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しおりを挟む「アシェル、本当に覚えてないのか?」
「うん。全然。」
本当の本当に覚えてない。
「昔、教会で魔力量を調べてもらった帰りに告白されてたじゃないか。」
え?そんな事あった??……うーん、思い出せない。僕の記憶では、魔力量が多くて良かった、ていうのしかない。
それに正直、告白は今までにいっぱいされてたしいちいち覚えてないよ…。
「え、兄ちゃんそんな事あったの?僕知らない。」
「ライリーはまだ小さかったからな。…アシェルは覚えてなくともあちらはしっかりと覚えていたようだが…。」
父さんも母さんも、ちょっと厳しい顔してる。相手が貴族だからだろう。
「僕、あの人と関わらないようにするよ。」
「…あの子が今もまだアシェルの事が好きかはわからないけど、その方が良いだろうな。いくら三男とはいえ、上級貴族の子だから婚約者もいるだろうし。」
もし婚約破棄騒動でも起こったら笑えねぇ…って母さんがブツブツ言ってる。
「…やっぱり入学やめた方が良かった?」
僕は家族みんなを困らせたいわけじゃない。不安になってそう言うとそれは違うって父さんが。
「エレンは元々貴族で、お爺ちゃま方も貴族だ。だけど俺たちの今の立場は平民だ。アシェルは魔法の天才だ。そのまま平民でいる方がややこしい事に巻き込まれる可能性がある。だからメリフィールド侯爵様が後ろ盾になって、貴族学園に入ってしまった方が対処法が増える。」
「それに、アシェルは魔法が大好きだろ?せっかくそんな凄い才能があるんだ。いっぱい伸ばしてやりたいしな。お前は気にせず、自分の事だけを考えてれば良いんだよ。」
ややこしい事になりそうなのに、父さんも母さんも僕を応援してくれる。
これからは、僕の身の振り方で良いことも悪い事も決まってしまう。味方を作って、平民として慎ましく学園生活送らなきゃ。
そしてとうとう明日、この街を出て王都へ行く。
入学する2日前にはもう寮に入らないといけない。
ずっと家族とは一緒だったから、本当は凄く寂しい。でも僕のやりたい事を応援してくれる皆のためにもそんな事は言っていられない。
長期休みがあるらしいから、その時はここへ戻ってくる。その時はまた皆で冒険者として働くんだ。
時空魔法のかかった収納カバンもあるけど、物凄く沢山入るわけでも数があるわけでもないから荷物は普通の鞄に入れて持っていく。荷運びもあるから、行く時は家族皆で行く。
「アシェル、明日出発だからな。今日は学園入学のお祝いと、魔法科首席合格のお祝いだ!」
なんと僕は魔法科を首席で合格した。試験結果の通知が届いた時、皆の前で開けたんだ。そしたら合格の文字と首席の文字。
それを見た時みんなで「うおぉぉぉぉぉ!!」って叫んで喜んだ。父さんはもう大きくなった僕を抱っこして「さすがエレンと俺の子!」て叫びながら頬をぐりぐり押し付けたし、母さんはぎゅーっと抱きしめて僕の顔にいっぱいちゅーした。ライリーはそこで飛んだり跳ねたり回ったりして、とにかく皆で大騒ぎになった。
ある程度騒いだと思ったら母さんは「ギルドの皆に知らせてくる!」って言って走って行ってしまったし、父さんは「今すぐ旦那様方に手紙を!」って言ってあっという間に書き上げて手紙を出しに行った。
僕とライリーはただそれを見ているしかできなくて、2人して大笑いした。
そしたら母さんから話を聞いたギルドの皆が駆けつけてきて、そのまま街にある酒場へ移動して大宴会。
酒場にいた人達も僕の首席合格を喜んでくれて、いっぱいおめでとうを言ってくれた。僕とライリーはお酒が飲めないから、ジュースをいっぱい出されて沢山の料理も出されてお腹がはち切れるかと思った。
まあ兎に角凄いことになったんだ。
それから手紙を受け取ったお爺ちゃま達は、大量のお祝いを送ってきた。学園の制服に始まり、パーティー用の衣装、普段着(といっても貴族用の高い服)、宝石に鞄に靴に教科書にノートに、とありとあらゆるものを送ってきた。もうこれで入学準備が終わってしまった。
服なんて何着も送ってきたから全部は持っていけない。というかこんなにいらない。しかもこんなに良い服を平民が着てたらおかしいから。
ありがたいけど、相変わらずやり過ぎだな…。とは母さん。うん。知ってたけど、相変わらずだよね。
そして僕への贈り物に混ざってライリーの分まで大量にあった。そりゃ部屋が埋まるほどの荷物になるわけだ…。
アレクシスおじ様にもお知らせしたら、お祝いに魔道具が送られてきた。自衛の魔道具。もし誰かに魔力を練れないようにする魔道具を使われても、それを受け付けない様にする物だ。
僕は魔法が使えなかったら何もできない。僕に何かあっても大丈夫な様に、と下さったんだ。魔力を封じる魔道具は人に向けて使ってはいけない物だけど、母さんは1度これで襲われたことがある。だから僕が同じ目に合わない様に心配してくれたんだ。
「もう首席合格祝いはいっぱいしてもらったよ。」
「良いんだよ、何度やったって。それだけ凄いことなんだから!」
「僕も兄ちゃんみたいに首席合格目指す!」
「ライリーもなれるだろう。今度から訓練のレベルを上げるか。」
テーブルいっぱいの料理が並んでる。僕が大好きなグラタンもある。しばらくは家族みんなでご飯を食べることは出来ない。今日は目一杯楽しもう。
* * * * * * * *
~アシェルの試験が終わった日の2人の会話~
「アシェル全っ然覚えてなかったな。俺ちょっとあの子が可哀想になったよ。」
「それだけアシェルにとってどうでも良い奴だって事ですよ。それが分かってあちらも手を引いてくれれば良いんですけど…。」
「やっぱり不安か?」
「俺と同じ様な気がして…。」
「あー…お前も結構凄かったもんな。……そのおかげで俺は幸せだけど。」
「…もしアシェルにとって良くないことになるならば、俺はきっとどんな手を使ってでもアシェルを守ると思います。」
「うん、それは俺も一緒だよ。最悪、父上達の手を借りよう。公爵家の力を借りてでも、アシェルもライリーも、そしてライアス、お前も守るから。」
「……妻にそんな事を言わせるなんて、夫として失格ですね。」
「何言ってんだよ。俺たちは一心同体だろ?」
「…本当にエレンは俺を喜ばせるのが上手ですね。…愛しています。俺だけの天使。」
「…まだそんなこと言ってんのかよ。……じゃ、ベッド、行く?」
「もちろん。喜んで。」
* * * * * * *
お知らせです☆
読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます。
ストックがかなり溜まりましたので、本日より1日2回更新にしようと思います。
8:00と17:00に更新しますので、またアシェルの物語をお楽しみいただけましたら嬉しいです。
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