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第一章 盗難
ⅲ
しおりを挟む「身元が割れないんだ。どうやら王都の出身ではないらしい…」
王宮の東門をくぐると、まずそこに見えるのは宮城の前に拡がる兵士の演習場だ。
その石畳みの上では、金属の擦れ合う音や足踏みの音が、一日中響いている。
演習場の奥には、裏側ではあるが城が荘厳と建っており、その外側に伸びる回廊の中まで金属の音が響き渡っていた。
城の中は、似たようなドアが横にずらりと並んでいて外観の全く変わらないもので、ドアにそれぞれかかっている金属板が唯一、ドアの内側にいるであろう人物が誰であるかを教えてくれるものだった。
その長く続くドアの一番端、王宮の一角の部屋の中で、くすんだ緑のベルベット生地でできたマントを羽織った男が言った。
男は椅子に深く座って足をデスクの端に乗せている。
男のいるその部屋は一人が作業するのは十分なくらいの広さで、西向きの窓とドアしかなく、明け方の今太陽の光が恋しくなるような陰気な部屋だった。
ドアの外には“隊長室”と刻まれた金属板が埋め込まれている。
そう、男は隊長だ。隊長と言っても複数いる隊長の一人で、日当たりの悪い隊長室しかもらえないような隊長だ。
「王都出身のものではないのにどうやって操作すればいいんだ…」
「王都外まで、捜査をする必要がありますか?隊長」
「…いや、マルクス。それはできないだろう。
王都外まで捜査しなければいけないのは分かるが、調べるための証拠がなければ、王都外まで兵を出すための上からの許可が出ない。出ないことには調べられない。」
「わかりました。ですが、肝心のヴィリディの手記が見つかっておりません。これを捜索するのに、王都外まで行く必要があるのでは?それに、手記自体が見つかっていないのに彼を犯人にしてしまうのはいささか問題になると思いますが?」
「仕方ないだろう。上からの指示で調査をした結果彼が犯人として当てはまったんだ。手記の存在を心配するより手がかりを探すのが先決だ。犯人の尋問を続けろ。今犯人はどうなっている?」
「黙したままです…」
ちょうどその時、ドア外に控えていた兵士が扉をノックした。
「なんだ?」
「隊長、四等兵士が面会をしたいと申しております。なにやら、犯人に見覚えがあるそうです」
「どの犯人だ?」
今度はマルクスが言う。
「あの、ヴィリディの手記を盗んだとされる犯人です」
隊長とマルクスは二人で同じ顔をした。
“噂をすれば影”。
これは人以外にも該当するのがだろうか?
入ってきた四等兵士は赤毛がよく目立つ男だった。
彼はたんたんと言った。
「…手記を盗んだのは、友人の父親です」
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