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第7章

第?章:ブルローネの新人17(ifルート)

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「何かおかしい……」

 馬車は明らかにエーレ王家一家が宿泊する為に用意された屋敷から道が外れていた。

「どこに向かっているんですか」

「危ないので座っていてくだせい」

 不安になりイシャーラが聞いても御者は、そんな言葉しか答えない。
 どんどん人気のない道に入って行こうとする。

 フェブリス王子とレグルス王子が「すぐに止めろ」と騒ぎ始めると、ようやく馬車は路肩に止まる。
 一同は御者を問いただそうとするが、御者は馬車を捨ててどこかに逃げて行ってしまう。

 彩芽とイシャーラが不安そうな顔をする物で、二人の王子達は「自分達がいれば大丈夫」と勇気を奮い立たせ、馬車の戸を開けた。

 その時には、全てが遅かった。

 人影の無い町はずれの山道。
 薄暗い夜道に御者のいない馬車の中、周囲は木々が生い茂るだけで何も無い。

 何も無いだけなら良いのだが、木の影から顔を隠した盗賊達が現れた。



「何の余興だ! さっさと屋敷に連れて行かぬか!」

 レグルス王子が言うと盗賊達は笑った。

「私達がエーレ王国王子と知っての所業か!」

「んな事知らねぇよ。俺達は、ちょいとその娼婦に用があってね」

 盗賊達は、王子にはイシャーラにも目もくれず、彩芽を馬車から無理やり下ろす。

「なんなんだ貴様らは、その人に手荒な真似はするな!」

「安心してくださいよ王子様方。殺しやしません。ちょっと傷物になってもらうだけで」

 彩芽のドレスが、まるで蝶の蛹をナイフで無理やり脱皮させるように裂かれると、薄暗い森の中で裸体が露となる。

「散々警告しただろう。自業自得だってわかってるよな?」



 世界観の狭い悪程、厄介な物はない。
 彩芽がさらされている悪意は、世界観が狭く、それも浅い悪であった。

 彩芽に恨みの無いこの者達の目的は金である。
 依頼者から貰う金と、この場で奪う金。

 それ以外に興味はなく、王子をさらって国際問題になっても自分達には関係無い。
 目先のご褒美の為なら何でもする。

 そう言う連中との交渉は、非常に難しい。



「待てお前ら! 欲しいのは金じゃないのか! 金なら払うから、酷い事はしないでくれ!」

 フェブリス王子が言っても、盗賊達は止まらない。

 欲しいのは金だが、飼い主の怖さも良く分かっている。

 雇われ盗賊達が最も得するのは、汚い仕事を証拠を残さずに済まし、報酬を得る時。
 その様に飼いならされた猟犬達を、買収だけで大人しくさせる事は出来ない。
 猟犬を止められるのは、飼い主か、猟犬が恐れる存在のみ。

 服を剥ぎ取られた彩芽は、大きな木に手をつかされ、足を開かされる。
 黙って言う事を聞けば殺される事は無い。

 だが、暴力に屈する事だけが悔しくてたまらない。

 イシャーラの母親エスカと、その恋人の差し金だとすると、あまりにも自分勝手で、酷過ぎる。

 彩芽の初仕事が失敗しても、今更彼らには得が無い。

 得があるとすれば、ブルローネの新人を一人潰して、イシャーラに対しての警告となるぐらいだが、王子様を巻き込んでの犯行など、頭が悪すぎる。
 そこには、手段を問わないから彩芽を陥れて、彩芽の幸せだけは許さないと言う、歪んだ決意が見えた。

「待って!」

 イシャーラが叫ぶ。
 すると、イシャーラは、自らドレスの紐を解き、裸となった。

「その子に手を出さないで……私が、私があなた達の相手になります」

「シャーラ姉っ!?」

 盗賊達は、イシャーラの裸体を見て息を飲む。
 依頼者に手を出すなと言われていたが、向こうから飛び込んで来れば話は別である。

 抱いてくれと言われて抱くなと言う内容は、依頼に無い。



 盗賊達は、姫娼婦の世界も味も一切知らない。
 町に溢れる場末の娼館しか知らない者達にとって、目の前に差し出された穢れの無い身体は、あまりにも眩しかった。



 盗賊達の股間に下がる物を、イシャーラは慣れた手つきで握り締める。
 どれも吐き気を催す悪臭に満ちているが、イシャーラは果敢にも口に含み、フェラチオを始めた。
 同時に差し出された何本もの汚い物をえづく事なく丁寧に舐め、次々と果てさせていく。

 仲間達の羨ましい光景を見ながら彩芽を拘束していた盗賊も、自身の股間に柔らかな手が伸びる感触に我に返る。
 彩芽が上目遣いで盗賊を見上げると、恋人にねだられている様な気持ちになり、盗賊はズボンを脱いでされるがままにされ始める。

 彩芽を王子とイシャーラの見ている前で傷物にしようと息巻いてきた盗賊達は、突然始まった和姦の様な状況に、訳が分からなくなる。

 一回では、満足など出来ない。
 早く本番を始めたいと盗賊達はズボンを完全に脱ぎ去るが、そこでようやく盗賊達は気付く。
 全員が、誘われるままにズボンを脱いでいた事を。
 そして、王子達の見張りが、疎かになっていた事をだ。

「王子達はどこだ!?」

 下半身裸の盗賊達が、慌てていると、今度は彩芽とイシャーラの姿も消えていた。



 * * *



 イシャーラは猫人族で、夜目が効き、耳が良い。
 警戒さえしていれば、夜の森の中で、人族相手に後れを取る事は無い。

 彩芽とイシャーラは、裸のまま、盗賊共の精液で汚れた身体のまま、夜の森を逃げていた。
 鬱蒼とした森の中なら、馬で入るのも難しい。

 遠くには、ネヴェル城の見張り塔が松明に照らされて見えている。
 そこまで辿り着けば、助けを求められる。

「シャーラ、王子様達は!?」

「私が時間を稼ぐ間に逃げろって言ったから。城に戻ったでしょ。あいつら、あなたを狙ってたから、きっと無事よ!」

 夜道をイシャーラに手を引かれながら走る。
 木漏れ日の様に月明りが差し込む森の中、全裸で駆け抜けるのは、まるで現実感が無い。

「身体洗いたいね!」

「本当、そうね!」

 二人は、盗賊達の汚かったナニを思い出し、その酷さに不快を通り越して笑ってしまっていた。



 しばらく走ると、川にぶつかった。
 二人は川で身体を洗う。
 特に、入念にうがいをして、口の中を洗い流した。

 イシャーラは口直しとばかりに、彩芽に口付けをする。

 男娼だけを相手に練習してきたので、まさかあんなに不潔な状態の物があるとはと、二人の想像を超えていた盗賊達の物を思い出す。

「クセロ(ヴィリロス)のより大きい人いなかったね」

「何言ってるのアーニャ……ふふ、確かに、言われてみれば、みんなクセロに比べれば可愛い大きさだったわね」

「王子様のは、どんなだろうね」

「さっきのより綺麗なら、それで十分よ……はあぁ……おかしい……それより、どこも怪我はない?」

「うん。見てよ、シャーラが守ってくれたから、ほら」

 川に腰まで浸かる彩芽が手を広げているのを見て、シャーラは無事を確認し、安心する。

「アーニャ、ごめんなさい……私のせいで……」

「シャーラ姉のせいって決まった訳じゃないでしょ。でも、王子様には悪い事しちゃったね」

「そう……ね……国の仲が悪くならないと良いけど」



「やっと見つけた……」

 彩芽とイシャーラが振り向くと、そこにはボルドレットの姿があった。

「ボルド!?」

「川伝いに行かれたら、匂いで追えない所だ……そんなに遠くに行ってなくて良かった。もう大丈夫だ。安心しろ。盗賊共はネヴェル騎士団が取り押さえた。王子様方も無事だ」

「ボルド、どうしてあなたが?」

「ああ、実は、副長に言われて警戒は、ずっとしてたんだ。パーティが終わった後で、馬車が屋敷に着いていないって騒ぎになってな。町は今も大騒ぎだぞ。それからフェブリス王子とレグルス王子が、王子を探していた兵士に知らせてくれてな」

 イシャーラがボルドレットに抱き着く。
 彩芽の前だから、気丈に振舞っていたが、イシャーラだって盗賊達の襲撃は怖かったのだ。

 好きだった幼馴染が、騎士としてピンチに駆けつけてくれた。
 欲を言えば、もっと早く駆けつけて欲しかったが、来てくれただけで良かった。

「遅くなって悪かったな。二人共、これを着ろよ。目のやり場に困る」

 ボルドレットは上半身が裸になるまで脱ぐと、二人に服を渡し、三人は城へと戻っていった。



 * * *



 その後、王子様を相手とした初仕事は、結局流れてしまった。



 騎士団の捜索の末、捕まった盗賊達は、最初は無関係を装った。

 だが、彩芽とイシャーラに股間の中身を覚えられており、二人がペニスだけで相手を完全に判別できる事が証明されると、罪を認めざるを得なくなった。
 盗賊達は、処刑か自白による減刑かを選ばされると、アニークの支配人とエスカを黒幕としてあっさり自供した。



 エスカとアニークの支配人を取り調べると、イシャーラの父親が生きている頃からアニークの支配人と不倫していた事が分かった。
 そして、イシャーラの父親は財産を残し、借金などしていなかった事も判明した。

 エスカがイシャーラの父親の財産をアニークの開店資金としてつぎ込んだ事が、借金のそもそもの始まりであった。
 エスカの多額の借金は、投資による一時的な物となる筈であったが、当初はアニークの経営が上手くいかず、借金で首が回らなくなり、一年ほど前にイシャーラをブルローネに送り込み、借金返済に充てさせようとしていた。
 しかし、アニークに他店から引き抜く事で、経営が軌道に乗り、借金が返せる当てが出来た。

 すると、エスカは、イシャーラを手元に戻し、ブルローネに落ちる筈の金も自分の懐に入れたいと考え始めたと言う。

 彩芽への嫌がらせは、エスカがイシャーラを取られたと思っての、完全な逆恨みからであった。
 初仕事を失敗させ、姫娼婦としての信頼を失墜させてから、破滅させたかったらしい。

 こうして事件は、イシャーラにとって後味の悪い物として幕を閉じた。



 * * *



 事件発生から一週間後。
 月の綺麗な夜であった。

 ブルローネに、客人が訪ねて来る。

「フェブリス殿下、レグルス殿下、お待ちしておりました」

 アコニーに歓迎され現れた、お忍びの二人の王子。

「二人は、もう部屋で待ってますわ」
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