20 / 53
20 オースティンの事情
しおりを挟む
どうして体調が悪いのか? 俺がそう聞いてもヘンリーさんもランドルも一言も話さない。申し訳なさそうな顔で下を向き、でも口は堅く結ばれている。
だが。
「……オースティン様、は」
「ヘンリー!」
「オースティン様は魔力枯渇の状態です……」
「ヘンリー、お前ッ!」
ランドルがヘンリーさんの胸倉を掴み大きな声を上げた。びっくりしたが今にも殴りかかりそうな雰囲気だった為、ランドルの腕を掴み慌てて止めに入る。
「もう……もう、こんな辛そうなオースティン様を見ていられないんだ! お前だってそうだろう!?」
「くっ……だが、それは……」
ランドルは先ほどまでの勢いは何処かへ行き、そっとヘンリーさんの胸倉から手を離した。
「ねぇ、どういう事か話してくれる?」
「ヒカル様……。オースティン様がこの国で唯一、豊富な魔力をお持ちの事はご存知かと思います」
ヘンリーさんが静かに語った言葉に頷いて返事をする。ヘンリーさんは小さく息を吐くと衝撃の事実を告白した。
「オースティン様は、奴隷契約を結ばされ1人で結界石に魔力を注いでおられます」
「は? な、に……? 奴隷、契約……?」
奴隷契約って、過去の神子が騙されて結ばされていたっていう、あれ?
「瘴気が蔓延し魔物の暴走が活発化しています。それにより、あちこちの町や村が襲われ結界にひびが入ることが多くなりました。その度にオースティン様は招集され魔力を注ぐよう命じられているのです。最近はその回数が多くなり、また結界の綻ぶ場所も多いため修復に膨大な魔力を必要としています」
それをたった1人で行っているから、毎回魔力が枯渇するまで注いでいるそうだ。オースティンさんが膨大な魔力を持っていると同時に、先祖返りだからなのか回復も普通の人よりは早い。
魔力が枯渇しても休めば回復するらしく、王宮から帰ってきた後はとにかく休んで回復に専念していたらしい。
「ヒカル様、お願いがございます。どうかオースティン様に魔力を譲渡していただけませんか?」
「魔力譲渡……? ってどうやってやるの? 俺が出来るならもちろんやる」
「ああ、ありがとうございますっ……」
魔力譲渡は、以前オースティンさんが俺に魔力を探知させるために魔力を流したようにすればいいらしい。
それを聞いてすぐにオースティンさんの手を握り、ゆっくりと魔力を流し込んだ。
オースティンさんの体に入った俺の魔力は少しずつ吸収されていく。この感じだと、一気に大量に流し込んでもだめっぽい。他人の魔力だから馴染むのに少し時間がかかるのかもしれない。
「我々はもはや魔法を扱えるだけの魔力を持ちません。魔力譲渡したくとも、それが出来るだけの魔力がないのです」
俺が魔力を流している横でランドルが静かに語りだした。
自分に魔力がもっとあればオースティンさんを助けられる。なのにこの国の人間は誰一人としてそれが出来ない。1人で苦しんでいるオースティンさんを誰も助けてあげることが出来ない。
この公爵家の人達は分かっていても何も出来ないことが悔しくて仕方なかった。
「でも今は俺がいる。神子としての力を使えなくても、こうやって魔力を流すことは出来る。なのにどうしてそれを言わなかったの?」
「オースティン様に止められておりました。奴隷契約を結んでいることを知られてはならない。魔力枯渇していることを悟られてはならない、と」
「……なんで?」
「それを伝える事で、神子様に早く力の発現を願う事になるからだと」
「あ……」
そういう事だったのか。例えオースティンさん達が、俺に対し早く神子の力を扱えるようになって欲しいと思っていなくても、オースティンさんが奴隷契約によって1人で魔力を注いでいる現状を伝える事イコール、俺に早く神子としての力を扱えるようになって欲しいと言っていると思われるからだったんだ。
俺が神子として力を扱えるようになれば、オースティンさんは魔力を注ぐ必要はなくなる。そうすればオースティンさんはこんな風に苦しむ必要はない。
「ヒカル様に強要してはならないと、ヒカル様が自ら神子としての力を使いたいと思うまでは、決して焦らせてはならないと。オースティン様はそう仰っておりました」
「我々はオースティン様の意思に従いました。それがオースティン様の願いだったからです」
他国から魔力持ちが派遣され、無理やり力を使い死んでいった話を聞いた時。双子も俺がどうしたいか決めていいと言ってくれた。それでこの世界が滅んでもそれが運命だと。
オースティンさんが1人で苦しんでいるのを知っていたのに。それでも俺の事を尊重してくれた。
ブレアナさんも、この公爵家で働く人たちも、皆俺に優しくて、俺の判断に任せてくれていた。神子として召喚された俺を、道具として扱わない様、俺を1人の人間として尊重してくれた。
優しすぎて涙が出てくる。俺は1人何も事情を知らず、皆の優しさに甘えていたんだ。
「ごめん、ホントにごめん……。今度からは俺が魔力譲渡するから、オースティンさんが魔力を注いだ日は必ず教えて」
「……ありがとうございます、ヒカル様」
そっとオースティンさんの顔を見れば、眉間に寄った皺はなくなり、呼吸も安定している。顔色も幾分かよくなったようで、とりあえずホッとした。
「後はゆっくり休めば大丈夫です」とヘンリーさんに言われ、俺とランドルは自室へと戻ることにした。
部屋へ戻れば双子が待っていた。今度から魔力譲渡をすることになったと報告すれば、2人は涙を浮かべて頭を下げた。
神子としての力は使えない。だけど俺には膨大過ぎる魔力がある。
未だにこの世界を救いたいとは思えないけど、オースティンさんの事は救いたい。助けたい。
だから俺は身近にいる人の為に、力を使う事にする。
だが。
「……オースティン様、は」
「ヘンリー!」
「オースティン様は魔力枯渇の状態です……」
「ヘンリー、お前ッ!」
ランドルがヘンリーさんの胸倉を掴み大きな声を上げた。びっくりしたが今にも殴りかかりそうな雰囲気だった為、ランドルの腕を掴み慌てて止めに入る。
「もう……もう、こんな辛そうなオースティン様を見ていられないんだ! お前だってそうだろう!?」
「くっ……だが、それは……」
ランドルは先ほどまでの勢いは何処かへ行き、そっとヘンリーさんの胸倉から手を離した。
「ねぇ、どういう事か話してくれる?」
「ヒカル様……。オースティン様がこの国で唯一、豊富な魔力をお持ちの事はご存知かと思います」
ヘンリーさんが静かに語った言葉に頷いて返事をする。ヘンリーさんは小さく息を吐くと衝撃の事実を告白した。
「オースティン様は、奴隷契約を結ばされ1人で結界石に魔力を注いでおられます」
「は? な、に……? 奴隷、契約……?」
奴隷契約って、過去の神子が騙されて結ばされていたっていう、あれ?
「瘴気が蔓延し魔物の暴走が活発化しています。それにより、あちこちの町や村が襲われ結界にひびが入ることが多くなりました。その度にオースティン様は招集され魔力を注ぐよう命じられているのです。最近はその回数が多くなり、また結界の綻ぶ場所も多いため修復に膨大な魔力を必要としています」
それをたった1人で行っているから、毎回魔力が枯渇するまで注いでいるそうだ。オースティンさんが膨大な魔力を持っていると同時に、先祖返りだからなのか回復も普通の人よりは早い。
魔力が枯渇しても休めば回復するらしく、王宮から帰ってきた後はとにかく休んで回復に専念していたらしい。
「ヒカル様、お願いがございます。どうかオースティン様に魔力を譲渡していただけませんか?」
「魔力譲渡……? ってどうやってやるの? 俺が出来るならもちろんやる」
「ああ、ありがとうございますっ……」
魔力譲渡は、以前オースティンさんが俺に魔力を探知させるために魔力を流したようにすればいいらしい。
それを聞いてすぐにオースティンさんの手を握り、ゆっくりと魔力を流し込んだ。
オースティンさんの体に入った俺の魔力は少しずつ吸収されていく。この感じだと、一気に大量に流し込んでもだめっぽい。他人の魔力だから馴染むのに少し時間がかかるのかもしれない。
「我々はもはや魔法を扱えるだけの魔力を持ちません。魔力譲渡したくとも、それが出来るだけの魔力がないのです」
俺が魔力を流している横でランドルが静かに語りだした。
自分に魔力がもっとあればオースティンさんを助けられる。なのにこの国の人間は誰一人としてそれが出来ない。1人で苦しんでいるオースティンさんを誰も助けてあげることが出来ない。
この公爵家の人達は分かっていても何も出来ないことが悔しくて仕方なかった。
「でも今は俺がいる。神子としての力を使えなくても、こうやって魔力を流すことは出来る。なのにどうしてそれを言わなかったの?」
「オースティン様に止められておりました。奴隷契約を結んでいることを知られてはならない。魔力枯渇していることを悟られてはならない、と」
「……なんで?」
「それを伝える事で、神子様に早く力の発現を願う事になるからだと」
「あ……」
そういう事だったのか。例えオースティンさん達が、俺に対し早く神子の力を扱えるようになって欲しいと思っていなくても、オースティンさんが奴隷契約によって1人で魔力を注いでいる現状を伝える事イコール、俺に早く神子としての力を扱えるようになって欲しいと言っていると思われるからだったんだ。
俺が神子として力を扱えるようになれば、オースティンさんは魔力を注ぐ必要はなくなる。そうすればオースティンさんはこんな風に苦しむ必要はない。
「ヒカル様に強要してはならないと、ヒカル様が自ら神子としての力を使いたいと思うまでは、決して焦らせてはならないと。オースティン様はそう仰っておりました」
「我々はオースティン様の意思に従いました。それがオースティン様の願いだったからです」
他国から魔力持ちが派遣され、無理やり力を使い死んでいった話を聞いた時。双子も俺がどうしたいか決めていいと言ってくれた。それでこの世界が滅んでもそれが運命だと。
オースティンさんが1人で苦しんでいるのを知っていたのに。それでも俺の事を尊重してくれた。
ブレアナさんも、この公爵家で働く人たちも、皆俺に優しくて、俺の判断に任せてくれていた。神子として召喚された俺を、道具として扱わない様、俺を1人の人間として尊重してくれた。
優しすぎて涙が出てくる。俺は1人何も事情を知らず、皆の優しさに甘えていたんだ。
「ごめん、ホントにごめん……。今度からは俺が魔力譲渡するから、オースティンさんが魔力を注いだ日は必ず教えて」
「……ありがとうございます、ヒカル様」
そっとオースティンさんの顔を見れば、眉間に寄った皺はなくなり、呼吸も安定している。顔色も幾分かよくなったようで、とりあえずホッとした。
「後はゆっくり休めば大丈夫です」とヘンリーさんに言われ、俺とランドルは自室へと戻ることにした。
部屋へ戻れば双子が待っていた。今度から魔力譲渡をすることになったと報告すれば、2人は涙を浮かべて頭を下げた。
神子としての力は使えない。だけど俺には膨大過ぎる魔力がある。
未だにこの世界を救いたいとは思えないけど、オースティンさんの事は救いたい。助けたい。
だから俺は身近にいる人の為に、力を使う事にする。
44
お気に入りに追加
1,068
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
メランコリック・ハートビート
おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】
------------------------------------------------------
『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』
あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。
-------------------------------------------------------
第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。
幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる