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砂糖水「キサマとスキャンダル」

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 伝道師ーー
 セシリアは、快太のことをそう呼んだ。

 聖典たる『コミック悦楽神2月号』をこの世界に持ち込み、夜の営みに革命をもたらした彼は、たしかに性の伝道師と言えるのかもしれない。
 ただ、

(俺、童貞なんだけどなぁ!)

 心の中で快太は叫んでいた。
 バレたらいけない感じがするので、口には出さない。
 黙っていれば、なんだか卒業できる予感がしないでもないし。

 そんな彼の心の中を知るよしもなく、セシリアは聖典をぱらぱらとめくっている。

「やっぱこれすごいよね~。見てるだけで超濡れてくるし」
「へ、へえ~……」

 シャワー上がりのエルフが、タンクトップにホットパンツで「濡れる」などと言っているこの光景。
 今すぐにでもひとりでトイレにこもりたい気分だったが、ひとつ疑問が湧いてきた。

「これ、聖典って、セシリアが持ってていいの?」
「? どゆこと?」
「1冊しかないから村みんなの共有財産なんじゃないかなーと」
「ああ、なるほどそういう意味か」

 だいじょぶだいじょうぶ、と聖典を叩く。

「これみんな持ってるよ。一家に1冊。分裂魔法で増やしたから」

 コンビニでコピーしたから、的な気軽な返答だった。
 
(そうか、ここは魔法のある異世界なんだな)
 快太は理解した。

「そんな魔法があるなら食料とかにも困らないね」
「いやいや、それはないって~」

 ん?と思った快太に、セシリアは聖典のページを食い入るように見つめながら、

「だって禁呪じゃん。みんなに行き渡らせるまでに村の魔術師、2人死んでるよ」
「はあ⁉︎」

 禁呪。死。
 とんでもないことを言い出した。

「死んだって、そこまでしてやること?」
「最初に読んだ長老が決めたんだよ。これは命をかけてやるべき布教だって。初めはみんな快太みたいに不思議がったけど、もう誰もそんなこと思ってないんじゃないかな」

 セシリアがじっと快太の目を見る。

「これがあると人生が楽しい。聖典でヤるの、みんな生きがいみたいになってるから」

 そして、にかっと笑い、

「読んでたら超濡れてきた。ヤろっか、伝道師サマ♡」

***

「快太が学生服それ着たままでできるやつはーーこれかな?」

 セシリアが聖典のページを開いて、快太に渡してくる。
 買ってまだ読んでいない快太は急いで流し読みをし、

「『キサマとスキャンダル』? ああ、砂糖水先生お得意のドS教師ものね」

 知っているような口調で言ってみた。
 伝道師なので知らないのはおかしいはずだ。

(ていうか、これ、完全に挿入してる話だ! うおおおっ)

 盛り上がる快太。
 セシリアは棚から出した女教師ふうスーツにすでに着替えている。

「おっし! じゃあヤろう」

 はいここ、と手際よく快太を椅子に座らせる。
 セシリアはそれを見下ろす形で、途端に、すーっと冷たい表情になり、

「コータくん、あなた授業中、わたしのどこを見ていたの? 怒らないから正直に言いなさい」

 役に入った。
 コータこと快太は、読んだばかりでまだ脳裏に残っている台詞を返す。

「あ、足の指……です」
「足? あなた、サンダルから出たわたしの指を見ていたわけ?」
「は、はい……」
「そう。よくわかりました」

 言いながらサンダルを脱ぐセシリア。
 口の端をくいっと上げ、サディスティックな表情を作ると、

「そんなにイイなら、よぉく味わいなさい?」

 言って、ダンッと快太の股間を踏んだ。
 ぐりぐり。
 ぐりぐりぐりぐり。

「あっ……」

 短く声を上げた快太を、さらにぐりぐりするセシリアだったが、

「……台詞どうしたの? って、なんかこの感触……」
「ごめんなさい出ました」
「も~、早いってば! あたし全然してないよ~」

 またも卒業失敗。
 うなだれる快太の股間から足を離し、セシリアはストッキングを洗いに出て行った。
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