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30 覚醒と反撃
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「ふはははは! 化け物の血も赤かったとはな! これはこれは発見だ」
あいつらが笑ってる。オーサが身を削って血を吐いたことを笑ってる。
「ぐふっ……」
「オーサ!!」
オーサがまた血を吐いてとうとう倒れこんでしまった。慌てて支えるも俺の力では支えきれず、俺も座り込んでしまった。
オーサは魔力枯渇で今はもう生きているのがギリギリだ。俺は慌ててオーサに魔力を注ごうとしたが、オーサにそれを止められてしまう。
「ダメだ……ここで、それをやって、は……」
「なんでだよ! 止めないでよ! 死んじゃうんだよ!? あいつらに好き勝手にされて死ぬなんて許さない!」
「それでも、だ……貴方に、会えて、よかった……貴方を愛して、良かった……もう、これ以上、はっ……」
オーサはその金の瞳を閉じてしまった。縦に伸びた瞳孔が見えなくなった。もう目を開けていることも話すことも出来ないんだ。
顔色はまた死人かと思う程に色を無くし、体からは力が完全に抜けている。
「やだ……やだやだやだ! 目を開けてよ! 死なないでよ!」
許さない! この国を許さない! オーサをこんな風にしたこいつらを許さない!
だけど。一番許せないのは俺だ。神子の力を使えない俺だ! 神子の力を使えたら、オーサは苦しまなくて済んだのに! 今すぐにオーサを助けられたのに!
何のための。神子の力は何のためにあるんだよ! 誰かを助けるための力だろ!? こんな時こそ使えなきゃ意味がないだろ!
大切な人を助けられなくて何が神子だ! ふざけるな!!
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」
俺が叫んだその瞬間、体から物凄い勢いで魔力が迸った。俺を中心に白い光が強く輝きだす。
これだ。これが神子の力。
誰かに説明されなくてもこの力の使い方が分かる。どうすればいいのかちゃんと分かる。
オーサの手を握りありったけの力で治癒魔法を流し込む。その力はオーサの中へ入るとあっという間に馴染み、命の息吹を呼び覚ます。
「う……」
「オーサ?」
閉じられた金の瞳が開いた。ゆっくりと目が開き、そして俺の姿を目に留める。
「ヒカル様……?」
「うん、俺だよ」
オーサは握られた手を握り返して来た。それはちゃんと力強くてしっかりとしたものだった。
「ああ……貴方の力はなんて温かい。本当に貴方は奇跡の方だ」
オーサの顔色もすっかり良くなった。もうこれで大丈夫。オーサの命は繋がった。
俺の体から迸っていた神子の力も収束する。それを見てランドルとヘンリーさんが近寄って来た。
「ヒカル様ッ!」
「俺、神子の力使えるようになったみたい」
「ヒカル様!? そのお顔は……!」
「え?」
俺の顔に何か付いているのかと思って手で触ってみる。と、右側にあった火傷の跡が無く、すべすべとした肌になっていた。
「え……もしかして、火傷の跡が消えてる……?」
「はい! 綺麗な肌になっております!」
オーサに治癒魔法を流した時、ありったけの力を使ったからその影響で自分の顔も治したらしい。なんてこった。
「ふははははは! いいぞいいぞ! 神子の力を発現したな!」
一部始終を見ていた王はスッと立ち上がると俺達の方へと向かってきた。気持ち悪いので足元に向かって火球を投げつける。
「なッ!? 何をするッ!?」
「それ以上近寄るな。気持ち悪い化け物が」
俺がいきなり攻撃魔法をぶっ放すとは思わなかったのだろう。目を白黒させたと思ったら、今度は怒りで真っ赤になっている。
「貴様ぁ! 貴様は我々の手足となって動く存在だぞ! 我にそのような事をして許されると思うな!」
「は? 許してもらおうなんて思ってないから。お前らが過去の神子たちにしたこと、他国の魔力持ちにしたこと、ヘインズ公爵家にしたこと、オーサにしたこと、絶対許さないから」
神子の力を使えるようになったことで、俺の中の魔力は凄いことになっている。もう何をどうすればいいのか、全部分かる。だからまずは――。
「オーサの命を返してもらう」
結界石に手をかざし、注がれたオーサの魔力を全部抜き取ってやった。魔力を抜かれた結界石は光を失い沈黙する。そしてそのままオーサに譲渡。神子の力と合わせれば一瞬で魔力譲渡は終わった。
そして神子の力を結界石に注いで結界石を強化。すると結界石は金色に光り輝いた。へぇ、神子が強化すると色が変わるのか。
「安心しろよ。結界石は強化してやった。だけど期限はたったの1年だ」
「き、貴様っ……!」
「それからこの国の召喚陣も消滅させる」
俺が召喚された場所、召喚陣がある方向へ腕を伸ばし神子の力をぶつけてやる。すると召喚陣はカッ! と一瞬光ると召喚陣そのものが消えた。
「なっ……!? 召喚陣が!!」
「もうこれで、この国で神子が召喚されることは無くなる。ざまぁみろ!」
あいつらの焦った顔が最高だな。今まで優位に立っていたくせに、これでもう自分達の思うように出来なくなったんだ。他の国の人達も助かるはずだ。
「貴様ッ……! 絶対に許さんぞッ! お前達! 神子以外、全員殺せ!」
その言葉で周りにいた騎士が一斉に剣を抜き、俺達に向かって襲い掛かってくる。ランドルも剣を抜くが、ランドルの手を煩わせるつもりはない。
自分たちの回りに結界を張り、襲い掛かろうとする騎士たちだけじゃなく俺達以外の全員を風の魔法でぶっ飛ばした。壁に打ち付けられ「ぐふっ」とか「ぎゃっ」とか気持ち悪い声の大合唱だ。
「皆、今すぐヘインズ公爵家へ帰ろう! そこで作戦会議しなきゃ!」
「ヒカル様……貴方はなんて最高なんだ! 胸がすかっとしました!」
「ええ、帰りましょう! ブレアナ様達に報告です!」
オーサを立ち上がらせ体調を確認すると、すこぶるいいと言う。なら大丈夫。俺達はさっさとここから脱出することにした。
追いかけて来る騎士は全員風圧でぶっ飛ばす。俺達に指一本触れさせるつもりはない。
それを見てランドルもヘンリーさんもオーサも皆笑ってる。今まで散々やられたんだ。こんなんじゃ全然足りないけどそれでも気分はいい。
外に出て目の前にある適当な馬車に乗り込みランドルが御者台へ。すぐに馬車は走り出し公爵家へと戻った。
「これって窃盗になる? でも別にいいよね。あんな化け物たちにこんな馬車は勿体ないし」
「そうですね。勿体ないです」
行きは暗い雰囲気だったのに、今は気分が高揚して笑いが止まらない。
そのまま馬車は爆走し、あっという間に公爵家へ着いた。
あいつらが笑ってる。オーサが身を削って血を吐いたことを笑ってる。
「ぐふっ……」
「オーサ!!」
オーサがまた血を吐いてとうとう倒れこんでしまった。慌てて支えるも俺の力では支えきれず、俺も座り込んでしまった。
オーサは魔力枯渇で今はもう生きているのがギリギリだ。俺は慌ててオーサに魔力を注ごうとしたが、オーサにそれを止められてしまう。
「ダメだ……ここで、それをやって、は……」
「なんでだよ! 止めないでよ! 死んじゃうんだよ!? あいつらに好き勝手にされて死ぬなんて許さない!」
「それでも、だ……貴方に、会えて、よかった……貴方を愛して、良かった……もう、これ以上、はっ……」
オーサはその金の瞳を閉じてしまった。縦に伸びた瞳孔が見えなくなった。もう目を開けていることも話すことも出来ないんだ。
顔色はまた死人かと思う程に色を無くし、体からは力が完全に抜けている。
「やだ……やだやだやだ! 目を開けてよ! 死なないでよ!」
許さない! この国を許さない! オーサをこんな風にしたこいつらを許さない!
だけど。一番許せないのは俺だ。神子の力を使えない俺だ! 神子の力を使えたら、オーサは苦しまなくて済んだのに! 今すぐにオーサを助けられたのに!
何のための。神子の力は何のためにあるんだよ! 誰かを助けるための力だろ!? こんな時こそ使えなきゃ意味がないだろ!
大切な人を助けられなくて何が神子だ! ふざけるな!!
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」
俺が叫んだその瞬間、体から物凄い勢いで魔力が迸った。俺を中心に白い光が強く輝きだす。
これだ。これが神子の力。
誰かに説明されなくてもこの力の使い方が分かる。どうすればいいのかちゃんと分かる。
オーサの手を握りありったけの力で治癒魔法を流し込む。その力はオーサの中へ入るとあっという間に馴染み、命の息吹を呼び覚ます。
「う……」
「オーサ?」
閉じられた金の瞳が開いた。ゆっくりと目が開き、そして俺の姿を目に留める。
「ヒカル様……?」
「うん、俺だよ」
オーサは握られた手を握り返して来た。それはちゃんと力強くてしっかりとしたものだった。
「ああ……貴方の力はなんて温かい。本当に貴方は奇跡の方だ」
オーサの顔色もすっかり良くなった。もうこれで大丈夫。オーサの命は繋がった。
俺の体から迸っていた神子の力も収束する。それを見てランドルとヘンリーさんが近寄って来た。
「ヒカル様ッ!」
「俺、神子の力使えるようになったみたい」
「ヒカル様!? そのお顔は……!」
「え?」
俺の顔に何か付いているのかと思って手で触ってみる。と、右側にあった火傷の跡が無く、すべすべとした肌になっていた。
「え……もしかして、火傷の跡が消えてる……?」
「はい! 綺麗な肌になっております!」
オーサに治癒魔法を流した時、ありったけの力を使ったからその影響で自分の顔も治したらしい。なんてこった。
「ふははははは! いいぞいいぞ! 神子の力を発現したな!」
一部始終を見ていた王はスッと立ち上がると俺達の方へと向かってきた。気持ち悪いので足元に向かって火球を投げつける。
「なッ!? 何をするッ!?」
「それ以上近寄るな。気持ち悪い化け物が」
俺がいきなり攻撃魔法をぶっ放すとは思わなかったのだろう。目を白黒させたと思ったら、今度は怒りで真っ赤になっている。
「貴様ぁ! 貴様は我々の手足となって動く存在だぞ! 我にそのような事をして許されると思うな!」
「は? 許してもらおうなんて思ってないから。お前らが過去の神子たちにしたこと、他国の魔力持ちにしたこと、ヘインズ公爵家にしたこと、オーサにしたこと、絶対許さないから」
神子の力を使えるようになったことで、俺の中の魔力は凄いことになっている。もう何をどうすればいいのか、全部分かる。だからまずは――。
「オーサの命を返してもらう」
結界石に手をかざし、注がれたオーサの魔力を全部抜き取ってやった。魔力を抜かれた結界石は光を失い沈黙する。そしてそのままオーサに譲渡。神子の力と合わせれば一瞬で魔力譲渡は終わった。
そして神子の力を結界石に注いで結界石を強化。すると結界石は金色に光り輝いた。へぇ、神子が強化すると色が変わるのか。
「安心しろよ。結界石は強化してやった。だけど期限はたったの1年だ」
「き、貴様っ……!」
「それからこの国の召喚陣も消滅させる」
俺が召喚された場所、召喚陣がある方向へ腕を伸ばし神子の力をぶつけてやる。すると召喚陣はカッ! と一瞬光ると召喚陣そのものが消えた。
「なっ……!? 召喚陣が!!」
「もうこれで、この国で神子が召喚されることは無くなる。ざまぁみろ!」
あいつらの焦った顔が最高だな。今まで優位に立っていたくせに、これでもう自分達の思うように出来なくなったんだ。他の国の人達も助かるはずだ。
「貴様ッ……! 絶対に許さんぞッ! お前達! 神子以外、全員殺せ!」
その言葉で周りにいた騎士が一斉に剣を抜き、俺達に向かって襲い掛かってくる。ランドルも剣を抜くが、ランドルの手を煩わせるつもりはない。
自分たちの回りに結界を張り、襲い掛かろうとする騎士たちだけじゃなく俺達以外の全員を風の魔法でぶっ飛ばした。壁に打ち付けられ「ぐふっ」とか「ぎゃっ」とか気持ち悪い声の大合唱だ。
「皆、今すぐヘインズ公爵家へ帰ろう! そこで作戦会議しなきゃ!」
「ヒカル様……貴方はなんて最高なんだ! 胸がすかっとしました!」
「ええ、帰りましょう! ブレアナ様達に報告です!」
オーサを立ち上がらせ体調を確認すると、すこぶるいいと言う。なら大丈夫。俺達はさっさとここから脱出することにした。
追いかけて来る騎士は全員風圧でぶっ飛ばす。俺達に指一本触れさせるつもりはない。
それを見てランドルもヘンリーさんもオーサも皆笑ってる。今まで散々やられたんだ。こんなんじゃ全然足りないけどそれでも気分はいい。
外に出て目の前にある適当な馬車に乗り込みランドルが御者台へ。すぐに馬車は走り出し公爵家へと戻った。
「これって窃盗になる? でも別にいいよね。あんな化け物たちにこんな馬車は勿体ないし」
「そうですね。勿体ないです」
行きは暗い雰囲気だったのに、今は気分が高揚して笑いが止まらない。
そのまま馬車は爆走し、あっという間に公爵家へ着いた。
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