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29 吐血

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 王宮へ着くと乱暴に扉は開けられ、さっさと降りろと言われる。ランドルとヘンリーさんが先に降りてその後に続いた。
 するとすぐに騎士たちに周りを囲まれ、そのまままるで連行されるように中へと入っていく。

 その間もずっと周りの騎士たちから「気持ち悪い」だの「これが化け物神子か……」だの声が聞こえた。
 少し前の俺なら傷ついて悲しかったと思う。でも今はそんな気持ちより怒りが勝っている。この国の王族たちが今まで行ってきたこと、ヘインズ公爵家の人達に対して行ってきたこと。それを思ったら、俺が化け物と言われることはどうでもよかった。

 白い服を着た男だけじゃない、騎士の態度も酷いもんだ。お陰でこの国全体が腐ってるって自分の目で確認出来た。

 そのまま歩いていくと、やがて一つの扉の前へと着いた。そこを開ければ白い床に白い壁の、俺が最初に召喚された部屋だった。
 中へ入ると、台座に大きな長方形の水晶が乗っている。召喚されたときは周りをしっかり確認する余裕なんてなかったから、あんなものがあったなんて気が付かなかった。

 俺達はそこへ向かって歩いていく。という事はあれがこの国の結界石なんだろう。

 その結界石の後ろに豪華な椅子に座ってふんぞり返っている太った赤髪の中年の男がいた。見た目が一番派手で偉そうな雰囲気から国王なんだろうと予想する。
 そしてその横には同じ赤髪の男が2人座っていた。1人は俺が召喚されたときに最初に声を掛けてきた奴だ。ということは、この2人がこの国の王子様なんだろう。

「ふん、化け物が2人もいると空気がまずいな」

 そう言ったのは、俺を召喚した時に声を掛けた奴。その隣の奴も「全くだ」と頷いている。

「魔物によって結界に辺境の村の結界にひびが入った。我々は民を守らねばならん。ひびが入っては村の人間は不安で夜も眠れまい。その不安を取り除くために結界を修復せねばならんのだ」

 恐らく国王であろう男が俺の方を見て勝手に口を開いている。たぶんだけど、俺に状況説明を行っているんだろう。
 その結界にひびが入って不安におびえる可哀そうな民の為に、優しい自分達は心を砕ているとでも言いたいのだろうか。

「さぁ蛇の化け物よ。いつものように結界を修復しろ。今日は特別に我が見届けてやる」

 王がにやにやと気持ちの悪いにやついた顔でオーサに指示をする。その言葉でオーサは結界石の前へと歩みを進めた。
 特別に、ということはいつもこいつはこの場にいなかったのだろう。なのに今日に限っているということは、オーサを殺すつもりで魔力を流させるのかもしれない。

「おい、化け物神子よ。よく見ていろ。お前が神子として力を使えないばっかりに、こいつは犠牲になるのだから」

「死体を送りつけるつもりだったが、一緒に来てくれたおかげで仕事が楽になりましたね、兄上」

「本当にな」

 こいつらっ……! やっぱり今日、オーサを殺すつもりで魔力を注がせるつもりだったんだ!
 俺の横にいるランドルもヘンリーさんも、一気に殺気立ってる。きっと俺も同じだろう。怒りが体の中から溢れて止まらない。

 体が自然に動いた。俺は結界石に手をかざそうとするオーサの手を掴み動きを止めさせた。

「やめろ! こいつらはオーサを殺すつもりだ!」

「わかっている。だが、奴隷契約がある以上動きを止めることが出来ないのだ」

 俺が抑え込んでいるにも関わらず、オーサの手は震えながらも結界石に手を伸ばしている。命令を聞くよう勝手に体が動いているんだ。そして結界石に手をかざすとオーサは魔力を流し始めた。それを受けて結界石は白く輝きだす。

「化け物神子よ。無駄だ。無理やり命令に反した動きを取らせれば、こいつは痛みに苦しむことになるぞ。それが見たいならやればいい」

「は……?」

 その言葉を聞いてランドルの方へ視線を向ける。するとランドルは怒りが籠った顔で静かに首を縦に振った。
 そんな……。じゃあ俺が無理やりオーサを引っ張って魔力を流すことを止めさせたら、オーサは痛みに苦しむことになるのか。

「さぁ蛇の化け物よ。お前の持っている魔力全部を結界石に注げ」

 王だろう男がそう言うと、オーサの手から出る魔力の量は一気に増えたらしく結界石の白い光はあっという間に強くなった。

「ふはははは。いいぞ、もっとだ。もっと注げ」

 その言葉でまた一段と結界石の光は強くなる。オーサの顔を見れば額には汗が浮かんでいた。

「ここまでやらなくても十分なはずだろうッ!」

 堪らなくなって俺は王であろう男に向かって叫んでいた。俺が怒りで震えているのを、周りの奴らは楽しそうに眺めていた。王子2人は声を出して笑っている。

「お前らは人間なんかじゃないッ! こんな事を平気でやれるお前たちの方が化け物だッ!」

「口を慎め化け物神子がッ! 我々とお前らを一緒にするでないわッ!」

 王の怒号と共に、周りにいた騎士は一斉に剣を抜いた。普段なら怖くて仕方ないんだろう。だけど今は怒りの方が強すぎて恐怖を全く感じない。

「人間でありながら蛇の一部を持つ奴が化け物と言わずして何という!? お前の顔も醜くまるで動く屍だッ! お前たちのような化け物は、我々が正しく管理してやっているのだ! 有難いと思えッ!」

「管理しろだなんて誰も頼んでなんかない! お前たちの勝手な都合で振り回すな!」

「醜い化け物は口を閉じろ! おい! お前はもっと魔力を注げ! お前にはそれしか生きる意味などないだろう!」

 赤髪の王子がオーサにそう命令する。すると結界石の光はまた強くなった。

「やめろ! オーサに命令するな!」

「お前はそこでこの化け物が死ぬところを見ているがいいッ!」

「ぐっ……」

「オーサ!」

 オーサの呻き声が聞こえて慌てて顔を見れば、もう真っ青になっていて汗が滝のように流れていた。そして立っていられなくなったのか膝を付いてしまう。だけど結界石に魔力を流すことは止めなかった。いや、止められなかった。

「オーサ!」

 ふらつく体を支えるようにして抱き付く。オーサの息は荒く、目は固く閉じられている。
 もう嫌だ。こんなの見たくない。オーサが苦しんでいるのが辛い。
 どうしてこんなことを平気でやれるんだ。こいつらは神子を、魔力持ちを何だと思ってるんだッ!

「オーサ、俺が魔力を注ぐ。神子の力じゃなくても魔力を注げばっ……」

「ダメだっ……ぐっ……貴方は決して、力を、使っては……いけ、ない」

「でもッ……!」

 俺が魔力を注げばこいつらの思う壺なんだろう。だけどこれ以上オーサを見殺しにするような真似は出来ない! 
 そう思って結界石に手を伸ばそうとしたら、その手をオーサに捕まれる。その手に力はほとんどなく簡単に振りほどけるものだ。だけど俺は振りほどくことが出来なかった。

「ダメだっ……貴方を、守る、事がっ……我々の、使命……ぐはっ!」

「オーサッ!!」

 オーサが血を吐いた。少量ではなく大量に。床にはオーサの血が広がっていた。
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