興味深い。

そうこうしている内に出来上がったようで、皆で食べ始める。

「うまっ!!何これ、野営でこんなに美味しいご飯食べれるとは思わなかった!」

「ハミッシュ様大げさだよ。本当に簡単な事しかしてないから。」

アシェルは謙遜しているが、ハミッシュの言う通りだ。元々携帯食で済ませると思っていたのに、ちゃんとした温かい食事が取れるなんて。しかも美味しい。

食事はとても大切だ。その後の体の動きも変わってくる。1日だけならば問題はないが、長期に渡り携帯食だけで済ませていると確実に体の動きは悪くなる。

「いやいやいや。あのね、野営であったかい料理が食べられるってだけでも凄いから。」

「そうだな。授業でも携帯食を持っていくよう言われていたしな。それに薬草の使い方も見事だ。魔物が嫌がる薬草を使い安全を確保しつつ、美味しいものを作り出す。…俺はこんな事知らなかった。」

「父さんと母さんから教えてもらった事です。僕はたくさん、冒険者として大切なことを教えてもらえたんです。お役に立てて良かったです。」

「「「…………。」」」

褒められて恥ずかしいのか、少し頬を染めながら嬉しそうに微笑むアシェル。その笑顔が可愛くて、色っぽくて俺たちは見惚れてしまった。


「…アシェル、分かっているけどその笑顔は反則…。」

「『魔法科の銀の天使』は伊達じゃないね。ちょっとこれはヤバいな…。」

「………………。」

こんなの他の人間に見せたらアシェルが危ない。今までよく無事にいたなと思う程だ。


食後の片付けも済ませ、4人で雑談を楽しむ。校外実習でこんなに心に余裕を持ち、和やかに過ごせているのは俺たちの組だけだろう。

「そうだ!父さん達と研究したんですけど、剣に魔力を纏わせられますか?」

「は?剣に魔力を纏わせる?」

なんだそれは。そんな事聞いたこともないぞ。

とりあえずやってみる。俺の魔力量は普通で少しだけなら魔法は使えるからな。魔力を練り上げて剣に纏わせるようにしてみる。が、魔力がすぐ霧散した。

「…うーん。なかなか難しいなこれは。」

「直ぐには無理かも知れませんが、それが出来たらかなり有利ですよ。」

アシェルが言うには、威力がかなり上がるそうだ。これが出来たら凄いぞ!必ず物にしてやる!




野営には当然交代で見張りがいる。俺はなるべくアシェルと一緒に居たくて、一緒に見張りをしようと誘った。断られないよう、冒険者の話を聞きたいと言って。優しいアシェルは断らないだろう。卑怯だと言われても、俺はどんなチャンスも逃すつもりはない。

「じゃ、俺たちは先に休むな。おやすみ。」

「はい、ハミッシュ様、フィリップ様、お休みなさい。」

俺たちが先に見張りをする為、2人はテントへと入っていった。
その後、しばらく無言になる。アシェルの様子を見ると困っている様に見えた。

「…悪い。嫌だったか?」

「え?」

「…なんだか思い詰めているようだったから。」

「あ、いえ。そうではありません。すみません、気を遣わせてしまいました。」

「……それならいいのだが。」

本当だろうか。俺と居るのは本当は嫌なのではないのだろうか。違うと言われても不安でまた無言になる。

またアシェルが困った顔をしている。そんな顔をさせたいわけじゃない。しっかりしろ、俺!

「…冒険者として活動しているんだったな。それもSランクだと。いつから冒険者として活動を?」

「12歳です。ギルドへは12歳で登録ができるようになります。12歳の誕生日に登録をしてそこから活動を始めました。それまでは母さんから魔法を習って父さんからは剣術と体術を。戦闘実践はほぼ冒険者になってからです。」

俺も子供の時から剣に明け暮れていた。訓練の一環で魔物討伐も行きはするが、護衛を何人も引き連れて守りを固めた状態だ。

それなのにアシェルは、俺よりも危険な状態に身を置き腕を磨いていた。運動神経が悪い為、剣術で敵を倒せるほどではないと言う。だが、体の使い方は知っている。それだけで選択肢は広がるし、何よりアシェルには魔法がある。


「それでも凄いと思う。君は努力家だな。才能に驕らず努力を続ける。簡単な事じゃ無い。」

本心でそう告げる。

「…アーネスト様も凄いです。騎士科で首席で、今日の討伐も見事でした。無駄な動きもなく、綺麗な剣術です。」

「それを言うなら君こそだ。魔法の力量は噂通り、いやそれ以上だと思った。…俺の家は防衛を担っている。子供の時から何度か魔物討伐に行ったことがあるが、今日のように戦いやすいと思ったのは初めてだ。後衛が強いとこんなにも楽になるんだな。」


アシェル、君は本当にすごい。心から尊敬する。

初めて会った時はアシェルの容姿に惹かれた。だが、アシェルを知った今は『アシェル自身』に惹かれた。外見だけじゃなく、中身も全て。君が君だから愛おしいと思う。

俺はこんなにも素晴らしい君と知り合えて、好きになって良かったと、心からそう思うよ。


「王都で休みの日も冒険者をしていると言っていたな。……今度一緒に行ってもいいだろうか。」


だからもっと君と一緒にいたい。もっと君の事が知りたい。


「え!? アーネスト様が冒険者を??」

「……今日、一緒に戦ってみてとても楽しいと思った。もっと君と一緒に戦ってみたいんだ。……ダメ、だろうか。」


お願いだから断らないでくれ。卑怯だと分かっている。だが君の事を知れば知るほど、もっともっと好きになるんだ。


「……だめ、ではないですが、その…婚約者の方が困るのでは?」

「……ノルベルの事を知っていたのか。アシェルは心配しなくてもいい。大丈夫だ。」

「え?それはどういう…。」


アシェルに話せたらどんなにいいだろう。婚約を解消するかもしれないと。噂が真実でなかったとしても解消するつもりだと。

俺の心の中にはずっとアシェルがいる。

もし婚約を解消してアシェルに想いを告げて…たとえ振られたとしても俺は一生結婚はしない。というより出来ない。

相手がノルベルであってもなくても、アシェルでないならば俺は無理だと思う。
俺は貴族だから、政略結婚からは逃れられない。俺は貴族籍を抜ける覚悟だ。

周りからなんと言われても、俺はもうアシェル以外は無理なんだ。


アシェルが心の中に居続けるだろうから。



「それに、実践経験を積むには冒険者として活動することも利益になる。休みの日は、1人で剣を振っていたからな。もちろんそれも大事なのだが、それよりも実践した方がより身になる。」

断られないようにもっともらしい理由を述べいていく。

「だから一緒に行かせてほしい。冒険者としての知識も俺にもあって困ることはない。むしろ財産となるだろう。もちろん礼はさせてもらう。」

卑怯な事は重々承知している。こんな事を言ってはいるが、ただ君と過ごしたいだけなんだ。

「……わかりました。」

しばらく悩んでいたが、了解をもらえた。

「本当か!? ありがとう!よろしく頼む!」


ああ、良かった。前はもう2度と会えないと思っていたのに、今では一緒に過ごす約束を取り付けられたんだ。今はこの事に感謝しよう。



ーー俺は卑怯だ。最低な奴だ。それでももう、俺は俺を止められない。
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