【完結】平民として慎ましやかに生きていたと思っていたのは僕だけだったようだ。〜平民シリーズ②アシェル編〜

華抹茶

文字の大きさ
上 下
9 / 56

8

しおりを挟む



「アシェル、本当に覚えてないのか?」

「うん。全然。」

本当の本当に覚えてない。

「昔、教会で魔力量を調べてもらった帰りに告白されてたじゃないか。」

え?そんな事あった??……うーん、思い出せない。僕の記憶では、魔力量が多くて良かった、ていうのしかない。
それに正直、告白は今までにいっぱいされてたしいちいち覚えてないよ…。

「え、兄ちゃんそんな事あったの?僕知らない。」

「ライリーはまだ小さかったからな。…アシェルは覚えてなくともあちらはしっかりと覚えていたようだが…。」

父さんも母さんも、ちょっと厳しい顔してる。相手が貴族だからだろう。

「僕、あの人と関わらないようにするよ。」

「…あの子が今もまだアシェルの事が好きかはわからないけど、その方が良いだろうな。いくら三男とはいえ、上級貴族の子だから婚約者もいるだろうし。」

もし婚約破棄騒動でも起こったら笑えねぇ…って母さんがブツブツ言ってる。

「…やっぱり入学やめた方が良かった?」

僕は家族みんなを困らせたいわけじゃない。不安になってそう言うとそれは違うって父さんが。

「エレンは元々貴族で、お爺ちゃま方も貴族だ。だけど俺たちの今の立場は平民だ。アシェルは魔法の天才だ。そのまま平民でいる方がややこしい事に巻き込まれる可能性がある。だからメリフィールド侯爵様が後ろ盾になって、貴族学園に入ってしまった方が対処法が増える。」

「それに、アシェルは魔法が大好きだろ?せっかくそんな凄い才能があるんだ。いっぱい伸ばしてやりたいしな。お前は気にせず、自分の事だけを考えてれば良いんだよ。」

ややこしい事になりそうなのに、父さんも母さんも僕を応援してくれる。

これからは、僕の身の振り方で良いことも悪い事も決まってしまう。味方を作って、平民として慎ましく学園生活送らなきゃ。






そしてとうとう明日、この街を出て王都へ行く。


入学する2日前にはもう寮に入らないといけない。

ずっと家族とは一緒だったから、本当は凄く寂しい。でも僕のやりたい事を応援してくれる皆のためにもそんな事は言っていられない。
長期休みがあるらしいから、その時はここへ戻ってくる。その時はまた皆で冒険者として働くんだ。

時空魔法のかかった収納カバンもあるけど、物凄く沢山入るわけでも数があるわけでもないから荷物は普通の鞄に入れて持っていく。荷運びもあるから、行く時は家族皆で行く。


「アシェル、明日出発だからな。今日は学園入学のお祝いと、魔法科首席合格のお祝いだ!」

なんと僕は魔法科を首席で合格した。試験結果の通知が届いた時、皆の前で開けたんだ。そしたら合格の文字と首席の文字。

それを見た時みんなで「うおぉぉぉぉぉ!!」って叫んで喜んだ。父さんはもう大きくなった僕を抱っこして「さすがエレンと俺の子!」て叫びながら頬をぐりぐり押し付けたし、母さんはぎゅーっと抱きしめて僕の顔にいっぱいちゅーした。ライリーはそこで飛んだり跳ねたり回ったりして、とにかく皆で大騒ぎになった。

ある程度騒いだと思ったら母さんは「ギルドの皆に知らせてくる!」って言って走って行ってしまったし、父さんは「今すぐ旦那様方に手紙を!」って言ってあっという間に書き上げて手紙を出しに行った。

僕とライリーはただそれを見ているしかできなくて、2人して大笑いした。

そしたら母さんから話を聞いたギルドの皆が駆けつけてきて、そのまま街にある酒場へ移動して大宴会。

酒場にいた人達も僕の首席合格を喜んでくれて、いっぱいおめでとうを言ってくれた。僕とライリーはお酒が飲めないから、ジュースをいっぱい出されて沢山の料理も出されてお腹がはち切れるかと思った。

まあ兎に角凄いことになったんだ。

それから手紙を受け取ったお爺ちゃま達は、大量のお祝いを送ってきた。学園の制服に始まり、パーティー用の衣装、普段着(といっても貴族用の高い服)、宝石に鞄に靴に教科書にノートに、とありとあらゆるものを送ってきた。もうこれで入学準備が終わってしまった。

服なんて何着も送ってきたから全部は持っていけない。というかこんなにいらない。しかもこんなに良い服を平民が着てたらおかしいから。

ありがたいけど、相変わらずやり過ぎだな…。とは母さん。うん。知ってたけど、相変わらずだよね。

そして僕への贈り物に混ざってライリーの分まで大量にあった。そりゃ部屋が埋まるほどの荷物になるわけだ…。

アレクシスおじ様にもお知らせしたら、お祝いに魔道具が送られてきた。自衛の魔道具。もし誰かに魔力を練れないようにする魔道具を使われても、それを受け付けない様にする物だ。

僕は魔法が使えなかったら何もできない。僕に何かあっても大丈夫な様に、と下さったんだ。魔力を封じる魔道具は人に向けて使ってはいけない物だけど、母さんは1度これで襲われたことがある。だから僕が同じ目に合わない様に心配してくれたんだ。


「もう首席合格祝いはいっぱいしてもらったよ。」

「良いんだよ、何度やったって。それだけ凄いことなんだから!」

「僕も兄ちゃんみたいに首席合格目指す!」

「ライリーもなれるだろう。今度から訓練のレベルを上げるか。」


テーブルいっぱいの料理が並んでる。僕が大好きなグラタンもある。しばらくは家族みんなでご飯を食べることは出来ない。今日は目一杯楽しもう。



* * * * * * * *

~アシェルの試験が終わった日の2人の会話~


「アシェル全っ然覚えてなかったな。俺ちょっとあの子が可哀想になったよ。」

「それだけアシェルにとってどうでも良い奴だって事ですよ。それが分かってあちらも手を引いてくれれば良いんですけど…。」

「やっぱり不安か?」

「俺と同じ様な気がして…。」

「あー…お前も結構凄かったもんな。……そのおかげで俺は幸せだけど。」

「…もしアシェルにとって良くないことになるならば、俺はきっとどんな手を使ってでもアシェルを守ると思います。」

「うん、それは俺も一緒だよ。最悪、父上達の手を借りよう。公爵家の力を借りてでも、アシェルもライリーも、そしてライアス、お前も守るから。」

「……妻にそんな事を言わせるなんて、夫として失格ですね。」

「何言ってんだよ。俺たちは一心同体だろ?」

「…本当にエレンは俺を喜ばせるのが上手ですね。…愛しています。俺だけの天使。」

「…まだそんなこと言ってんのかよ。……じゃ、ベッド、行く?」

「もちろん。喜んで。」





* * * * * * *

お知らせです☆

読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます。
ストックがかなり溜まりましたので、本日より1日2回更新にしようと思います。

8:00と17:00に更新しますので、またアシェルの物語をお楽しみいただけましたら嬉しいです。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...