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27 亡命の提案
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この世界にとって奇跡の存在である神子に対し、化け物呼ばわり。そう言い放った国王に、この国の実情を知っていたとしても第4王子のルーファスさんは愕然としたらしい。
そしてその神子は今どうしているのかと聞けば、もう一人の化け物に預けたと。それでルーファスさんはこのヘインズ公爵家へとやって来た。
そして出来るなら直接会わせて欲しいとお願いした。
「この世界で最も尊い神子様が化け物などと平気で言えるあの神経には驚きました」
ため息とともにそう零したルーファスさん。オーサ曰く、サザライト王国の王族の人柄は保証すると言っていた。ルーファスさんも先祖返りの特徴を持つオーサを気持ち悪がることなく、親友になったとも言っていた。
だけどそれは神獣人を大事にしていたからだ。
でも俺は違う。神子であっても、俺の顔には醜い火傷の跡がある。今はそれを隠しているがそれを見たらルーファスさんですら俺を化け物だと言うかもしれない。
神子を化け物と呼ぶ神経に驚いたとは言うけど、それはこの火傷の跡を見ていないから。だからそう言えるんだ。
「ルーファスさんは、見ていないからそんなことを言えるのかもしれませんね」
「え……?」
俺はそっと火傷の跡を隠す仮面に手を伸ばした。「ヒカル様……」とレイフから俺を気遣う声が聞こえる。正直言えば怖い。仮面に当てた手が震えているのが分かる。
ここに来てから面と向かって『化け物』と言われたり、嫌な顔をされたりといったことが無かった。居心地の良さを知った俺は、また昔のように傷つくことを恐れている。
だけど俺の火傷の跡を見せることで、ルーファスさんの本当の人柄を知ることが出来る。最も簡単な方法だ。
ゆっくりと右側の仮面を外す。そして現れた俺の火傷の跡を見たルーファスさんは、これでもかという程目を見開いた。今見せているのは驚愕の顔。だけどそれはすぐに顰められるはずだ。
「な……なんという……」
だけどそんな俺の予想とは反して、ルーファスさんは目を見開いたままぽろぽろと静かに涙を流した。
そんな姿に驚いてしまって俺はぱちぱちと目を瞬かせた。
「こ、これは火傷の跡ですよね……? こんなに大きな火傷を負ったなんて……ああ、当時の神子様の事を考えると胸が苦しい!」
「え?」
「とても恐ろしくて苦しかったことと思います……。ああ、どうして私はその場にいなかったんだ! 神子様に代わって私がその痛みを受けて差し上げたかったッ!」
「えぇ……」
ルーファスさんは顔を手で覆い隠すと「うわぁぁぁぁぁ!」と泣き叫んでしまった。なんか思ってたんと違う……。
「ルーファス殿下のお気持ちはよくわかります! この屋敷にいる者皆、同じことを思っていますから!」
ブレアナさんも握りこぶしを作り、そう叫ぶと周りの皆がうんうんと首を縦に振っていた。
「おい、そこまでにしておけ。ヒカル様が呆れているぞ」
オーサが「はぁ……」とため息をつきながら窘める。
ルーファスさんは未だぐずぐずと言っているが、とりあえず落ち着いたようだ。まさか泣き出すとは思わなくてびっくりしたけど、蔑まされたり暴言を吐かれなくて良かったと思う。オーサの言う通りの人だった。
「全く。以前から思っていたが、この国は神子様を何だと思っているんだ!」
号泣していたルーファスさんは涙が止まったものの、今度はふつふつと怒りが湧いてきたらしい。ぶつぶつと文句を言っている。
「義姉上たちのところに来て正解ですし、本当に良かったですよ」
「ん……? 義姉上……?」
ルーファスさんが言う、義姉上って誰だ? と俺が1人で困惑していたのに気が付いたブレアナさんが実は、とルーファスさんとの関係を教えてくれた。
「実はルーファス殿下の兄上、第3王子であったレオナルドと私が夫婦なのですよ」
「へ……?」
ブレアナさん、結婚してたの!? まさかの事実に驚愕してしまった。
いや、ブレアナさんもいい歳だろうし結婚しててもおかしくないけど、この屋敷に来て旦那さんと思われる人一度も見てないぞ。
だから独身だとばっかり……。
驚いた俺の姿にくすくすと笑ったブレアナさんが言うには、オーサが先祖返りだったことでこの国の人達はヘインズ公爵家を避けるようになっていた。公爵家当主として後継も必要だし、それには結婚もしなければならないのだがその相手が見つからなかった。
オーサとルーファスさんが仲良くなったことで、サザライトの王族と関りが出来た。それで当時第3王子だったレオナルドさんがブレアナさんに一目惚れ。求婚して婿入りした。子供も息子が一人いるらしい。
だがその旦那さんも子供もこの家で見た事が一度もない。俺がそう言えば、2人はサザライト王国に住んでいるのだそうだ。
「息子と夫は去年からサザライト王国へと居を移しています。名目としては息子の留学として。ですが本当の理由は亡命です」
「亡命……!?」
なんかとんでもない話になって来た。なんで亡命する理由があるんだ?
「先日お話した両親のこともあり、いつこの屋敷に突然やってくるかわかりません。それで2人を守るために隣国へと行って貰ったのです」
そうだった。この国の王族は、そういう事を平気で出来る奴らだった。子供が人質に取られたり殺されないために、守るために隣国へと逃がしたんだ。いつあいつらが来てもいい様に。
「そして今ヒカル様をうちで預っています。王宮からの連絡を見るに、いつあいつらがここへ来てもおかしくはありません。それでお願いがあります。ヒカル様も、サザライト王国へと移ってください」
「え……?」
今ブレアナさんはなんて言った? 俺に隣国へ行けって、そう言った……?
「今日ルーファス殿下がこちらへ寄って下さったのも、ヒカル様がここへ来てから手紙でやり取りをしていたからです。このままではヒカル様は過去の神子様達同様、奴隷契約を結ばされ奴らの傀儡となります。ヒカル様を守るためにも、ルーファス殿下と共に隣国へと渡っていただきたいのです」
「でも……そんなことをしたらこの公爵家の皆がっ……!」
「ええ、間違いなく殺されるでしょう」
殺されるってわかっているのに、ブレアナさんは淡々とそう言った。
周りを見渡せば、双子もランドルも他の使用人の人達も、そしてオーサも。皆その覚悟はとっくに出来ていると言わんばかりで、誰も取り乱したりせず静かに微笑んでいた。
そしてその神子は今どうしているのかと聞けば、もう一人の化け物に預けたと。それでルーファスさんはこのヘインズ公爵家へとやって来た。
そして出来るなら直接会わせて欲しいとお願いした。
「この世界で最も尊い神子様が化け物などと平気で言えるあの神経には驚きました」
ため息とともにそう零したルーファスさん。オーサ曰く、サザライト王国の王族の人柄は保証すると言っていた。ルーファスさんも先祖返りの特徴を持つオーサを気持ち悪がることなく、親友になったとも言っていた。
だけどそれは神獣人を大事にしていたからだ。
でも俺は違う。神子であっても、俺の顔には醜い火傷の跡がある。今はそれを隠しているがそれを見たらルーファスさんですら俺を化け物だと言うかもしれない。
神子を化け物と呼ぶ神経に驚いたとは言うけど、それはこの火傷の跡を見ていないから。だからそう言えるんだ。
「ルーファスさんは、見ていないからそんなことを言えるのかもしれませんね」
「え……?」
俺はそっと火傷の跡を隠す仮面に手を伸ばした。「ヒカル様……」とレイフから俺を気遣う声が聞こえる。正直言えば怖い。仮面に当てた手が震えているのが分かる。
ここに来てから面と向かって『化け物』と言われたり、嫌な顔をされたりといったことが無かった。居心地の良さを知った俺は、また昔のように傷つくことを恐れている。
だけど俺の火傷の跡を見せることで、ルーファスさんの本当の人柄を知ることが出来る。最も簡単な方法だ。
ゆっくりと右側の仮面を外す。そして現れた俺の火傷の跡を見たルーファスさんは、これでもかという程目を見開いた。今見せているのは驚愕の顔。だけどそれはすぐに顰められるはずだ。
「な……なんという……」
だけどそんな俺の予想とは反して、ルーファスさんは目を見開いたままぽろぽろと静かに涙を流した。
そんな姿に驚いてしまって俺はぱちぱちと目を瞬かせた。
「こ、これは火傷の跡ですよね……? こんなに大きな火傷を負ったなんて……ああ、当時の神子様の事を考えると胸が苦しい!」
「え?」
「とても恐ろしくて苦しかったことと思います……。ああ、どうして私はその場にいなかったんだ! 神子様に代わって私がその痛みを受けて差し上げたかったッ!」
「えぇ……」
ルーファスさんは顔を手で覆い隠すと「うわぁぁぁぁぁ!」と泣き叫んでしまった。なんか思ってたんと違う……。
「ルーファス殿下のお気持ちはよくわかります! この屋敷にいる者皆、同じことを思っていますから!」
ブレアナさんも握りこぶしを作り、そう叫ぶと周りの皆がうんうんと首を縦に振っていた。
「おい、そこまでにしておけ。ヒカル様が呆れているぞ」
オーサが「はぁ……」とため息をつきながら窘める。
ルーファスさんは未だぐずぐずと言っているが、とりあえず落ち着いたようだ。まさか泣き出すとは思わなくてびっくりしたけど、蔑まされたり暴言を吐かれなくて良かったと思う。オーサの言う通りの人だった。
「全く。以前から思っていたが、この国は神子様を何だと思っているんだ!」
号泣していたルーファスさんは涙が止まったものの、今度はふつふつと怒りが湧いてきたらしい。ぶつぶつと文句を言っている。
「義姉上たちのところに来て正解ですし、本当に良かったですよ」
「ん……? 義姉上……?」
ルーファスさんが言う、義姉上って誰だ? と俺が1人で困惑していたのに気が付いたブレアナさんが実は、とルーファスさんとの関係を教えてくれた。
「実はルーファス殿下の兄上、第3王子であったレオナルドと私が夫婦なのですよ」
「へ……?」
ブレアナさん、結婚してたの!? まさかの事実に驚愕してしまった。
いや、ブレアナさんもいい歳だろうし結婚しててもおかしくないけど、この屋敷に来て旦那さんと思われる人一度も見てないぞ。
だから独身だとばっかり……。
驚いた俺の姿にくすくすと笑ったブレアナさんが言うには、オーサが先祖返りだったことでこの国の人達はヘインズ公爵家を避けるようになっていた。公爵家当主として後継も必要だし、それには結婚もしなければならないのだがその相手が見つからなかった。
オーサとルーファスさんが仲良くなったことで、サザライトの王族と関りが出来た。それで当時第3王子だったレオナルドさんがブレアナさんに一目惚れ。求婚して婿入りした。子供も息子が一人いるらしい。
だがその旦那さんも子供もこの家で見た事が一度もない。俺がそう言えば、2人はサザライト王国に住んでいるのだそうだ。
「息子と夫は去年からサザライト王国へと居を移しています。名目としては息子の留学として。ですが本当の理由は亡命です」
「亡命……!?」
なんかとんでもない話になって来た。なんで亡命する理由があるんだ?
「先日お話した両親のこともあり、いつこの屋敷に突然やってくるかわかりません。それで2人を守るために隣国へと行って貰ったのです」
そうだった。この国の王族は、そういう事を平気で出来る奴らだった。子供が人質に取られたり殺されないために、守るために隣国へと逃がしたんだ。いつあいつらが来てもいい様に。
「そして今ヒカル様をうちで預っています。王宮からの連絡を見るに、いつあいつらがここへ来てもおかしくはありません。それでお願いがあります。ヒカル様も、サザライト王国へと移ってください」
「え……?」
今ブレアナさんはなんて言った? 俺に隣国へ行けって、そう言った……?
「今日ルーファス殿下がこちらへ寄って下さったのも、ヒカル様がここへ来てから手紙でやり取りをしていたからです。このままではヒカル様は過去の神子様達同様、奴隷契約を結ばされ奴らの傀儡となります。ヒカル様を守るためにも、ルーファス殿下と共に隣国へと渡っていただきたいのです」
「でも……そんなことをしたらこの公爵家の皆がっ……!」
「ええ、間違いなく殺されるでしょう」
殺されるってわかっているのに、ブレアナさんは淡々とそう言った。
周りを見渡せば、双子もランドルも他の使用人の人達も、そしてオーサも。皆その覚悟はとっくに出来ていると言わんばかりで、誰も取り乱したりせず静かに微笑んでいた。
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