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しおりを挟む今日も戦争のような昼の部が終わった。仕事の休憩時に利用する人が多く、あっという間に時間が過ぎていく。
流石は王都。昼時になると一気に席が埋まっていく。ここの親父さんは腕が良いから、一度食べるとまた来店してくれる人が多い。今日も見知った人が何人も来店していた。
自分の事じゃないけど、親父さんの料理がこうして沢山の人に慕われているのは誇らしいし嬉しい。
「アルテ、お疲れさん。エリックと食ってくれ」
「わっ! ありがとうございます! 今日も美味そ~!」
出された皿の上には、俺の好きなスパゲティだった。親父さん手作りのトマトソースがいい具合に絡んでチーズも乗っけてある。見るからに美味そうだ。
「ははは。いっつも美味そうに食ってくれてありがとな」
「美味いから当たり前です! お客さんも親父さんの料理が好きでリピートが多いし。そんな料理を毎日食えるなんて幸せです!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。でもアルテが来てから更に評判が良くなったみたいだ。いつも元気で可愛い男の子のお陰でこっちまで元気が出るって言われてるぜ。こっちこそいつもありがとな」
「へへ。そんなことないです。お世話になってるんで、これからも頑張ります!」
俺の仕事ぶりで店にとっていい影響があったんなら、ちょっとでも恩が返せてるだろうか。いや、もっと頑張らないとな。住み込みで美味い飯も食えて、お給金も良くて、こんな破格な対応してもらってるんだもんな。
そしてもりもりと親父さんの作ってくれた昼飯をエリックと一緒に食べていた時だ。
「突然済まない」
「あ、いらっしゃいませ。すみません、昼の営業はもう終わってて…」
「ああ、いや違うんだ。夜の方で予約をしたくて…」
店に入って来たのは警邏の騎士だった。聞くと、国境付近の砦で勤務していた騎士が数人、任期を終えて帰って来たらしい。その中には店に来た騎士の同僚もいてせっかくだから皆で飲もうとなった。それでこの店を使いたいと予約しに来たそうだ。
「人数は15人くらいなんだが、席は用意できるだろうか」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「良かった。じゃあ夜によろしく頼むよ」
そう言って騎士は帰っていった。15人か。今日は特別忙しくなりそうだな。でも騎士かぁ。さっきの騎士もいい体してたなぁ。そんな人が15人も集まるのかぁ。最高だな。
「アルテ、顔がだらしなくなってるぞ。またガタイのいい男の事考えてただろ」
「あ、バレた?」
「バレバレだ。聞いてた通り15人の騎士様が来る。あの人たちはめちゃくちゃ飲むからな。忙しくなるから、今のうちにきちんと休んどけよ」
「りょうかーい!」
いやぁ、楽しみだなぁ。今日の夜が待ち遠しいぜ。
そして夜。ぞくぞくとお客さんが来店し席が埋まっていく中、待ち望んでいた騎士たちがやって来た。
「いらっしゃいませ~! お席はこちらでーす!」
うひょ~! 15人も集まると流石に見ごたえがあるぜ!
騎士たちを席に案内していると、1人特別背が高くガタイも俺好みの騎士がいることに気が付いた。しかも顔も男らしい精悍な顔つき。短い緑の髪がめちゃくちゃ似合うし、同じ色の瞳も引き込まれるような印象だ。
つまり、超俺の好みど真ん中。
うっわ…あの人超カッコいいし、超タイプだし、超抱きてぇ…。ま、どうせ俺は抱かれる方にしか見られないし夢のまた夢だけど。
でもこんな人を見られてラッキーだな。今日は目の保養が出来て幸せだ。
飲み物を届けたらすぐさま乾杯。どうやら俺の好みの騎士は、例の任務から帰って来た騎士の1人らしい。通りで騎士も良く来るこの店で、一度も見た事ないはずだ。
ずっと見ていたいけど、そんな時間はない。店はもう忙しさの頂点だ。
料理を届けたり飲み物を届けたり、そのついでにりちらちらチラ見。見れば見るほどイイ。ああ、あの胸に飛び込みたい。
「おいアルテ。お前、あの騎士が好みなのか?」
「へ? わかっちゃう? 超カッコいいよね。あの体にむしゃぶりつきてぇ」
「……あっそ。否定はしないけど、俺にはよくわからん。ほら、ぼーっとする時間なんてないぞ。1番に持ってけ」
「はーい」
エリックの好みは、おっぱいぽよんぽよんの女の人だもんな。だけど、俺の性癖を否定したりしない数少ない理解者だ。ガタイの良い男を抱きたいと言った時『へぇ……………いいんじゃね?』と、かなりの間があったのは気になったが、お前は抱かれる側だろ、とか、似合わねぇ、とかそういったことは言わなかった。
俺はそれがすごく新鮮で嬉しくて「好きになりそう」って言ったら「やめてくれ」って言われたけど。エリックは男に食指が動かないからな。しょうがない。
俺がどんなに女顔で男から好かれる姿形をしていても、俺をそういった目で見ない。男は好きになれない奴だからかもしれないけど、それも新鮮でエリックは本当に俺にとってかけがえのない友人になった。
忙しなく店内を渡り歩きどんどん料理を運んでいく。今日のお客さんも良く飲んでのよく食べる。ココの料理が美味いから皆よく食うんだよな。見てるだけで嬉しくなる。
「お待たせしました! 『夜空の満天星のキラキラ☆キュートなサラダ』と『君が大好き♪チュッチュッチョリソー♡』です!」
「あはははは! 相変らずここのメニューは凄い名前だな。俺だったら口にするのも憚れるけど、アルテちゃんが言うと可愛いよな。トレヴァーもそう思わねぇ?」
「あ、そう、だな。うん。似合ってると思う」
うわぁ、低くてなんていい声なんだろうか。トレヴァーさんっていうんだ。思わず名前までゲット! やった!
いつもなら可愛いって言われるのも嫌だけど、トレヴァーさんに言われると悪い気はしない。っていうか嬉しい。
「なんだよトレヴァー。お前もしかして、アルテちゃんがタイプとか?」
っ!? なん、だと!? それは本当か!?
あ、例えそうでも俺が抱かれる側で、だったらそれはちょっとな…。
「いや、タイプとかそういうことでは…。ほら彼も困ってるじゃないか。やめろ」
「なんだよ照れちゃって。でもアルテちゃんって筋肉ムキムキな男が好みなんだろ? アルテちゃんはどう? トレヴァーいい男だろ?」
「はい! 凄くかっこいいですよね!」
超好みです。ドストライクです。あとは抱かせてくれるなら言うことありません。
「あ、ありがとう。だけど、それならお前たちだって同じだろ。君もそう思うだろう?」
「え、はい。そうですね。皆さん凄くいい体してるので、いつも目の保養にさせてもらってます!」
「でもアルテちゃんはなかなかデートに行ってくれないんだよなぁ。今度どこかに行かない?」
「え、と……。あ、忙しいので俺、戻らなきゃっ! すみません!」
そう言ってその場から俺は逃げた。
だってあの騎士、いっつも俺をデートに誘うけど抱く側の奴だもん。前に、ここで誰かと付き合ってた時の話してるのを聞いてたし。俺は抱かれるのは嫌だからお断りだ。
でも見てる分にはいいから楽しませてもらってるけど。いつも拝ませていただきありがとうございます!
それからもバタバタと走り回って店を回していく。それにしても本当に騎士の人ってよく飲むよな。今日は特別だからかいつも以上に飲んでる。飲むペースも早い。お陰でめちゃくちゃ忙しい。
「ありがとうございましたー! またどうぞー!」
騎士以外のお客さんが皆帰ったのに、まだ元気に飲んでる。潰れてる人もいるけど。
そんな中トレヴァーさんは来た時と変わらず、落ち着いて飲んでいた。酒強いんだな。そんなところもカッコいい。
「すみません、そろそろお店も閉店になります」
「もうそんな時間か。遅くまですまない」
「アルテちゃ~ん!」
「うわっ! ちょっ!」
閉店を告げに言ったら、デートに誘ってきた騎士がどさくさに紛れて抱き着いてきた。う~ん、いい雄っぱい。じゃなくて。
「困りますよ! ちょっとしっかりしてください!」
「アルテちゃ~ん! デート行こ…っ痛ぇ!」
「馬鹿か。騎士が一般人を困らせてどうする、全く。…アルテ、といったか。酔っ払いがすまない」
俺に抱き着いてきた騎士の頭をゴン! と殴って助けてくれた。そして俺の頭をなでなで。うわ、大きい手で撫でられるの気持ちいい。ちょっとごつごつしてるのは剣だこかな。それだけ一生懸命剣を振って来たって証だ。
助けてくれて頭を撫でてくれて、凄く優しい人なんだろうと思う。俺の頭を撫でる時も優しい顔だし。
ヤバい…。きゅんとしちゃった。
「いえ、大丈夫です。気にしてませんよ」
「この酔っぱらいは責任もって連れ帰る。初めて来たが、ここは酒も料理も良かった。また来るよ」
「ありがとうございましたー!」
そうして15人の騎士たちは帰っていった。
片付けが終わったのは深夜。騎士たちの飲みっぷり食べっぷりのお陰で、ずっと走り回っていたからくたくただ。
でもトレヴァーさんという、めちゃくちゃ好みの人と知り合えたし今日は良い一日だった。
これで抱かれたい人だったら最高なんだけどな。
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