上 下
1 / 1

汐梨と伽織

しおりを挟む
    

1. 姉・汐梨

 杉山汐梨しおりは近所に住む1つ年下の幼馴染みで、俺は1人っ子、そして汐梨には伽織かおりという3歳年下の妹がいた。
汐梨はどちらかというと勝ち気で、何事も自分から率先して自分の思うように俺達に指図して動かしていた。
それに対して伽織はおとなしくて引っ込み思案の子だったので、俺と汐梨が兄妹のように一緒に遊んでいるのを、声を掛けるまで仲間に入れずにちょっと離れたところで見ていたものだった。

 ただ、それも汐梨が中学校に入る頃までの話しで、ある時を境に杉山姉妹と一緒に遊ぶことが途絶えてしまっていた。しかし俺はその理由について深く考えることはなかった。
と言うのは、当時俺は同じクラスの男子たちと遊ぶのに夢中になっていたので、汐梨たちのことを特に気にすることもなく過ごしていたのだ。
そして高校を卒業すると、俺は大学に進むために家を出て、次第に汐梨たちの存在そのものが俺の記憶から薄れていった。


 更に時が過ぎて、あれは大学3年の秋のことだった。
前期試験が終わった打ち上げでクラスのコンパが行われたのだ。
試験の重圧から解放された喜びで大いに飲んで騒ぎ、3次会では友人の馴染みのスナックに数人で行った。
それが俺にとって人生最大の汚点であり、かつターニングポイントとなったのだった。
試験前からの無理な詰め込み勉強で睡眠不足が続いていたので3次会なんてよせばよかったのに、俺はそこで力尽きてだらしなく酔いつぶれてしまったのだ。


 翌日、二日酔の状態で目覚めたのはもう昼に近い時間だったようだ。
朦朧とした頭で部屋の中を見渡すといつもの俺の部屋と様子が違う。
殺風景な俺のワンルームアパートの部屋と違って、なんだかよくわからないメルヘンチックなデザインでパステルカラーのカーテンが吊るされているのが目に入った。

 慌てて飛び起きたのだが頭はズキズキ痛んで目がまわり、ふらついてまた布団に倒れ込んでしまった。
そのまま前夜の状況を思い出そうとしていたものの記憶が極めて曖昧だった。
3次会のスナックに入り、俺の好みのタイプの可愛いアルバイトの女性がいたのはかすかに覚えている。確か“みか”という名前だったはずだ。
だがその後がダメだ。すっかり記憶が飛んでしまっている。ここは一体どこなんだ?


 突然若い女の声がした。
「目が覚めた?」
びっくりして声の方を見ると部屋の入口にきれいな娘が立って俺を見おろしていたのが目に入った。
今度こそ慌てて飛び起きて正座した。
「すみません、ここはどこですか?」
「私のアパートなんだけど。」
「え?あなたは誰?」
「あら、昨夜あんなに私に言い寄ってきたのに忘れちゃったの?」
「ほんとに??」
「そうよ。結婚しようって強引に迫って、店が終わってからも私のアパートまで押しかけて来て挙句の果てに無理やり一緒に寝ちゃったのよ。」
「ほんとにぃ?」
「ええ、そうよ。隣にもう1つ枕があるでしょう。」
「あ!?」
この状況は一体何なんだ。二日酔いの状況にプラスして顔が一層青ざめてきた。
血の気が引いていくのが自分でもわかった。
倒れそうになるのを必死でこらえていた。

「憶えてないの?」
「ごめんなさい、全く憶えてないんです。」
「いやだ、あんなに情熱的に抱きついてハグして迫ってきて、私をその気にさせたのに?」
「ごめんなさい、一生の不覚です。」
「お酒のせいだって言うの?ウソでしょう?」
「すみません、全く記憶にないんです。」
「信じられない!冗談じゃないわ!私の気持ちどうしてくれるの?」
「ほんとにごめんなさい、この償いは必ずします。許して下さい。」
土下座をして真剣に頭を下げたのだが、恥ずかしさと驚きでいっぺんに二日酔いがふっ飛んだ気がした。なんとも申開きのしようがない。

 ところが意外な展開になった。
「あはははっ、下手なお芝居はこれくらいにして、ほんとに私が誰かわからないの?」
???
「あんなに仲良く遊んだ幼馴染みの汐梨ちゃんを忘れるなんて、ほんっとに信じられない!私はそんなに希薄な存在だったの?あなたに捧げた私の過去を返してっ!!」
??? まだ理解できない。

うなだれて頭を捻っていると、汐梨が俺のそばに寄ってきて、思い切り俺の額にデコピンを食らわした。
「痛~い!」
「中川宗介っ、シャキッとしなさいっ!!」
「は?俺の名前知ってるんですか?」
「ほんとにやだっ、私は幼馴染みの汐梨ちゃんだってさっきから言ってるでしょ?まだ思い出せないの?」
「え?汐梨ちゃん、あの汐梨ちゃん?ほんとに?」
「だから何回言わせるの?宗ちゃん、私そんなに変わった?」
少しずつ頭の中の霧が晴れてきた。
うん、そう言われればなんとなく見覚えがあるような気がする。
でもまだ最大の疑問符が消えない。
「その汐梨ちゃんがどうしてここに居るの?」
「私、ここの短大に入ったの。それで友だちに誘われてあのスナックで時々アルバイトをしているのよ。そしたらたまたま昨夜宗ちゃんがお店に来たってこと。」
「汐梨ちゃんあの店でアルバイトしてたの?」
「“みか”って名前でね。」
「みかさんは…憶えてる。」
「私よ。」
「ふ~ん、そうなんだ。汐梨ちゃんが同じ街にいたなんて全然知らなかった。それに俺のことがよくわかったね。」
「私は宗ちゃんのことちゃんと憶えていたわよ。ここの大学に入ったってことも知ってた。だからお店に入ってきた時もすぐにわかったわ。それなのに私のこと忘れてるなんてほんとにヤダ、信じられない。サイテー。」
「そうだったのか。でも俺たちほんとに一緒に寝たの?」
「そうよ。布団は1組しかないじゃない。ちゃんと責任取ってくれる?」
「う・うん、ほんとにごめん、努力します。」
「それならいいわ。お昼ごはん食べる?」
「いや、もう帰ります。お邪魔しました。」
何事が起きているのか十分に理解できないまま、大急ぎで服を着てほうほうの体で汐梨のアパートを飛び出したのだった。
そしてふらつく足で俺のアパートにたどり着いた時には再び二日酔いの状態に戻り、自己嫌悪に陥ったままその日はずっと布団の中で過ごしていた。

 その翌日は教室で3次会に一緒に行ったクラスメートたちから散々に汐梨のことで冷やかされ、いじられたのは言うまでもない。それを聞きながら、あの夜のことをできるだけ思い出そうと俺の記憶の中を必死で探していたものだった。


 それから2週間後の日曜日、この日はしゃきっとした頭で手土産にケーキを持って汐梨のアパートを訪ねた。
「こんにちは、先日は大変迷惑をお掛けしました。本当に面目ない。」
深々と頭を下げた。
「あら今日は大丈夫なのね。」
「お願いだからもう言わないでよ、あの日はちょっと体調が悪くて悪酔いしてしまったんだ。本当に後悔してるんだから。」
「ふ~ん、そうね。これが私の知ってる宗ちゃんだわね。」
「ところで汐梨ちゃんには恋人は居るの?」
「あら、どうして?」
「うん、この前のことが気になって。」
「なにかしら。」
「何って、いや、その、一緒に寝たってことが。」
「ああ、あれね。」
「うん、恋人がいるのならその人にも謝らないといけないし、いないのなら今後の汐梨ちゃんとの関係について相談しなきゃいけないと思ってるんだ。」
「ふ~ん、そうなんだ。まあとりあえず恋人はいないからそれは安心していいわよ。」
「ああ良かった。じゃ後は汐梨ちゃんだよね。」
「私の今後のこと?」
「うん、汐梨ちゃんが良いっていうのなら、あの夜一緒に過ごした責任を取って結婚を前提に付き合いを始めたいんだけど。どうかな?」
「ふうん、それがあなたの責任の取り方なのね?」
「うん、そうだね。」
「私は良いわよ。私の将来を台無しにした責任とって、一生私のことを大切にしてくれるのならね。」
「ありがとう。これからは汐梨ちゃんを幸せにするために何でもするよ。約束する。」
「ふふっ、それならいいわ、約束よ!」
「でも汐梨ちゃんはいいとしても、ご両親はどうなんだろう。ご両親に経緯をちゃんと説明して、それでもダメって言われたらそこをなんとかって、お願いするしかないのかな。」
「うちの両親は多分大丈夫だと思うわ、宗ちゃんなら。でもあの時の経緯なんて言わないほうが良いと思うよ。話がややこしくなっちゃうから。私もスナックでアルバイトしてたなんて知られたら叱られちゃうもの。」
「叱られちゃうの?」
「そうよ、お父さんがいちいちうるさいの知ってるでしょ。」
「そうだったかな。」
「それにまだ私だってあなたと結婚するって決めたわけじゃないのよ。あなたがちゃんと誠意を持って責任取ってくれるってわかったらの話なんだから。」
「そうだね、汐梨ちゃんから許してもらえるように努力するよ。」
「ええ、がんばってね。」

 汐梨との関係が復活したのだが、ここまでの経緯からして汐梨が最初から主導権を握っていたのは言うまでもない。
いやなんというか、子供の頃からの力関係そのままだ。それ故、交際の全てが汐梨の意のままに進んでいた。

 
 それにしても最初からひとつ引っかかっていることがあるので一度汐梨に聞いてみたことがある。
「汐梨ちゃん、ひとつ確認したいことがあるんだけど良いかな。」
「なあに?」
「スナックで会った夜に一緒に寝たって言ったじゃない?あれはただ単に一緒に眠ったってことなの?それとも…。」
「それとも?」
「うん、そのぉエッチしたってことなの?」
「いやだ、覚えてないの?そんなこと女の私に聞かないでよ、恥ずかしいわ。やめて。」
「ごめん。そうだよね。」
汐梨ははっきり返事をしなかったが、俺もそれ以上重ねて聞くことができなかった。
だからこのことは喉に魚の骨が引っかかった時のように、俺の頭の中でもやもやしていて、いつまでもしこりが残ったままの状態が続いていたのだった。


 その後は、俺の努力の甲斐があって汐梨とのは順調に続き、そして年が明けて春になると汐梨は一足先に短大を卒業して実家に戻って地元で就職した。
それでしばらく付き合いは棚上げされて、俺は卒研に身を入れて取り組んでいた。


2. 妹・伽織
 
 それからまた年が明けて3月になると俺も無事に卒業式を迎えることができた。この1年間は汐梨とはメールと電話でのやり取りだけだったので、やっと汐梨に会えると勇んで実家に戻り、汐梨に電話した。
「汐梨ちゃん、卒業したよ。」
「おめでとう。」
「もう実家に戻ってきてるんだけど一度逢えないかなぁ。」
「それね、私最近忙しいから時間ができたらまた連絡するわ。」
「そうなんだ。逢いたいけど仕方ないね。」
「それでね、宗ちゃんとのこと両親にまだ話してないから家にはまだ来ないでもらいたいの。」
「うんわかった。」


 数日後、汐梨から時間ができたとメールが来た。それで繁華街のコーヒーショップで逢うことにした。
約束の時間に待っていると汐梨ではなく、しかし汐梨に劣らないほどのきれいな娘が俺の前にやって来て言った。
「こんにちは、宗介さん。私のこと憶えてますか?」
「???」
キョトンとして娘の顔を見ていると、なんとなく汐梨と似ている気がする。
「え?ひょっとして伽織ちゃん?」
「はい、汐梨の妹の伽織です。私のこと、わかりました?うれしい!」
「汐梨ちゃんと似ている感じだったので。ずいぶんきれいになったんだね。何年ぶりだろう。」
「私は姉から何度も宗介さんの写真を見せてもらってたのですぐにわかりました。」
「でもなんで伽織ちゃんが?」
「すみません。色々と事情があって、姉は親のすすめで他の男の人と結婚することになりました。怒らないでください。実は、姉は私のために宗介さんと付き合ってくれていたんです。」
「はぁ??」
全く事情が飲み込めない。

「私、この春に高校を卒業して短大に入ることになったんですけど、高校を卒業するまで男の人と交際しちゃいけないって親からきつく言われてて、だからそれまで宗介さんが他の女の人と付き合うことがないよう、姉が私の代わりに宗介さんと付き合ってくれてたんです。だから姉のことを悪く思わないでください。お願いします。」
「??」
「子供の頃から宗介さんのことが好きで、『大きくなったら宗介さんのお嫁さんになりたい』って、いつも姉に言ってたので、それで姉が協力してくれてたんです。今月、私が高校を卒業したのを機会にバトンタッチして…。どうか怒らないで私と付き合ってください。お願いします。そうしないと姉に顔向けできないんです。」

 少しずつ頭の中が整理されてきて、今の状況がやっと飲み込めた。
汐梨と再会した夜の一件がずっと俺の重荷になって引きずっていたので、その汐梨の結婚で重荷を下ろすことができたというホッとした気持ちと、汐梨に騙されていたのかというやるせない気持ちとが複雑に絡み合って何とも言えない気分だった。
しかし元来物事にあまり頓着しない性格の俺はそのことについて異議を唱えることはせずに話を聞いていた。
 
何と言っても、汐梨以上に目がさめるような美人の伽織に言い寄られて悪い気はしない。俺はすぐにその気になった。
「事情はわかった。汐梨ちゃんのことは怒ってないよ。それより伽織ちゃんが俺のことを思ってくれてるというのは本当に信じて良いの?」
「はい、子供の頃、宗介さんと姉が仲良く遊んでいるのを見てほんとに羨ましくって、“お医者さんごっこ”でも姉じゃなくって私の身体を触ってほしいってずっと思ってたんです。」
「いやそんな、“お医者さんごっこ”なんて憶えてるの?」
照れて頬が火照ってくる。
「宗介さん、よろしくお願いします。」
「うん、こちらこそよろしくお願いします。」
「ありがとうございます。うれしいっ!」

「それはいいとしてこれからのことなんだけど、俺今月中に就職先の会社がある街にアパートを借りて引越すつもりなんだ。伽織ちゃんが進む学校はどこなの?」
「はい、姉から宗介さんの就職先を聞いて、同じ街に行くことにしてます。」
「なるほど、手回しが良いんだね。」
「はい、姉と共同で一生懸命に作戦を練ってました。」
「じゃ引越し先でまた会えるってことなんだね。」
「とっても楽しみです。」

 俺も新しい街での新生活に多少の不安があったのだが、幼なじみの伽織が近くにいて、いつでも会えると云うことなので、幾分心強い気持ちになった。
「伽織ちゃんのご両親はこのことを知ってるの?」
「いいえ、内緒です。姉しか知りません。と言うか、姉の入れ知恵なんです。」
「言わなくていいの?」
「はい、父がうるさいので宗介さんを追いかけて行くなんて言うと家から出してもらえないかもしれないので、既成事実を作ってから言います。」
「まいったなぁ。すべて汐梨ちゃんの作戦なんだ。」
「はい、大好きな宗介さんの近くに行きたいんです。それがやっと叶うのでもうしばらく絶対に誰にも言わないでください。お願いします。」
「了解、向こうで落ち着いたら早めにまた逢おう。」
「はい。」
俺たちは転居先の住所と携帯電話番号を交換して別れたのだった。


3. 新生活

 1ヶ月後、新しい土地に引っ越した俺と伽織は転居先で初めてのデートをした。と言うか、お互いのアパートの場所を知るために訪問しあうことにしたのだ。
最初に俺が伽織のアパートを訪ねるためにその最寄り駅で待ち合わせした。
「いらっしゃい、宗介さん。」
「伽織ちゃん、こんにちは、久しぶり。少しは都会の生活に慣れた?」
「ううん、まだまだよ。都会は人が多くって大変ね。」
「そうだね、俺もなかなか慣れないよ。」
「じゃ行きましょうか、駅から歩いてそんなに遠くはないのよ。」
「商店街が近くで便利そうだね。」
「お店がたくさんあるから便利は便利ね。」
7~8分歩いて2階建ての女子学生向けワンルームアパートの前に着いた。
「着きました、ここの2階よ。」
「あ~、そうなんだ。1階は物騒だから2階のほうが良いかもね。」
階段を上がって、玄関のドアを開けた。
「さあ、どうぞ。」
「おじゃまします。これケーキを買ってきたので。」
ケーキの箱を手渡す。
「ありがとう、いただきます。」
それから室内を見渡して言った。
「うわぁ、やっぱり女の子の部屋だね。」
パステルカラーのカーテンと机や整理たんす等の家具がいくつか並んでいた。かつて見た汐梨の部屋を思い出した。
「この部屋に入った男の人は宗介さんが初めてよ。」
「そうなの?緊張するなぁ。」
しばらくコーヒーを飲みながら雑談していたら12時が近くなった。
「あらもうこんな時間だわ。お昼ごはんの準備をしましょうか。」
「え?伽織ちゃんが作ってくれるの?」
「ええ、私ひとりで生活を始めるにあたってそれなりに母から教わってきたのよ。もうほとんど出来てるから、ちょっと温め直すだけ。」
「ふ~ん、楽しみだな。」
スパイスの効いたカレーライスと野菜サラダで腹を満たし、その日は夕方まで一緒に過ごして、伽織のアパートをあとにした。

 そして次の週は伽織が俺のアパートにやって来た。伽織の最寄り駅から2つ目の俺の最寄り駅で待ち合わせて俺のアパートに連れてきた。
「さあどうぞ。」
「はい、おじゃまします。わぁやっぱり私のワンルームなんかより広いのね。」
「うんまあ一応、俺は自分で給料貰って自立しているからね。それでも2DKだよ。今はまだいいけど、家具が増えてくると手狭になるんだろうね。」
「やっぱり広いほうが良いなぁ。」
「ちょくちょく遊びにおいでよ。泊まってもいいし。」
「え? もうお泊りするの?」
「あぁごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ。」
「でも、そういうお泊りしてもいいんだけど…。」
伽織は頬を赤らめて、消え入りそうな声で言った。
「いやその…、まだ…、あれだよ。」
「私はずっと前から宗介さんのお嫁さんになるつもりだったから良いのよ。」
「いやその、それはまだちょっと早いんじゃないかな。」
「私は早いほうが良いんだけど。こんなこと言って、宗介さんは迷惑かしら?」
「いや迷惑だなんて、そんな、でもまだご両親に挨拶もしてないのに。」
「ううん、そんな事関係ないわ。私達2人の問題よ。宗介さんさえ良ければ、私すぐにでもここに来るわ。実は今日お泊りしてもいいように、そのつもりで準備をして来てるのよ。ねっ、いいでしょ?」
実に積極的だ。こんな言葉は子供の頃の伽織からは想像できない。まるで汐梨が乗移ったようだ。
「いやそんな、いきなりお泊まりだなんて。」
「はしたないですか?」
「いやそんなことは。」
「じゃお願い。抱いて。ずっと待ってたの。」
「いやその。」
「2人で日をどれだけ待ちわびたか。」
伽織は俺に抱きついてきて身体を預けてきた。俺は伽織の勢いに押されてよろめいて後ろの壁にドンと背中をぶつけてしまった。
ここまでまだ椅子に落ち着く前の立ち話での状況なのだ。

「伽織ちゃん、ちょっと待って。落ち着いて、ね。」
元来押しに弱い俺だ。ささやかな抵抗をしていたのだが、伽織の勢いに圧倒されて簡単に隣室のベッドの上に押し倒されてしまった。そこで伽織の下になって熱烈な口づけを浴びていた。

 そうするうちに若い伽織の身体に反応してオレ自身ペニスもしっかり自己主張し始めた。口づけしながら反転して俺が上になり、伽織の着ているものを脱がし始めた。伽織も協力してかわいい尻を浮かしてスカートとショーツを引き下ろすと熟れ始めの伽織の堅い肉体が現れた。未だ人目にさらされたことのない汚れない新鮮な身体をベッドに横たえていたのだ。俺も素早く服を脱いで裸になり、伽織の両脚の間に入った。


 その日、結局伽織は俺のアパートに泊まっていった。昼間の一戦の後も俺の狭いシングルベッドに2人並んで横になって、全裸で抱き合ったまま朝を迎えたのだった。
 
 そして、あくる日は昼までベッドで過ごし、午後になって伽織を送って行って、また伽織のアパートに上がり込んで夜まで一緒に過ごした。
その後はほぼ毎週末にお泊りデートが恒例となった。


4. 意外な告白

 そんな初夏のある日、俺のアパートに珍しく伽織以外の来客があった。
“ピンポーン”
「は~い。」
インターホンのモニターを見ると女性の姿だが、伽織ではないようだ。ドアを開けると懐かしい汐梨が立っていた。
「こんにちは、お久しぶり。」
「あ、汐梨ちゃん?」
「伽織だと思った?」
「う・うん、どうしたの?珍しいね。」
「とりあえず入ってもいいかしら?」
「あ、ごめん。どうぞ入って。」
「おじゃまします。」
「コーヒーでも淹れるね。このアパートは伽織ちゃんから聞いたの?」
「ええ、そう。伽織から報告を聞いたわ。」
「汐梨ちゃん、結婚したんだよね?」
「その前に、色々話したいことがあるんだけど、とりあえず今までのことは謝っておくわ、ごめんなさい。伽織が小さい頃からあなたのことが好きだって言ってたから協力して一芝居打ってたの。」
「いやそれはもういいよ。怒ってなんかないし。」
「ありがとう。それから、最初にスナックで会った夜のこと覚えてる?」
「一緒に寝たっていう夜のこと?」
「そう、あの夜は実は何もなかったの。」
「うん、そんな気がしてたんだ。でもほんとに記憶をなくしてたから、ひょっとしたらって思って心配してたんだけど、はっきりしてよかった。」
「これも隠してて悪かったわ、ごめんなさい。ほんとはね、半分くらいは大好きな宗ちゃんとの間に何かが起きることを期待してたのよ。でもあなたは酔いつぶれてたから何もできなかったの。」
「え?」
「これはほんとにほんとのことよ。好きでもなんでもない男の人を女1人の部屋に泊めるわけないと思わない?」
「それはそうだけど。」
「伽織に遠慮してたけど、私もあなたのこと好きだったのよ。気が付かなかった?」
「うん、全く。」
「即答ね。デリカシーのない人。」
「…」
そんな風に思われてるなんて全く気づかなかった。
「中学校の頃、伽織のためにこれ以上あなたを好きになっちゃいけないと思ってあなたに近づかなくなったの。それなのに伽織ったら恥ずかしがっててあなたに何も言えなくて、歯がゆかったわ。」
「そうだったのか。」
「それに、あなたもほんとに鈍感な人ね。スナックで会った後もほんとにシャイな妹のためだけにあなたとあんなに付き合ってデートしたと思ってるの?あなたとのデートは楽しかったわ。だからちょっと後ろめたくてつらかった。伽織さえいなければ何のためらいもなくあなたを私のものにできるのにって思ったこともあったわ。」
「…」思いがけない汐梨の告白に驚いて言葉が出ない。

「あの夜、あなたが私を抱いてたら、もう伽織に遠慮しないであなたをもっと好きになってたのに、あなたは何もできなかった。その後何回もデートしたのに、あなたはびびってキスさえしなかった。1回抱いたのなら2回も3回も同じだと思うんだけどね、でもあなたはその気配さえ見せなかった。ジリジリして待ってたのに、神様が私を見放したってことね。」
「…。」
「伽織も、私があなたを追いかけて同じ街に行ったんだから、私の気持ちに気づいていたと思う。同じ人を思って、お互いに遠慮しあっていたのかもしれないわね。でも私が他の人と結婚するって言ったから、勇気を出してあなたに会いに行ったんだと思うわ。あの時はやっと姉らしいことができたって思った。」

 汐梨のもっと驚くべき告白が続く。
「でも、でもね、でもよ! 伽織があなたに抱かれたって聞いた瞬間、メラメラっと嫉妬の炎が燃え上がったの。あなたは私にその気を全く見せなかったのに、伽織を簡単に抱くなんて絶対に許せないって、怒りさえ湧いてきたわ。どうして私を抱かなかったのに伽織を抱く事ができるんだって。なぜなの?ちゃんと説明して!!」
「…」
驚きの連続で理解が追いつかないし、汐梨の勢いに押されて言葉が出てこない。
沈黙しているとさらに畳み掛けてくる。
「私はあなたが私を抱かなかったことに怒ってるのよ。私にそんなに魅力がないの?聞かせて!」
「いや、そんな。汐梨ちゃんに魅力がないからじゃないよ。ただ…。」
「ただ、なによ!」
「汐梨ちゃんが怖かったんだ。出会い(再会)があんな大失態だったからこれ以上失敗しないようにって、それだけだったんだ。汐梨ちゃんに欲情するなんてことがあったら次は何を言われるかと思って、そんな気持ちを抑えて一生懸命汐梨ちゃんに仕えてたんだ。」
「私が怖かったですって!?」
「いやそれは言葉の綾で…。」
「私には女の魅力を感じなかったってことなの?」
「いや、その。十分に男心を刺激してた。でも子供の頃から汐梨ちゃんは強かったし。」
「いやだ!強かっただなんて、女の子になんてこと言うの!」
「だってさっきからそんな圧のある喋り方だし、2度と失敗しないよう必死だったんだよ。」
汐梨の勢いに押されてしどろもどろになる。
「そう? と、言うことは結局のところ私が悪いって言いたいのね。」
「いや、その、多分俺が必要以上に警戒して、じゃなくって気を回しすぎてたからだよ。」
「やっぱり私がいけなかったってことよね。」
幾分押しが弱くなった。

「ううん、違うよ。俺だって昔から汐梨ちゃんのこと好きだったよ。汐梨ちゃんと一緒に遊んでて楽しかったんだ。だから今でも汐梨ちゃんと仲良くできたら良いなと思ってるよ。でも今はもう人妻だし。」
「あぁ、それね。結婚はお断りしたわ。安心して。」
「え、ほんとに?」
「そうよ、あなたのせいよ。あなたが私に対して知らんぷりしてたから悔しいのよ。こんな気持のままじゃ他の誰とも結婚できないわ。今度こそほんとに責任取ってよね。」
衝撃の発言の連続でパニックになりそうだ。
「そ・そんな!」
「だから、さっきから言ってるように、伽織はすぐに抱いたのに私には素知らぬ顔してるから悔しいの。この気持わかる?」
「そ・そんな事言われても。」
「はっきり言うわ、私はあなたに抱いてほしいのよ!女の私にここまで言わせたんだから、恥をかかせないで!」
「い・いきなりそんな事言われても。そういうムードにもって行かなくっちゃ。」
「そしたら抱く気になる?」
「俺も汐梨ちゃんのこと好きなんだよ。昔“お医者さんごっこ”で汐梨ちゃんの体を触ったときもドキドキしてたの今も覚えてるもん。」
「どんなふうに触ったの?今して欲しいな。」
急に甘え口調に変わった。
「えっ!今からするの?」
「うん、してほしいな。おねがい。」
「ええっ!う~~ん、でも、え~と、できないよぉ。」
「そんなにいやなの?私にはもう触りたくないってこと?」
「そんなことないから。うん、わかった、やるよ。そっちのベッドに行って。」
「はい。」
寝室に移動した。
「横になってお腹を出して。」
「はい。」
「どこが痛いですか?」
両手で汐梨の腹を愛撫する。
「あっ、あん、はぁっ。」
汐梨の口から吐息が漏れる。手を上に滑らせていくと指がブラに触った。
「ブラジャーを外すわ。」
汐梨が自分でブラのフックを外して上にずらすと、2つの柔らかそうな白い丘が現れた。俺はゴクッと唾を飲み込んだ。そして両方の手のひらでその丘を包んだ。
「はアァッ~!」
汐梨の声が大きくなった。さらに優しく丘を揉む。
「はああ~っ!」
「こんな感じだったと思うけど。」
「もうおしまいなの?やめないで!」
「えっ?」
「最後までしてよ。こんな中途半端で帰らせる気なの?」
汐梨は上体を起こして俺を抱き寄せて、激しく唇を押し付けた。
「ここでやめるなんてそれこそ無責任の極みよ。」
喘ぎながら言うと俺の服を脱がし始めた。
「待って!自分で脱ぐから。」
と言ってる間に最後のトランクスまで引き下ろすと、既に勃起していたオレ自身ペニスが勢いよく上下に揺れた。
「うれしい!大きくなってくれてるぅ。私も全部脱がして。」
横になっている汐梨も協力してスカートとショーツも脱がして2人とも全裸になった。改めて汐梨の上に覆いかぶさって唇を重ねる。汐梨もオレの背中に腕を回してしっかり抱きしめている。

 そして汐梨と1つになり、汐梨はこれまで我慢していたうっぷんを晴らすかのように敏感に反応して声を上げ、激しく動いた。俺も精魂込めて汐梨の気持ちに応えた。


 激しい情感の波が去ったあとは静寂が訪れていた。
「伽織もこのベッドで抱いたのかしら?」
「う・うん。」
「いいわ、伽織に負けないから。」
「うれしいんだけど、汐梨ちゃんと伽織ちゃんどちらかを選ぶなんて無理だよ。」
「いいえ、そうじゃなくって2人とも同じくらい好きになってほしいの。」
「えっ?」
「あなたを伽織に独り占めさせないわ。でも伽織を追い出すつもりはないから2人共あなたを愛するのよ。」
「そ・そんなぁ。」


  とりあえず おわり


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

性処理係ちゃんの1日 ♡星安学園の肉便器♡

高井りな
恋愛
ここ、星安学園は山奥にある由緒正しき男子校である。 ただ特例として毎年一人、特待生枠で女子生徒が入学できる。しかも、学費は全て免除。山奥なので学生はみんな寮生活なのだが生活費も全て免除。 そんな夢のような条件に惹かれた岬ありさだったがそれが間違いだったことに気づく。 ……星安学園の女子特待生枠は表向きの建前で、実際は学園全体の性処理係だ。 ひたすら主人公の女の子が犯され続けます。基本ずっと嫌がっていますが悲壮感はそんなにないアホエロです。無理だと思ったらすぐにブラウザバックお願いします。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。 「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」 「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」 「・・・?は、はい」 いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・ その夜。

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

処理中です...