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33 いざ隣国へ

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 隣国へ向かう皆で、荷物も全部積み込んだ馬車に乗り込んだ。俺はその馬車一台一台に結界を張る。これでどんな攻撃も受け付けない。
 屋敷の回りには今もまだたくさんの騎士が取り囲んでいる。その邪魔な壁をどかさないと馬車を前に出すことが出来ない。

「よし! 俺が風圧であいつらを吹っ飛ばすからその隙に馬車を出して!」

「かしこまりましたぁ! いつでもこい! 中の奴らは馬車が揺れるからちゃんと捕まっとけよ!」

 俺に吹っ飛ばされて怪我をしても恨むなよ! こうなったのはお前達の自業自得だからな!

「いっけぇぇぇ!」

 馬車の通り道を開けるように、強い風を起こし邪魔な騎士たちを吹っ飛ばした。道が開けて直ぐ馬車は勢いよく走り出す。先頭が走り出したのを機に、後続が次々と走り出した。

「貴様らぁぁぁぁ!! ここから行かせるわけにいかんぞぉぉぉぉ!!」

 あれは国王と王子たち。こんなところにまで来てよっぽど暇なんだな。っていうか、これからこの国の未来は暗いんだからこんなところで油を売ってる暇なんてないと思うんだけど。

「何としても馬車を止めろ!! 逃がすなぁぁぁぁ!!」

 走っている馬車に向かって弓矢がびゅんびゅんと飛んできている。だが俺が張った結界に弾かれて弓矢は地面へと落ちていく。こんなしょぼい弓矢で止められるわけない。
 だけどちょっとうざいなと思うので反撃させて貰おう。

「オーサ! オーサもやり返してやれ! 今までの恨み、晴らしてやるんだ!」

「わかった。任せろ」

 馬車の窓から腕を突き出したオーサは、風を起こすと竜巻にする。それは矢を射る騎士に向かって進み一気に巻き上げた。「うわぁぁぁぁ!」とか「ぎゃぁぁぁぁ!」とか聞こえてくる。

「オーサ、ナイス! どんどんやってやろう!」

 神子たちを散々な目に遭わせて、他国の魔力持ちをたくさん殺し、先代の公爵も公爵夫人も殺し、オーサを殺そうとしたこいつらに慈悲はない!

 俺とオーサが魔法でばかすか騎士たちを吹き飛ばしているのを見て、他の馬車からは拍手喝采。今まで悔しい思いをしてきただろうから、相当胸がすく思いだろう。

 あいつらは魔法を撃てるだけの魔力がない。ここは俺達の独断場だ!
 だが俺はあいつらを殺すつもりはない。人を殺すことは流石に躊躇するのと、ここで死んでしまってはあいつらを苦しめてやることが出来ない。
 これからこの国はたった1年という短い時間で、魔物の脅威から守る術を確立させなきゃいけない。2度と神子の召喚も出来ない、魔力持ちもいない。相当苦しい未来しか訪れることはない。

 俺はこの国を助けてやるつもりは一切ない。何を言われても絶対に手を貸さない。それでこの国が無くなってもどうでもいい。
 こいつらには生きて地獄を見て貰うんだ。今まで自分たちが行ってきたことを後悔しながら、この先を苦しんで苦しんで生きていけばいい。

 無傷のまま馬車はどんどんと進み王都を抜ける。そのまま隣国へと向かう街道へと入り、そのまま爆走を続ける。そしてある程度の距離を駆け抜けたところで、一旦休憩を取ることにした。

 馬車を降りると沢山の人に囲まれた。「ヒカル様! ありがとうございます!」とか「流石は神子様!」とか「あいつらが吹き飛ぶところを見て笑いが止まらなかった!」とか、かなりのハイテンションで声を掛けられた。
 その勢いに飲まれそうになりながらも、ここまで喜んで貰えて本当に良かったと思う。

 ある程度話を聞いたその後は、その輪から抜け出し馬たちに治癒魔法を掛けて回る。これからもまた元気に走ってもらわないといけないからな。

「ヒカル様」

「オーサ」

 馬たちに治癒魔法を掛けながら首元を撫でているとオーサがやって来た。そのまま自然に俺の腰を抱いて来る。うーん、超絶美形の至近距離は未だに慣れない……。
 
「貴方のお陰で、公爵家の者達を救う事が出来た。本当にありがとう」

「うん、俺も皆の事が好きだから助けられて良かったです」

 正直まだ油断できない状況ではあるけど、とりあえず王都からは出られたし後は隣国に入りさえすればもう大丈夫だ。

「ヒカル様に言われて、あいつらに反撃した時はこれ以上にないほど気分が高揚した。許せない気持ちはあっても奴隷契約があったから何も出来なかった。諦めていた。だがもう諦めることも言いなりになることもないのだと、はっきりと実感することが出来た。ヒカル様にとって召喚されたことが絶望だとしても、私は貴方に会えて心から良かったと思う。他の誰でもない、貴方に」

「オーサっ……」

 そのままぎゅっとオーサに抱きしめられる。また俺は心臓がばくばくと煩いほどに鳴り出した。
 こんなにストレートに気持ちを伝えられることに慣れていないし、どうしていいかわからない。

「貴方に出会えて、貴方を愛することが出来て、私はなんて幸運なんだろうか」

 うわぁぁぁぁ! こんな時にもそんな甘い事言うのやめてぇぇぇぇ! もう心臓が! 無理なんです!

 と一人内心あわあわとしていたら、ガサガサっという音と「うわっ! 押すなよ!」という声が聞こえて来た。その方向へ首を向ければ、何とそこには馬車の影に隠れて俺達を見ていた沢山の人、人、人……。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 沢山の人に見られていたことがわかって、ずさ! っと慌ててオーサから離れる。
 え? え!? えー!? いつから!? いつから見てたの!?

 その中には双子もランドルもブレアナさんもルーファスさんも皆いた。そこからローリーがひょこっと出てきて頬をぽりぽり。

「……えへへ。ごめんね。えっと……続きをどうぞ?」

「続かないからね!?」

 俺は真っ赤になった顔を隠しながら自分の馬車に飛び込んだ。そのまま両手で顔を隠し足をバタバタさせる。

 無理! 皆にあんな風に見られてたなんて恥ずかしすぎる!! もうオーサの顔見れない!

 と悶えていたが、この馬車にはオーサも一緒に乗っていた。当然この後もオーサは何食わぬ顔で馬車に乗り込み、自然に俺の隣へ腰掛ける。

「ヒカル様は照れ屋なのだな。なんて可愛いのだろうか」

 なんで貴方はそんな冷静なんですかね!? ねぇどうして!?
 
 
 それからしばらくして馬車はまた隣国へ向かって走り出した。
 
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