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37 ブレアナの夫と息子
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「ヒカル様、先にお伝えしたいことがございます」
王宮を出てすぐのところでブレアナさんがちょっと言いにくそうに口を開いた。
ブレアナさんの旦那さん、レオナルドさんがちょっと変わった人だと言うのだ。ただ神子を蔑ろにもしないし、俺の火傷の跡を見てもさっきの宰相さん達みたいに嫌悪感を現すこともないだろうとのこと。でも確実に驚くことになるだろうから心構えだけしておいて欲しいと言われた。
そしてその火傷の跡の幻影も消さずに見せて欲しいと。驚くだろうがレオナルドさんの人柄が一番よくわかるからそうして欲しいと言われた。
俺は言われた意味はよくわからなかったけど、ブレアナさんがそう言うのだから大丈夫だろうと思い言われた通りにすることにした。
馬車はやがて一つの大きな屋敷に到着する。そのまま馬車を降り、ブレアナさんの案内で中へと入った。
連絡も入れず急に来たから迎えとかはない。ヘインズ公爵家の人達が大勢いきなり来たから屋敷はバタバタと忙しない感じだった。
それにちょっと申し訳ないな、と思いつつブレアナさんの案内で一つの部屋に入った。途中でブレアナさんは使用人に声を掛けたから双子たちもすぐに来るだろうとのこと。
その言葉通り、双子は急ぎ足で来てくれてお茶を用意してくれた。
そして待つことほんの数分。バタバタと足音が聞こえて部屋の扉が開く。そこにはルーファスさんに似た背の高い男性と、小さな子供がいた。恐らくブレアナさんの旦那さんと子供だろう。
2人は俺の前へ来ると片膝を付き最上の礼をした。
「ヒカル様、ご紹介いたします。私の夫であるレオナルド・ヘインズと息子であるエリオット・ヘインズでございます」
「み、神子様に拝謁出来ましたこと! ま、誠に! 誠に恐悦至極に存じます! ブレアナの夫、レオナルドでございます! ああっ! 信じられない神子様が目の前にいらっしゃるなんて綺麗な漆黒の御髪にしなやかなお体瞳も艶やかでまるで黒曜石のようだ夢にまで見た神子様が僕の前にいらっしゃるなんて感激のあまり言葉が出ないこんな日が来るなんて生きててよかった話を聞けばあの国に酷いことをされたと言うではないかそのお心はさぞ傷つき苦しかっただろうに目の前にいらっしゃる神子様のなんと凛としたお姿はもう神のごとく輝いていらっしゃるそれになんてお可愛らしいお顔立ちなんだ神子様は何がお好きなんだろうか僕の持てる力をすべて使って国中から何でも望むものを――」
大きな声で挨拶をしたと思ったその瞬間、まるでマシンガンのように息継ぎもせずに語りだして俺は何も言えなくなってしまった。それを隣にいる息子、エリオット君は下を向きふるふると震えている。耳を見れば赤かったから、自分の父親がおかしくて恥ずかしいのかもしれない。うん、ちょっと気持ちはわからんでもない。
「レオ落ち着いて。ヒカル様が呆然としているから」
「はっ! それは失礼いたしました! 感激のあまりつい! 申し訳ございません!」
「あ……いえ、大丈夫です」
なんか凄いなレオナルドさん。勢いが凄すぎてちょっとびっくりした。ブレアナさんが言ってたちょっと変わった人ていうのはこのことだったんだろうな……。
それからレオナルドさんはブレアナさんをじっと見つめていて、ブレアナさんは「待て」と一言。それを聞いたレオナルドさんはこくこくと頷きソワソワとし出した。
……なんだ? 一体どうしたレオナルドさん……。
「あの……エリオット・ヘインズです。神子様よろしくお願いいたします……」
「あ、今井光です。エリオット君、よろしくね」
父親の暴走が恥ずかしいのか小さな声で挨拶をしてくれたエリオット君。未だ俯いたままだ。
「アナ!! 会いたかった!!」
エリオット君の挨拶が終わるや否や、レオナルドさんは勢いよくブレアナさんを抱きしめた。いきなりの事で俺はまたもやびっくりしてしまう。
「レオ! 待てと言っただろう!?」
「でもエリオットもちゃんと挨拶したからもういいでしょう!? 僕がどんなに君に会いたかったかわかるかい!? ああっ僕の愛しの君とこうしてまた会えて女神に感謝しなければ! アナ! 僕はずっと君を愛してるよ!」
レオナルドさん、ブレアナさんのことめっちゃ好きなんだ。ブレアナさんも「ヒカル様の前だぞ!」とか言いながらも満更じゃない。仲良し夫婦なのに今までずっと離れていたから、今日やっと会えて感情が爆発したんだろうな。
オーサが「とりあえず義兄上達も座ってくれ」と声を掛けると、レオナルドさんは弾かれたように今度はオーサに抱き付いた。
「オースティン!! 君も生きていてくれてよかった! 本当に本当に嬉しいよ! 先祖返りである尊い君があの国から逃げられたことはこれ以上なく喜ばしいことだ! ああ! その顔に付いた鱗や瞳! いつ見ても何て美しいんだ!!」
「父上ッ! もういい加減にしてくださいッ!」
「だがエリオット! 神子様と先祖返りのオースティンがこうやって並んでいるんだぞ! しかもその中に愛しいアナもいるんだ! 落ち着いてなんかいられない! ああ! 女神テラよ! 貴女の導きに感謝いたします!!」
「父上ッ!!」
……うん。なんとなくだけどわかったかもしれない。レオナルドさんは女神テラと神獣人、そして神子のオタクだ。この暴走具合はもうオタクだろう。
ブレアナさんも双子もランドルも、レオナルドさんを呆れた様に見ている。オーサはレオナルドさんに抱き付かれて眉間に皺が寄っていた。
「レオナルド様もエリオット様もお席にお付きください。ヒカル様が困惑しておられます」
レイフにそう促されてやっと、この場は落ち着きを取り戻した。
王宮を出てすぐのところでブレアナさんがちょっと言いにくそうに口を開いた。
ブレアナさんの旦那さん、レオナルドさんがちょっと変わった人だと言うのだ。ただ神子を蔑ろにもしないし、俺の火傷の跡を見てもさっきの宰相さん達みたいに嫌悪感を現すこともないだろうとのこと。でも確実に驚くことになるだろうから心構えだけしておいて欲しいと言われた。
そしてその火傷の跡の幻影も消さずに見せて欲しいと。驚くだろうがレオナルドさんの人柄が一番よくわかるからそうして欲しいと言われた。
俺は言われた意味はよくわからなかったけど、ブレアナさんがそう言うのだから大丈夫だろうと思い言われた通りにすることにした。
馬車はやがて一つの大きな屋敷に到着する。そのまま馬車を降り、ブレアナさんの案内で中へと入った。
連絡も入れず急に来たから迎えとかはない。ヘインズ公爵家の人達が大勢いきなり来たから屋敷はバタバタと忙しない感じだった。
それにちょっと申し訳ないな、と思いつつブレアナさんの案内で一つの部屋に入った。途中でブレアナさんは使用人に声を掛けたから双子たちもすぐに来るだろうとのこと。
その言葉通り、双子は急ぎ足で来てくれてお茶を用意してくれた。
そして待つことほんの数分。バタバタと足音が聞こえて部屋の扉が開く。そこにはルーファスさんに似た背の高い男性と、小さな子供がいた。恐らくブレアナさんの旦那さんと子供だろう。
2人は俺の前へ来ると片膝を付き最上の礼をした。
「ヒカル様、ご紹介いたします。私の夫であるレオナルド・ヘインズと息子であるエリオット・ヘインズでございます」
「み、神子様に拝謁出来ましたこと! ま、誠に! 誠に恐悦至極に存じます! ブレアナの夫、レオナルドでございます! ああっ! 信じられない神子様が目の前にいらっしゃるなんて綺麗な漆黒の御髪にしなやかなお体瞳も艶やかでまるで黒曜石のようだ夢にまで見た神子様が僕の前にいらっしゃるなんて感激のあまり言葉が出ないこんな日が来るなんて生きててよかった話を聞けばあの国に酷いことをされたと言うではないかそのお心はさぞ傷つき苦しかっただろうに目の前にいらっしゃる神子様のなんと凛としたお姿はもう神のごとく輝いていらっしゃるそれになんてお可愛らしいお顔立ちなんだ神子様は何がお好きなんだろうか僕の持てる力をすべて使って国中から何でも望むものを――」
大きな声で挨拶をしたと思ったその瞬間、まるでマシンガンのように息継ぎもせずに語りだして俺は何も言えなくなってしまった。それを隣にいる息子、エリオット君は下を向きふるふると震えている。耳を見れば赤かったから、自分の父親がおかしくて恥ずかしいのかもしれない。うん、ちょっと気持ちはわからんでもない。
「レオ落ち着いて。ヒカル様が呆然としているから」
「はっ! それは失礼いたしました! 感激のあまりつい! 申し訳ございません!」
「あ……いえ、大丈夫です」
なんか凄いなレオナルドさん。勢いが凄すぎてちょっとびっくりした。ブレアナさんが言ってたちょっと変わった人ていうのはこのことだったんだろうな……。
それからレオナルドさんはブレアナさんをじっと見つめていて、ブレアナさんは「待て」と一言。それを聞いたレオナルドさんはこくこくと頷きソワソワとし出した。
……なんだ? 一体どうしたレオナルドさん……。
「あの……エリオット・ヘインズです。神子様よろしくお願いいたします……」
「あ、今井光です。エリオット君、よろしくね」
父親の暴走が恥ずかしいのか小さな声で挨拶をしてくれたエリオット君。未だ俯いたままだ。
「アナ!! 会いたかった!!」
エリオット君の挨拶が終わるや否や、レオナルドさんは勢いよくブレアナさんを抱きしめた。いきなりの事で俺はまたもやびっくりしてしまう。
「レオ! 待てと言っただろう!?」
「でもエリオットもちゃんと挨拶したからもういいでしょう!? 僕がどんなに君に会いたかったかわかるかい!? ああっ僕の愛しの君とこうしてまた会えて女神に感謝しなければ! アナ! 僕はずっと君を愛してるよ!」
レオナルドさん、ブレアナさんのことめっちゃ好きなんだ。ブレアナさんも「ヒカル様の前だぞ!」とか言いながらも満更じゃない。仲良し夫婦なのに今までずっと離れていたから、今日やっと会えて感情が爆発したんだろうな。
オーサが「とりあえず義兄上達も座ってくれ」と声を掛けると、レオナルドさんは弾かれたように今度はオーサに抱き付いた。
「オースティン!! 君も生きていてくれてよかった! 本当に本当に嬉しいよ! 先祖返りである尊い君があの国から逃げられたことはこれ以上なく喜ばしいことだ! ああ! その顔に付いた鱗や瞳! いつ見ても何て美しいんだ!!」
「父上ッ! もういい加減にしてくださいッ!」
「だがエリオット! 神子様と先祖返りのオースティンがこうやって並んでいるんだぞ! しかもその中に愛しいアナもいるんだ! 落ち着いてなんかいられない! ああ! 女神テラよ! 貴女の導きに感謝いたします!!」
「父上ッ!!」
……うん。なんとなくだけどわかったかもしれない。レオナルドさんは女神テラと神獣人、そして神子のオタクだ。この暴走具合はもうオタクだろう。
ブレアナさんも双子もランドルも、レオナルドさんを呆れた様に見ている。オーサはレオナルドさんに抱き付かれて眉間に皺が寄っていた。
「レオナルド様もエリオット様もお席にお付きください。ヒカル様が困惑しておられます」
レイフにそう促されてやっと、この場は落ち着きを取り戻した。
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