ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

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第19章

彩芽、見せられる2

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 セクレトの、エポストリアの狙いが、思わぬ形で判明し、ミセーリアとヴェンガンはエレンホス王を引き渡すと言うマルギアスの要求を呑む事を決意していた。

 だが、エポストリアの計画を進めるには、敵を煽るだけでは舵取りが出来ない部分がある。
 そう、フィデーリス王国にも裏切り者がいなければ、事はそんなに上手く運ばないのだ。



「フィデーリス内に、あなた達の協力者は?」

「ガモス……それと、フィデーリス騎士団」

「!?」

「ガモスが中心になって、団長と側近達は皆、エレンホスの息がかかっている……」

「ガモスが、そんな……なぜ……」

「最初は……指定する商会との取引をすれば、金を渡すと言って近づいた……」

「……すぐにマリアをここに」

「よろしいのですか?」

「事態は急を要します」



 場面が変わる。
 マリアベールの部屋。
 ミセーリア不在の場面を見て、これがミセーリアの都合の良い記憶では無く、過去の事実だと彩芽は感付く。

「マリアベール、至急ミセーリア様が話があると」

「こんな夜更けに何があった、マルギアスの鼠でも入り込んだか!?」

「もっと悪い。地下牢へ来てくれ。事情はここでは言えない」

「……わかった」



 場面が地下牢に戻ってきた。

 ヴェンガンはミセーリアとセクレトを見るなり、血相を変える。
 ミセーリアがセクレトの背中を鞭で叩いたのだろう。
 セクレトの背中には肋骨が見える程の重傷が負わされていた。

「セクレト王子!? ミセーリア王、これは!?」

 マリアベールがセクレトに生命補助魔法をかける。
 だが、セクレトは意識を完全に失い、危篤状態となっていた。

「誰がこんなむごい事を!? まさかミセーリア王、あなたが!?」

「事情を説明させて、マリア、これは……」

「昼間の会議では更なる派兵を約束してくれたのに、なぜ!?」

「話を聞け、マリアベール。セクレト王子にこんな事をしたのは私だ」

 ヴェンガンが、ミセーリアを庇って嘘をついた。

「ヴェンガン貴様! 正気なのか! こんな事をして同盟はどうなる! 嫉妬にでも狂ったのか!? このままではセクレト王子は助からぬ、上に運びすぐに治療をする! 話はその後だ!」



 場面が変わる。

「ミセーリア、なぜあのような事を……」

「ごめんなさいヴェンガン、あいつのせいで民が無駄に殺されたと思ったら、我慢が出来なくて……私……」

「マリアベールは、話をすれば、ちゃんとわかってくれます。それよりも、エレンホスと……エポストリアと手を切り、マルギアスとの和平を考えなければ、さらに民が死ぬ事になります。エレンホス王の首の為にもマリアベールにはセクレトを救って貰わなければ……」



 場面が変わる。

 セクレトは治療したが意識が戻らない。

 このままでは、婚姻どころでは無い。
 結婚式以前に、セクレトが行方不明になっては同盟どころでは無く、エレンホス王を呼ぶ事もままならない。

 セクレトの命を繋ぎとめ、この事態を表沙汰にせずに解決する為にマリアベールは一人部屋に籠って不休で魔法をかけ続け、衰弱していく。

 ヴェンガンはマリアベールに「セクレトの命が助からねば、死罪だ」と一方的に地下牢へと幽閉されていた。
 ミセーリアは、密かにヴェンガンとの面会に来る。

「ヴェンガン、私のせいで……すぐに出します」

「ミセーリア様、私の事より、それよりもセクレトを……私の部屋の金庫に、マリアベールの魔法の刻印と、魔法自体の理論を記した彼女の手記があります」

「それをどうしろと? セクレトが死んだ代わりに、エレンホス王に送れとでも!?」

「ミセーリア、あなたの魔法とマリアベールの魔法は、かなり近いと前に言っていましたね? あなたの師が彼女だったとも。彼女の癒しの魔法は、私の手には負えない。ですが、あなたなら手を加える事が出来る筈だ」

「手を、加える?」

「ミセーリア、あなただけの癒しの魔法を作って。マリアベールのよりも強力な、癒しの魔法を。そうすれば、セクレトの傷を癒して、あなたが操れば、まだフィデーリスを救える。マリアベールが時間を稼いでいる間に早く」

「……出来るかわからない」

「やるしか無いのです。あなたの、いえ、あなたの民の為に……」



 場面が変わる。

 ミセーリアは、ヴェンガンと民を思ってマリアベールの生命補助よりも強力な治癒魔法を完成させ、マリアベールが術をかけている部屋へと急いだ。
 そこでは、マリアベールが過労から意識を失い倒れ命も危ない状態であった。

「そんな……マリア……」

 ミセーリアは、マリアベールに完成したばかりの治癒魔法をかける。
 すると、マリアベールの生気が戻っていく。

 成功を確信してミセーリアはセクレトに魔法をかけた。
 しかし、反応が無い。
 力場の刻印も用意したのに、セクレトは回復しない。

 その時になって、ミセーリアは気付いた。
 マリアベールの治療の甲斐も無く、セクレトは死んでいたのだ。

 だが、ミセーリアは諦められない。
 他に手が無いか、マリアベールの部屋の中の研究日誌を見ると、そこには更に上位の生命補助を可能とする魔法の研究があった。
 ミセーリアは、魔法構築と刻印改変をその場で行う。
 生命補助を治療魔法へと改竄した時に、どこをいじってよく、どこをいじったら発動しないのかだけは理解していた。

 セクレトに何度も、ランダムと言っていい改変した治療魔法をかけ続けた。
 もうダメかと思ったその時、奇跡が起きた。
 セクレトが息を吹き返したのだ。

 彩芽は、ヴェンガンではなく、ミセーリアがネクロマンスを完成させた瞬間を見ていた。



 場面が変わる。

 セクレトの生存と、拷問された記憶の欠如、傷の完治によってヴェンガンが行ったとされる非道は不問とされる事になった。
 セクレトはミセーリアの指示通り、結婚式の準備の為国に戻ったらしい。

「マリアベール、私の話を聞いていたのか!? マルギアスにエレンホス王の首を差し出せば、全てが丸く収まるのだ!」

 まだ完治していないマリアベールの寝るベッドの横で、ヴェンガンが話をしている。

「ヴェンガン大臣! あのような行為までしておいて、ミセーリア様の結婚式でエレンホス王の首をマルギアスに差し出すと? 本気で言っているのか!? そこまでミセーリア王をお前から奪うセクレト王子が憎いのか!?」

「拷問の件に関しては、言い訳のしようがない。だが、真実を吐かせるために、あれは必要で……」

「ミセーリア王がお前の事をお止めにならなければ、セクレト王子は死に、今頃はマルギアスとエレンホスの両方を相手にする所だったのだぞ! わかっているのか!」

「わかっている! ミセーリア様とマリアベール、君には感謝している。私はどうかしていた。だが信じてくれ! エポストリアはフィデーリスを捨て駒にしようとしているのは本当なのだ!」

「お前が拷問して無理やり吐かせた言葉など信じられるか!」

 ミセーリアを庇ったばかりに、マリアベールからの信用も信頼も失ったヴェンガンの言う事は信じて貰えなかった。

 だからと言って、ヴェンガンはミセーリアがドミネーションをかけ、拷問にかけた事をマリアベールに伝える事が出来ない。
 ミセーリアの為でもあるが、ミセーリアを敬愛し溺愛しているマリアベールに、民を愛し、民から愛されるミセーリアが怒りに任せて鞭をふるった事実は伝えられる筈がない。



 場面が変わる。

「マリアベールは、セクレト関係では、もう私の言う事は信じないでしょう」

「私が説得を……」

「無駄です。私が拷問で聞き出し、あなたが止めて、正気に戻った私がマリアベールを呼びに行った事になっているのです。その私から聞いた話というままでは、ミセーリアが私に説得されたとしか思ってはくれない……」

「……ならば、本当の事を」

「……いえ、それはいけません……私に考えがあります。マリアベール抜きで、私達だけで計画を進めるのです」

「マリア抜きで!?」

「ミセーリア、裏切り者である騎士団は、城壁内ではマリアベールの魔法で手が付けられません。ですが、今のあなたには、マリアベールも知らない彼女以上の魔法がある。城壁の刻印を全てあなたの魔法の刻印に書き換えれば、騎士団は死ににくいだけの裏切り者となる」

「どうする気なの……」

「あなたとセクレトとの結婚式で、フィデーリスとエレンホスの騎士団を粛清するのです。そして、あなたの作り上げた死者蘇生と支配、二つの魔法を使って、マルギアスにエレンホス王の首を渡し、フィデーリスはマルギアスの一部となる代わりに、民の安全を保障させます。交渉はお任せください」

「そんな……何も知らないマリアは、どうなるの?」

「彼女には、一度、マルギアス騎士達の目の前で死んで貰います。後であなたが生き返らせれば良い」



 場面が変わる。

 結婚式当日。
 ドミネーションで操られながらも、違和感なく振舞うセクレト。
 エレンホス王は妻と共に何も知らずに結婚式に出席している。

 地下通路から、ほとんど音もたてずに現れるマルギアス騎士団。
 城内に雪崩れ込むと、フィデーリスとエレンホス騎士団を次々と虐殺し始める。

 ミセーリアは死体の流す血の海を歩きながら「ドミネーション・ネクロマンス」をかけていく。

 混乱の中、ヴェンガンだけが犯人だとマリアベールは勘違いをしたまま、ミセーリアとセクレトに生命補助魔法をかけて戦場へと乗り込む。

「ヴェンガン! どういうつもりだ!」

 ヴェンガンはマリアベールの質問に答えず、単独の主犯である風に装いながら、マルギアス騎士団と共にフィデーリス騎士団とエレンホス騎士団を殺し、ミセーリアの配下へと変えていく。

「ヴェンガン! きさまあぁぁ!!!」

「これ以上、私の邪魔をするな」

 そう言っているヴェンガンの顔は、友を手にかける事を戸惑っている様に見えた。

 その時、マルギアス騎士団の弓兵がマリアベールに毒矢を放った。

 矢を受けたマリアベールの様子がおかしい。
 マリアベールを慕っていた、おそらく団長の裏切りを知りもしない下級騎士達がマリアベールを逃がそうと盾になりながら連れ去ってしまう。

「何をした!?」

 ヴェンガンはマルギアスの騎士を問い詰める。

「約束した筈だ。魔法使いマリアベールは殺すと」

「私が手を下すを言ったはずだ!」

「知り合いを手にかけるのは辛かろうと、これは王からの慈悲だ。裏切り者の伯爵様へのな。安心しろ、矢にはヒドラの毒を仕込んである。絶対に助からない。これも王からの慈悲だ」



 場面が変わる。

「ヴェンガン、マリアは!?」

「マルギアスの奴らがマリアベールを殺し、その遺体も逃げた下級騎士に持ち去られました」

「そんな!?」

「あなたの命も危ないかもしれない。隠し扉の中に隠れて。私の幻惑魔法で、侍女の死体をあなたの身代わりにして、機を見て焼きます」

「フィデーリスが無くなり、マリアベールが死んで、このままではあなたまで……何でこんな事に……」

「マルギアスの連中は、民には手を出していません。彼らは約束だけは守っている。つまり私が奴らにこの先も金を払う限りフィデーリスは無くなりません。大丈夫です、命に代えても私があなたと、あなたの民を守ります。こんな事になって本当に残念です。ですが、どうかあなたは生きて下さい……」
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