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17 過去の神子

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 暗く、重い空気もなくなり散歩を終えて部屋へと戻る。
 小休止した後は、夕食を取りに食堂へと向かった。

 食堂にいたのはブレアナさん1人。俺の姿を目に留めるとふんわりと微笑んだ。

 そのままブレアナさんと2人で食事を始める。いつも3人が揃ってから食べ始めるのにいいのだろうか。そんな俺の思っていることが分かったのか、オースティンさんは仕事で遅くなるためと説明してくれた。

 それなら仕方ないよな。オースティンさんもブレアナさんも公爵家の人として仕事が色々とあるんだろう。

「ランドルや双子はヒカル様に何か無礼な事はしておりませんか?」

「いいえ。3人共、申し訳ないほど良くしてくれています。本当にありがとうございます」

 ブレアナさんと会話をしながら食事をする。服も1週間ほどしたらいくつか仕上がるから楽しみにしていて欲しいと言われた。それ以外にも魔法が使えるようになったことや、俺の体調もかなり良くなったこと、そんなことを話した。

 そしてこの国が行ったことを聞いた話をした時に、ブレアナさんの顔が辛そうな表情に変わった。

「……ヒカル様には国の恥をさらけ出すようで恥ずかしい話なのですが、隠さずにお伝えすべきだと思いました。それとヒカル様に注意していただきたいことがございます」

 ブレアナさんはカトラリーを静かに置くと、真剣な顔で俺を見つめた。

「後にランドルの授業でお話することでしたが、少し事情が変わりまして私の方から先にお伝えいたします」

 ブレアナさんが語った内容は、この国の更なる暴挙だった。

 7代目の神子が召喚された時から、神子はこの国と奴隷契約を結ばされていたというのだ。
 召喚されてすぐは王宮内から出さず、神子を手厚くもてなしていく。神子の力を使えるようになると、世界各国へと旅に出ることになる。その時に他国からこの国にとって邪魔な情報を伝えられ神子に逃げられる可能性があった。

 6代目の神子が一度帰国を渋ったことがあったらしい。その時には既に神子への扱いが酷かったからだろう。
 
 召喚して直ぐの神子はこの世界の事を何も知らない。神子に耳当たりの良い事だけを伝え、この国は素晴らしい所だと説明する。そして神子の力が使えるようになった時点で、魔法契約書にサインさせた。
 契約書の内容は『神子としての働きに対する報酬』の内容だ。だが、その中に小さく『神子は奴隷となる』事が書かれている。それに気づかれない様サインさせ、神子はいつの間にかこの国の奴隷となる。

 そうなれば命令に背くことは出来なくなる。契約を結んでからは神子への態度が一変。自分たちの都合のいい様に神子を扱っていく。旅に出る時も当然、この国の人間が必ず付き神子と離れることはしない。ずっと監視し神子へ命令を行っていく。
 そして旅が終わればこの国へ戻り、奴隷として治癒魔法や豊穣の祈りを捧げ続ける。

 神子が反抗的な態度を取れば躾と称した暴力が振るわれ、その傷を命令によって神子自身が治癒魔法で治していく。だから神子は暴力で死ぬことはない。
 でも心が負った傷、殴られ蹴られる恐怖、その時の痛みを忘れることはない。

 そうして神子は心を病み、傀儡として動くだけの存在となる。

 奴隷契約を結んでいる事実を知っているのは、王族とその側近、そしてこのヘインズ公爵家の者だけだという。

「王宮からヒカル様が神子としての力を使えるようになったらすぐに知らせるようにと伝令が来ました。その時に奴隷契約を結ばされると思います。決して、サインをしてはいけません。どんなことがあろうとも、決してサインすることはおやめください」

 そう語るブレアナさんの顔は泣きそうな表情ながらも、目には力が籠っていた。その真剣な眼差しに俺は息を呑む。

「わかり、ました……。でもヘインズ公爵家の人が知っているなら、そのことを他の人に明らかにすることは出来ないのですか?」

「私も出来るならそうしたいのです。ですが……出来ない事情があります。ですから私からは、ヒカル様にそうお伝えするしか出来ないのです。申し訳ありません……」

 それからヒカル様も奴隷契約の事は他へ漏らすことが無いように。最後にそう付け加えられた。
 
「ヒカル様に火傷の跡があることで、王宮側はヒカル様をうちへと寄こしました。ヒカル様は辛く理不尽な思いをされたと思いますが、結果として良かったと思っています」

 まさか火傷の跡に感謝する日が来るとは思わなかった。この火傷の跡があったからこそ、俺は『化け物』と蔑まされ誰も近寄ってこなかったのだから。
 この時ばかりは、火傷の跡があって良かったと心底思った。

「ヒカル様が神子としての力を発現した時に、しばらくの間だけならこちらで情報操作できるでしょう。ですがいつまでもそれが出来るわけではありません。ヒカル様自身も十分にお気を付けください」

「はい、ありがとうございます」

「すみません、暗い話をして。食事も冷めてしまいましたね。本当に申し訳ありません」

 気にしないで欲しいと伝え、残った料理を口へと運ぶ。美味しかった料理は味がしなかった。

 
 本当にこの国はどこまで最低なんだろうか。
 俺はこの国を出たい。こんなところにいたいとは思わない。

 もし俺が逃げたいと言ったらこの人たちは協力してくれるだろう。だけど俺が逃げたらこの人たちはどうなる?

 こんな酷いことを平気でする国だ。ヘインズ公爵家の人達は簡単に殺されてしまうだろう。

 そうさせないために。この優しい人たちを守るために。俺がこの国から逃げるために。
 俺は強くならないといけない。魔法も、心の強さも。

 ランドル達に相談しよう。俺1人じゃわからないことが多すぎる。きっといつかチャンスが来る。来るはずだ。そう思って俺は出来ることをやろう。

 ヘインズ公爵家の人達を絶対に守りたい。俺にその力があるのなら。
 俺の力は俺と、大切な人の為に使う事にする。

 あんな奴らの好きには絶対にさせてやらない。
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