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(あ、誰かまたふしだらなこと喋ってる……)
高校の廊下を歩く少女。
彼女は、トレードマークの『ウサ耳』をピコッと動かした。
ポニーテールに髪をまとめている白いリボンの先が、ふたつ、ウサギの耳のように立っているのだ。
(この中からね。空き教室のはずだけど)
リボンはリボンにすぎず耳ではないので、本当の耳のほうをそば立てる。
「見るなよ、汚いだろ……」
「細かいこと気にしない」
「おい、俺は気にするんだって」
「いいからいいから。僕のしたいようにさせてよ」
「てめえ……」
ぼそぼそとした男子の声が、ふたりぶん聞こえてくる。
至近距離で顔を近づけて話しているようだった。
(うわ、えっぐ……)
ウサ耳がピコピコと激しく動く。
さらに聞き耳を立てる少女。
「こっちは触らずにおいて、ここから……?」
「ちょ、俺の穴を。汚ねーなほんと」
「汚くないよ。これがいちばんきれいな穴の攻めかたらしい」
「あーたしかにこれは……」
(確実に一線越えてる。間違いが起こるまえに止めなきゃ!)
少女は教室のドアを一気に開けた。
ふたりの男子が、ぱっと弾かれたように彼女を見る。
「なんだ?」
「あなたたち、学校で何してるの? いくらなんでも不埒すぎない?」
「え、僕らが? なんのこと?」
固まるふたりに少女はまくしたてる。
「そりゃ、わたしだって愛は異性だけのものなんて古い価値観にとらわれたりはしてないわ。でも、ここは学び舎。学校よ? すこしはみんなへの影響を考えて」
「愛って……お前、何か勘違いしてるぞ」
「邪魔してごめんなさい。でも、わきまえてほしい。わたしからはそれだけ。じゃあね」
「ちょ、キミってあれ? 有名な、エロミミって子じゃない?」
エロミミ。
そう呼ばれた少女は、気にすることなくドアを閉めた。
(はー怖かった。でもこれで、学校の風紀は保たれた。わたし頑張ってる。あの人のためにも)
自分をふるい立たせるようにグッとこぶしを握りしめて、彼女は廊下を去っていった。
***
一方。
放課後の空き教室を使用している、将棋部のふたりはーー
「あれ絶対、へんな勘違いしてたよな」
「さすがエロミミと呼ばれるだけのことはあるよ。何でもエロいことに聞こえるらしい。もうあそこまでいくと才能じゃないかってみんな言ってる」
「へー。普通に迷惑だと思うけど」
「まあそうだね」
盤面に視線を戻す。
ひとりは、手元の将棋本と盤面を見比べて、
「ほら、キミの穴ーー穴熊もう崩れてる」
「端から攻められるとこんなに脆いんだな。金に触らず玉を叩くか」
「きれいな攻めかただよね」
「いやお前、教本のとおりにやってたし。汚えよそれ」
「はは、勉強べんきょう」
ふたりは毎日こうやって将棋を指している。
今日は、『穴熊囲い』と呼ばれる防御戦法を試していた。
どう攻めるどう守るで、放課後の時間は飛ぶように消えていく。
彼らはこのあと、同じ大学に進学して同居を始めることになる。
そこで結局は一線を越えることになるのだが……。
少女のエロミミもそこまでは感知しないし、この物語にも一切関係がない。
***
この物語は、エロミミと呼ばれる少女が、とある密室事件に遭遇するところから始まる。
ちょっと常軌を逸したレベルの『耳』を持つ彼女が、そこでどう振る舞うのか。
きっとエッチな勘違いをしてしまうのだろうと想像がつくけど、まあ、それはそれ。
勘違いが人の役に立つこともあるのかもしれない。
立たないことのほうが多そうだけど……。
高校の廊下を歩く少女。
彼女は、トレードマークの『ウサ耳』をピコッと動かした。
ポニーテールに髪をまとめている白いリボンの先が、ふたつ、ウサギの耳のように立っているのだ。
(この中からね。空き教室のはずだけど)
リボンはリボンにすぎず耳ではないので、本当の耳のほうをそば立てる。
「見るなよ、汚いだろ……」
「細かいこと気にしない」
「おい、俺は気にするんだって」
「いいからいいから。僕のしたいようにさせてよ」
「てめえ……」
ぼそぼそとした男子の声が、ふたりぶん聞こえてくる。
至近距離で顔を近づけて話しているようだった。
(うわ、えっぐ……)
ウサ耳がピコピコと激しく動く。
さらに聞き耳を立てる少女。
「こっちは触らずにおいて、ここから……?」
「ちょ、俺の穴を。汚ねーなほんと」
「汚くないよ。これがいちばんきれいな穴の攻めかたらしい」
「あーたしかにこれは……」
(確実に一線越えてる。間違いが起こるまえに止めなきゃ!)
少女は教室のドアを一気に開けた。
ふたりの男子が、ぱっと弾かれたように彼女を見る。
「なんだ?」
「あなたたち、学校で何してるの? いくらなんでも不埒すぎない?」
「え、僕らが? なんのこと?」
固まるふたりに少女はまくしたてる。
「そりゃ、わたしだって愛は異性だけのものなんて古い価値観にとらわれたりはしてないわ。でも、ここは学び舎。学校よ? すこしはみんなへの影響を考えて」
「愛って……お前、何か勘違いしてるぞ」
「邪魔してごめんなさい。でも、わきまえてほしい。わたしからはそれだけ。じゃあね」
「ちょ、キミってあれ? 有名な、エロミミって子じゃない?」
エロミミ。
そう呼ばれた少女は、気にすることなくドアを閉めた。
(はー怖かった。でもこれで、学校の風紀は保たれた。わたし頑張ってる。あの人のためにも)
自分をふるい立たせるようにグッとこぶしを握りしめて、彼女は廊下を去っていった。
***
一方。
放課後の空き教室を使用している、将棋部のふたりはーー
「あれ絶対、へんな勘違いしてたよな」
「さすがエロミミと呼ばれるだけのことはあるよ。何でもエロいことに聞こえるらしい。もうあそこまでいくと才能じゃないかってみんな言ってる」
「へー。普通に迷惑だと思うけど」
「まあそうだね」
盤面に視線を戻す。
ひとりは、手元の将棋本と盤面を見比べて、
「ほら、キミの穴ーー穴熊もう崩れてる」
「端から攻められるとこんなに脆いんだな。金に触らず玉を叩くか」
「きれいな攻めかただよね」
「いやお前、教本のとおりにやってたし。汚えよそれ」
「はは、勉強べんきょう」
ふたりは毎日こうやって将棋を指している。
今日は、『穴熊囲い』と呼ばれる防御戦法を試していた。
どう攻めるどう守るで、放課後の時間は飛ぶように消えていく。
彼らはこのあと、同じ大学に進学して同居を始めることになる。
そこで結局は一線を越えることになるのだが……。
少女のエロミミもそこまでは感知しないし、この物語にも一切関係がない。
***
この物語は、エロミミと呼ばれる少女が、とある密室事件に遭遇するところから始まる。
ちょっと常軌を逸したレベルの『耳』を持つ彼女が、そこでどう振る舞うのか。
きっとエッチな勘違いをしてしまうのだろうと想像がつくけど、まあ、それはそれ。
勘違いが人の役に立つこともあるのかもしれない。
立たないことのほうが多そうだけど……。
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