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31 愛称呼びの意味
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馬車の動きが止まり公爵家へ着いたことを知る。ヘンリーさんが扉を開け、全員急いで降りる。
「ヒカル様にオースティン様!? ご無事だったのですね!?」
「ええ!? ヒ、ヒカル様!? お顔がっ……!」
玄関ホールへ行けば公爵家の使用人達が多く集まっていて、その中にはブレアナさんやルーファスさん達の姿もあった。
「詳細は後で! ブレアナさん、俺、神子の力を使えるようになりました! それで大至急作戦会議をしたいんで応接間ですっけ? そこに集合で!」
「は、はい! かしこまりました!」
「それから皆は急いで荷造りしておいて! いつでもここを出られるように!」
その言葉で皆弾けた様に急いで動き出した。
「あ、そうだ! あいつら絶対ここへやってくるはず!」
あのまま俺達を逃がすはずがない。また騎士たちを大勢連れてこの公爵家へとやってくるはずだ。そのままにしていたら、以前のように問答無用で皆が殺されてしまう。
この屋敷の敷地全域に神子の力を使って結界を張る。これであいつらが襲ってきたとしても一歩も中へ入れないはずだ。
それから俺達は応接間へと向かい、ソファーに腰を掛けるなり状況説明を始める。
「ヒカル様、先ほどは何をなさったのですか?」
「ここの敷地に結界を張ったんです。順に説明しますね。まず王宮に行ったら案の定、オーサに力を使わせてそのままオーサを殺そうとしました。それで死にかけたオーサを見て神子の力を発現したみたいなんです」
それで治癒魔法を使ってオーサを全回復させたこと。その余波で自分の火傷の跡も治ったこと。結界石の強化をしたが期限は1年の事。この国の召喚陣を消滅させたこと。そして周りの奴らを風圧でぶっ飛ばしながらここへ逃げてきたこと。最後に結界を張ってこの中に奴らを入れなくしたこと。
「だから今この屋敷は安全な状態です。あいつらが何をやったってここの敷地に一歩も踏み入れられませんよ」
「……あの、なんというか……神子様って規格外なんですね」
話を聞いていたブレアナさんが呆然とした感じでそう言った。ちらりと周りを見ればルーファスさんも同じように口をあんぐり開けている。
「多分だけど、過去の神子たちもこれくらいはやれたはずなんです。だけど奴隷契約と暴力によって反撃出来なくなったんじゃないかと。あ! 奴隷契約で思い出したけどオーサの奴隷契約解除させなきゃ!」
なんてこった。一番大事な事がすっぽりと抜けてしまっていた。
オーサに近づき意識を集中して見てみれば、文字というか記号というか、そんなものがずらずらと羅列し黒い鎖状になった物が見えた。それはオーサの体をぐるぐる巻きにしている状態だ。
それに手を伸ばしぐっと掴かむと強めに神子の力を注いだ。するとパキンと音を立ててその鎖は消滅した。
「よし! これでオーサにかけられた奴隷契約は解除されました!」
「本当ですか!?」
「……神子って奴隷契約解除まで出来ちゃうんだ」
正直、俺も神子の力を使えるようになるまで出来るとは思っていなかったけど、流石は女神テラの加護というか何でも出来るんだなっていうのが体感で分かる。
「神子ってなんていうか『女神テラの代わり』みたいなんですよね。神子の力は主に4つだって習いましたけど、そうじゃないみたいで……」
多分俺は魔法が先に使えるようになったことが大きいんじゃないかと思う。
今までの神子は魔法が使えるってわからなかったっていうか、教えて貰えなかったんじゃないかな。
あと考えられるのは俺が前の世界で見ていた漫画とかアニメの影響。イメージが強く出来たり、漫画やアニメにあったあんな事やこんな事が出来るんじゃないのか? と考えられたことが大きいような気がする。
で、この世界では女神テラの加護で4つの力が使えるって教わるから、それ以上は出来ないって思いこんでいたような気がするんだよな。
「それと俺の神子の力って過去の神子より強いみたいなんです。それも影響してるかも」
「……何と言うか、もう凄いとしか言えません」
ブレアナさんの言葉に周りがうんうんと首を縦に振る。まぁ俺も凄いなって思う。もはやチートだもん。
「じゃあこれでオーサの奴隷契約も解除出来たし、前に決めた隣国に全員で亡命するってことでいいですよね? 早めに動いた方がいいんで、どれくらいで移動出来そうですか?」
「そうですね……。仕事のことと、公爵家所縁の者への連絡と準備、荷造りなんかを含めても最低でも1週間はかかるかと……」
大所帯での移動になるし馬車の手配も必要になる。とりあえず、他の場所にいる公爵家関係の人はここに集まってもらう事になり、準備が出来次第隣国へと向かう事になった。
ただ王宮側が俺達を逃がすつもりはないだろうし、あの手この手で邪魔をしてくることが考えられる。ここへ辿り着く前に襲われたらまずい。
前に双子やランドルにあげた魔法で作った石に結界を付与させて、それに魔力を注げば結界を発動できる携帯式の結界を作ってみることにした。
すると何と簡単に出来てしまった。神子ヤバすぎ。青いネコ型ロボットも真っ青だ。
「あ、あのヒカル様……こんなものをポンポン作ってお体の方は大丈夫なのですか?」
「うん、全然平気。魔力が枯渇する感じが全くない」
「……ヒカル様のことはもう一般常識で考えてはいけないみたいですね」
……なんだろう。ランドルの言葉に呆れが混じっているのは気のせいだろうか。
とりあえず出来た携帯式結界を数人の使用人に渡して、急いで離れた場所にいる公爵家関係の人達のところへと行って貰った。動作確認もしたしきっと大丈夫だろう。
急な事だけどルーファスさんも隣国は問題なく受け入れてくれるって言っているし多分大丈夫。もし何か言われたら俺が話をしよう。
「あの、ヒカル様……。一つ確認したいことがあるのですが……」
ある程度やることが決まったから、そろそろ解散だなって時にブレアナさんが言いづらそうに挙手した。なんだろうと思って、話を促してみる。
「先ほどから弟の事を『オーサ』と愛称で呼んでいらっしゃるのですが、その……いつの間にそういう仲になったのでしょうか?」
「え? そういう仲、ってどういう事ですか?」
「え?」
「え?」
「「…………」」
「オースティン!! お前まさか何も言っていないのか!?」
ブレアナさんが言っていることがわからなくて見つめ合っていたら、急にブレアナさんが激高した。いきなりすぎて俺は体がびくっと震えてしまう。
「え、なに? 何? なんなの?」
「……ヒカル様、愛称で呼ぶのは基本的に親族だけなのです。それ以外の者が相手を愛称で呼ぶと言うのは、恋人関係や婚約関係になった時、なのですよ……」
「は?」
なに? 恋人? 婚約?
ってことはなんだ? 俺が『オーサ』って呼んでいるってことは、俺とオーサが恋人になったよって言ってるも同じってこと??
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんなこと、ひとっことも聞いていませんけどぉぉぉぉ!?
「ヒカル様にオースティン様!? ご無事だったのですね!?」
「ええ!? ヒ、ヒカル様!? お顔がっ……!」
玄関ホールへ行けば公爵家の使用人達が多く集まっていて、その中にはブレアナさんやルーファスさん達の姿もあった。
「詳細は後で! ブレアナさん、俺、神子の力を使えるようになりました! それで大至急作戦会議をしたいんで応接間ですっけ? そこに集合で!」
「は、はい! かしこまりました!」
「それから皆は急いで荷造りしておいて! いつでもここを出られるように!」
その言葉で皆弾けた様に急いで動き出した。
「あ、そうだ! あいつら絶対ここへやってくるはず!」
あのまま俺達を逃がすはずがない。また騎士たちを大勢連れてこの公爵家へとやってくるはずだ。そのままにしていたら、以前のように問答無用で皆が殺されてしまう。
この屋敷の敷地全域に神子の力を使って結界を張る。これであいつらが襲ってきたとしても一歩も中へ入れないはずだ。
それから俺達は応接間へと向かい、ソファーに腰を掛けるなり状況説明を始める。
「ヒカル様、先ほどは何をなさったのですか?」
「ここの敷地に結界を張ったんです。順に説明しますね。まず王宮に行ったら案の定、オーサに力を使わせてそのままオーサを殺そうとしました。それで死にかけたオーサを見て神子の力を発現したみたいなんです」
それで治癒魔法を使ってオーサを全回復させたこと。その余波で自分の火傷の跡も治ったこと。結界石の強化をしたが期限は1年の事。この国の召喚陣を消滅させたこと。そして周りの奴らを風圧でぶっ飛ばしながらここへ逃げてきたこと。最後に結界を張ってこの中に奴らを入れなくしたこと。
「だから今この屋敷は安全な状態です。あいつらが何をやったってここの敷地に一歩も踏み入れられませんよ」
「……あの、なんというか……神子様って規格外なんですね」
話を聞いていたブレアナさんが呆然とした感じでそう言った。ちらりと周りを見ればルーファスさんも同じように口をあんぐり開けている。
「多分だけど、過去の神子たちもこれくらいはやれたはずなんです。だけど奴隷契約と暴力によって反撃出来なくなったんじゃないかと。あ! 奴隷契約で思い出したけどオーサの奴隷契約解除させなきゃ!」
なんてこった。一番大事な事がすっぽりと抜けてしまっていた。
オーサに近づき意識を集中して見てみれば、文字というか記号というか、そんなものがずらずらと羅列し黒い鎖状になった物が見えた。それはオーサの体をぐるぐる巻きにしている状態だ。
それに手を伸ばしぐっと掴かむと強めに神子の力を注いだ。するとパキンと音を立ててその鎖は消滅した。
「よし! これでオーサにかけられた奴隷契約は解除されました!」
「本当ですか!?」
「……神子って奴隷契約解除まで出来ちゃうんだ」
正直、俺も神子の力を使えるようになるまで出来るとは思っていなかったけど、流石は女神テラの加護というか何でも出来るんだなっていうのが体感で分かる。
「神子ってなんていうか『女神テラの代わり』みたいなんですよね。神子の力は主に4つだって習いましたけど、そうじゃないみたいで……」
多分俺は魔法が先に使えるようになったことが大きいんじゃないかと思う。
今までの神子は魔法が使えるってわからなかったっていうか、教えて貰えなかったんじゃないかな。
あと考えられるのは俺が前の世界で見ていた漫画とかアニメの影響。イメージが強く出来たり、漫画やアニメにあったあんな事やこんな事が出来るんじゃないのか? と考えられたことが大きいような気がする。
で、この世界では女神テラの加護で4つの力が使えるって教わるから、それ以上は出来ないって思いこんでいたような気がするんだよな。
「それと俺の神子の力って過去の神子より強いみたいなんです。それも影響してるかも」
「……何と言うか、もう凄いとしか言えません」
ブレアナさんの言葉に周りがうんうんと首を縦に振る。まぁ俺も凄いなって思う。もはやチートだもん。
「じゃあこれでオーサの奴隷契約も解除出来たし、前に決めた隣国に全員で亡命するってことでいいですよね? 早めに動いた方がいいんで、どれくらいで移動出来そうですか?」
「そうですね……。仕事のことと、公爵家所縁の者への連絡と準備、荷造りなんかを含めても最低でも1週間はかかるかと……」
大所帯での移動になるし馬車の手配も必要になる。とりあえず、他の場所にいる公爵家関係の人はここに集まってもらう事になり、準備が出来次第隣国へと向かう事になった。
ただ王宮側が俺達を逃がすつもりはないだろうし、あの手この手で邪魔をしてくることが考えられる。ここへ辿り着く前に襲われたらまずい。
前に双子やランドルにあげた魔法で作った石に結界を付与させて、それに魔力を注げば結界を発動できる携帯式の結界を作ってみることにした。
すると何と簡単に出来てしまった。神子ヤバすぎ。青いネコ型ロボットも真っ青だ。
「あ、あのヒカル様……こんなものをポンポン作ってお体の方は大丈夫なのですか?」
「うん、全然平気。魔力が枯渇する感じが全くない」
「……ヒカル様のことはもう一般常識で考えてはいけないみたいですね」
……なんだろう。ランドルの言葉に呆れが混じっているのは気のせいだろうか。
とりあえず出来た携帯式結界を数人の使用人に渡して、急いで離れた場所にいる公爵家関係の人達のところへと行って貰った。動作確認もしたしきっと大丈夫だろう。
急な事だけどルーファスさんも隣国は問題なく受け入れてくれるって言っているし多分大丈夫。もし何か言われたら俺が話をしよう。
「あの、ヒカル様……。一つ確認したいことがあるのですが……」
ある程度やることが決まったから、そろそろ解散だなって時にブレアナさんが言いづらそうに挙手した。なんだろうと思って、話を促してみる。
「先ほどから弟の事を『オーサ』と愛称で呼んでいらっしゃるのですが、その……いつの間にそういう仲になったのでしょうか?」
「え? そういう仲、ってどういう事ですか?」
「え?」
「え?」
「「…………」」
「オースティン!! お前まさか何も言っていないのか!?」
ブレアナさんが言っていることがわからなくて見つめ合っていたら、急にブレアナさんが激高した。いきなりすぎて俺は体がびくっと震えてしまう。
「え、なに? 何? なんなの?」
「……ヒカル様、愛称で呼ぶのは基本的に親族だけなのです。それ以外の者が相手を愛称で呼ぶと言うのは、恋人関係や婚約関係になった時、なのですよ……」
「は?」
なに? 恋人? 婚約?
ってことはなんだ? 俺が『オーサ』って呼んでいるってことは、俺とオーサが恋人になったよって言ってるも同じってこと??
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんなこと、ひとっことも聞いていませんけどぉぉぉぉ!?
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