【完結】異世界で、家政夫(と聖人)始めました!

華抹茶

文字の大きさ
2 / 66

2.異世界転移②

しおりを挟む
 ぼろぼろとみっともなく涙を流しながらも悲しみと怒りが混じった声を上げ、また新たなビールを手に取った。それにも口を付けると一気に喉へと流し込む。そんな風にして飲むビールはいつも以上に苦かった。
 それからどれほどそんなことを繰り返していたのだろう。足元には空いた缶がいくつも転がり、袋の中は残り少なくなっている。俺もかなり酔っ払っており頭がふわふわとしていた。それでもさっき見たあの光景はくっきりと頭の中を流れている。

 情けない。今まで必死にやってきたのは一体なんの為だったのか。好きだったのは俺だけで、流星は俺をいいように使うだけだった。早々に別れてしまえばよかったのに、そんな流星にしがみ付いて傷ついて。

「馬鹿だろっ……俺っ!」

 ぐっと力を籠めると手にしたアルミ缶は歪んだ。そのせいで中身の酒が零れたがどうでもいい。歪な姿に変わってしまったそれに口を付け、また勢いよく流し込んだ。

「げほっ……ごほっ」

 だけど飲み干すことは出来ず口から盛大に零れてしまった。お陰でスーツもシャツもびしゃびしゃだ。濡れた手から缶は滑り落ちてしまい、砂まみれになってしまった。でもどうでもいい。何もかもどうでもいい。
 膝に肘をつくと、両手で顔を覆った。未だ止まらない涙と嗚咽を繰り返しみっともなく泣き続けた。

「うっ……うぐっ……」

 夜遅くに泣き喚けば近所迷惑になる。酔っ払った頭でもそんなことを考えてしまう自分が嫌だった。どうでもいいとか思いながらこんな時ですら自分勝手に振舞えない。どこかで冷静に考える自分がいた。
 でも大量に酒を体に入れたお陰でぐわんぐわんと揺れている。前後不覚になっていたせいで、俺はベンチから落ちてしまった。
 上手く力の入らない腕で体を起こし頭を上げた。するとそこに広がっていたのは知らない場所。

「は……? どこだ、ここ……?」

 ぼーっと酔った頭で考えるも全然わからない。そもそもめちゃくちゃに走って知らない公園に来たのだから、この辺りの地理もよくわからないのだが。
 だが今俺がいる場所は明らかに公園ではなく、どこかの裏路地という言葉の方がぴったりと当て嵌りそうな場所。もしかしたら俺はいつの間にか寝ていて夢を見ているのだろうか。
 
「どうでもいいか、そんなこと」

 もう何もかもめんどくさくなって俺はそのままごろりと横になった。空にはたくさんの星が輝いていて、都会の空とは思えない光景だ。すごいな、と思いながらも瞼は徐々に閉じられていく。そのまま俺は寝てしまうことにした。


「……い。おい! こんなところで何をやっている?」
「ん……うるさいっ……」
「生きているんだろ? こんなところで寝るな。殺されるぞ。とっとと起きろ」

 気持ちよく寝ていたのに体を揺さぶられて起こされた。ぼんやりと目を開けて見ると目の前にはイケメン外国人。

「こんな路地で寝る奴なんて初めてだ。ほら起きろ……ってお前、その髪に目の色はっ……」
「うわぁ……イケメンだぁ。それに日本語上手ですねぇ~えへへ。あ、そうだ。いいこと思いついた!」

 ぼんやりとしか見えないが、それでもよくわかるイケメン具合。そんな彼の体を不躾にぺたぺたと触れば、しっかり鍛えているらしくしっかりとした筋肉を感じられる。すごい。
 流星だって浮気してたんだ。俺だって浮気しても文句は言われないはずだ。それならこんなイケメンに抱いてもらえたら最高じゃないか。

「えへへ、お兄さんイケメンだねぇ~、すごいねぇ~へへへ。えっとね、俺のこと抱いてくれない?」
「は? っていうか酒臭いな。いったいどれほどの酒を飲んだんだ……」
「んー……? わかんない。とりあえずたっくさん飲んだよぉ~えへへ。俺何度も経験あるからさぁ、だいじょぶだいじょぶ~。じゃ手始めにちゅーしよっか」
「は? ちょ、んんっ!?」
「えへへ~ちゅーしちゃったぁ」
「な……痛みが、減った、だと……?」

 俺がちゅーしたら、目の前のイケメンさんは凄く驚いた顔をしていた。イケメンだからこんなちゅーくらい何度だって経験あるだろうに何を驚くことがあるのか。って初対面の男にいきなりこんなことされたら誰でも驚くか。はは、イケメンはどんな顔してもイケメンなんて凄いな。羨ましー。

「おい、お前名前は?」
「んー? 晴翔。菅野晴翔すがの はるとでぇす! よろしくねぇ~あはは」
「ハルト……? 変わった名前だな。ハルト、もう一度口付けてもいいか?」
「んー? もっちろん! いっぱいちゅーしよー! って、んんっ、んちゅっ……」

 俺がいいよって言った途端、まるで食べられそうな勢いでキスをされた。すぐに舌が入り込み口の中を暴れ回る。流星とは全然違うそれに、俺も必死になって舌を絡めた。
 後頭部をがっつり掴まれて頭を動かすことが出来ない。こんな熱烈なキスをされるなんてどれぐらいぶりだろうか。気持ちよくて最高じゃないか。
 そんなうっとりするキスをイケメンにしがみ付いてもっとと強請る。するとイケメンは俺を抱きかかえて歩き出した。



「ん……」

 ふと意識が浮上する。瞼に当たる光が眩しい。それで朝が来たのだろうと考える。
 起きろとその光が訴えるも、眠気が強くてその気になれない。光が顔に当たらないよう寝返りを打ち、ごろりと反対を向くとこつんと何かに当たった。それはとても温かくて気持ちがいい。その温かさにすり寄るようにぎゅっと抱き付いた。

 きっと流星だろう。最近は一緒に寝ることもなくなったけど、今日は珍しく俺のベッドに入り込んだらしい。久しぶりに寝てくれたそのことが嬉しくて、俺は流星に甘えるように頬をすりつけた。
 やっぱり俺のことが好きなんだな。可愛い女の子と浮気をしていたって、やっぱり俺が――

「ってそうだよ! こいつは浮気野郎じゃないか!」

 浮気された事実を思い出した途端、俺の怒りはあっという間に頂点へと辿り着いた。さっきまでの強い眠気が嘘のようにガバッと体を起こし隣を睨みつける。だがそこにいたのは流星じゃなくて知らないイケメン外国人だった。

「……は?」

 え、誰? なんで俺のベッドに知らない外人寝てんの?
 意味が分からずただひたすらそのイケメン外国人を眺めていた。というか寝ていても本当にかっこいい。寝癖で乱れた金髪と同じ色の長いまつ毛。すっと通った鼻筋に薄い唇。少し堀の深い顔立ちは、目を瞑っていてもイケメンっぷりを堂々と主張していた。
 そのイケメン外国人を眺めていると、ぐっと眉間にしわが寄りゆっくりと瞼が上がっていった。見えた瞳は綺麗な空色。その切れ長の瞳は俺の姿をしっかりと捉えた。

「……ハルト、起きていたのか」
「うえっ!? なんで俺の名前知ってんの!?」
「……寝ぼけてるのか?」

 ふわぁっと軽くあくびをしたイケメンは、のそりとその身を起こす。するとどうやら裸で寝ていたらしく、その鍛えられた逞しく美しい裸体が目の前に晒された。

「え!? なんで裸!?」
「……そういうお前も裸だろうが。まさか覚えてないのか?」
「え!? げっ!? ほんとだ!? なんで俺裸なの!? え!? まさか、そういうこと!?」

 知らない男とベッドの上で裸で朝を迎えている。この状況は間違いなく、昨日このイケメンとやらかしたということだ。だがその記憶が俺にはない。っていうか俺って昨日どうしたんだっけ? なんでこいつと一緒に裸になるようなことをやったんだ?
 やばい……全然思い出せない、どうしよう……これ、詰んだな。
 
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...