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1 神子召喚

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「はぁ……在宅で出来る仕事って意外と見つからないんだな」

 相棒のデスクトップPCで色々と検索するも、俺が出来そうな仕事になかなか巡り合う事が出来ない。こうやって仕事を探すようになって幾日過ぎただろうか。

 俺は今井光。通信制の高校を去年卒業し、今は金を稼ぐために仕事を探している。
 俺は事情があって高校を卒業するのが遅くなった。俺は今年で20歳だ。

 成人もしてしまった以上、このまま親に養ってもらいっぱなしもダメだ。それはわかっているから仕事を探すも、在宅でしか働けない俺は就職するにも困難な状況だ。こんなことならもっと色んなこと勉強しとくんだった。今からでも遅くないだろうか……。

「光、ご飯出来たからここに置いておくわね」

「うん……ありがとう」

 部屋の扉をノックされ、母さんがいつものように食事を扉の前へと置いてくれた。階段を降りる音を聞いてから、俺は扉を開け用意された食事を部屋の中へと入れる。

「いただきます」

 手を合わせぼそっと小さく声を出し箸を手に取る。今日は俺の好きなから揚げだ。それをネットで動画を観ながらもそもそと1人で食べる。
 こんな生活もかれこれ何年になるだろう。13歳の時にからだからもう7年も経つのか。

 俺は外に出る、というか人前に出ることが出来ない。それは家族であっても同じ。俺は自分の姿を見られることが物凄く嫌だ。
 だから普段からこうやって部屋に引きこもって、誰とも会わないようにしている。話をするのはスマホを使ってチャットでやり取りをするか電話をするか、扉越しで話をするか。

 お風呂は2日に1回。家族全員が入り終わった後に、母さんからチャットで連絡が来る。それを見てからそっと部屋を抜け出し風呂へ入り、上がった後は直ぐに自分の部屋へと戻っていく。
 部屋に入れば母さんにチャットでそのことを報告する。その連絡があるまで家族は部屋から出てくることはない。俺に会わない様にしてくれているのだ。

 何か必要なものがあれば、チャットで父さんか母さんにお願いする。と言っても部屋から出ない俺には必要な物なんてほとんどないからお願いすることもあまりないのだけど。良くお願いしていたのは学生の時だけだ。

 傍から見たら異常な家族なんだろう。この家も昔は普通の一般家庭とそう変わりはなかったはずだ。俺が13歳の時から狂ってしまっただけ。

「ごちそうさまでした」

 空になった食器を部屋の外へと出してから、母さんにチャットで連絡だ。「美味しかった。ごちそうさま」と一言入れておけば「良かった」とすぐに返信が返ってくる。ほんの数分後には階段を上る音と食器の音。そして階段を降りる音が静かに聞こえてくる。

 こうやって過ごすこと7年。家族の顔もずっと見ていない。きっとこの先も特別な何かが無い限り、顔を合わせることはないんだろう。
 
 またパソコンに向かいネットで仕事を探す。マウスをカチカチと鳴らしていると、階段を上がってくる音が聞こえた。ふと時計を見れば20時を回っていた。きっと姉ちゃんだ。仕事から帰って来たんだろう。

「光、ただいま」

「うん、おかえり」

 姉ちゃんはいつも仕事から帰ってくると、扉越しで声を掛けてくる。俺もそれに返して姉ちゃんとの会話は終了。またパソコンに向かいマウスをカチカチと鳴らす作業へ戻る。

 俺の家族は優しい、と思う。俺は別にいじめられたりしていないし、暴言を吐かれたり殴られたりされるわけじゃない。だけど俺の顔を見ると皆、悲しい表情や痛々しい顔をする。それを見たくなくて俺は部屋に引き籠ることを選んだ。

 だから家族の為にも、俺は仕事を始めて親に金を渡したい。今の俺はタダメシ食らいのニートだ。ここまで育ててくれた恩返しをちゃんとしたいと思っている。

「そのためにも早く仕事見つけないとな」

 給料が安くても別にいい。この際、とりあえず何でもいいから仕事を決めてしまおう。そう思って応募しようと思った仕事のページを見ていた時、俺の足元がぴかーっと光り出した。

 机の下には光る物なんて特に置いていない。なのにも関わらず、不自然にも明るい光が俺を中心に部屋の中を照らし出した。

「え!? 何!? 何!? 何だよコレ!?」

 その光は段々と強く輝きだし複雑な模様を描いていた。そう。それはまるでアニメや漫画で見たような――。

「魔法陣……?」

 俺がそう呟いたその瞬間、カッ! と強い光を放ち俺は何も見えなくなった。



「おお! 成功です! 神子様の召喚に成功いたしました!」

「神子様! ようこそおいでくださいました!」

 気が付けば、俺は白い大理石っぽいところに倒れていた。こんな物、当然俺の部屋の中にはない。見慣れないそれをぼうっと眺めていると、「神子様! 神子様!」と騒ぐ声が耳に届いていることに気が付いた。

「神子よ、よくぞ参られた」

 俺のすぐそばに誰かの足先が見える。俺はこんな至近距離に人が寄ってきたことにびくりと体を竦ませた。
 ……良かった、この人はにいる。これならはまだ見えない。

 右側を見られない様、ゆっくりと体を起こす。切らずに伸ばしっぱなしの髪で隠せば、まだなんとかなるだろう。括らずに下ろしたままにしておいてよかった。

 それにしても神子……? なんだそれは。まるでよくある異世界召喚物の話みたいじゃないか。アレは作り話であって、現実に起こるもんじゃないだろう。ニートだったお陰でそういったものを読んだことはある。

「神子よ。そなたの名はなんという?」

 俺の側に跪き、明るい声でそう聞かれた。また近づいた距離にびくっとすると座り込んだ状態でぼそりと声を出した。

「光……」

「ヒカル、というのか。良い名だな。ヒカルよ、その顔を見せて貰えないだろうか?」

 そっと肩に伸ばされた手。久々に感じた他人の手にびくりと体が竦んだ。

「恐れずともよい。神子よ、どうかその顔を私に見せ……ッ!?」

 無理やり顔をぐっと向けさせられると、目の前にいた男と目が合った。目が合ってしまった。
 俺の顔を見た途端、驚愕の顔を見せたその男はすぐに眉間にぐっと皺を寄せ、素早い動きで立ち上がると俺から距離を取った。

 そして今、初めて俺は自分がいる場所をしっかりと見ることが出来た。白い壁、白い床、そして白い服を着た沢山の人。さっきまで目の前にいた男だけ、派手な出で立ちだった。まるで、どこかの王子様のような。

「殿下、どうされました? 神子様は…………ひぃっ! ば、化け物!?」

 白い服を着た一人の男がそう叫ぶと、一瞬でこの場は騒がしくなった。俺の顔を見た人が次々と「化け物!」だと騒ぎ出す。俺は髪を引っ張り、見られてしまった右側を隠した。こんなことをしてももう遅いが。

 ここは多分だけど。いつか読んだ話のような異世界なんだろう。まさか異世界に俺が行くことになるなんて夢にも思わなかった。

 そしてこの異世界でも、俺は「化け物」らしい。
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