上 下
21 / 53

21 緊急事態発生

しおりを挟む
 翌日の朝食。オースティンさんは食堂に現れた。そして俺の姿を見るとすぐ、側へとやってきて俺の前で片膝をついた。
 それに合わせてブレアナさんも、食堂にいる他の使用人達も、全員片膝を付き胸に手を当て頭を下げた。

「ヒカル様、昨夜私に魔力譲渡をしてくださったと聞いた。本当は知られたくなかったのだが、私を救ってくれたこと感謝する」

 オースティンさんはそう言うと、胸に手を当て頭を下げた。
 これは最上級の礼、らしい。神子である俺に感謝を示す、最大の礼だ。

「ううん、元気になって良かったです。ランドルやヘンリーさんを怒らないでください。俺が無理やり知ったことだから。これからは俺がオースティンさんを助けます。だから安心してください」

「……ヒカル様に、最大の感謝を」

 そう言ってしばらく頭を下げた姿勢を変えなかったので慌てて頭を上げるようお願いする。それからいつも通り食事を始めた。
 でも今日は俺の手にはオースティンさんが作ってくれた箸。それを使い食事を取る。

「ヒカル様は器用に召し上がりますね」

 箸を使っているところを初めて見たブレアナさんが感心したように言う。

「俺がいた国は、箸を使う文化だったんです。だからこっちの方が俺にとっては慣れているから使いやすいだけです」

 しばらく俺を見ていたブレアナさんはうん、と一つ頷くとオースティンさんへと視線を向けた。

「オースティン、私の箸を作る様職人に伝えてくれるか」

「……真似をするつもりか?」

「いいではないか。私もやってみたいのだ。それとお前は隠しているつもりだろうが、私は知っているからな。お前が既に自分用の箸を作らせていることを!」

「ふぐっ!」

 ブレアナさんの言葉で喉を詰まらせたのか、変な音を出して悶絶するオースティンさん。ちょっと気の毒だけど可愛いと思ったのは内緒だ。
 っていうか、オースティンさんも箸、作らせてたんだ……。

「見ていて思ったが、箸というのは何と合理的なのだろうか。ステーキなどを切ることは難しそうだが、あれだけで食事が出来るなんて素晴らしいではないか! 扱いが難しそうではあるが、私もぜひやってみたい!」

 確かにスプーンにフォークにナイフに、そして用途に合わせて色々と変わるカトラリー。汁物を掬う事は出来ないが、大体の事は箸だけで完結する。柔らかい物であれば箸で切ることも出来るし。
 
 物珍しさでブレアナさんは興味を持ったみたいだ。しかもオースティンさんまで興味を持ってこっそり作らせてたし。

「ふふ、楽しみだな。箸が出来たら、是非使い方を教えてくださいませ」

「はい。最初は難しいと思いますけど、慣れれば簡単ですよ」

 この日の朝食は昨日とは違い、明るく楽しい雰囲気だった。


 あれから1ヵ月が過ぎた。俺は未だ神子の力を使えない。
 公爵家の書庫にある魔法関連の本を読み漁って色々と試しているうちに、魔法の腕はメキメキと上がり神子よりこっちの方が適性があるんじゃないかと思うほどだ。
 
 そして何度かオースティンさんに魔力譲渡も行っている。
 王宮へ行く日は事前に俺にも連絡が来る。そしてオースティンさんの部屋で帰りを待つことになり、オースティンさんが寝室で横になると俺は魔力譲渡を行う。
 一度に大量の魔力を送ってもオースティンさんに吸収されるのは時間がかかるため、時間をかけてゆっくりと馴染ませるように譲渡するようになった。

 時間もかかるため、その間はヘンリーさんもランドルも部屋に戻ってもらっている。俺は1人で、意識のないオースティンさんに魔力を注いである程度回復したら自分の部屋へと戻っている。

 全回復させるまで魔力譲渡しようと思ったが、それはオースティンさん達に止められてしまった。いくら俺が膨大な魔力を持っていたとしても、使いすぎるのは良くないと言われて。
 俺は大丈夫なのだけど、心配させるのもよくないかと言われた通りにしている。
 それに魔力はちゃんと休めば回復するし、俺が魔力譲渡を行っていることで回復も物凄く早いらしく過度な譲渡を行わなくてもいいそうだ。

 そして今日もオースティンさんは王宮へと行っている。帰ってきたら魔力譲渡を行う日だ。
 時刻は大体3時ごろ。おやつの時間だとレイフにお茶を淹れて貰い、ローリーは厨房からケーキを受け取ってそれが目の前に出された。今日のケーキはショートケーキだ。俺のリクエストである。
 オースティンさんの帰宅は大体6時ごろ。それまで本を読んでまったり過ごす予定だ。

 美味しそうなショートケーキにフォークを刺したところでバタバタと音がしたと思ったら扉がノックされた。ノックというよりドンドンと叩かれるような音だ。
 その音で眉間に皺を寄せたランドルが扉越しに「何事だ!」とイライラした口調で声を掛ける。

「神子様! 神子様はおられますか!?」

「ヘンリーか? ヒカル様はお茶の時間だ。一体なんだ?」

 ランドルがそっと扉を開くとヘンリーさんはランドルを押しのけて俺目掛けて走り出し、目の前で勢いよく土下座をした。

「ヒカル様! オースティン様を助けてください!」

「え……?」

「おい、オースティン様がどうしたんだ!?」

 ヘンリーさんの慌てぶりで何か起こったのだと悟る。ヘンリーさんは土下座の姿勢のまま事情を説明した。

「オースティン様が結界石に魔力を注いでいたのですが、もう十分な量を注いだにも関わらずジークムント殿下に『もっと入れろ』と命令され魔力を注がれました。その結果、その場でオースティン様が倒れられ今自室へお運びしたところです! オースティン様の容態は悪く、一刻を争う状況です! どうか! どうかオースティン様をお助け下さい! ヒカル様!」

 ヘンリーさんの言葉を聞いて、俺は弾かれたように部屋を飛び出しオースティンさんの自室へ向かって駆け出した。

 容体が悪くて一刻を争う状況ってどういう事だよ!?

 いつもふらふらになりながらもなんとか帰ってきていたオースティンさん。顔色も悪く、ベッドへ横になるとすぐに気絶したように眠る。これも状態が良いとは言えないけど、まだ帰ってくるまでオースティンさんの意識はあった。

 だけど今日は王宮でそのまま倒れたって言ってた。いつもは魔力枯渇ギリギリの状態なのに、今日はもう枯渇しているってことだ。

 なんだよ、どういう事だよ!? もう十分な量を注いだにも関わらずもっと入れろって命令して、そんなことをすればどうなるかなんてこの世界の人間だったら分かることだろ!?

 オースティンさん待ってて。今すぐ魔力を注ぐから。俺が絶対助けるから!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

アビス ~底なしの闇~

アキナヌカ
BL
アビスという骸骨に皮をはりつけたような食人種がいた、そして彼らを倒すものをアビスハンターと呼んだ。俺はロンというアビスハンターで、その子が十歳の時に訳があって引き取った男の子から熱烈に求愛されている!? それは男の子が立派な男になっても変わらなくて!! 番外編10歳の初恋 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/778863121 番外編 薔薇の花束 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/906865660 番外編マゾの最強の命令 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/615866352 ★★★このお話はBLです、ロン×オウガです★★★ 小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。

ひだまりで苔むすもの

Cleyera
BL
婚姻式当日、ヘイランディ・ボロストファ軍曹は花嫁に逃げられた 花嫁の父親である上官に責任を追求され、辺境への左遷が決まってしまう 異動前に、上官に代わりお詫びで各所を巡り…… 世界から超高度文明と魔法と人外種族が滅んだ後の、とある小国の話 :注意: 作者は素人です 見た目は人×人ですが、人外ものです、タグをどうぞ 本編と補話は六万文字程度、おまけあり

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

真実の愛とは何ぞや?

白雪の雫
BL
ガブリエラ王国のエルグラード公爵家は天使の血を引いていると言われているからなのか、産まれてくる子供は男女問わず身体能力が優れているだけではなく魔力が高く美形が多い。 そこに目を付けた王家が第一王女にして次期女王であるローザリアの補佐役&婿として次男のエカルラートを選ぶ。 だが、自分よりも美形で全てにおいて完璧なエカルラートにコンプレックスを抱いていたローザリアは自分の生誕祭の日に婚約破棄を言い渡してしまう。 この婚約は政略的なものと割り切っていたが、我が儘で癇癪持ちの王女の子守りなどしたくなかったエカルラートは、ローザリアから言い渡された婚約破棄は渡りに船だったので素直に受け入れる。 晴れて自由の身になったエカルラートに、辺境伯の跡取りにして幼馴染みのカルディナーレが提案してきた。 「ローザリアと男爵子息に傷つけられた心を癒す名目でいいから、リヒトシュタインに遊びに来てくれ」 「お前が迷惑でないと思うのであれば・・・。こちらこそよろしく頼む」 王女から婚約破棄を言い渡された事で、これからどうすればいいか悩んでいたエカルラートはカルディナーレの話を引き受ける。 少しだけですが、性的表現が出てきます。 過激なものではないので、R-15にしています。

完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする

BL
 赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。  だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。  そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして…… ※オメガバースがある世界  ムーンライトノベルズにも投稿中

【再掲】オメガバースの世界のΩが異世界召喚でオメガバースではない世界へ行って溺愛されてます

緒沢 利乃
BL
突然、異世界に召喚されたΩ(オメガ)の帯刀瑠偉。 運命の番は信じていないけれど、愛している人と結ばれたいとは思っていたのに、ある日、親に騙されてα(アルファ)とのお見合いをすることになってしまう。 独身の俺を心配しているのはわかるけど、騙されたことに腹を立てた俺は、無理矢理のお見合いに反発してホテルの二階からダーイブ! そして、神子召喚として異世界へこんにちは。 ここは女性が極端に少ない世界。妊娠できる女性が貴ばれる世界。 およそ百年に一人、鷹の痣を体に持つ選ばれた男を聖痕者とし、その者が世界の中心の聖地にて祈ると伴侶が現れるという神子召喚。そのチャンスは一年に一度、生涯で四回のみ。 今代の聖痕者は西国の王太子、最後のチャンス四回目の祈りで見事召喚に成功したのだが……俺? 「……今代の神子は……男性です」 神子召喚された神子は聖痕者の伴侶になり、聖痕者の住む国を繁栄に導くと言われているが……。 でも、俺、男……。 Ωなので妊娠できるんだけどなー、と思ったけど黙っておこう。 望んで来た世界じゃないのに、聖痕者の異母弟はムカつくし、聖痕者の元婚約者は意地悪だし、そんでもって聖痕者は溺愛してくるって、なんなんだーっ。 αとのお見合いが嫌で逃げた異世界で、なんだが不憫なイケメンに絆されて愛し合ってしまうかも? 以前、別名義で掲載した作品の再掲載となります。

処理中です...