12 / 53
12 神子とは
しおりを挟む
オースティンさんはブレアナさんの仕事を手伝わなければならないらしく、早々に部屋を辞した。
早速ランドルとの勉強会が始まる、とその前に。どうしても俺はやりたいことがあった。
自分の魔力を感じることが出来たので、早速水を出せるのか試してみたかったのだ。
洗面台へと向かい、蛇口に向かって手をかざす。そして体内にある自分の魔力を流し込むようにしてみると、ジャーっと勢いよく水が流れて来た。それを見た俺は、ただ水を出しただけなのに物凄く感動してしまった。
「で、出来た!」
「ヒカル様やりましたね! おめでとうございます!」
双子もランドルも拍手しておめでとうと言ってくれた。たったこれだけの事なのに物凄く嬉しい。こんな感動を覚えたのは本当に久しぶりだ。
これで風呂も1人で入れるぞ! と思ったが、双子にそれを伝えるとものすごく悲しい顔をされてしまった。
おまけに「僕達にお世話されるの、嫌だった?」とか「私たちに至らぬところがあれば仰ってください!」と鬼気迫る表情で言われてしまう。十分良くしてもらっているから大丈夫だと、お風呂は今まで1人で入っていたから問題ないと説明しても理解を得ることは出来なかった。
結局ランドルにまで「双子はヒカル様のお世話をすることが生き甲斐みたいですから取り上げないでください」と言われてしまう。
ランドルにもそう言われ、泣きそうな顔の双子を目の前にして、俺は結局双子にお世話されることを了承したのだった。まぁ双子が本当に喜んでくれたから良かったんだけど……。
「では早速始めましょうか」
俺が確認したかった『水を出せるかどうか』がわかったので、早速ランドルの勉強会が始まった。
まず神子とは何か。話はそこから始まった。
神子は異世界からこの世界へと召喚された者である。この世界へ呼ばれると、元居た世界から神子の存在は消えてなくなる。その代わり女神テラから大いなる加護を授けられ、この世界の人間には扱えない特別な力が振るえるようになる。
それが『治癒魔法』、『浄化』、『豊穣の祈り』、『結界石の強化』の4つ。
そもそも神子を呼ぶようになった経緯だが、突然この世界に瘴気が蔓延る様になったそうだ。それが大体1100年程昔。
それまで神と人は近い存在であり、度々人間界へと姿を現していた女神と眷属のお陰で世界の瘴気は自然と薄れていった。だが女神テラの父親である創造神ルマロスが、女神テラが人間界に降り立つことを禁止した。何故かというと神が直接世界に手を貸すことは世界の成長を止めるかららしい。
それから女神テラと眷属たちは人間界に現れることは無くなった。その為、瘴気が増え続けその影響により魔物が暴走。人々を襲うようになり、被害は段々と拡大していった。
だが人間側も何もしていなかったわけじゃない。女神テラの眷属である神獣人の子孫を筆頭に、増えていく瘴気を浄化していった。だが瘴気が増える方が早く浄化が追い付かなくなっていく。
その様子を見ていた女神テラは『このままでは自分の世界が無くなってしまう』と危機感を抱いた。だが自分が直接手を下すことも出来ずこの世界の人々に任せるしかない。だがこのままではこの世界が滅亡してしまう。
それで取った方法が、女神テラが興した国『サザラテラ王国』を治める女神テラの息子フェニックスの子孫に、異世界から神子を呼ぶための召喚陣を授けることだった。
異世界からこの世界へと顕現する直前は、この世界とはギリギリ関りが無い状態。その隙を利用し特別な加護を授け、その加護があれば瘴気を払い魔物の暴走を止めることが出来る。
この世界の人々に加護を授けることは出来ないが、この方法なら女神の力の一端を使える人間を送ることが出来る。
そして異世界から召喚された神子は、世界の瘴気を浄化し、傷ついた人々を癒し、実り豊かになる様祈りを捧げ、再び魔物に襲われない様結界を張った。
女神でしか成しえないことを異世界の神子はいとも簡単に行っていく。そのお陰で神子の地位は高くなり崇め奉られることになった。
そして100年に一度異世界から神子を召喚し、その力を以てこの世界は安寧を手に入れることになった。
これが神子の歴史だ。
まぁぶっちゃければ、女神が自分の作った世界が大切過ぎて構い過ぎたら父親に怒られて出禁にさせられた。そしたら世界が消滅するかも知れない事態に陥り、やばい! と思ったが女神が『じゃあ異世界から呼べばいいよね?』と安直に考え実行したということだ。
勝手に呼ばれた人間はたまったもんじゃない。もう2度と元の世界には戻れないし、全く関係のないこの世界が消滅しない様馬車馬のごとく働かされたんだ。だから神子の機嫌を損ねない様、神子を誉めそやし大事に大事に扱った。
勝手に呼ばれた側とすれば、それくらいして貰わなければ割に合わないと思う。神子召喚なんて、本当にこの世界の自分勝手な都合だ。
そして今回、神子召喚が始まって丁度1000年で、10代目に俺が召喚された。だが俺は醜いからという理由で、酷い扱いを受けることになった。
その理由だが、神子を召喚することでこの世界は瘴気と魔物の脅威に怯えることが無くなった。召喚が始まり1000年という長い時間が過ぎ、そのせいでこの世界、特にこの国は神子や神獣人に対しての認識がかなり変わってしまったからだそうだ。
5代目の神子辺りから扱いが段々とおざなりになり始め、それは徐々に加速していくことになった。
「自分たちの世界の事であるのに、他の世界から神子を呼べばそれでこの世界は守られる。神子は大切にするべき人ではなく、この世界を守るだけの道具になったのです。本当にどこから変わってしまったんでしょうね……」
そう語るランドルは悲痛な面持ちだった。
このヘインズ公爵家は元々神獣人の子孫だからこそ、神子や神獣人に関してかなり大切に扱ってきた。ヘインズ公爵家の関係者は幼い頃から神子や神獣人に関してきちんと教育されていくらしい。
ランドルも、そして俺の世話係である双子も公爵家所縁の者だ。当然その教育はしっかりと受けている。だからこそ俺の顔に大きな火傷の跡があって醜かろうと関係ないのだと言う。
神子は神子。この世界に呼ばれた貴ぶべき人。この世界の為に力を貸してくれる奇跡の方。そう思っているらしい。
だからこそ、この国が俺にしたことが許せないと公爵家の関係者は皆憤慨しているそうだ。
本当にこの公爵家へと来ることが出来て良かったと、心から思った。
早速ランドルとの勉強会が始まる、とその前に。どうしても俺はやりたいことがあった。
自分の魔力を感じることが出来たので、早速水を出せるのか試してみたかったのだ。
洗面台へと向かい、蛇口に向かって手をかざす。そして体内にある自分の魔力を流し込むようにしてみると、ジャーっと勢いよく水が流れて来た。それを見た俺は、ただ水を出しただけなのに物凄く感動してしまった。
「で、出来た!」
「ヒカル様やりましたね! おめでとうございます!」
双子もランドルも拍手しておめでとうと言ってくれた。たったこれだけの事なのに物凄く嬉しい。こんな感動を覚えたのは本当に久しぶりだ。
これで風呂も1人で入れるぞ! と思ったが、双子にそれを伝えるとものすごく悲しい顔をされてしまった。
おまけに「僕達にお世話されるの、嫌だった?」とか「私たちに至らぬところがあれば仰ってください!」と鬼気迫る表情で言われてしまう。十分良くしてもらっているから大丈夫だと、お風呂は今まで1人で入っていたから問題ないと説明しても理解を得ることは出来なかった。
結局ランドルにまで「双子はヒカル様のお世話をすることが生き甲斐みたいですから取り上げないでください」と言われてしまう。
ランドルにもそう言われ、泣きそうな顔の双子を目の前にして、俺は結局双子にお世話されることを了承したのだった。まぁ双子が本当に喜んでくれたから良かったんだけど……。
「では早速始めましょうか」
俺が確認したかった『水を出せるかどうか』がわかったので、早速ランドルの勉強会が始まった。
まず神子とは何か。話はそこから始まった。
神子は異世界からこの世界へと召喚された者である。この世界へ呼ばれると、元居た世界から神子の存在は消えてなくなる。その代わり女神テラから大いなる加護を授けられ、この世界の人間には扱えない特別な力が振るえるようになる。
それが『治癒魔法』、『浄化』、『豊穣の祈り』、『結界石の強化』の4つ。
そもそも神子を呼ぶようになった経緯だが、突然この世界に瘴気が蔓延る様になったそうだ。それが大体1100年程昔。
それまで神と人は近い存在であり、度々人間界へと姿を現していた女神と眷属のお陰で世界の瘴気は自然と薄れていった。だが女神テラの父親である創造神ルマロスが、女神テラが人間界に降り立つことを禁止した。何故かというと神が直接世界に手を貸すことは世界の成長を止めるかららしい。
それから女神テラと眷属たちは人間界に現れることは無くなった。その為、瘴気が増え続けその影響により魔物が暴走。人々を襲うようになり、被害は段々と拡大していった。
だが人間側も何もしていなかったわけじゃない。女神テラの眷属である神獣人の子孫を筆頭に、増えていく瘴気を浄化していった。だが瘴気が増える方が早く浄化が追い付かなくなっていく。
その様子を見ていた女神テラは『このままでは自分の世界が無くなってしまう』と危機感を抱いた。だが自分が直接手を下すことも出来ずこの世界の人々に任せるしかない。だがこのままではこの世界が滅亡してしまう。
それで取った方法が、女神テラが興した国『サザラテラ王国』を治める女神テラの息子フェニックスの子孫に、異世界から神子を呼ぶための召喚陣を授けることだった。
異世界からこの世界へと顕現する直前は、この世界とはギリギリ関りが無い状態。その隙を利用し特別な加護を授け、その加護があれば瘴気を払い魔物の暴走を止めることが出来る。
この世界の人々に加護を授けることは出来ないが、この方法なら女神の力の一端を使える人間を送ることが出来る。
そして異世界から召喚された神子は、世界の瘴気を浄化し、傷ついた人々を癒し、実り豊かになる様祈りを捧げ、再び魔物に襲われない様結界を張った。
女神でしか成しえないことを異世界の神子はいとも簡単に行っていく。そのお陰で神子の地位は高くなり崇め奉られることになった。
そして100年に一度異世界から神子を召喚し、その力を以てこの世界は安寧を手に入れることになった。
これが神子の歴史だ。
まぁぶっちゃければ、女神が自分の作った世界が大切過ぎて構い過ぎたら父親に怒られて出禁にさせられた。そしたら世界が消滅するかも知れない事態に陥り、やばい! と思ったが女神が『じゃあ異世界から呼べばいいよね?』と安直に考え実行したということだ。
勝手に呼ばれた人間はたまったもんじゃない。もう2度と元の世界には戻れないし、全く関係のないこの世界が消滅しない様馬車馬のごとく働かされたんだ。だから神子の機嫌を損ねない様、神子を誉めそやし大事に大事に扱った。
勝手に呼ばれた側とすれば、それくらいして貰わなければ割に合わないと思う。神子召喚なんて、本当にこの世界の自分勝手な都合だ。
そして今回、神子召喚が始まって丁度1000年で、10代目に俺が召喚された。だが俺は醜いからという理由で、酷い扱いを受けることになった。
その理由だが、神子を召喚することでこの世界は瘴気と魔物の脅威に怯えることが無くなった。召喚が始まり1000年という長い時間が過ぎ、そのせいでこの世界、特にこの国は神子や神獣人に対しての認識がかなり変わってしまったからだそうだ。
5代目の神子辺りから扱いが段々とおざなりになり始め、それは徐々に加速していくことになった。
「自分たちの世界の事であるのに、他の世界から神子を呼べばそれでこの世界は守られる。神子は大切にするべき人ではなく、この世界を守るだけの道具になったのです。本当にどこから変わってしまったんでしょうね……」
そう語るランドルは悲痛な面持ちだった。
このヘインズ公爵家は元々神獣人の子孫だからこそ、神子や神獣人に関してかなり大切に扱ってきた。ヘインズ公爵家の関係者は幼い頃から神子や神獣人に関してきちんと教育されていくらしい。
ランドルも、そして俺の世話係である双子も公爵家所縁の者だ。当然その教育はしっかりと受けている。だからこそ俺の顔に大きな火傷の跡があって醜かろうと関係ないのだと言う。
神子は神子。この世界に呼ばれた貴ぶべき人。この世界の為に力を貸してくれる奇跡の方。そう思っているらしい。
だからこそ、この国が俺にしたことが許せないと公爵家の関係者は皆憤慨しているそうだ。
本当にこの公爵家へと来ることが出来て良かったと、心から思った。
49
お気に入りに追加
1,068
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
メランコリック・ハートビート
おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】
------------------------------------------------------
『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』
あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。
-------------------------------------------------------
第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。
幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる