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第5章

第5章:ヴァローナとメイド達5(第2章ifルート:サイドストーリー)

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 ヴァローナは、嘘をつかない。
 噂好きで、感情的で、気分屋だが、皆に苦手に思われる事があってもギリギリで嫌われないのは、正直だからである。

 だが、別に嘘をつけない訳では無かった。

 保身で嘘をつくと後戻りが難しくなる事をルイシーに幼い頃に教えられ、それからは素直に謝る事を学んだのだが、それ以降もクレマティオやレーラーにした様に、沈黙で嘘をつく事は出来た。

 嘘の情報を発信しない代わりに、知らないふりをするか自分が我慢をする。

 ヴァローナは、言葉では嘘をつけなかった。
 そこで、例の薬をクレマティオに密かに飲ませる為に、策を労す事にした。



 まずは、ケルシュをコイトスに預けてから、自分達の部屋で二人っきりディナーをしないかと誘った。
 クレマティオは、ケルシュを預けたと言う事は……と察して、それだけでヴァローナを愛おしそうに抱きしめる。

 仕事に出たクレマティオを見送ると、ヴァローナは準備を始める。

 ヴァローナ一家の暮らす部屋は、城壁内にある騎士が家族と共に詰める集合住宅の様な古い屋敷にある。
 ちなみに城内で暮らすのは領主以外には、基本的に住み込みの使用人と一部の官職、それと管理職者だけである。



「ラーナ、ピスティ、非番なのに悪いわね」

「今度、私の部屋の掃除も手伝って下さいよ」とラーナ。
 ピスティはコクコクと首を振って、私もと頷く。



 ヴァローナは、ケルシュをコイトスに預けると、事前に協力を仰いでいた二人にセッティングを手伝ってもらう事にしていた。

 ラーナはルイシーとストラディゴスの娘だけあって、母親譲りの美人ではあるが、鍛えてもいないのに、かなりの怪力であった。
 ヴァローナの事を姉の様に慕ってくれるので、こういう時にもヴァローナは甘えやすい。

 ピスティは、無口で謎が多い故に、ヴァローナの噂話の被害に遭っておらず、ヴァローナの事を苦手にも思っていない様子で、先輩後輩として良い関係を築けていた。



 ヴァローナ達は、まず家具を廊下へと出した。
 ラーナが軽々と重い物を運び、ヴァローナはテキパキと指示を出す。

 部屋が空になると、床掃除を始める。

 ラーナが絨毯を床から外し、廊下へと叩きに持っていく。
 靴で入る部屋なので、かなり砂や土の汚れがたまっていた。

 その間にピスティとヴァローナで箒で掃き、部屋の外に全部出すと、次は三人で床に水を撒いての磨き掃除。
 水が張った石床に自分達の姿を湖面の様に映しながら、綺麗に磨き上げていく。

 床石が乾くと絨毯を戻し、今度はラーナが外へと運んでくれたベッドを叩く。
 シーツは改めて見ると、どこに人が寝ていたのか分かる染みがあり、それをピスティが城の洗濯場へ運び、代わりのシーツを持ってきてくれた。

 模様替えもかねて家具を配置していくと、部屋は見違えるほど綺麗になった。

 あとは、女子三人で部屋を飾り付けていくだけである。
 壁やテーブルに花を飾り、綺麗にした燭台に蝋燭をセットする。
 クレマティオが有事の際には着て戦場に行く一張羅のプレートメイルをピカピカに磨き、見栄え良く棚に片付け、ケルシュの絵本や玩具箱をピスティが綺麗に、まるでパズルの様にしまっていく。

 それから滅多に着る事の無い一張羅のドレスを用意して、ヴァローナが二人に着て見せると、もっとコルセットを締めて胸を強調した方がとラーナの怪力でコルセットを締めあげられていった。
 あらゆる肉が胸に集中し、ラーナと似た様なサイズだった胸はレーラーよりも大きく見えた。

 ラーナが厨房から、頼んでいた料理をテイクアウトしてくると、テーブルの上に綺麗に並べ始める。
 少しでも冷めない様に、料理には皿の上に蓋がされていた。



 ヴァローナは二人に礼を言い、困った事があったら部屋の掃除じゃなくてもお返しをすると約束して、部屋で一人になった。

 するとクレマティオの使うスプーンへと近づいていく。

 手には、例の薬のボトル。

 今日のディナーは、ソース後掛けのフワフワオムレツと、海鮮スープであった。

 ヴァローナは、クレマティオの席に置かれたスプーンに薬を薄く塗ってみる。
 この量なら、急激な事にはならないだろう。

 カルロッタとキアラの渡してきたボトルには、取説も無ければ用法容量のメモリも無い。
 レーラーは、一口飲んでモアレムがあれだけ痛がっていたので、大量摂取は勧めないと言っていた。
 少なすぎれば、後日別の方法で量を増やせばいい。
 そんな準備をしていると。

「ヴァローナ、戻ったよ」

 クレマティオが帰って来てしまった。
 クレマティオは部屋を見るや否や、花や蝋燭の明かりでムードアップされて綺麗になった部屋で、ディナーのセッティングをするドレス姿のヴァローナを見て、こんなに洒落た事をされた事は無かったと、否が応でも感動してしまう。

「おかえりなさい、早かったわねクレオ」

 一方で、ヴァローナは薬のボトルがテーブルに置かれたまま、クレマティオの視界にさらされている事に焦っていた。
 どうにか回収して、隠さなければならない。

「言うほど早いか? 月を見てみろよ、いつも通りだ」

「そ、そうね。じゃあ、着替えて席に座ってて、私はお茶の準備をするから。すぐにディナーにしましょう」

「それぐらい俺が準備するから、あとは座っててくれよ。今日は俺の為に頑張ってくれたんだろ? あとは全部俺がやるから」

 クレマティオに椅子に座らされてしまい、立つに立てない。
 気持ちは嬉しいが、薬を隠したい。

「そうだ、今日は久しぶりに酒を飲まないか? 副長がお前と一緒に飲めって、こんなのをくれたけど、何かあったか?」

 クレマティオの手には、強い酒が握られていた。
 二人共に酒が強く無いが、少量なら気持ち良く酔える。

「さ、さあ……」

 クレマティオが服を洗濯籠に入れ、部屋着に着替えると、お茶を入れに部屋を出て行った。

 この隙に薬のボトルを隠さなければとヴァローナが立ち上がろうとする。

「ヴァローナいる? まだ食べてない? これなんだけど」

 ラーナがノックと同時に部屋に入ってくると、オムレツのソースを一種類、厨房の人が渡し忘れていたと、わざわざ届けてくれた。
 タイミングが良いのか悪いのか。

「ありがと、もうクレオ帰って来てて、今からディナーなの、だから」

「あっ、ごめんなさい邪魔しちゃって」

 そんな事をしていると、クレマティオが部屋へと戻って来てしまった。
 早すぎる。

「よおラーナ。ピスティと今日は手伝ってくれたんだって?」

「ヴァローナがあなたの為にどうしても完璧なディナーにしたいって言うのに、断れないでしょ?」

 ラーナの言葉にクレマティオはヴァローナへの愛おしさがグンと増していく。

「それよりクレオ、ど、どうしてそんな事知ってるの?」
 ヴァローナは、薬の事が気になって、態度がチグハグのままである。

「そこでピスティが、ヴァローナ先輩の為にって、わざわざお茶の準備をしててくれてて、会ったんだよ。気の付くいい子だな。お前も明日改めて礼を言えよ」

「う、うん……」

 ヴァローナは「余計な事を!」とピスティに心の中で八つ当たり。

「じゃあ、私は退散するから、素敵な夜を楽しんでね」

 ラーナが自分の部屋に帰っていくと、二人は席に着き、薬のボトルがテーブルの上に置かれたままディナーがはじまってしまった。



 クレマティオは、いつも通り今日あった出来事をヴァローナに話し、食事を口へと運んでいく。

 ヴァローナは、薬のボトルをチラチラ見ながらも、クレマティオに変化が無いかと観察する。

 少し経つと、クレマティオが「窓が開いてるのに、なんか今日は暑く無いか?」と言い出し、服のボタンの前を開けた。

 ヴァローナは、これは薬が効いているのかと見守る。

「卵好きだろ? あまり食べてないけど、調子でも悪いのか?」

「え、そんな事無いけど」

「ほら」

 クレマティオは、自身のスプーンでヴァローナの皿のオムレツを小さな一口で食べられる量をすくい上げると、ヴァローナの口へと近づけていく。
 クレマティオがあれだけ使った後なのだから、薬は残っていないだろうと思いつつも、抵抗感のあるままスプーンに触れない様にオムレツを口に含むヴァローナ。

 クレマティオは、ヴァローナが疲れていて、自分に甘えたいのだなと思い、またスプーンで「あ~ん」と口に運ぶ。

 運ばれてくるオムレツを食べながらヴァローナは、クレマティオが暑がる以上の変化を見せないなと思いながら、黙って食べさせられる。
 考え事をするヴァローナを見てクレマティオは、もっとして欲しい事があるのではと考える。

 クレマティオは、オムレツに二種類のソースを左右にかけ、違う味を交互に食べさせ始めた。
 ヴァローナも、クレマティオの口にオムレツを運び、二人は仲良く食べさせ合いを続けると、クレマティオは更に味を変えようと、薬のボトルに手を伸ばし、ホワイトソースの様な薬をたっぷりとヴァローナのオムレツにかけ、ヴァローナの口へとスプーンで運ぼうとする。
 ヴァローナは、口を半開きに、クレマティオの差し出すオムレツを口に迎えたいが迎えられない状況に。

「もう腹いっぱいなのか?」
「え~と……あんまり一杯食べると、眠くなっちゃうでしょ?」

 靴を脱いだ足でテーブルの下越しに、クレマティオの股間を触ってみた。
 甘勃ち状態で、ズボンの下にはっきりと形が分かった。

「おい急に何するんだよ!?」

 クレマティオが嬉しそうに笑いながら言うと、ヴァローナは席を立ちベッドサイドへ。
 計画は失敗したが、二人きりの時間はしっかりと楽しみたい。

 クレマティオに背中を向け、ヴァローナはドレスを脱ぐと、コルセットだけになる。
 下着は初めから付けていない。

 クレマティオが遅れて席を立ち、ヴァローナを追ってくると、二人は唾液を交換する濃厚なキスを始める。

 食後なので、オムレツのソースの味がする。
 ヴァローナは、いまさらオムレツは普通に最後まで食べておけば良かったなと後悔した。

 チラリとテーブルの上を見る。
 薬漬けになったオムレツは、捨てるしか無いだろう。
 薬も勿体無い事をした。

 そう思って、思おうと思って見た。



 ヴァローナの皿は、空になっていた。
 ヴァローナの中で、クレマティオとの今までの食事の景色が蘇った。

「ケルシュ、残さず食べないとダメだぞ。残しちゃうならパパが代わりに食べちゃうからな」

 食べ物の保存手段が限られるこの世界では、出された料理は食べきれなければ、保存が出来ない物は捨てるしかない。
 傭兵団に入る前は戦災孤児だったヴァローナとクレマティオの二人は、食べたくても食べられない経験を嫌と言うほどしていた。
 クレマティオは、食に関しては貪欲で、捨てるぐらいなら勿体無いから食べるを、騎士になった現在でも続けていた。
 ソースをかけてしまった卵料理は、当然残せば捨てる事になる。

 クレマティオは、ヴァローナが背中を向けているほんの数秒の間に、ヴァローナが残したオムレツをソースまで残さずにペロリと平らげていたのだ。



(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!)



 ヴァローナはキスを拒否する様に口を離そうするが、クレマティオはヴァローナの口の中へと舌を差し込んで絡めてきて、ヴァローナの頭に添えられた手の力が強くて逃げられない。
 一度意識してしまうと、ソースの濃厚な味の中に、ソースの味に隠れて鉄の味や、違和感のある渋み、臭みがあるが、ソースの量が多いせいか、クレマティオは気付いていない様だ。

 キスしている場合では無い。
 真実を話して、二人共すぐに薬を吐き出さないと大変な事になる。

 だが、話しをしようにも、最初のスプーンに盛った薬でいつも以上に興奮したクレマティオのキスから逃れる事が出来ず、ソースの味が残る唾液がどんどん口の中に流れ込んできてしまう。

 飲み込まない様に我慢するのにも限界になり、ヴァローナは大量の唾液が喉の奥へと流れ込んでいるのを感じながら、焦っていく。



 薬の量が多かったからであろう。
 レーラーの言っていた十分も経たずに、二人の身体に変化が起き始めた。



 クレマティオはモアレムと同じ様に、身体の中に正体の分からない力強い何かを感じ、ヴァローナはと言うと(これか!? ヤバイヤバイヤバイ!)と思いながら、腹の底、子宮を中心とした下腹部に生理の時に感じる様な鈍い痛みとオナニーで絶頂を感じる直前の様な湧きあがる感覚を感じ始めていた。



 そのすぐ後であった。



 二人はキスなどしていらない股間を襲う激痛に、綺麗にしたばかりの絨毯の上へと仲良く倒れた。
 クレマティオからすれば、何が起こっているのか分からずに股間を押さえる事しか出来ない。
 ヴァローナは、何が痛いのかも分からないまま股間を押さえる。

 クレマティオは、二人を同時に襲っている痛みから、食中毒を考えたが、股間が痛くなる症例など聞いた事が無く、聞いた事があったとしてもこの痛みではまともに動く事も出来ない。

 それでも、元凶とは知らずに苦しむヴァローナの心配をして、ヴァローナをベッドに寝かせてから、ヨロヨロと城の魔法使いであるエルムに助けを求めに行こうと立ち上がろうとした。

 ヴァローナは、クレマティオの手を絶対に離すまいと握り、逃がさないつもりで捕まえた。

 この痛みは、もう少しで引いていく筈である。
 こうなってしまったのなら、仕方が無い。



 ヴァローナは、クレマティオと朝までセックスをしてやると考えていた。
 これは、薬の効果のせいでもあった。



 ヴァローナがレーラーから聞いた情報の通り、飲んだ量が少なかったヴァローナの方が先に痛みが引いて来ていた。
 ヴァローナが恐る恐る股間から手をはなすと、ヴァローナのクリトリスが大きくなっているではないか。

 普段は包皮に隠れ、刺激されて勃っても皮から二、三ミリ顔を出すだけの小さなクリトリスだったのに、薬の効果で包皮の下から一センチ程、まるで男性器の亀頭が生えてしまったように大きくなってしまっていた。

 それを見たクレマティオは、引いていく痛みに股間を押さえないで済む様になると、自分の身体の変化にも気付いた様でズボンを脱いだ。
 クレマティオの下着の腰側から大きくはみ出したペニスは、普段が勃起時で十六センチ程なのに、この時は二十センチにまで見た事が無い程に大きくなっていた。

「ヴァローナ……お前、まさか」

「あはははは……ばれちゃった」

 ヴァローナは、言葉では嘘をつけない。
 だが、彼女は生粋のトラブルメーカーである。
 その事はクレマティオも重々承知していた。

 食事にでも薬を盛られていたのだろうとクレマティオは呆れ、大きな溜息をついた。
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