ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲

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第7章

第?章:ブルローネの新人2(ifルート)

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「イシャーラ姉……実習って……まさか」

 彩芽は、結構すぐに「お姉さま」「お姉ちゃん」呼びに飽き「イシャーラ姉」と呼んでいた。

「そんな不安そうな顔しない。大した事じゃないから」



 基礎的な地理、歴史、語学の座学を習得するのに、二週間。
 ここからは、姫娼婦として役立つ知識を重点的に掘り下げる事になる。

 地理や歴史であれば、国ごとの生活に根差した慣習の違い、宗教的禁止事項等を、語学では、様々な愛の言葉に至るまでマスターする事になる。

 一般教養レベルの本の朗読から詩の暗記まで追加され、一気にレベルが上がり、覚える事が難しくなっていく。

 それでも彩芽は、座学に関しては詩以外はそつ無くこなした。

 詩の暗記だけは「何が良いのか分からない」と言う「ロック好きが演歌の良さを理解出来ない」みたいな感覚で苦しんだが、なんとか丸暗記し、立派な姫娼婦の道を着実に上がっていく。



 そして、ここから同時に始まるのが実習である。

 優雅な歩き方、食べ方、テーブルのマナー等の実習を他の先輩姫達に混ざって行い、貴族や王族の屋敷や城で行われるパーティに呼ばれても恥ずかしくない礼儀作法をマスターする。

 ここでも彩芽は、ダンスレッスンで思わぬつまずきをし、イシャーラの足を何度も踏んでしまったり、マナー全般で大苦戦を強いられた。

 それでもイシャーラは彩芽を妹姫として根気強く面倒を見てくれ、彩芽の苦手克服に付き合う事で二人の姉妹関係はようやく機能し始めた。



 * * *



 彩芽がブルローネ内の掃除洗濯と毎日の勉強が日課になり、イシャーラ姉と言う呼び方も定着した頃。

 アコニーのお使いに城へ行った帰りに、彩芽は町でイシャーラを見かける。
 どうやら、プライベートらしくいつも着ている落ち着いたデザインのドレスでは無く、地味な町行着にマントを羽織り、フードで顔を隠しがちにしている。

「イシャーラ姉!」

 フードで耳を隠している為か、聞こえなかったらしい。
 彩芽はイシャーラを追っていくと、キョロキョロと辺りを気にしながらイシャーラは地下に続く建物へと入って行った。

「文書保管所?」

 そこはネヴェルにある図書館と呼ぶには小さな貸本屋が使っている書物の保管倉庫であった。

 海が近いネヴェルでは、下手な場所に置けば書物はすぐに塩害で朽ち果ててしまう。
 その為、この様な地下倉庫で潮風から守って保管しているのだ。

 彩芽は、イシャーラが博識だった事もあり、当然本を借りに来た物だと思って階段を下りて行く。

 すると、所狭しと棚に床に本が置かれたその奥に、イシャーラの影が見えた。

「イシャっ!?」
 彩芽は呼び掛けかけた自分の口をつぐむ。

 他にもう一人、誰かいる。

 悪いと思いながら聞き耳を立てると、こんな話声が聞こえて来た。



「シャーラ、愛してる……」
「私もよ、ボルド……」

 以下、彩芽にとってはどうでも良い、歯の浮きそうな愛を語り合う言葉が飽きもせずに延々と続き、どうやら二人は恋人同士で密会をしている様であった。



 彩芽は邪魔をしてはいけないと静かに部屋を出ると、ブルローネに戻り、アコニーにお使いの報告をした。

 アコニーは、まるで彩芽を監視していたのでは無いかと言うタイミングで、こんな話を切り出してきた。



「お疲れ様。アヤメ、もうすぐ一ヵ月になるけど、ここには慣れた? やっていけそう?」

「はい、楽しいですよ。イシャーラお姉さまもいますし」

「そう。それなら良いの。イシャーラとは本当に仲良くなったみたいね。アヤメ、一つお願いしても良いかしら」

「お願いですか? おかみさんのお願いなら、何でも言ってください」

「最近、イシャーラが留守にする事多いの知ってるでしょ?」

「はい、まあ」

「知ってる事だけで良いんだけど、あの子が普段から何をしてるか私に教えて貰えるかしら」

「普段ですか?」
 彩芽は、今日見たばかりの秘密の逢引きの光景が目に浮かぶが、ブルローネの姫は恋愛禁止なのは分かっているので、一旦黙っている事にした。
 いきなりアコニーに言うよりは、一度イシャーラに警告してからの方が姉妹関係の為には良いだろう。

 アコニーは、彩芽に対して話を続けた。

「妹姫のあなたに頼むのもおかしいのですけどね、本当は姉姫が下の面倒を見るものなんですけど……イシャーラの姉姫達が立て続けに全員貴族様方に嫁いでしまって……それ自体は、とても良い事なのだけれど……あの子、まだお客様も取った事も無いのに、一番上の姉姫になってしまったから、誰もあの子の事をちゃんと見てあげられなくって……」

 アコニーなりの親心かと彩芽は思いながら、彩芽は軽い気持ちで自信満々に、「そう言う事なら、妹としてお姉さまをしっかりと見守ります!」と了承してしまう。

「お願いね。もし、男でも作ってたりしたら、あの子の今後に関わるから、しっかりお願いね」
 アコニーから続いた言葉に彩芽は思わず聞き返した。
「今後ですか?」

「ええ、だって、イシャーラは二ヶ月後にデビューですもの。ネヴェル城で開かれるエーレ王国の方々を招いたパーティでの華々しいデビュー! アヤメ、あなたもその日のデビューを目指すのよ。あなたが間に合えば、美人姉妹二人揃っての、一世一代の大初仕事になるから!」

「大、初仕事……って事は……」
 姫と呼ばれていようが、高級娼婦は娼婦である。
 仕事と言えば、セックスである。

「それまでにミッチリ仕込むから、安心なさいな。想像して、はるか遠くから、あなた達美人姉妹のロストヴァージンをメインディッシュに王家の方は船で来るの。お相手は、王子様の誰かになると思うけど、アヤメ、上手くいけばイシャーラかあなた、どちらかがエーレ王国の次期御妃様。いいえ、もしかすれば二人共って事もありえるわ!」

 彩芽は、高級娼婦になると聞いた時、説明を聞きながらも、ブルローネで客を取って金を稼ぐと思っていた。
 ここに来てアコニーから聞いた話によれば、王子様に見初められれば一発あがり。
 晴れて玉の輿である。

「あの……じゃあ、それまでは仕事は?」

「お客は取れないけど、仕事も勉強もたくさんあります。暇なんてありませんからね」

 彩芽は、ドキドキしながら気になって質問した。

「あの、デビューの事は、イシャーラ姉さまは知ってるんですよね?」

「知らないわよ。これから教えるんだから」

「あの、おかみさん。質問なんですけど」

「なに?」

「例えばですよ? 私が練習中に、うっかり膜が破れたりしたら、どうなっちゃいますか?」

「えらく嫌なうっかりね。大丈夫よ。二ヶ月もあれば治るから」

「じゃ、じゃあ、ビリっと治らないぐらい、いっちゃったら?」

「色んな意味で気分が悪くなる質問ね……そうね……初仕事で貰えるお金が少し減るわね。あなたが思っている以上に、初めてにこだわっている殿方って多い物なのよ。凄い人になってくると、処女膜を蝶みたいにコレクションしている人を知ってるけど……まあ、あれは完全に病気ね」

 なんだ、給料が減るだけかと彩芽は思ったが、それだけでは無かった。

「あなたは損するだけだけど、イシャーラは領主様に違約金が発生するから、あなたより気をつけないとね」

「違約金!?」

「さっき、手紙届けて貰ったでしょ。あれがパーティの契約書よ。エーレ王家の王子様方は、この町で最高の姫娼婦を味わいに来るの。その約束が破られてたら、違約金は当然ですし、戦争は無くても国同士の関係も悪くなるわ」

「国同士の!?」

「最高の教養と肉体を持った姫娼婦で国の代表をもてなすのだから。私達の責任は国の関係を変える程に重いのよ。だから、イシャーラに何も無い様にあなたも見守ってあげてね」
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