13 / 56
12 アーネストside
しおりを挟む俺はアーネスト・スタンディング。スタンディング辺境伯の3男だ。
我が辺境伯家は、隣国との国境付近の領地を収めているため、国の防衛の一端を担っている。
そのため、辺境伯家や我が家に縁のある所から多くの騎士を輩出してきた。
俺も幼い頃から剣術に明け暮れ、いずれはこの領を守る騎士となるよう教育されてきた。
幼い時に父に連れられソルズの街に行ったことがある。父と仕事の関係で一緒に居られなかった日、俺は護衛を連れて街へと出かけた。
その時に、教会から出てくる銀の髪の親子を見かけた。2人は良く似ていて、教会を訪ねてきた天使かと思うほど綺麗な容姿をしていた。
俺は一瞬で虜になった。
2人は手を繋ぎ、楽しそうに何処かへと向かっていく。俺は慌てて追いかけて声をかけた。
「ねぇ!待って!待って!止まって!そこの…銀色の髪の君!」
俺が声をかけると2人揃ってこちらへと振り返る。本当に良く似た親子で、とても綺麗だった。
「お母さん、知ってる子?」
「いや、俺も知らない。誰だ??」
少し息を整えて、口を開く。
「あのっ!君の事が好きです!俺と結婚してください!」
「やだ。」
何一つ考えることもなく、即答だった。どうやらその子の親も、あまりの即答ぶりに驚いているようだった。
「え、あの…俺、君の事見て好きになったんだ!だから!」
「でも僕は君の事知らないし。僕は君の事好きじゃない。…ねぇお母さん、早く帰ろ?」
「え…?ちょっ、アシェル!待って、いいの?あの子そのままにしていいの!?」
そしてそのままその親子は去って行った。
俺はショックで動けなかった。いきなり結婚を申し込むとかあり得ないと分かってはいた。だが、ここで声を掛けなければ今度はいつ会えるかも分からない。明後日には、スタンディング領へ帰ってしまう。あんなに綺麗で可愛い子なんだ。きっと周りも放っておかない。そう思うあまり、焦って初対面で名前も知らないのにプロポーズしてしまった。
その結果がこれだ。
「…坊ちゃん。」と護衛が気まずそうに声をかける。
「……ごめん。帰ろう。」
意気消沈して、そのまま宿へと戻ってきた。
アシェルっていう名前なんだ。母親はたしかそう呼んでいたよな?
サラサラの銀の髪にキレイな青い目。母親と笑いながら話していた、あの顔が頭から離れない。
父が仕事から戻るなり、俺は父にアシェルを婚約者にしたいと申し出た。
銀髪であること、とても整った容姿をしていること、一目惚れしたこと、必死に父に伝え探してもらうようお願いした。
「…そんなどこの誰かわからない者を婚約者などにできん。それにこの辺りで銀髪の貴族は居ないはずだ。おそらく平民だろう。…諦めなさい。」
「そんな!お願いします!俺はあの子じゃないとダメなんです!」
「はぁ…今まで我儘など言ったことはなかったと言うのに…。一応調べるだけは調べよう。だが、貴族でなかったならば諦めなさい。」
「……………。」
俺は答えなかった。平民だったらなんなんだ。そんな事関係ないじゃないか。まだ子供だった俺は、父の言う事に納得できなかった。
それから俺は、その子に会う事はなく領地へと戻った。
領地へ戻ってからも、俺の中にはあの子が居続けた。会いたい。話したい。俺の事を知ってほしい。声が聞きたい。あの子のことが知りたい。毎日毎日そう思っていた。
しばらくして父に呼ばれた。あの子の事がわかったと。
俺の心臓は跳ね上がった。あの子の事が少しでも知れる!
「ソルズの街には確かに銀髪の親子が住んでいる。そして親は2人とも冒険者だそうだ。父親はSランク、母親はBランク。母親は確かに人目を惹く容姿で平民とは考えられないほどだと。だが、間違いなく平民だそうだ。……だからその子供も平民だ。お前がどれほど望もうとも婚約者には出来ん。諦めなさい。」
「…………。」
そんな…。こんなことって…。
俺は絶望へ叩き落とされた気分だった。会えなくなってから、一層あの子への想いが膨らむばかりだった。
またソルズの街へ行きたいと言ったが、聞き入れてはもらえなかった。
そして俺に婚約者ができた。
ノルベル・パーキンス伯爵令息。彼が俺の婚約者だ。王都での茶会に出席した時に彼に会った。ノルベルは確かに可愛い顔をしていた。周りの子供達からもよく声をかけられていた。
そんな彼は俺に一目惚れしたらしく、婚約の打診を送ってきた。家格も釣り合うし、その家もかなりの資産家で、防衛を担う我が家は軍事費に金が嵩む。その為、是非にと父が決めてしまった。
俺は嫌だった。だが貴族である以上政略結婚は避けては通れない道だ。まだ子供で何の力もない俺が嫌がったところで意味はない。
俺はあの子を諦める事が出来ないまま、ノルベルと婚約した。ノルベルは王都に住んでいる為、頻繁に会う事はない。
だが、手紙や贈り物は婚約者としてせねばならなかった。たまに会う時は婚約者として振る舞った。
そんな時の俺は、にこやかに笑顔を貼り付けてはいたが、ノルベルを裏切っていると思い心が軋んだ。
彼の事を好きになろうと思った。だが、どうしてもソルズの街であったあの子が忘れられず、ノルベルを好きになる事は出来なかった。
そして16の歳になれば貴族学園へと入る。もちろん試験に合格しなければ入ることはできないが、騎士科に進む俺には問題はない。既に剣の腕は上がっていたし、学園程度であれば不安要素などなかった。
その入学試験の日。またあの子に会えた。
銀の髪を靡かせ歩く成長した彼は、子供の時よりもっと綺麗になっていた。彼を一目見た瞬間、俺の心臓は破裂するんじゃないかと思うほど、鼓動を早めていた。
彼の向かう先にはおそらく家族だろう。見たことのある銀髪の母親もそこに居た。間違いない。『彼』があの時に会った『あの子』だ。
「…待って!待って!待ってくれ!そこの銀髪の君!」
俺は無意識に彼に声をかけて居た。彼はこの学園に入るのだろうか。どうしてこの場にいたのだろうか。知りたくて衝動的に動いていた。
「あのっ!…君はソルズの街に住んでる子だよな?」
「? 確かにソルズの街に住んでいますが…。」
間違いない!やはり『彼』は『あの子』だ!
「…貴族の方とお見受けします。失礼ですがお名前を伺っても?」
舞い上がっていた俺に、おそらく父親であろう人が警戒心をあらわにして俺の前へ出る。
「あ。失礼した。俺はアーネスト・スタンディング。スタンディング辺境伯の三男だ。」
「…スタンディング辺境伯令息様が、うちの息子になにか御用でしょうか?」
貴族だとわかり、父親の声に強く警戒が滲む。
「あの…子供の頃に一度彼に会っていて、まさかここでまた会えるとは思わず声をかけてしまった。君もこの学園に入学を?」
「……はい。そのつもりで本日は入学試験を受けに参りました。」
「…そうか。……急に声をかけてすまない。これで失礼する。」
あまり長く引き留めていては、彼の家族に危険視される。そう思ってさっと身をひいた。
だが聞きたいことは聞けた。彼はこの学園に入学するために試験を受けたという。後は彼が無事に入学できる事を祈るのみだ。彼はどの科に進むのだろうか。…体つきからして恐らく騎士科ではないだろう。
同じ科ではなくとも、同じ学園にいる事ができる。彼と話をしたい。彼をもっと知りたい。
俺の想いは更に加熱する事となった。
45
お気に入りに追加
1,694
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる