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7 最も尊い奇跡の方
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そして翌朝。
すっきりとした気分で目が覚める。体を起こすと気だるさは残るが昨日までより遥かに体の調子が良い。
精神的にも落ち着いたからだろうか。
それにしても。ここは昨日案内された部屋だ。こんなに広く立派な部屋に案内されて、そのまま眠くなってしまったからそのままここに寝かせてくれたんだろう。今日は別の部屋に移動になるだろうな。このままここを使ってしまって申し訳ない。
ふとベッドの脇にあるサイドテーブルを見ると、その上にメモ紙と小さなベルが置かれていた。メモ紙を手に取ってみる。
『神子様、目が覚めましたらこちらのベルを鳴らしてください。レイフ』
メモにはそう書かれていたのでとりあえずベルを手に持ち横に振ってみた。ちりんちりんと少し高い、綺麗な音が鳴った。
「神子様、失礼いたします」
ベルが鳴ってすぐ、扉がノックされすぐにそれは開いた。中に入って来たのはレイフただ一人。「神子様おはようございます」と俺に向かって軽くお辞儀をすると、さっとカーテンを開けた。明るい外の日差しが部屋の中いっぱいに広がり、雰囲気が一瞬で変わる。
「さて、もうすぐローリーがハーブティーをお持ち致しますのでしばらくだけお待ちください。それを飲んだら顔を洗って着替えましょう」
昨日と同様、こんな化け物の俺に向かってにこやかに話しかけてくれるレイフ。その彼に向って小さくだが「おはよう」と言うと、ますます笑みを深くした。
「神子様~、おはようございまーす! 目覚めのハーブティーを持ってきたよ~」
また扉が開き入って来たのは朝から元気いっぱいのローリーだった。俺の側へ来ると、トレイをスッと前に差し出す。その上に置かれているハーブティーの入ったカップを受け取り「ありがとう」と言った。するとローリーも嬉しそうに「どういたしまして!」と答えてくれる。
なんだか不思議な気分だ。ここへ来てから誰も俺に対して嫌な顔一つしない。それどころかとてもいい表情で接してくれる。
心の内までは分からないが、こんな風にされると心の奥がむず痒く感じてしまう。
「あ、美味しい」
「良かった~。朝だからすっきりしたハーブティーにしたんだよ。気に入ってもらえてよかった!」
ハーブティーを飲み干すと洗面台へと案内され、レイフが蛇口に手をかざすと水が出て来た。なるほど。魔力を注げばこうやって水が出てくるのか。
今の俺は魔力を扱う事が出来ない。こうやって何気ないことも彼らに頼らないと何も出来ないことが悔しいと思う。
着替えも済ませると、昨日食事をしたテーブルにはまた食事が用意されていた。昨日と同じようなリゾットとスープ、そしてプリンのような物も置かれている。
「さ、朝食を召し上がってください」
昨日より、米の形がはっきりとしたリゾットを口に運ぶ。今日のリゾットもとても優しい味がした。スープはカボチャのポタージュで甘くて美味しかった。それらを食べ切るとプリンのようなものに手を伸ばす。
それをスプーンで掬い一口口に入れると、間違いなくプリンだった。まさか異世界に来ても前の世界と同じような食事やお菓子が食べられるとは思わなかった。
久しぶりに食べた甘い物は驚くほどに美味しかった。甘党というわけじゃないけど、こんなプリン食べたら甘党になりそうだ。
「うん、神子様の食欲もちゃんとあって全部食べてくれてよかった!」
「お口に合ったようで良かったです。お体の調子が大丈夫であれば、オースティン様がこちらへと参られますが神子様は大丈夫でしょうか?」
そうだった。昨日直ぐに寝てしまったからまともに挨拶もしていない。体は大丈夫だからと伝えると、レイフはにっこり笑って「オースティン様へ知らせてきます」と言って部屋を出ていった。
その間にローリーが「オースティン様が来るから髪も軽く結っておこう」と言って髪に手を伸ばした。だけど俺はそれに待ったをかける。
「ごめん、髪は降ろしておきたいんだ。火傷の跡があるし、隠しておきたくて……」
「神子様……。うーん、オースティン様は別に気にしないと思うけど……でも神子様が嫌ならやめとくね」
ここにきてまだ1日目。今のところ会ったことのある人皆俺に良くしてくれるけど、本心はわからない。もしかしたら気持ち悪いと思ってるかもしれない。それならあまり見られたくはない。
まだよくわからないのと、俺自身が大ぴらに見られる勇気がない以上、髪は降ろして隠しておきたい。
食後のハーブティーを飲みながらしばらく待っていると、扉がノックされレイフの声が聞えた。オースティンさんと一緒にここへ来たらしい。返事をして中へと入ってもらう。
部屋へと入って来たオースティンさんはやはり背が凄く高いらしく、レイフよりも頭一つ分は抜き出てる。そしてやっぱり物凄く綺麗な人だなと思ってしまう。こんな綺麗な人なのにどうして化け物だなんて言われるんだろうか。
「神子様、体調は問題ないと聞いている。昨夜もよく眠れたようだな」
「あ、はい。お陰様でゆっくりできました。こんないい部屋で眠ってしまってすみません。ありがとうございました」
オースティンさんが向かいに座るなり、直ぐに口を開きそれに返事をした。が、その瞬間レイフもローリーも首を傾げた。オースティンさんはあまり表情が変わらない人なのか、昨日見た時の表情とあまり変わらないからよくわからなかったけど。
「神子様、ここは神子様の部屋ですよ」
「あ、そういえば昨日ちゃんと説明してなかったかも。ごめんね、神子様」
え? この広くて立派な綺麗な部屋が、俺の部屋?
「いや、俺はこんないい部屋にいていい人間じゃないし、もっと狭くていいんだけど……」
俺がそう言えばレイフもローリーもぎょっとした顔をして首を勢いよく横にぶんぶんと振っている。流石双子。行動もそっくりだ。
「何言ってるんですか神子様!? 神子様はこの国、いえ、この世界で最も尊い方なんですよ!?」
「そうだよ神子様! 本当は王宮で一番いい部屋を与えられるべき人で、王族よりも本当は偉い人なんだよ!?」
「え? でも俺はそんなこと言われてないし、化け物だって言われてたし……」
「「化け物!? あんのクソ共がッ!!」」
一言一句全く狂わず双子は息ぴったりに同じ言葉を同じテンションで話した。あの丁寧なレイフもだ。顔も般若のようで少し怖い。
すっきりとした気分で目が覚める。体を起こすと気だるさは残るが昨日までより遥かに体の調子が良い。
精神的にも落ち着いたからだろうか。
それにしても。ここは昨日案内された部屋だ。こんなに広く立派な部屋に案内されて、そのまま眠くなってしまったからそのままここに寝かせてくれたんだろう。今日は別の部屋に移動になるだろうな。このままここを使ってしまって申し訳ない。
ふとベッドの脇にあるサイドテーブルを見ると、その上にメモ紙と小さなベルが置かれていた。メモ紙を手に取ってみる。
『神子様、目が覚めましたらこちらのベルを鳴らしてください。レイフ』
メモにはそう書かれていたのでとりあえずベルを手に持ち横に振ってみた。ちりんちりんと少し高い、綺麗な音が鳴った。
「神子様、失礼いたします」
ベルが鳴ってすぐ、扉がノックされすぐにそれは開いた。中に入って来たのはレイフただ一人。「神子様おはようございます」と俺に向かって軽くお辞儀をすると、さっとカーテンを開けた。明るい外の日差しが部屋の中いっぱいに広がり、雰囲気が一瞬で変わる。
「さて、もうすぐローリーがハーブティーをお持ち致しますのでしばらくだけお待ちください。それを飲んだら顔を洗って着替えましょう」
昨日と同様、こんな化け物の俺に向かってにこやかに話しかけてくれるレイフ。その彼に向って小さくだが「おはよう」と言うと、ますます笑みを深くした。
「神子様~、おはようございまーす! 目覚めのハーブティーを持ってきたよ~」
また扉が開き入って来たのは朝から元気いっぱいのローリーだった。俺の側へ来ると、トレイをスッと前に差し出す。その上に置かれているハーブティーの入ったカップを受け取り「ありがとう」と言った。するとローリーも嬉しそうに「どういたしまして!」と答えてくれる。
なんだか不思議な気分だ。ここへ来てから誰も俺に対して嫌な顔一つしない。それどころかとてもいい表情で接してくれる。
心の内までは分からないが、こんな風にされると心の奥がむず痒く感じてしまう。
「あ、美味しい」
「良かった~。朝だからすっきりしたハーブティーにしたんだよ。気に入ってもらえてよかった!」
ハーブティーを飲み干すと洗面台へと案内され、レイフが蛇口に手をかざすと水が出て来た。なるほど。魔力を注げばこうやって水が出てくるのか。
今の俺は魔力を扱う事が出来ない。こうやって何気ないことも彼らに頼らないと何も出来ないことが悔しいと思う。
着替えも済ませると、昨日食事をしたテーブルにはまた食事が用意されていた。昨日と同じようなリゾットとスープ、そしてプリンのような物も置かれている。
「さ、朝食を召し上がってください」
昨日より、米の形がはっきりとしたリゾットを口に運ぶ。今日のリゾットもとても優しい味がした。スープはカボチャのポタージュで甘くて美味しかった。それらを食べ切るとプリンのようなものに手を伸ばす。
それをスプーンで掬い一口口に入れると、間違いなくプリンだった。まさか異世界に来ても前の世界と同じような食事やお菓子が食べられるとは思わなかった。
久しぶりに食べた甘い物は驚くほどに美味しかった。甘党というわけじゃないけど、こんなプリン食べたら甘党になりそうだ。
「うん、神子様の食欲もちゃんとあって全部食べてくれてよかった!」
「お口に合ったようで良かったです。お体の調子が大丈夫であれば、オースティン様がこちらへと参られますが神子様は大丈夫でしょうか?」
そうだった。昨日直ぐに寝てしまったからまともに挨拶もしていない。体は大丈夫だからと伝えると、レイフはにっこり笑って「オースティン様へ知らせてきます」と言って部屋を出ていった。
その間にローリーが「オースティン様が来るから髪も軽く結っておこう」と言って髪に手を伸ばした。だけど俺はそれに待ったをかける。
「ごめん、髪は降ろしておきたいんだ。火傷の跡があるし、隠しておきたくて……」
「神子様……。うーん、オースティン様は別に気にしないと思うけど……でも神子様が嫌ならやめとくね」
ここにきてまだ1日目。今のところ会ったことのある人皆俺に良くしてくれるけど、本心はわからない。もしかしたら気持ち悪いと思ってるかもしれない。それならあまり見られたくはない。
まだよくわからないのと、俺自身が大ぴらに見られる勇気がない以上、髪は降ろして隠しておきたい。
食後のハーブティーを飲みながらしばらく待っていると、扉がノックされレイフの声が聞えた。オースティンさんと一緒にここへ来たらしい。返事をして中へと入ってもらう。
部屋へと入って来たオースティンさんはやはり背が凄く高いらしく、レイフよりも頭一つ分は抜き出てる。そしてやっぱり物凄く綺麗な人だなと思ってしまう。こんな綺麗な人なのにどうして化け物だなんて言われるんだろうか。
「神子様、体調は問題ないと聞いている。昨夜もよく眠れたようだな」
「あ、はい。お陰様でゆっくりできました。こんないい部屋で眠ってしまってすみません。ありがとうございました」
オースティンさんが向かいに座るなり、直ぐに口を開きそれに返事をした。が、その瞬間レイフもローリーも首を傾げた。オースティンさんはあまり表情が変わらない人なのか、昨日見た時の表情とあまり変わらないからよくわからなかったけど。
「神子様、ここは神子様の部屋ですよ」
「あ、そういえば昨日ちゃんと説明してなかったかも。ごめんね、神子様」
え? この広くて立派な綺麗な部屋が、俺の部屋?
「いや、俺はこんないい部屋にいていい人間じゃないし、もっと狭くていいんだけど……」
俺がそう言えばレイフもローリーもぎょっとした顔をして首を勢いよく横にぶんぶんと振っている。流石双子。行動もそっくりだ。
「何言ってるんですか神子様!? 神子様はこの国、いえ、この世界で最も尊い方なんですよ!?」
「そうだよ神子様! 本当は王宮で一番いい部屋を与えられるべき人で、王族よりも本当は偉い人なんだよ!?」
「え? でも俺はそんなこと言われてないし、化け物だって言われてたし……」
「「化け物!? あんのクソ共がッ!!」」
一言一句全く狂わず双子は息ぴったりに同じ言葉を同じテンションで話した。あの丁寧なレイフもだ。顔も般若のようで少し怖い。
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