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28 オースティン招集される

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「そんなっ……じゃあ皆で隣国へ行けばっ……!」

「それは出来ません。私はヘインズ公爵家の当主。ここを離れるわけには参りません。そして、あいつらから尻尾を撒いて逃げるなど出来ないのです。最後まで、私たちは戦います」

 なんで……死ぬってわかっててなんで……?

「私が奴隷契約を結んでいるからだ。そのせいで私はこの国を出ることが出来ない。そんな私1人を置いて行けば済む話なのだが……」

「そんなこと出来るわけないじゃないですか!」

「そうですよ! 私たちはヘインズ公爵家所縁の者として、オースティン様を置いていくわけには参りません!」

 オーサが1人残ると言った途端、周りの使用人たちが口々に出来るわけがないと言う。それを聞いて、オーサは皆に愛されているんだなと分かる。

「そういう事です。ですから私たちはオースティンと共にこの国で最後まで戦います。それに私たちが死んでも息子がその意思をしっかりと引き継いでくれるでしょうから、ヘインズ公爵家が途絶えるわけではありません」

 だから大丈夫だと、ブレアナさんもオーサも皆も、力強く頷いた。

「ヒカル様、これからは我々サザライト王国の者が貴方をお助けいたします。ですから私と共にサザライトへと参りましょう」

 ルーファスさんが俺に優しく微笑みながらそう誘う。そしてそれをこのヘインズ公爵家の人達皆が望んでいる。

「嫌だ……」

「ヒカル様……?」

「嫌だ、絶対嫌だ! 俺は皆を置いてここから出ていくなんて絶対しない!」

「ヒカル様、ですがっ……」

 皆の気持ちはよくわかるし本当に有難いと思う。俺があいつらの傀儡にならないように、事前にサザライトの人と連絡を取って段取りしてくれたことも分かる。

 だけど俺がこうやって毎日楽しく過ごせたのも、火傷の跡を気にせず過ごせたのも、魔法を扱えるようになったのも、この世界の事を教えてくれたのも、俺を助けてくれたのも、全部全部この公爵家の人達だ。
 そんな俺の恩人と言える人達を見捨てて、俺1人隣国へ行くなんて絶対に嫌だ! そんなことをしたら俺はずっと後悔するに決まってる。助けられたのに助けられなかったってずっとこの先一生後悔する!

「俺は受けた恩は返す主義だ。絶対に皆を死なせない。だから俺はここに残って皆と一緒に戦う」

「神子様……」

「これは決定事項だ。神子として命じる。俺を1人逃がそうとするな!」

 神子の力も扱えないくせにこんな時だけ神子として偉そうに。だけどそうでも言わなきゃこの人たちは納得しないだろう。
 俺はあいつらの好きにはさせてやらないし、この人たちの事も好きにはさせない。絶対にだ。

「わかった。ヒカル様の意思に従おう」

「オースティン! お前は何を言っているのかわかっているのか!?」

 オーサが同意したことでブレアナさんが激高した。ブレアナさんの気持ちはよくわかるし、俺の為にそこまでしてくれることにどれほど感謝を伝えればいいんだろうか。

「もちろんだ。それにヒカル様も自らの命を棒に振るようなことはしないだろう」

「え……?」

「もちろん。俺はあいつらの好きにさせてやるつもりは毛頭ない。絶対にやり返してやる!」

 例え奴隷契約を結ばされた後でも、俺は絶対に諦めない。何が何でもやり返してやる!

「神子様、私も貴方の決定に従います。サザライト王国も出来るだけの事は致します」

「ルーファスさん……ありがとうございます!」

 サザライト王国のルーファスさんにも同意を得たことで、この場の空気が変わった。ちらりとブレアナさんを見れば「はぁ……」とため息をつき項垂れた。
 ここまで色々と手を回してくれたことには本当に感謝してる。だけどブレアナさん達の命を無駄にすることは俺が許せなかった。

「わかりました……。ヘインズ公爵家一同、ヒカル様に従います」

 ブレアナさんは吹っ切れた様に笑い、俺に最上の礼をした。それを見て、俺以外の全員同じように礼をとる。

「ありがとうございます、ブレアナさん。俺は絶対に負けませんから!」

 過去の神子たちの分も、先代公爵たちの分も、今のヘインズ公爵家の皆の分も、俺は全部まとめてやり返す。


 それから今後の事について打ち合わせをした。いつになるかはわからないが、ヘインズ公爵家の皆はサザライト王国へと亡命することにした。これは俺が強く望んだことだ。

 俺は魔法だって扱える。もし最悪の場合はこの力で戦う事だって出来る。それにあいつらは俺の事を絶対に殺すことはない。出来ないはずだ。その分俺は強気でいられる。
 だけどオーサや皆を人質に取られるとまずい。だから早く俺が神子の力を扱えるようにならなきゃいけない。

 明日からは神子の力を発現出来るようやれることをやる。


 そうして色々と話し合った翌日。なんと王宮からあの白い服を着た男がこの公爵家へやって来た。しかも騎士を数名連れて。
 それを聞いて俺は部屋から飛び出した。そして屋敷の玄関ホールを見れば偉そうにふんぞり返ってるあいつがいた。それをあいつの死角になる位置で身を隠しながら様子を伺う。

「おい、化け物は死んだか?」

「……オースティン様は一命を取り留めました」

「ほう、生きていたのか。流石は化け物。ならば今すぐ王宮へと連れて行く。今すぐここへ呼べ!!」
 
「なっ……!? つ、ついこの前魔力を注いだばかりではありませんか!?」
 
「そんなことは関係ない! 早く化け物を呼べ! あいつを連れて行く!」

 白い服を着た男が叫んだ途端、周りにいた騎士は一気に剣を抜く。それを見て公爵家の使用人達は一歩後ずさった。

「剣をしまえ。私はここにいる」

 オーサがゆっくりと出て来た。奴隷契約を結んでいる以上断ることが出来ない。だから行くしかないが、あのままじゃ……。

「思ったより元気そうじゃないか。……ふん、化け物が。恨むなら化け物神子を恨めよ。あいつが何時まで経っても力を扱えないからこうなっているんだ。それとお前の命は今日で終わりかもしれないぞ? 今のうちに遺言でも遺しておけ」

 やっぱり必要以上に力を使わせる気だ。このままじゃオーサがまた危ない状態になる。この前は助けられたけど、もしこの家にたどり着く前に死んでしまったらっ……!

 そう考えたら体が自然に動いた。「ヒカル様!」と俺を呼ぶ双子たちの声を無視して、俺はオーサの前へ飛び出して行く。

「オーサを連れて行くなら俺も一緒に行く」

「化け物神子っ……! 相変らず気持ちの悪い顔だな。その顔を見るだけで虫唾が走る! だが丁度いい。お前も一緒に来い!」

 俺とオーサは剣を抜いた騎士に周りを囲まれる。そしてそのまま馬車に乗せられると、ランドルとヘンリーさんが無理やり一緒に乗って来た。

「私たちは2人の護衛です! 一緒に連れて行きなさい!」

「……ふん、勝手にしろ。死体が増えるだけだがな」

 騎士は鼻で笑いながら勢いよく扉を閉める。

「ヒカル様、なんてことをっ……」

「ごめんランドル。勝手に体が動いたんだ。だけどオーサを1人で行かせるなんて絶対嫌だった。だから……」

「……わかっています。ありがとうございます」

 ヘンリーもランドルも、揃って俺に頭を下げた。
 そして馬車は走り出した。あの王宮へ向かって。
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