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6 優しい双子

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「神子様、私はレイフと申します。よろしくお願いいたします」

「神子様、僕はローリー。これからよろしくね!」

 この部屋の中にいた男がそれぞれにこにこと笑って自己紹介をしてくれた。

「レイフさんとローリーさん……」

「神子様、さん付けは不要でございます」

 そう言われてしまったので、申し訳ないなと思いつつもそうさせてもらう事にした。
 
 レイフは長い髪を後ろに一括りにしていて、ローリーは逆にかなり短くさっぱりとした髪型だ。髪色はどちらも青色で瞳はブラウン。レイフはおっとりとした雰囲気に対し、ローリーは活発な感じだ。
 だが顔がそっくり。髪型が同じだったら見分けがつかないほどにそっくりだ。

「……もしかして双子?」

「はい。一応私が兄で、ローリーが弟になります」

「兄上と一緒に神子様のお世話係になったんだ。じゃあ早速お風呂にしようね!」

「ローリー! 神子様になんて口の利き方をっ……」

「えー、別にいいじゃん。神子様だって堅苦しいのばっかりだと疲れちゃうって。ささ、神子様~。お風呂に入ってさっぱりして、美味しいご飯食べましょうね~」

「ローリー!」

 2人のやりとりを戸惑いつつ眺めていたら、ローリーが俺を軽々と横抱きにして抱えると移動を始めた。レイフが扉を開け中へと入る。

「神子様軽すぎっ! これからいっぱい食べてもうちょっと太った方がいいよ! ここのご飯美味しいし、きっと神子様もたくさん食べてくれるはずだから楽しみだね」

 この2人もオースティン同様、俺に触れるのも全く戸惑うこともなく普通に接してくれる。前の世界ですらなかなかない経験だ。俺の見た目が気持ち悪くないんだろうか。それとも内心そう思っていても、顔に出さない様我慢しているのかもしれない。

 ローリーは俺をそっと立たせると「じゃあ服を脱いでいこうねー」と俺の服に手を掛けた。そのまま脱がされそうになり、驚いた俺はその手を止める。

「ちょ、待って!? 風呂なら使い方を教えてくれれば自分でっ……」

「はいだめー。神子様今弱ってるでしょ? そんな状態で1人で入らせられるわけないじゃん」

「ローリーの言う通りです。私たちは神子様のお世話係ですからこういったことも我々の仕事です。神子様はただのんびりとくつろいでいただければよろしいのですよ」

 そういうと2人がかりであっという間に服を脱がされ、また横抱きにされると浴室内へと進んでいった。
 中にはネコ足のバスタブが置いてあり、泡でもこもこしていた。まさかの泡風呂。
 その中にそっと俺を沈めるとお湯は程よく温かくて気持ちが良かった。

「今の神子様には温めのお風呂をご用意しています。熱いと体に不調が出かねませんから。さ、髪を洗って行きますのでこちらに頭を預けていただけますか?」

 バスタブの縁に頭を預けるように言われ、言われた通りに頭を置く。すると優しく温かいお湯が髪にかけられゆっくりと濡らされていく。

「神子様。この右側は火傷の跡?」

「あっ……ごめん。気持ち悪いの見せて」

「え? 気持ち悪くなんてないよー? ただ、こんなに大きな火傷の跡があるってことは、物凄く痛い思いをしたってことだよね?」

「よく無事で生きていてくださいましたね。こうやって神子様に出会えて、本当に光栄な事です」

 2人は俺の裸を見て火傷の跡を全部見ても、顔を顰めることも嫌がるそぶりも全く見せなかった。むしろ無事でよかったと微笑まれてしまう。

 髪を洗う手つきも体を洗う手つきも、凄く優しくて丁寧で気持ちが良かった。人に体まで洗われるなんて恥ずかしかったけど、気持ち良すぎてされるがままになっていた。
 ずっと湯舟に浸かっているからか、ローリーが時々水を飲ませてくれてのぼせない様配慮もしてくれる。

 ゆっくり丁寧に全身を洗われた俺は、今までの気持ち悪い感じは全て無くなりすっきりと気持ちが良かった。

 風呂から上がると綺麗な服を着つけていく。前の世界のブリーフに似た下着を履き、頭からすっぽりとかぶるタイプの服に、ゆったりとしたズボンを身に着けた。どれもこれも締め付けることが無く、生地も肌触りが良くて着心地が物凄くいい。

「うん、神子様凄く似合ってる!」

 ローリーは化け物の俺に「似合う似合う」と嬉しそうに言ってくれた。

 レイフは俺の髪をドライヤーみたいなもので乾かすと丁寧に櫛で梳いていく。俺の髪は前の世界にいた時以上に、さらさらとした仕上がりになっていた。

「長さがバラバラですから、今度神子様の御髪を整えましょう」

 俺は火傷を負ってから人前に出ることを避けていた。だから髪を切るのも自分で適当に切っていたからかなりばらばらになっている。いつも一つに括っていたし、誰にも会わないから髪型なんて気にしたことはない。
 レイフは「綺麗に整えたら、また神子様がもっと素敵になりますね」なんてお世辞を言ってくれた。

 こんな醜い化け物の俺が「素敵」に変わることはないし、お世辞だってわかっているけど何故か悪い気はしなかった。

 俺の身支度が終わると部屋に備え付けてあったテーブルへと案内された。そこの椅子に腰かけて水を飲んでいると、部屋の扉がノックされ食事の用意が出来たと声が掛けられた。

 レイフが扉を開けると女性の使用人、メイドか? その人がワゴンを押して入ってくる。そして俺に深く一礼すると目の前に食事を並べていった。

「今日は胃に優しい物を、という事でかなり煮込んで作ったリゾットをご用意いたしました」

 目の前の皿の上には湯気が立ち昇った美味しそうなリゾット。その匂いを嗅ぐとお腹がぐぅ~っと盛大な音を立てた。笑われる、と思ったがその音を聞いた皆は「食欲がおありのようで良かった」とほっとした表情をした。

 この世界にも米があったんだ、なんてそんなことを思いながらスプーンで一口掬う。そしてゆっくり口へ運ぶとそれはとろりと口の中で蕩けた。優しい味付けで全くしつこくもなく、しばらく食事をしていなかった俺の胃にも馴染むようなリゾットだった。

「み、神子様っ!? 何かありました!? もしかして口に合わなかったですか!?」

「ち、違う……美味しくて……」

「神子様……。今はこれだけですけど、食べられるようになったらもっと美味しい物、沢山食べましょうね」

 誰かにこんなに優しくされたことが久しぶりの俺は、料理まで優しいせいでぽろぽろと涙を流していた。泣きながらも久し振りの優しい料理をゆっくりと堪能し、腹を満たした。

 数日ぶりに食事をしたせいか、あんな場所から抜け出せて安心したせいなのか。物凄く眠くなってしまい、ローリーにベッドへと運ばれる。

「神子様、今日はもうゆっくり休もうね」

 ローリーに布団を掛けられ、その上からぽんぽんと優しく叩かれる。その感触が気持ちよくて、俺はあっさりと夢の世界へと旅立っていった。
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