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35 やっぱり俺は化け物なのか
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「神子様、こちらも紹介させていただきます」
「宰相のデュアン・ハーソンと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい。今井光です。よろしくお願いします」
王様にずっと片膝つけさせるのは申し訳ないと思って、椅子に腰かけるよう促した。
「えっと、こんなこと自分で言うのも変なんですけど、俺が神子だってすんなり信じたのは何故です?」
俺の姿を見るなり、神子としてちゃんと接してくれて有難いと思うと同時に、そんな簡単に信じていいのかな、と疑問が出てしまった。
「息子であるルーファスがその様な嘘を付く理由もありませんし、サザラテラ王国のヘインズ公爵家の2人も一緒におりますので間違いないだろうと。ただ、このような急なご来訪ですから何か理由がおありだとは思いますが……」
「そうなんです。急に来てしまって本当にすみません。実は――」
俺は王様にどうして急にここへ来たか、その事情を説明した。隠すことはないからもう全部まとめて伝えることにした。王様は話を聞いていくにつれ眉間にどんどんと深いしわが刻まれていく。
「はぁ……まさかあの国が神子様をそのように扱っていたとは。過去の神子様は暗い表情をされていたというのは書物にも残っております。元の世界との繋がりを切られたからだと思っておりましたが、まさか奴隷契約とは……」
「それでこの国へとりあえず逃げて来た感じです。あとあの国の結界は1年だけしか持ちませんし、召喚陣も消滅させたのであの国が神子を召喚することは今後2度とありません」
「「なっ!? それは本当ですか!?」」
「はい。ですのでもうあの国の言いなりになる必要はありません。その事を他の国にも伝えて欲しいんです。俺はあの国を捨てました。瘴気の浄化をするつもりもありません。あの国と今後の付き合いをどうするかはその国の自由です。ですが、俺はあの国に手を貸すことはないということを知っておいてください」
もしも、あいつらが他の国へ手を回し俺へ何かをさせようとしても、俺は絶対に手を貸すつもりはない。そのことははっきりと伝える必要があると思った。
絶対あいつらはまた他の国を恫喝して俺を取り戻そうとするはずだ。それに乗らないように他の国へ伝える必要がある。それには俺個人よりも国でやってもらった方が早いだろう。
「そうだ! 他の国へ連絡するのは手紙になりますよね? 結界の外は危険なので、これを先に渡しておきます」
俺は携帯式結界をたくさん作り、それを渡した。これを使えば魔物に襲われても大丈夫だと。
「み、神子様はこのような物まで作ることが出来るのですね……」
王様と宰相さんは呆然としていた。初めて見ると驚くよね。でも時間がないから気にしている余裕はなかった。
「先に言っておくが、これを売ったりすることは禁止する。ヒカル様は結界の外へ出る人の為にこれを作られた。その優しさを踏みにじらないで欲しい」
「オーサ……」
そっか。俺は簡単にぽんぽん作れちゃうから何も考えてなかったけど、誰かがこれを売って大金を得ることも出来るのか。金に目のくらんだ人はそうすることも考えられるんだ。俺も力を使う時はちょっと考えなきゃいけないな。
「わかっている。持たせる者は厳選し、数も管理しよう。神子様の慈悲を無駄にすることはしないと約束する」
「よろしくお願いします」
王様は携帯式結界を大事に受け取った。その言葉通り悪い事にならないように祈るばかりだ。
「神子様、召喚陣を消滅させたと仰いましたが、今後は神子様が召喚されることはないのですよね? この世界の今後は一体どうしたら……」
宰相さんが厳しい目で俺を見ていた。その気持ちもわかる。召喚陣がなければ神子は2度とこの世界に現れることはない。そうなれば、俺が死んだあとのこの世界は消滅するしかないのだから。
「俺は召喚陣を新たに設置することが出来ます。ですので2度とこの世界に神子が現れなくなる、ということはありません」
「なんとっ……! それは素晴らしい! ではこの国に召喚陣を設置してくださるので!?」
「いいえ、それはまだわかりません」
「なっ……! なんですと!?」
俺の返事を聞いた宰相さんは、バン! とテーブルを叩き立ち上がった。かなり怒っているようで顔が赤い。
……正直めっちゃ怖い。だってこの宰相さん、オールバックで厳つい顔だから睨まれるとすごく怖いんだよ……。
でも負けるな俺。俺は神子。この世界で一番偉いはずなんだから。
「召喚陣の設置自体、まだするかどうか考えていません。俺は召喚陣を持っていたあの国が行ってきたことを知りました。また同じような事を繰り返すわけにはいかないんです。設置するにしても、そこはちゃんと考えたいと思っています」
「こ、この国はそのような事は致しません! ですからっ……!」
「……俺の顔についた仮面。これが何かわかりますか?」
「は……?」
いきなり意味の分からないことを言われて宰相さんは戸惑った。
俺は火傷の跡を隠すための仮面を付けている。もう火傷の跡が治ったにも関わらずだ。
俺はこの火傷の跡があったことで分かったことがある。それは人の本性が暴けるかもしれないということ。
召喚されたサザラテラ王国の人は火傷の跡を見て『化け物』だと俺を侮蔑した。
でも神子の事や神獣人をちゃんと分かっている人は、俺の火傷の跡を見ても嫌悪感を表すことはなかった。びっくりはするがそれだけ。気持ち悪いと思う事はなかった。
俺は仮面をそっと外す。すると俺の顔を見た王様や宰相さん、そしてこの部屋にいる数人の使用人はがたがたっと音を立てて動揺した。
「ひ、ひぃっ……! ば、化け物っ……!?」
「デュアン!!」
そう叫んだ宰相を咎める王様の声。王様は驚いただけだったけど、その他の人は嫌悪感を隠しもしなかった。
俺の顔には火傷の跡がある。それをいきなり見たその時の反応を見たかった。
これは幻影だ。実際には火傷の跡は綺麗に無くなっている。それを幻影で見えるようにしただけだ。
卑怯なやり方かもしれない。だけどこれが手っ取り早く判断出来ると思った俺は、ブレアナさんやオーサに相談した。そうしたらやりたいようにやればいいと言ってくれて、俺はそれを実行した。
やっぱりこの国も、これを見て俺を化け物だと言うのか。
「宰相のデュアン・ハーソンと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい。今井光です。よろしくお願いします」
王様にずっと片膝つけさせるのは申し訳ないと思って、椅子に腰かけるよう促した。
「えっと、こんなこと自分で言うのも変なんですけど、俺が神子だってすんなり信じたのは何故です?」
俺の姿を見るなり、神子としてちゃんと接してくれて有難いと思うと同時に、そんな簡単に信じていいのかな、と疑問が出てしまった。
「息子であるルーファスがその様な嘘を付く理由もありませんし、サザラテラ王国のヘインズ公爵家の2人も一緒におりますので間違いないだろうと。ただ、このような急なご来訪ですから何か理由がおありだとは思いますが……」
「そうなんです。急に来てしまって本当にすみません。実は――」
俺は王様にどうして急にここへ来たか、その事情を説明した。隠すことはないからもう全部まとめて伝えることにした。王様は話を聞いていくにつれ眉間にどんどんと深いしわが刻まれていく。
「はぁ……まさかあの国が神子様をそのように扱っていたとは。過去の神子様は暗い表情をされていたというのは書物にも残っております。元の世界との繋がりを切られたからだと思っておりましたが、まさか奴隷契約とは……」
「それでこの国へとりあえず逃げて来た感じです。あとあの国の結界は1年だけしか持ちませんし、召喚陣も消滅させたのであの国が神子を召喚することは今後2度とありません」
「「なっ!? それは本当ですか!?」」
「はい。ですのでもうあの国の言いなりになる必要はありません。その事を他の国にも伝えて欲しいんです。俺はあの国を捨てました。瘴気の浄化をするつもりもありません。あの国と今後の付き合いをどうするかはその国の自由です。ですが、俺はあの国に手を貸すことはないということを知っておいてください」
もしも、あいつらが他の国へ手を回し俺へ何かをさせようとしても、俺は絶対に手を貸すつもりはない。そのことははっきりと伝える必要があると思った。
絶対あいつらはまた他の国を恫喝して俺を取り戻そうとするはずだ。それに乗らないように他の国へ伝える必要がある。それには俺個人よりも国でやってもらった方が早いだろう。
「そうだ! 他の国へ連絡するのは手紙になりますよね? 結界の外は危険なので、これを先に渡しておきます」
俺は携帯式結界をたくさん作り、それを渡した。これを使えば魔物に襲われても大丈夫だと。
「み、神子様はこのような物まで作ることが出来るのですね……」
王様と宰相さんは呆然としていた。初めて見ると驚くよね。でも時間がないから気にしている余裕はなかった。
「先に言っておくが、これを売ったりすることは禁止する。ヒカル様は結界の外へ出る人の為にこれを作られた。その優しさを踏みにじらないで欲しい」
「オーサ……」
そっか。俺は簡単にぽんぽん作れちゃうから何も考えてなかったけど、誰かがこれを売って大金を得ることも出来るのか。金に目のくらんだ人はそうすることも考えられるんだ。俺も力を使う時はちょっと考えなきゃいけないな。
「わかっている。持たせる者は厳選し、数も管理しよう。神子様の慈悲を無駄にすることはしないと約束する」
「よろしくお願いします」
王様は携帯式結界を大事に受け取った。その言葉通り悪い事にならないように祈るばかりだ。
「神子様、召喚陣を消滅させたと仰いましたが、今後は神子様が召喚されることはないのですよね? この世界の今後は一体どうしたら……」
宰相さんが厳しい目で俺を見ていた。その気持ちもわかる。召喚陣がなければ神子は2度とこの世界に現れることはない。そうなれば、俺が死んだあとのこの世界は消滅するしかないのだから。
「俺は召喚陣を新たに設置することが出来ます。ですので2度とこの世界に神子が現れなくなる、ということはありません」
「なんとっ……! それは素晴らしい! ではこの国に召喚陣を設置してくださるので!?」
「いいえ、それはまだわかりません」
「なっ……! なんですと!?」
俺の返事を聞いた宰相さんは、バン! とテーブルを叩き立ち上がった。かなり怒っているようで顔が赤い。
……正直めっちゃ怖い。だってこの宰相さん、オールバックで厳つい顔だから睨まれるとすごく怖いんだよ……。
でも負けるな俺。俺は神子。この世界で一番偉いはずなんだから。
「召喚陣の設置自体、まだするかどうか考えていません。俺は召喚陣を持っていたあの国が行ってきたことを知りました。また同じような事を繰り返すわけにはいかないんです。設置するにしても、そこはちゃんと考えたいと思っています」
「こ、この国はそのような事は致しません! ですからっ……!」
「……俺の顔についた仮面。これが何かわかりますか?」
「は……?」
いきなり意味の分からないことを言われて宰相さんは戸惑った。
俺は火傷の跡を隠すための仮面を付けている。もう火傷の跡が治ったにも関わらずだ。
俺はこの火傷の跡があったことで分かったことがある。それは人の本性が暴けるかもしれないということ。
召喚されたサザラテラ王国の人は火傷の跡を見て『化け物』だと俺を侮蔑した。
でも神子の事や神獣人をちゃんと分かっている人は、俺の火傷の跡を見ても嫌悪感を表すことはなかった。びっくりはするがそれだけ。気持ち悪いと思う事はなかった。
俺は仮面をそっと外す。すると俺の顔を見た王様や宰相さん、そしてこの部屋にいる数人の使用人はがたがたっと音を立てて動揺した。
「ひ、ひぃっ……! ば、化け物っ……!?」
「デュアン!!」
そう叫んだ宰相を咎める王様の声。王様は驚いただけだったけど、その他の人は嫌悪感を隠しもしなかった。
俺の顔には火傷の跡がある。それをいきなり見たその時の反応を見たかった。
これは幻影だ。実際には火傷の跡は綺麗に無くなっている。それを幻影で見えるようにしただけだ。
卑怯なやり方かもしれない。だけどこれが手っ取り早く判断出来ると思った俺は、ブレアナさんやオーサに相談した。そうしたらやりたいようにやればいいと言ってくれて、俺はそれを実行した。
やっぱりこの国も、これを見て俺を化け物だと言うのか。
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