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25 その笑顔は反則です!

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「ぐすっ……オースティンさん、ありがとうございます。もう、大丈夫です」

 俺が泣いたって解決することじゃない。ごしごしと目元を拭い、俺を気遣ってくれたオースティンさんに礼を言う。もう離してくれていいと言外に伝えたのだが、オースティンさんは俺を抱きしめたままだった。

「すまないが、ヒカル様と2人で話がしたい。他の者はしばらく部屋を出て行ってくれるか?」

「かしこまりました」

 え? と思う俺を他所に、部屋からは全員出ていき俺とオースティンさんだけが残された。ぽかんとする俺をオースティンさんは抱き上げると、ソファーへと移動し俺を膝に乗せる形で腰掛けた。

 え? ナニコレ? なんで俺はオースティンさんの膝の上に乗せられている??

「あ、あの……?」

「昨日の事だが驚いたと思う」

 昨日の事!? それってどっちのこと!? オースティンさんがかなりヤバかったこと!? それともそのあとのイヤらしい事!? どっち!?

「昨日、私はもう死ぬだろうと思った。だが私の手から優しくも温かな力が流れて来た。とても心地よく、体の中へ入る度に喜びが沸き上がった」

 俺が1人でパニックになっているのを知ってか知らずか、オースティンさんは俺を見つめながら語りだした。瞳孔が縦に伸びた金の瞳は、優しく輝いているように見えた。

「これはヒカル様の魔力だとすぐに分かった。貴方の魔力はとても魅力的だ。体中に広がっていくのを感じ、私は貪欲にそれを求めてしまった」
 
 そしてオースティンさんは俺の唇をそっと撫でる。そのしぐさにどきどきと心臓が鳴る。

「貴方の顔が見えた途端、止めることが出来なくなってしまった。早くソレが欲しいと切望したのだ」

「き、昨日、その……舌が触れ合った時に勢いよく魔力がオースティンさんに流れていくのが分かったんだ」

「粘膜接触が効率よく魔力譲渡を行えるからな。恐らく、先祖返りの私だからそれが本能的に分かったのだと思う。そしてヒカル様の唾液は甘く、あまりにも美味で貪ってしまった」

 む、貪る……。しかも美味……。
 確かにそう言われるとしっくりくる程のディープキスだった……。

「え、っていうか覚えてるの!?」

「ああ、はっきりと覚えている」

 無表情のまま、こくりと首を縦に振ったオースティンさん。俺はどういう顔をしていいのかわからない。もう見なくても分かる。俺の顔は羞恥で真っ赤になっていることだろう。

「そしてその後飲んだヒカル様の精液は、この世のものとは思えないほど美味だった。豊富な魔力が体を一気に巡り、そのおかげで私は助かったのだ」

「わぁーーーー!! それ以上言わないで!!」

「なぜ? あの時のヒカル様はぴくぴくと体を震わせていて、余りにも可愛かったのだが……」

「だからぁぁぁ!! もうやめてぇぇぇぇ!!」

 なんなの!? 俺を殺す気か!? そんな真面目な顔で言う事じゃないだろう!?
 あまりの恥ずかしさに俺は両手で顔を覆った。

 もうやだ……。こんな真剣に言われて俺は恥ずかしすぎてもう死にたい……。

「その態度も可愛すぎて困るな」

 そして俺の頭の方でちゅっとリップ音が鳴った。それは何度も何度も繰り返された。
 え、なに? 何してるの? もしかしなくても、俺の頭にキスしてる!?

 もう訳が分からなくて動くことが出来ずに固まった俺を無視して、何度も繰り返されるリップ音。

「なぜ貴方はこんなに可愛いのだ。神子とはなんと危険な人なのか……」

 ちょっと言ってる意味がわかんないです……。

 恥ずかしすぎて顔を隠した手をそっと除けられる。そして火傷のある右側をそっと優しい手つきで撫でられた。

「この火傷の跡も、貴方が生を掴み取った証だ。きっと命の危険もあったのだろう。それを乗り越えて出来た傷ならば、愛しさしか感じない」

 若干熱を孕んだような瞳で見つめられ、そっと顔を近づけられる。火傷の跡にオースティンさんの唇が触れ、そして何度もキスを落とされた。

「貴方は本当に美しい。私は貴方以上に美しい人を知らない。そんな貴方が私を救ってくれたことが、心から嬉しいと思う」

「あ……」

 またオースティンさんはビックリするような綺麗な顔で笑った。美人の笑顔の迫力が凄すぎて怖い……。

「だが私は貴方の意思を無視し、本能のまま貴方を貪ってしまった。本当に済まない事をしたと思っている……」

「あ、いや……」

「ヒカル様も嫌だっただろう。もう2度としない様気を付ける。だから私のことを嫌わないで欲しい」

 これが無表情のオースティンさんなんて信じられない。今は眉も下がり切り悲しそうな顔をしている。
 さっきブレアナさんが両親の事を話してくれた時は全く表情が変わらなかったのに、今は俺に嫌われたかもしれないと思って悲しんでいる。

「えっと……嫌じゃ、なかった、です……」

 そんなオースティンさんの顔を見ていられなくて、口からそんな言葉が咄嗟に出た。
 びっくりしたし恥ずかしかったけど、嫌だったかと言われたら嫌じゃなかった、んだよな。自分でも不思議だけど、そうされたことが嫌だとか気持ち悪いだとかは思わなかった。

「そうか、良かった」

「っ!?」

 いやだから、その笑顔は反則だってば!!
 
 安心したオースティンさんの顔は、もう蕩けんばかりの笑顔で今まで見た顔の中で1番綺麗だと思った。その笑顔一つで俺の心臓はどっくんどっくんと煩くて苦しい。この人は笑顔だけで人を殺せると思う。それくらいの威力だった。

「ヒカル様、私の事をどうか『オーサ』と呼んでくれないか?」

「え……? オーサ?」

「私の愛称だ。家族以外口にすることはない。だがそれをヒカル様に呼ばれると、なんとも言えない気持ちになるな……。幸せ過ぎて死んでしまいそうだ」

 俺は貴方の笑顔と言葉に死にそうです……。

 オースティンさんってこんなキャラだったんだ……。いつも無表情な美人がいきなりこんなこと言ったり笑ったりすると、威力が凄すぎて俺はもうどうしていいかわからない。

 そしてその後しばらくは、何故かオースティンさんの膝から動かされることなく、その腕に包み込まれたままだった。
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