上 下
23 / 53

23 恥ずかしいから忘れたいのに

しおりを挟む
 とりあえず、オースティンさんはすっかり良くなったみたいだ。手を握って魔力を流し込んでみたら、すっからかんだった魔力はすっかり満ち満ちていた。

 良かったと思うと同時に、アレは間違いなくディープキスとフェラだよな、とオースティンさんにされたことを思い出し両手で顔を覆った。これは絶対にヘンリーさんたちには内緒にしないと。「オースティン様に何させてんだッ!?」と言われる可能性大だ。

 ディープキスはなんとなくわかる。物凄い勢いで魔力が吸われているのを感じたし、それと同時にオースティンさんの中に魔力があっという間に馴染んだから。
 だけどフェラは……あれはちょっと意味がわからない。オースティンさんに理由を聞きたいけど恥ずかしすぎて無理だな……。

 ふと下を見ると下半身が丸出しだったのに気が付き、ものすごい勢いで下着とズボンを上げ直す。そしてうつ伏せに寝ているオースティンさんを仰向けにし、の痕跡がないかを確かめた。
 大丈夫なのを確認し、心配しているであろうヘンリーさんたちに知らせるために部屋を出ることにする。

 オースティンさんの部屋を出るとランドルに双子、そしてヘンリーさんが扉の外で待っていた。俺が出てくるまでずっとここで待っていたらしい。結局オースティンさんが心配過ぎてどこにも行けなかったんだろう。

「ヒカル様っ! オースティン様はッ……」

「うん、もう大丈夫。ほぼ全回復したよ」

「ああっ……よか……良かった……」

 安心したのか体から力が抜けてその場に膝を付いてしまったヘンリーさんを労わる様に、ランドルはその肩をぽんぽんと軽く叩く。
 ヘンリーさんは俺に頭を下げると、ふらふらとしながらもオースティンさんの元へと向かった。

 俺は双子たちと共に一旦自室へと戻る。

「ヒカル様、お疲れ様でございました。それと、オースティン様を助けていただき本当にありがとうございました」

 ランドルの言葉に続いて、双子も一緒に俺に向かって深々と頭を下げた。そしてレイフは「ブレアナ様に報告して参ります」と部屋を出ていった。

 ローリーがお茶を淹れてくれそれが出されたタイミングで、レイフと共にブレアナさんが部屋にやって来た。そして俺の目の前までくると、片膝を付き最上の礼をとった。

「ヒカル様には弟を救っていただき感謝申し上げます。もしここにヒカル様がおられなければ、あの子はここで命を落としていたことでしょう。本当に感謝してもしきれません」
 
「いえ、俺もいつも良くしてもらっているので少しでも力になれて良かったです。ただ……どうしてオースティンさんが奴隷契約なんて結ばされているのか聞いても良いですか?」

 ヘンリーからその話を聞いた時から不思議には思ってた。オースティンさんは公爵家の人間だ。他国から来た魔力持ちとは違うし、逃げ出そうとして捕まったわけでもない。なのに奴隷契約を結んでいるのはどうしてなのか。

「……そうですね。ヒカル様にはお話した方がいいでしょう。ですが、その話は明日に致しましょう。魔力をかなり使われてお疲れでしょうし。ディナーも召し上がっておられませんよね?」

 ブレアナさんにそう言われてまだ夕飯を食べていなかったことを思い出した。気が付いた途端、空腹を感じてお腹がくぅっと音を立てる。
 おやつの時間頃にオースティンさんの魔力譲渡を行って、今はもう夜の10時ごろ。結構長い間魔力譲渡を行っていたんだなと今初めて気が付いた。そりゃお腹も空くはずだ。

「ふふ。こちらに用意させますのでどうぞごゆっくりとお召し上がりください。それでは私はこれで失礼いたします」

 そう言ってブレアナさんは帰っていった。その後すぐ双子が俺の夕食を準備してくれて、そのまま双子たちと一緒に食べることにした。
 オースティンさんの命が助かったことで、今は明るい雰囲気が漂っていた。

 そして風呂も済ませてベッドへと潜り込む。

「はぁ……なんか一瞬ものすっごい焦ったけど、なんとかなって良かった」

 オースティンさんはもう大丈夫だろう。助けることが出来て本当に良かったと思う。
 ただ、あのディープキスとフェラ。オースティンさんの口が俺のアレを……。

「うわぁぁぁぁ! 俺どんな顔してオースティンさんに会えばいいんだよぉぉぉぉぉ!」

 あまりの恥ずかしさにベッドの上でごろごろと転げまわる。何をされるのか全く分からなくて動けない俺に、あんなことをしたオースティンさん。口に咥えられた時もあまりの快感に体から力が抜けて抵抗することも出来なかった。

「そうなんだよな……気持ち良かったんだよ」

 男の人にあんなことされたのに、気持ち悪いとか全くなくてむしろ気持ちよすぎて……。
 俺って実は同性愛者だった、とか? 火傷を負ったのもあって、誰かと会う事が怖かった俺は恋愛感情というものを誰かに抱いたことがない。異性が好きなのかと思っていたけど、実は男が好きだったのか……?
 それとも異性が好きなんだけど、オースティンさんが綺麗すぎるから抵抗がなかっただけか……?

「あ~……さっぱりわからん」

 自分で自分が全然わからない。これ以上考えてもわかることじゃないからさっさと寝ようと目を瞑る。
 だけどあのキスとフェラを思い出して、またベッドでごろごろとのたうち回るという事を繰り返し、寝るのはかなり遅くなってからだった。


 そして翌朝。寝不足で目を擦りながら朝食を取りに食堂へ向かうと、ブレアナさんとオースティンさんが既に待っていた。
 まさかオースティンさんもこの場にいるとは思わず驚いた。今はまだ寝ているかと思っていたから。だけど顔色を見るに元気になったようで一安心だ。

 でもオースティンさんの顔を見て、昨日の事が一気にフラッシュバックする。どうしよう……あの口に俺のが……って朝っぱらから何思い出してるんだ!!
 慌てて脳内からいやらしい映像を消し去る。気づかれるな、バレちゃいけない。

 内心大慌ての俺を他所にオースティンさんは俺の姿を見るとすぐに立ち上がり、俺の前へと来ると片膝を付き最上の礼をとった。

「ヒカル様、昨日は私の命を助けてくれたと聞いた。心からの感謝を」

「オ、オースティンさん、体調はどうですか? まだおかしなところとかないですか?」

「いや全く。すっかり元通り、というよりもいつもより気分がいいくらいだ」

「そっか。それなら良かった」

 昨日あんなことがあってオースティンさんにどういう顔して会えばいいかわからなかったけど、今のオースティンさんを見るに記憶になさそうな感じだ。
 あの時のオースティンさんは俺を見ているようで見ていないような、なんか不思議な感じだったし覚えていなくてもおかしくない。というか覚えていない方が俺にとっては都合がいいけど……。

 どうか覚えていませんように!!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界トリップして10分で即ハメされた話

XCX
BL
付き合っていると思っていた相手からセフレだと明かされ、振られた優太。傷心での帰宅途中に穴に落ち、異世界に飛ばされてしまう。落ちた先は騎士団の副団長のベッドの上。その副団長に男娼と勘違いされて、即ハメされてしまった。その後も傷心に浸る暇もなく距離を詰められ、彼なりの方法でどろどろに甘やかされ愛される話。 ワンコな騎士団副団長攻め×流され絆され傷心受け。 ※ゆるふわ設定なので、騎士団らしいことはしていません。 ※タイトル通りの話です。 ※攻めによるゲスクズな行動があります。 ※ムーンライトノベルズでも掲載しています。

憧憬

アカネラヤ
BL
 まるで鈍器で殴られたかのような重めの頭痛とともに目が覚めた美波八雲(ミナミヤクモ)に待ち受けていたのは、同社の後輩である藤咲昌也(フジサキマサヤ)による性と快楽の監禁地獄だった。  突然の自分に置かれた状況に混乱しつつもそんな心とは裏腹に、身体は藤咲によって従順に開発されていく。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

変態しかいない世界に神子召喚されてしまった!?

ミクリ21
BL
変態しかいない世界に神子召喚をされた宮本 タモツ。 タモツは神子として、なんとか頑張っていけるのか!? 変態に栄光あれ!!

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【完結】長い物語の終わりはハッピーエンドで

志麻友紀
BL
異世界召喚されたら、前世の賢者の記憶がよみがえった! 転送の事故により魔力ゼロで玉座に放り出された史朗を全員無視。彼らの目当ては、史朗が召喚に巻き込まれた少女で、彼女こそ救国の聖女だという。 そんな史朗に唯一、手を差し伸べてくれたのは、濃紺の瞳の美丈夫、聖竜騎士団長ヴィルタークだった。彼の屋敷でお世話係のメイドまでつけられて大切にされる日々。 さらに史朗が魔鳥に襲われ、なけなしの魔力で放った魔法で、生命力が枯渇しかけたのを、肌を合わせることでヴィルタークは救ってくれた。 治療のためだけに抱いた訳じゃない。お前が好きだと言われて史朗の心も揺れる。 一方、王国では一年の間に二人もの王が亡くなり、評判の悪い暫定皇太子に、ヴィルタークの出生の秘密もあいまって、なにやら不穏な空気が……。 R18シーン入りのお話は章タイトルの横に※つけてあります。 ムーンライトノベルズさんでも公開しています。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話

四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。 ※R18はタイトルに※がつきます。

処理中です...