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第7章

第?章:ブルローネの新人12(ifルート)

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「ごめんなさい!」

 彩芽の謝罪。
 それを聞いて、アコニーは溜息をつく。

「いきなり出て行って、泥まみれになって、怪我までして帰ってきて……こんなお客様まで連れて来るだなんて、どういう事かしら。説明してくださる?」

「もう一度だけ、イシャーラにチャンスをあげて下さい」

「ダメよ」

「どうしてですか!」

「チャンスなら何度も与えたわ。イシャーラあなたは、わかってる?」

 イシャーラは、両膝を床につくと、土下座では無いが両手も床につき、頭を深く下げた。

「イシャーラ、頭をあげて……あなた、自分が何で追い出されたのか覚えてる?」

「覚えています……」

「それなら、教えてくれるかしら。あなたがウチに戻って来て、ウチには、どんな良い事があるの?」

「それは……私……私は……私には、ここしか居場所が……」

 アコニーを前にして、イシャーラは畏縮する。
 小柄なイシャーラよりもさらに小さな相手を前にしている筈なのに、気持ちの上では見上げている様な恐怖さえある。

「ここにも、もう無いでしょ」

 アコニーはアコニーで、言葉に容赦はない。
 イシャーラの事を本気で見放し、追放したのが分かる。

 あれ以上、ブルローネにイシャーラを置いていても、誰の為にもならないと思っての判断なのは、今のイシャーラになら分かる。

「私には、ここにいたい理由があるんです……」

「そうは見えなかったけど。じゃあ、聞くわ……あなたは、何のために、わたくしのブルローネに、いつまでも居座ろうと言うの? 家の借金を返す為? お金の為? 食べる為?」

「……姫娼婦になる為です」

「それは、なんでかしら? あなたは、娼婦になりたくない物だと思っていたけど」

「……何も分かっていませんでした……」

「あら、じゃあ今は何か一つでもわかったと言うの? 聞かせてくれるかしら」

「……ずっと、娼婦は身体を売る卑しい仕事だと思ってきました……姫と持て囃されても、所詮は売春婦だと……自分には相応しくないと……でも、追い出されて……初めて分かったんです……私の方が、姫に相応しくない事が……」

「そこまで分かっているなら、戻って来てどうするつもりなの? あなたは、戻れば結局は自分の身体を売る事になるのよ。それは変わらない」

「私に、与える喜びを教えて下さい! 変わりたいんです! 雑用でも何でもします! 領主様の違約金も働いて返します! 私に、姫になる最後のチャンスを下さい!」

「……イシャーラ、それなら一つ条件があります」

「……はい……」

「一週間。あなたには一年以上基本は教えたのですから、一週間後、テストをします。そのテストに合格したら、良いでしょう。アヤメ、あなたが拾ってきたんです。ちゃんと面倒を見てあげてね」

「はい!」



 * * *



 テストの内容は、四十人の姫達が見ている目の前での、実演である。
 そこで、姫として通用するのかを、改めて審査されるのだ。



 妹姫に、アコニーや皆に貰ったチャンスを無駄には出来ない。

 与えられたのだから、自分も与えなければならない。
 今の自分から、皆に与えられる物は、無いに等しい。

 それなら、期待に応える働きをする事で、まずは本気度を知って貰わなければならない。



 イシャーラは、日々の雑用でも手を抜かず、何事にも全力で取り組む様になった。
 たった一日でも出戻りは出戻りである。
 失格者である事は、皆も既に知っている。

 今までならば、周囲を避けて過ごした事だろう。
 だが、イシャーラは、他人として距離を置いていた先輩姫達にも、分け隔てなく親切になっていた。

 ツンツンと壁を作っていたイシャーラを知っている先輩姫達は、必死とも取れるイシャーラを見て、最初は悲哀さえそこに感じていたが、会えば挨拶をし、手が空いていれば仕事を手伝い、話しかけられれば言葉を返す、そんなイシャーラを見て、変わろうと言う本気度だけは確かに伝わっていた。



 それから彩芽とイシャーラの二人は、テストに向けた準備も同時に進めていた。

 練習にプレイルームでは、人が来る可能性がある。
 なので、人が来ない使われていない物置部屋を掃除して使う事にして、狭く薄暗いそこは二人が自由に使えるプレイルームとなった。

 最初、あの時は下着までで終わった自主練であったが、イシャーラの方から、裸になってのテストに備えた本番さながらの練習をしようと言う話になった。
 当然、本気でテストを通過したいのなら、それは当たり前の判断である。



 日常の中の交流、毎日の練習。
 全ての時間に彩芽がいた。

 彩芽は、暇そうな先輩姫を捕まえてきては、イシャーラの特訓の相手をお願いした。
 イシャーラは、先輩姫に頼る事に、まだ抵抗があったが、見習い二人で練習をするには限界がある。

 どの先輩達も、イシャーラの練習への誘いを断る事は無く、皆が得意な事を教えてくれた。

 バトラは愛嬌があり、与える喜びを知っていた様に、他の姫達も、それぞれ自分の武器を持っている。



 武器とは、イシャーラは技術や知識の事だとずっと思っていた。

 ブルローネに来た一年を通して、フェラチオとクンニリングスは姫を相手に何度もさせられたので、イシャーラは技術としては上手かった。
 体位は二百種類以上覚えているし、身体が柔らかいので実際に出来る。
 性感帯の場所も分かるので、そこを攻めれば相手が気持ちが良くなる事も分かっている。
 淫語も詳しく、表現力にも富んでいた。

 だが、それはどれも重要な武器ではあるが、必ずしも必要な武器では無い。
 本当に必要な武器とは、まさにバトラの愛嬌の様な、個人の資質に由来する強み。

 つまりは、魅力であった。

 これが無ければ、姫娼婦は務まらない。
 逆に、これさえあれば、手持ちの武器の種類が少なくても、姫はプレイルームと言う戦場で生き残れる。



 一週間。
 その間に探さなくてはいけないのは、イシャーラの魅力である。



 イシャーラは美人である。
 だが、見た目が美しいのは、前提でしかない。
 姫達は、皆美しくて当たり前なのだ。

 それを特別な物にする物が何なのか、イシャーラは分からなかった。
 自分の内面は、最低だったと気付き、認めたばかりである。

 先輩姫達も、頑張っているから可愛がってくれていた派と、バトラの妹だから可愛がっていた派が殆どで、イシャーラの性格が好きで構っていた者はいなかった。
 バトラは、初めての妹で、あの性格だから溺愛してくれたが、それは姉妹だからである。

 バトラや彩芽の様な、愛嬌が無い事は分かっていた。
 それを演技でどうにかすれば良いのかと言う話ではない。

 先輩姫達の中には、愛嬌が無いのに人気のある姫も大勢いる。
 ミステリアスであったり、冗談や悪戯が好きであったり、誰もが与えられる物を持っており、欲しがる客を虜にしている。

 素の自分では無いが、自分の一部を上手く利用して武器にする。
 武器に出来る自分とは、どの部分なのかをイシャーラは思い悩んだ。

 だが、悩むほどの時間は無い。
 すると、彩芽はすぐにイシャーラを誘ってきた。



「聞きに行こう。今すぐ」



 彩芽と共に、イシャーラはネヴェルの城に来ていた。
 ボルドレットに会う為に。

 フラれて以来、一度も会っていない。

 だが、ボルドレットだけが、当初はイシャーラと結婚しても良いと考え、後に愛妾にしても良いと思っていた、唯一の人物である。
 お互い気まずいが、イシャーラの裸も見た事が無いのに、そこまで思えていた彼に聞くのが、一番の近道である。

 行ってみるとボルドレットは、自分の剣の手入れをしていた。

「こんにちは」

「ん? げっ、お前ら!?」

 彩芽の挨拶に、ボルドレットは気まずい顔でイシャーラを見た。

「領主様は、今は留守だぞ」

「ボルド、あなたに話しがあって来たの」

「はぁ…………何も言わないで結婚してたのは……悪かった……言い出せなかったんだ。親が決めた許嫁と、婚約が決まって……」

「良いの……奥さんを大事にして……話は、その事じゃなくて……聞きたいんだけど、どうして私と付き合ってくれてたの?」

「え? それは、シャーラお前……幼馴染だったしよ……ずっと仲良かっただろ……」

「私の魅力って、ボルドから見て、何なの? 顔?」

「顔……顔も、好きだが……なんだってそんな事?」

「私、ブルローネ追い出されちゃったの」

「それは、知ってる。なのに、その妹と、またなぜ一緒に?」

「ブルローネに戻る為に、テストを受けないといけないの。姫娼婦として、相応しいか」

「追い出されたなら、俺と……」

「……借金が消えた訳でもないのに、結婚までしてバカ言わないで。あなたとは別れたの」

「……そ、そうだよな……すまん……それじゃあ、お前の魅力と、そのテストに何の関係が?」

「姫として、何を武器にすれば良いのか分からなくって……ボルドは、なんで私の事を愛してくれたの?」

「説明しにくいな……気、悪くするなよ……いいか? お前は、昔っから、自分の好きな奴以外には、結構冷たかっただろ……」

「そうだった……かも……」

「そのお前が、俺の前で、二人きりになると、いきなり甘えてきて、俺は多分、それが気持ち良かったんだよ」

「それ、わかります!」

 彩芽はボルドレットに共感する。
 誰に対しても冷たいからこそ、自分にだけ見せる僅かな優しさでも、ギャップがある為反動で本来よりも優しく感じる。

 ある種のツンデレ。

 人前では壁がある様に見せかけて、二人きりになると心の内を見せて来る。
 それは、自分にだけ見せる姿こそが本当の姿に思え、相手の心をくすぐって放さない。

「わかるの?」

 イシャーラだけは、わかっていない。
 だが、それなら彩芽が概念的ならば教えられる。

「ありがとうございます。ボルドレットさん」

「こんなので良いのか? シャーラ、俺から別れを切り出して、言えた義理じゃないが……お前が元気そうでよかった……」

「ありがとう……私も、あなたに振って貰えて、感謝してる」

「感謝???」

「テスト、受かる様に祈ってて……またね」



 彩芽とイシャーラが帰っていくのを見送りながら、ボルドレットは胸のつかえが取れた思いをした。
 イシャーラへの未練はある。
 妻の事は、親同士が決めた結婚で、愛していない訳では無いが、これから知り合う様な状況だ。

 だが、傷つけた幼馴染の恋人だった人の顔を見ると、お互いこうして別の道を歩むのが良かった風に、今なら思う事が出来る。

「ボルド、見習いを連れ込んで、何の相談だ?」

 感傷に浸っていたボルドレットに、巨人が話しかけて来た。

「副長、いつから聞いてたんですか?」

「聞いちゃいないが、一ヶ月後にはどこぞの王子様の女になるかもしれないんだぜ、下手なちょっかいはかけるなよ」

「そんなの、言われんでもわかってますよ。そう言う副長こそ、急にどうしたんですか?」

「ん? いや、何でもねぇよ」

「まさか、シャーラの事ずっと狙ってっ!?」

「バカ言うな! 人の物に手は出さねぇよ! もう一人、妹の方だ」

「俺、あの子にはトラウマしか無いですよ」

「俺なんて強姦魔扱いされてんだ。尻を触ったぐらいで……」

「副長のはシャレにならない奴でしょ。そんなに、気になるんですか? 夕食にでも誘ったら?」

「まかり間違って下手な事したら、アコニーに殺されちまうだろ」
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