【完結】化け物神子は白蛇に愛を請われる

華抹茶

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19 箸は出来たけど…

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 そして数日後。俺がお願いした箸の試作品が届けられた。大小さまざまな箸が全部で5膳。ざっくりとした説明しかしていないのに、ほぼほぼ俺の思っていた箸の形をしていた。
 たった数日なのに、ここまで作ってくれたことが有難いと思う。

 それぞれを手に持って使い心地を確かめてみる。あまり大きすぎても小さすぎても使いにくい。丁度いい大きさの物を選んで、微調整をお願いした。
 
 そしてその微調整をお願いした日の翌日。あっさりと完成し俺の元へと届けられた。

「え。早くない?」

「ヒカル様のご要望ですからね。職人もこちらを最優先にしてくれたようです」

 にこにこのレイフは箸が納められた箱を俺の前へと差し出してくる。宝石箱かな? と思うような立派な宝飾のついた箱を開けてみれば綺麗な箸が姿を現した。しかも箸にも煌びやかな宝飾が施されていて、手に持つのを躊躇してしまう。
 箸は全体が黒く、先端は少しざらざらとした加工がされている。これは俺がお願いした通りだ。箸の上の部分は金で装飾されていて黒い石もちらちらと付けられている。

「うわぁ! 綺麗! ヒカル様に合わせて黒曜石を付けてあるんだ。もうヒカル様だけの特別品だね!」

「……マジか」

 箸に宝石がつけられていたようです。こんな高級品をお願いしたつもりは一切ないのだが……。
 これで食事をするのか。俺、平常心でいられるかな……。

「ブレアナさんにお礼言わないと」

「この箸はオースティン様からです。服はブレアナ様がご用意されましたから、これは自分で贈りたいと職人と打ち合わせされたようですよ」

 え? と思ってランドルの顔を見ると「驚きました?」と嬉しそうだった。

「オースティン様は折角この世界へと来てくださったのだから、とヒカル様のことをとても大切に思っていらっしゃいます。表情が変わらないのでわかりづらいかも知れませんが、とても気にかけていらっしゃいますよ」

 オースティンさんの気持ちが込められた箸を手に取る。箸の存在なんて知らなかったのに、俺の適当な説明だけでここまでしてくれたオースティンさん。
 
 俺を王宮から連れ出してくれた時から表情はあまり変わる人ではなかったけど、触れた手からは優しさしか感じなかった。だから怖くなかったし安心することが出来た。

 オースティンさんの優しさは俺も感じてる。この箸はずっと大事にしていこう。

「オースティンさんにお礼言いたいんだけど、今日はどうしてる?」

「あ……本日も仕事で出かけておりまして、恐らく帰りは遅くなるかと。いつ頃戻られるかわかりませんし、また後日お伝えなさってはいかがですか?」

 一瞬ランドルがびくっとしたのを見逃さなかった。これは俺に言えない何かがあると思う。この前オースティンさんによって口止めされたあの話に絡んでくることなんじゃないか。そう思えて仕方がない。

「……そっか。じゃあ帰ってくるの待ってる。こんなにいい物を作ってくれたんだ。今日中にちゃんとお礼を言いたいから」

 俺がにっこりとそう押し切ればランドルも双子も何も言えなくなっている。それでいい。これは俺の我儘で無理やりすることだ。そしてその俺の我儘のせいで、オースティンさんが秘密にしていたことを知ってしまっても、それは誰のせいでもない。

 ちょっと卑怯だとは思うけど、俺はそうさせてもらう。
 何を隠しているかはわからない。もしかしたらオースティンさんにとって恥ずかしいことかもしれない。もしそうだったら土下座でも何でもして謝ろう。でももし物凄く大変な事だったら。
 俺の事を気持ち悪がらず良くしてくれたヘインズ公爵家。そんな優しい人たちに俺は恩返しがしたい。出来ることがあるなら手伝いたいと思ってる。

 だから俺はやる。

 帰りは遅くなると言っていたけど、そのことを伝えたランドルは一瞬目が泳いでいた。遅くなること自体嘘かもしれないと思った俺は、夕方から玄関で待つことにした。
 椅子を一脚持って来てもらい、そこに座って陣取る。

「ヒカル様、オースティン様がお戻りになりましたらお声がけいたしますからお部屋でお待ちください」

 レイフにそう言われたが「直ぐにお礼言いたいからここで待つよ」と言い、椅子から立ち上がる事はしなかった。レイフもローリーもランドルも。そして他の使用人達も皆、正直言って顔色が悪い。これは絶対に何かあるはずだ。

 しばらく待っているとブレアナさんがやって来た。

「ヒカル様、話は聞きました。こんなところにヒカル様をずっといさせるわけには参りません。お部屋にお戻りになりましょう」

「いいえ。こんなに素晴らしい箸を作ってくれたんです。今日、絶対に、会ってすぐにお礼が言いたいのでここで待ちます」

 公爵家当主であるブレアナさんに言われても俺はここで待つと言い切った。もちろんにっこにこの機嫌のいい顔で。するとブレアナさんはふぅと息を吐くと諦めた様に「わかりました」と言ってくれた。
 途端に周りは「ブレアナ様!?」と慌てているが、俺が言っても聞かないと分かってくれたのか皆諦めたようだった。

 時間は夕食の時間の30分前。玄関前に一台の馬車が付いた。扉が開き従者のヘンリーさんが降りた後、ヘンリーさんに支えられるようにしてオースティンさんが降りて来た。
 そのままヘンリーさんに支えられるようにして玄関へやってくる。

「っ!? ヒカル様!?」

 先に気が付いたヘンリーさんに驚かれ、その声でハッとしたオースティンさん。その顔はかなり青ざめていている。ヘンリーさんに支えられないと歩けないほどふらふらだった。

「オースティンさん、凄く素敵な箸をこんなに早く作ってくれてありがとうございました。そのお礼を言いたくて待ってたんですけど……」

「……礼を、言われるほどのものでは、ない」

 いつもと違い、声も小さく喋るのも辛そうだ。どうしてこんなに辛そうなんだろう? どこへ行って何をしていたんだろう?
 そう思っているとオースティンさんがガクッと倒れこみそうになり、ヘンリーさんが慌てて支える。俺も自然と体が動き、ヘンリーさんの反対側からオースティンさんを支えた。

「ヒカル様……うっ……」

「ヒカル様、申し訳ございませんがオースティン様を横にさせたく存じます」

 ヘンリーさんの言う通りだと思って、一緒にオースティンさんの部屋まで一緒に支えていこうと思ったが、ランドルがすっと変わってくれて俺はその後ろを付いて行くことになった。

 オースティンさんの自室へ着いてすぐ、寝室へと向かいドサッと倒れこむように横になったオースティンさん。その顔はより青ざめていて脂汗まで浮いていた。眉間には皺が寄り、目は開くことなく呼吸まで苦しそうだ。

「……ねぇ。オースティンさんはどうしてこんなに体調が悪いの?」
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