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10 神獣人と先祖返り

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「あの……俺の顔には醜い火傷の跡があるんですけど、その……気持ち悪くない、ですか?」

 よく考えれば髪で隠しているとはいえ、俺の火傷の跡を見ながら食事してるんだよな。普通なら気分が悪くなるはずなのに、ブレアナさんの表情も俺を見る目がいたって普通に感じる。

「ああ、そのことですか。オースティンから聞いています。正直申しますと、驚きはしましたがそれだけですね。それほど大きな火傷を負われたのですから、当時は大変だったことと思います。ですが生きていてくださったお陰でこうしてお会いすることが出来ました。とても光栄な事と思いますし、気持ち悪いなどと思う事はございません」

 ブレアナさんはドキッとするくらい綺麗な表情で微笑んでくれた。美女の微笑み凄い……。男装していても綺麗なものは綺麗なんだな。

「あ、りがとうございます……」

「いえ、お礼を言われるほどの事ではありませんよ。ふふ。むしろお可愛らしくてどうしようかと」

 また可愛いって言われた!? ちょっとブレアナさんの感性を疑ってしまう……。

「姉上……。ヒカル様が困っている。程々にしてくれ」

「お前とは違って可愛いからつい。そうだ! まだ服なども仕立てなければいけませんし、今度ヒカル様のお体の採寸を致しましょう! それから沢山服を作りますので楽しみにしていて下さいね!」

「え、あの……」

「ああ、楽しみが増えました! きっとどんな服もお似合いになると思います。その黒い髪に映える服を仕立てなければ! ジャック、手配をお願い」

 なんだか勝手に色々と話が進んで行ってどうしていいかわからない。

「ヒカル様、悪いが諦めてくれ。姉上は気に入った人間にはこうなる。ある種の病気だ」

「オースティンさん……」

 にこにこと楽しそうなブレアナさんと相変らず無表情のオースティンさん。どちらも美形な姉弟だがなんだか対照的な2人だ。
 それと顔が余り似ていない感じがする。ブレアナさんも物凄い美女だけど、オースティンさんはそれ以上に綺麗な顔をしている。なんというか人間離れしているというか……。

 鱗や瞳孔が縦になった瞳だからそう思うのかもしれないけど、なんて言うか本当に人間なのか疑わしいくらいの美形だ。

「? 私の顔に何かついているか?」

「あ、すみません! そうじゃなくて……」

 じろじろと見ていたらオースティンさんに気付かれてしまった。男の人に綺麗だって言っても嬉しくないよな。どういい訳しようかと悩んで何も言えなくなってしまった。あんな風に見られていたら嫌だよな。そんなこと俺が一番わかってるのに何やってんだよ……。

「ふふ。きっとオースティンの顔に付いている鱗や瞳が気になるのではなくて?」

「すみません……その、綺麗だなと思ってしまって……ってすみません! あの、男の人に綺麗は、だめ、でしたよね……ほんと、すみません……」

 あー……もう最悪だ。俺何言ってんだよホントに。

「「綺麗……?」」

 あれ? 何か思ってた反応と違う……。2人して、というかブレアナさんはキョトンとした顔になってる。オースティンさんは相変らずの無表情だけど。でも声被ってたし。

「ありがとうございます、ヒカル様。そう言っていただけて嬉しいです」

「え……?」

 何故かブレアナさんにお礼を言われてしまった。というか、綺麗だと言って大丈夫だったのだろうか。

「オースティンのこの鱗や瞳は『先祖返り』なんですよ。神獣人、って言われてもまだヒカル様にはわからないですよね。神獣人というのは――」

 ブレアナさん曰く、1200年程昔まで神と人はとても身近な存在だったそうだ。

 この世界は女神テラが作った世界。そして女神テラはよくこの人間界に顕現しては、この世界の人々と交流をしていたそうだ。
 そして女神テラの眷属である神獣人は、いわば女神テラの子供達。女神テラと同じようによく姿を現しては人々と交流をし、中には人と結婚し子供を設けてもいたらしい。

 最初は少なかったこの世界の人口も徐々に増えていった為、その人間たちを纏めるために女神テラは国を興した。それが今いるこの国、『サザラテラ王国』の始まりだそうだ。
 初代の国王は女神テラの長男であるフェニックスの子孫。それは今の時代も続いている。

 なるほど。王宮で監禁されていた時に読んだ本の内容は、このことだったんだ。

 そしてこのヘインズ公爵家も白蛇の神獣人の子孫らしい。だからオースティンさんは先祖である白蛇の特徴が表れたのだそうだ。

「昔は神獣人の特徴が表れた人間もちらほらといたらしいのですが、ここ300年程はそういった人間は現れなかったのです。長く『先祖返り』を持つ人間が現れなかったことでオースティンは気味悪がられました。本来は祝福すべきことなのですが、その習慣はとっくに風化してしまったのです」

 そうか。だから王宮であの白い服を着た男はオースティンさんのことを『化け物』と言っていたんだ。

「ヘインズ公爵家やその関係者はオースティンを気味悪がることはありません。ですがその他の人々からすれば異形に映るらしく……。ですからヒカル様がオースティンを綺麗だと仰っていただけて、本当に嬉しいのです」

 ブレアナさんのオースティンさんを見る目が本当に優しくて、その姿を見るだけでいいお姉さんなんだなと分かる。

「この世界に来てくださった神子様がヒカル様で本当に良かった」

 ああ、そうか。ブレアナさんの言葉でなんとなくわかってしまった。
 もし呼ばれた神子がオースティンさんを見て『気持ち悪い』と言わないか、本当は不安だったんだ。
 この世界の人間ですらオースティンさんを『化け物』と言うならば、違う世界から来た神子はその気持ちが強いんじゃないか。そう思うのも無理はないのだろう。

「俺はオースティンさんが気持ち悪いとか化け物だとか思っていません。初めて会った時から綺麗だと思ったので、俺みたいに化け物と言われていたことが不思議だったんです」

「本当にこの国の人間が神子であるヒカル様にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ですがこの公爵家ではそのような事は決して致しません。安心してのびのびとお過ごしいただければと思います」

「ありがとうございます」

 俺の右半身にこの火傷の跡が無かったら、王宮であんな風にされたことはなかったのかもしれない。だけどあの人たちの本性を知った今は、この公爵家に迎えて貰って良かったと思う。
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