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12 神子とは

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 オースティンさんはブレアナさんの仕事を手伝わなければならないらしく、早々に部屋を辞した。
 早速ランドルとの勉強会が始まる、とその前に。どうしても俺はやりたいことがあった。
 自分の魔力を感じることが出来たので、早速水を出せるのか試してみたかったのだ。

 洗面台へと向かい、蛇口に向かって手をかざす。そして体内にある自分の魔力を流し込むようにしてみると、ジャーっと勢いよく水が流れて来た。それを見た俺は、ただ水を出しただけなのに物凄く感動してしまった。

「で、出来た!」

「ヒカル様やりましたね! おめでとうございます!」

 双子もランドルも拍手しておめでとうと言ってくれた。たったこれだけの事なのに物凄く嬉しい。こんな感動を覚えたのは本当に久しぶりだ。
 これで風呂も1人で入れるぞ! と思ったが、双子にそれを伝えるとものすごく悲しい顔をされてしまった。
 おまけに「僕達にお世話されるの、嫌だった?」とか「私たちに至らぬところがあれば仰ってください!」と鬼気迫る表情で言われてしまう。十分良くしてもらっているから大丈夫だと、お風呂は今まで1人で入っていたから問題ないと説明しても理解を得ることは出来なかった。
 結局ランドルにまで「双子はヒカル様のお世話をすることが生き甲斐みたいですから取り上げないでください」と言われてしまう。

 ランドルにもそう言われ、泣きそうな顔の双子を目の前にして、俺は結局双子にお世話されることを了承したのだった。まぁ双子が本当に喜んでくれたから良かったんだけど……。

「では早速始めましょうか」

 俺が確認したかった『水を出せるかどうか』がわかったので、早速ランドルの勉強会が始まった。

 まず神子とは何か。話はそこから始まった。
 神子は異世界からこの世界へと召喚された者である。この世界へ呼ばれると、元居た世界から神子の存在は消えてなくなる。その代わり女神テラから大いなる加護を授けられ、この世界の人間には扱えない特別な力が振るえるようになる。

 それが『治癒魔法』、『浄化』、『豊穣の祈り』、『結界石の強化』の4つ。

 そもそも神子を呼ぶようになった経緯だが、突然この世界に瘴気が蔓延る様になったそうだ。それが大体1100年程昔。
 それまで神と人は近い存在であり、度々人間界へと姿を現していた女神と眷属のお陰で世界の瘴気は自然と薄れていった。だが女神テラの父親である創造神ルマロスが、女神テラが人間界に降り立つことを禁止した。何故かというと神が直接世界に手を貸すことは世界の成長を止めるかららしい。

 それから女神テラと眷属たちは人間界に現れることは無くなった。その為、瘴気が増え続けその影響により魔物が暴走。人々を襲うようになり、被害は段々と拡大していった。

 だが人間側も何もしていなかったわけじゃない。女神テラの眷属である神獣人の子孫を筆頭に、増えていく瘴気を浄化していった。だが瘴気が増える方が早く浄化が追い付かなくなっていく。

 その様子を見ていた女神テラは『このままでは自分の世界が無くなってしまう』と危機感を抱いた。だが自分が直接手を下すことも出来ずこの世界の人々に任せるしかない。だがこのままではこの世界が滅亡してしまう。

 それで取った方法が、女神テラが興した国『サザラテラ王国』を治める女神テラの息子フェニックスの子孫に、異世界から神子を呼ぶための召喚陣を授けることだった。
 異世界からこの世界へと顕現する直前は、この世界とはギリギリ関りが無い状態。その隙を利用し特別な加護を授け、その加護があれば瘴気を払い魔物の暴走を止めることが出来る。

 この世界の人々に加護を授けることは出来ないが、この方法なら女神の力の一端を使える人間を送ることが出来る。

 そして異世界から召喚された神子は、世界の瘴気を浄化し、傷ついた人々を癒し、実り豊かになる様祈りを捧げ、再び魔物に襲われない様結界を張った。

 女神でしか成しえないことを異世界の神子はいとも簡単に行っていく。そのお陰で神子の地位は高くなり崇め奉られることになった。

 そして100年に一度異世界から神子を召喚し、その力を以てこの世界は安寧を手に入れることになった。

 これが神子の歴史だ。

 まぁぶっちゃければ、女神が自分の作った世界が大切過ぎて構い過ぎたら父親に怒られて出禁にさせられた。そしたら世界が消滅するかも知れない事態に陥り、やばい! と思ったが女神が『じゃあ異世界から呼べばいいよね?』と安直に考え実行したということだ。

 勝手に呼ばれた人間はたまったもんじゃない。もう2度と元の世界には戻れないし、全く関係のないこの世界が消滅しない様馬車馬のごとく働かされたんだ。だから神子の機嫌を損ねない様、神子を誉めそやし大事に大事に扱った。

 勝手に呼ばれた側とすれば、それくらいして貰わなければ割に合わないと思う。神子召喚なんて、本当にこの世界の自分勝手な都合だ。

 そして今回、神子召喚が始まって丁度1000年で、10代目に俺が召喚された。だが俺は醜いからという理由で、酷い扱いを受けることになった。

 その理由だが、神子を召喚することでこの世界は瘴気と魔物の脅威に怯えることが無くなった。召喚が始まり1000年という長い時間が過ぎ、そのせいでこの世界、特にこの国は神子や神獣人に対しての認識がかなり変わってしまったからだそうだ。

 5代目の神子辺りから扱いが段々とおざなりになり始め、それは徐々に加速していくことになった。

「自分たちの世界の事であるのに、他の世界から神子を呼べばそれでこの世界は守られる。神子は大切にするべき人ではなく、この世界を守るだけの道具になったのです。本当にどこから変わってしまったんでしょうね……」

 そう語るランドルは悲痛な面持ちだった。
 このヘインズ公爵家は元々神獣人の子孫だからこそ、神子や神獣人に関してかなり大切に扱ってきた。ヘインズ公爵家の関係者は幼い頃から神子や神獣人に関してきちんと教育されていくらしい。

 ランドルも、そして俺の世話係である双子も公爵家所縁の者だ。当然その教育はしっかりと受けている。だからこそ俺の顔に大きな火傷の跡があって醜かろうと関係ないのだと言う。
 神子は神子。この世界に呼ばれた貴ぶべき人。この世界の為に力を貸してくれる奇跡の方。そう思っているらしい。

 だからこそ、この国が俺にしたことが許せないと公爵家の関係者は皆憤慨しているそうだ。

 本当にこの公爵家へと来ることが出来て良かったと、心から思った。
 
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