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21 緊急事態発生
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翌日の朝食。オースティンさんは食堂に現れた。そして俺の姿を見るとすぐ、側へとやってきて俺の前で片膝をついた。
それに合わせてブレアナさんも、食堂にいる他の使用人達も、全員片膝を付き胸に手を当て頭を下げた。
「ヒカル様、昨夜私に魔力譲渡をしてくださったと聞いた。本当は知られたくなかったのだが、私を救ってくれたこと感謝する」
オースティンさんはそう言うと、胸に手を当て頭を下げた。
これは最上級の礼、らしい。神子である俺に感謝を示す、最大の礼だ。
「ううん、元気になって良かったです。ランドルやヘンリーさんを怒らないでください。俺が無理やり知ったことだから。これからは俺がオースティンさんを助けます。だから安心してください」
「……ヒカル様に、最大の感謝を」
そう言ってしばらく頭を下げた姿勢を変えなかったので慌てて頭を上げるようお願いする。それからいつも通り食事を始めた。
でも今日は俺の手にはオースティンさんが作ってくれた箸。それを使い食事を取る。
「ヒカル様は器用に召し上がりますね」
箸を使っているところを初めて見たブレアナさんが感心したように言う。
「俺がいた国は、箸を使う文化だったんです。だからこっちの方が俺にとっては慣れているから使いやすいだけです」
しばらく俺を見ていたブレアナさんはうん、と一つ頷くとオースティンさんへと視線を向けた。
「オースティン、私の箸を作る様職人に伝えてくれるか」
「……真似をするつもりか?」
「いいではないか。私もやってみたいのだ。それとお前は隠しているつもりだろうが、私は知っているからな。お前が既に自分用の箸を作らせていることを!」
「ふぐっ!」
ブレアナさんの言葉で喉を詰まらせたのか、変な音を出して悶絶するオースティンさん。ちょっと気の毒だけど可愛いと思ったのは内緒だ。
っていうか、オースティンさんも箸、作らせてたんだ……。
「見ていて思ったが、箸というのは何と合理的なのだろうか。ステーキなどを切ることは難しそうだが、あれだけで食事が出来るなんて素晴らしいではないか! 扱いが難しそうではあるが、私もぜひやってみたい!」
確かにスプーンにフォークにナイフに、そして用途に合わせて色々と変わるカトラリー。汁物を掬う事は出来ないが、大体の事は箸だけで完結する。柔らかい物であれば箸で切ることも出来るし。
物珍しさでブレアナさんは興味を持ったみたいだ。しかもオースティンさんまで興味を持ってこっそり作らせてたし。
「ふふ、楽しみだな。箸が出来たら、是非使い方を教えてくださいませ」
「はい。最初は難しいと思いますけど、慣れれば簡単ですよ」
この日の朝食は昨日とは違い、明るく楽しい雰囲気だった。
あれから1ヵ月が過ぎた。俺は未だ神子の力を使えない。
公爵家の書庫にある魔法関連の本を読み漁って色々と試しているうちに、魔法の腕はメキメキと上がり神子よりこっちの方が適性があるんじゃないかと思うほどだ。
そして何度かオースティンさんに魔力譲渡も行っている。
王宮へ行く日は事前に俺にも連絡が来る。そしてオースティンさんの部屋で帰りを待つことになり、オースティンさんが寝室で横になると俺は魔力譲渡を行う。
一度に大量の魔力を送ってもオースティンさんに吸収されるのは時間がかかるため、時間をかけてゆっくりと馴染ませるように譲渡するようになった。
時間もかかるため、その間はヘンリーさんもランドルも部屋に戻ってもらっている。俺は1人で、意識のないオースティンさんに魔力を注いである程度回復したら自分の部屋へと戻っている。
全回復させるまで魔力譲渡しようと思ったが、それはオースティンさん達に止められてしまった。いくら俺が膨大な魔力を持っていたとしても、使いすぎるのは良くないと言われて。
俺は大丈夫なのだけど、心配させるのもよくないかと言われた通りにしている。
それに魔力はちゃんと休めば回復するし、俺が魔力譲渡を行っていることで回復も物凄く早いらしく過度な譲渡を行わなくてもいいそうだ。
そして今日もオースティンさんは王宮へと行っている。帰ってきたら魔力譲渡を行う日だ。
時刻は大体3時ごろ。おやつの時間だとレイフにお茶を淹れて貰い、ローリーは厨房からケーキを受け取ってそれが目の前に出された。今日のケーキはショートケーキだ。俺のリクエストである。
オースティンさんの帰宅は大体6時ごろ。それまで本を読んでまったり過ごす予定だ。
美味しそうなショートケーキにフォークを刺したところでバタバタと音がしたと思ったら扉がノックされた。ノックというよりドンドンと叩かれるような音だ。
その音で眉間に皺を寄せたランドルが扉越しに「何事だ!」とイライラした口調で声を掛ける。
「神子様! 神子様はおられますか!?」
「ヘンリーか? ヒカル様はお茶の時間だ。一体なんだ?」
ランドルがそっと扉を開くとヘンリーさんはランドルを押しのけて俺目掛けて走り出し、目の前で勢いよく土下座をした。
「ヒカル様! オースティン様を助けてください!」
「え……?」
「おい、オースティン様がどうしたんだ!?」
ヘンリーさんの慌てぶりで何か起こったのだと悟る。ヘンリーさんは土下座の姿勢のまま事情を説明した。
「オースティン様が結界石に魔力を注いでいたのですが、もう十分な量を注いだにも関わらずジークムント殿下に『もっと入れろ』と命令され魔力を注がれました。その結果、その場でオースティン様が倒れられ今自室へお運びしたところです! オースティン様の容態は悪く、一刻を争う状況です! どうか! どうかオースティン様をお助け下さい! ヒカル様!」
ヘンリーさんの言葉を聞いて、俺は弾かれたように部屋を飛び出しオースティンさんの自室へ向かって駆け出した。
容体が悪くて一刻を争う状況ってどういう事だよ!?
いつもふらふらになりながらもなんとか帰ってきていたオースティンさん。顔色も悪く、ベッドへ横になるとすぐに気絶したように眠る。これも状態が良いとは言えないけど、まだ帰ってくるまでオースティンさんの意識はあった。
だけど今日は王宮でそのまま倒れたって言ってた。いつもは魔力枯渇ギリギリの状態なのに、今日はもう枯渇しているってことだ。
なんだよ、どういう事だよ!? もう十分な量を注いだにも関わらずもっと入れろって命令して、そんなことをすればどうなるかなんてこの世界の人間だったら分かることだろ!?
オースティンさん待ってて。今すぐ魔力を注ぐから。俺が絶対助けるから!
それに合わせてブレアナさんも、食堂にいる他の使用人達も、全員片膝を付き胸に手を当て頭を下げた。
「ヒカル様、昨夜私に魔力譲渡をしてくださったと聞いた。本当は知られたくなかったのだが、私を救ってくれたこと感謝する」
オースティンさんはそう言うと、胸に手を当て頭を下げた。
これは最上級の礼、らしい。神子である俺に感謝を示す、最大の礼だ。
「ううん、元気になって良かったです。ランドルやヘンリーさんを怒らないでください。俺が無理やり知ったことだから。これからは俺がオースティンさんを助けます。だから安心してください」
「……ヒカル様に、最大の感謝を」
そう言ってしばらく頭を下げた姿勢を変えなかったので慌てて頭を上げるようお願いする。それからいつも通り食事を始めた。
でも今日は俺の手にはオースティンさんが作ってくれた箸。それを使い食事を取る。
「ヒカル様は器用に召し上がりますね」
箸を使っているところを初めて見たブレアナさんが感心したように言う。
「俺がいた国は、箸を使う文化だったんです。だからこっちの方が俺にとっては慣れているから使いやすいだけです」
しばらく俺を見ていたブレアナさんはうん、と一つ頷くとオースティンさんへと視線を向けた。
「オースティン、私の箸を作る様職人に伝えてくれるか」
「……真似をするつもりか?」
「いいではないか。私もやってみたいのだ。それとお前は隠しているつもりだろうが、私は知っているからな。お前が既に自分用の箸を作らせていることを!」
「ふぐっ!」
ブレアナさんの言葉で喉を詰まらせたのか、変な音を出して悶絶するオースティンさん。ちょっと気の毒だけど可愛いと思ったのは内緒だ。
っていうか、オースティンさんも箸、作らせてたんだ……。
「見ていて思ったが、箸というのは何と合理的なのだろうか。ステーキなどを切ることは難しそうだが、あれだけで食事が出来るなんて素晴らしいではないか! 扱いが難しそうではあるが、私もぜひやってみたい!」
確かにスプーンにフォークにナイフに、そして用途に合わせて色々と変わるカトラリー。汁物を掬う事は出来ないが、大体の事は箸だけで完結する。柔らかい物であれば箸で切ることも出来るし。
物珍しさでブレアナさんは興味を持ったみたいだ。しかもオースティンさんまで興味を持ってこっそり作らせてたし。
「ふふ、楽しみだな。箸が出来たら、是非使い方を教えてくださいませ」
「はい。最初は難しいと思いますけど、慣れれば簡単ですよ」
この日の朝食は昨日とは違い、明るく楽しい雰囲気だった。
あれから1ヵ月が過ぎた。俺は未だ神子の力を使えない。
公爵家の書庫にある魔法関連の本を読み漁って色々と試しているうちに、魔法の腕はメキメキと上がり神子よりこっちの方が適性があるんじゃないかと思うほどだ。
そして何度かオースティンさんに魔力譲渡も行っている。
王宮へ行く日は事前に俺にも連絡が来る。そしてオースティンさんの部屋で帰りを待つことになり、オースティンさんが寝室で横になると俺は魔力譲渡を行う。
一度に大量の魔力を送ってもオースティンさんに吸収されるのは時間がかかるため、時間をかけてゆっくりと馴染ませるように譲渡するようになった。
時間もかかるため、その間はヘンリーさんもランドルも部屋に戻ってもらっている。俺は1人で、意識のないオースティンさんに魔力を注いである程度回復したら自分の部屋へと戻っている。
全回復させるまで魔力譲渡しようと思ったが、それはオースティンさん達に止められてしまった。いくら俺が膨大な魔力を持っていたとしても、使いすぎるのは良くないと言われて。
俺は大丈夫なのだけど、心配させるのもよくないかと言われた通りにしている。
それに魔力はちゃんと休めば回復するし、俺が魔力譲渡を行っていることで回復も物凄く早いらしく過度な譲渡を行わなくてもいいそうだ。
そして今日もオースティンさんは王宮へと行っている。帰ってきたら魔力譲渡を行う日だ。
時刻は大体3時ごろ。おやつの時間だとレイフにお茶を淹れて貰い、ローリーは厨房からケーキを受け取ってそれが目の前に出された。今日のケーキはショートケーキだ。俺のリクエストである。
オースティンさんの帰宅は大体6時ごろ。それまで本を読んでまったり過ごす予定だ。
美味しそうなショートケーキにフォークを刺したところでバタバタと音がしたと思ったら扉がノックされた。ノックというよりドンドンと叩かれるような音だ。
その音で眉間に皺を寄せたランドルが扉越しに「何事だ!」とイライラした口調で声を掛ける。
「神子様! 神子様はおられますか!?」
「ヘンリーか? ヒカル様はお茶の時間だ。一体なんだ?」
ランドルがそっと扉を開くとヘンリーさんはランドルを押しのけて俺目掛けて走り出し、目の前で勢いよく土下座をした。
「ヒカル様! オースティン様を助けてください!」
「え……?」
「おい、オースティン様がどうしたんだ!?」
ヘンリーさんの慌てぶりで何か起こったのだと悟る。ヘンリーさんは土下座の姿勢のまま事情を説明した。
「オースティン様が結界石に魔力を注いでいたのですが、もう十分な量を注いだにも関わらずジークムント殿下に『もっと入れろ』と命令され魔力を注がれました。その結果、その場でオースティン様が倒れられ今自室へお運びしたところです! オースティン様の容態は悪く、一刻を争う状況です! どうか! どうかオースティン様をお助け下さい! ヒカル様!」
ヘンリーさんの言葉を聞いて、俺は弾かれたように部屋を飛び出しオースティンさんの自室へ向かって駆け出した。
容体が悪くて一刻を争う状況ってどういう事だよ!?
いつもふらふらになりながらもなんとか帰ってきていたオースティンさん。顔色も悪く、ベッドへ横になるとすぐに気絶したように眠る。これも状態が良いとは言えないけど、まだ帰ってくるまでオースティンさんの意識はあった。
だけど今日は王宮でそのまま倒れたって言ってた。いつもは魔力枯渇ギリギリの状態なのに、今日はもう枯渇しているってことだ。
なんだよ、どういう事だよ!? もう十分な量を注いだにも関わらずもっと入れろって命令して、そんなことをすればどうなるかなんてこの世界の人間だったら分かることだろ!?
オースティンさん待ってて。今すぐ魔力を注ぐから。俺が絶対助けるから!
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