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第一章 盗難
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しおりを挟む「アルフィ、あっちに花卵があったぞ。一緒に食べないか?」
赤毛の縮れを目の端に捉えて、アルフィは勢い良く振り返った。
「モリス!いつ戻ってきたんだ」
「今さ!
今朝、突然休みが出て帰ってこられたんだよ。お陰でリリは疲れ切って馬小屋で休んでる」
「…はぁ、あんまりリリをいじめるなよ」
リリはモリスの愛馬だ。
今モリスは王都で、王宮兵士として働いている。モリスは騎士になりたいという夢を叶えるために二年前王都へ旅立ち、帰省はこれが初めてだった。
「昔みたいに、花卵を食べようぜ」
モリスは親指で後ろを指しながら言い、アルフィと肩を組んで方向を変えた。
花卵は村で取れた香り豊かなハーブに卵を浸けたものを言う。卵はニワトリのと違い、小さくてマルッとして弾力の強い“ウォーターバード”の卵だ。
ウォーターバードとは水中に生息する鳥で、普通の鳥と違って羽が短く、時々しか水上に現れない。なので、卵を取るのは大変な作業となるのだが、祭りの時期は丁度排卵期と重なり、巣で抱えきれなかった卵が度々水面へと浮いてくるのである。よって、祭りの時だけウォーターバードの卵が食べ放題なのだ。
「おばさん、花卵二人分頂戴」モリスが売り子のおばさんに声を掛ける。
「あらまぁ!久しぶりじゃない?いつ帰ってきたの」
「今帰ってきたんだ。花卵を食べるためにね」
「上手ねぇ~」おばさんはニコニコしながら花卵を容器に二回すくい入れて手渡してくれた。
「おまけで多めに入れといてあげるわ」
泉を囲うように広がっている緩やかな傾斜の草はらで、モリスとアルフィは一緒に花卵を頬張った。何年経っても味も香りも変わらない美味しい花卵だった。
「なぁアルフィ、これから先どうするんだ?」
不意にモリスが言った。
「…考えてない。宿の手伝いをしているだけで今は忙しいから、考える暇がないよ」
「そうか、ここの宿は北に移動する人で混むんだもんな。
あ、いや、俺が言いたいのはそういうことじゃない。昔言ってたじゃないか、やりたいことがあるって。
昔、大陸中の国を周りたいって言っていたじゃないか」
「あぁ、そんな夢もあったさ。でも、親父が消えてからは考えなくなった」
「親父さん、まだ戻ってこないのか?」
「あぁ」
しばらくの間沈黙が続いた。
アルフィの父親は、モリスが王宮へ旅立つよりも前に突然姿を消した。その消え方は失踪というべきものだった。
沈黙を先に破ったのはモリスだった。
「アルフィ、もしかしたら君の親父さんの居場所を知っているかもしれない…」
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