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第4章

第4章:ルイシーとストラディゴス3(別視点:回想)

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 まだストラディゴスと出会って、一年も経っていませんでした。

 ですが、巨人達はそれぞれ戦果をあげて、全員が個人のテントを与えられたんです。

 私は、ストラディゴスのテントで毎日留守番をする日々を過ごしていました。



 その頃になると、自分の置かれている状況にも慣れ、悪魔にしか見えていなかったフォルサ傭兵団の中が少しずつ見えてきます。

 団長のフォルサは、私を犯した一人で、私のお母さんを目の前で殺した仇です。

 顔も声も忘れる筈がありません。

 凶暴で獰猛な狼の様な男で、傭兵団の創設者であり、団内では一目を置かれる存在で、私の目から見ても別格でした。
 でも、フォルサはストラディゴスの事を気に入っていたのか、まるで我が子の様に扱っていたんです。

 だから、ストラディゴスが私を飼う事も、最初は許したんだと思います。
 いつもストラディゴスと一緒にいて、一人前に育てようと色々な事を教えていました。

 ストラディゴスも、フォルサを尊敬している様でした。

 二人を見ていると、フォルサが悪魔である事を忘れそうになる時がある程に、フォルサは優しさも人情も持ち合わせた良き団長であり、良き父親代わりでした。



 そんなフォルサにとって私は、どうでも良い存在だったのでしょう。

 私を犯した事も、私のお母さんを犯して殺した事も、まるで私の勘違いかの様に、振舞うんです。
 ストラディゴスのペットを見る様な目で私を見ては、気まぐれに餌を与えてもきました。

 フォルサが触った物だけは、私は意地でも食べませんでした。
 食べるふりをして、裏で吐いていたんです。
 食べるふりと言っても、口に入れるだけじゃないですよ。
 一度飲み込むんです。

 そうしないと、フォルサはストラディゴスに暴力をふるうから。

 ペットの躾がなっていないと、酔ってフォルサは暴れるんです。



 この頃の私は、ストラディゴスと共に、ずっと何もしないでテントの中で過ごせれば幸せだと本気で考えていました。

 テントの外には、痛い事も、怖い事も、嫌な事も、あまりにも多すぎます。

 ただ穏やかに、ストラディゴスと何も喋らずに添い寝でもしているのが、手の届く幸せでした。



 * * *



 最初、それが来た時、私は恐ろしくなりました。
 相談する人もおらず、ひたすらに怖かったんです。



 大人になってしまったんです。



 胸は膨らみ始めていましたが、毛はまだ産毛も生えていませんでした。

 あまりにも穏やかな日々をストラディゴスと共に過ごしていて、彼の事を好きになっていた事で、忘れていました。

 もし、この事がストラディゴスにバレたら、今の関係が壊れてしまうと思ったんです。

 当時の私にとってセックスとは痛く、不快な事以外の何物でもありませんでした。

 ストラディゴスの事が好きと言うのも、恋愛対象では無くて、兄の様な存在に思っていました。



 いくら大人になったと言っても、私の背はちっとも伸びていません。
 産めるようになっただけで、産めるかは別の話です。

 ですが、股から流れ出る血をどうすれば良いのか、教えてくれるはずのお母さんもおばあちゃんも、もういません。

 自分の身体を襲う変化、制御できない出血と異物感。
 そして、ストラディゴスに与えられた、たった一枚の服を血で汚してしまった現実。

 私がどうして良いのか分からずに泣いていると、テントに戻ってきたストラディゴスが、そこに立っていました。



 彼は、泣いている私に近づくと、見た事も無い怒った表情を浮かべて、私に言ったんです。

「誰にやられた」

 私は、言っている意味が分かりませんでした。
 彼は、私が強姦されて血を流していると思っていたんです。

 私の血が、大人の証と彼が気付くと、彼はすぐにエピティリアを呼んできました。

 私は、汚れた服を脱がされて、着替えを渡されると、エピティリアにどうすれば良いのかを教えてもらい、少しだけ安心しました。



 * * *



 それからも、ストラディゴスは私に変わらずに接してきました。

 彼は私が大人になったからと言って、何もしてきません。

 むしろ、具合が悪そうな私を献身的に看病さえしてくれたんです。

 この時ぐらいから、私はストラディゴスの事を愛している事を自覚し始めました。



 最初に自分で気付いたのは、彼に対して恐怖でも不安でも無く、裸を見られる事への羞恥心を感じた時です。

 相変わらずブカブカな服を一枚だけで、パンツも穿いていない私は、うっかりすると彼に下半身を晒してしまう無防備な格好です。

 ですが、長いスカートが欲しいなんて事は、私は言えません。
 我儘を言えば、全てを失うかもしれない私は、与えらるのを待つ事しか出来ないんです。

 でも、彼はすぐに気付いてくれました。
 私が下半身をストラディゴスに晒すのを恥ずかしがって嫌がる事に。

 彼はすぐに、ロングスカートを私に持ってきました。



 他には、彼の匂いです。

 不快だとしか感じなかった足、脇、汗、体臭に口臭、髪の油、その全てが不快だと感じると同時に、吸うと安心するんです。
 そのうち、不快感よりも安心感が増していき、不快にさえ感じなくなりました。

 この頃から、彼の服の匂いで、私は誰にも教えられずに自慰を自然に覚えました。

 でも、まだ●●歳なんて、立ち回り方も下手だし、注意力も散漫です。
 それに、頭も悪いです。

 自慰をしたまま、彼の服を片付け忘れたり、うっかり見られそうになったり。
 彼も、私が彼の持ち物で自慰行為にふけっていた事は気付いていたと思います。



 それでも、ストラディゴスは、私を犯す事はありませんでした。



 * * *



 私から始めました。



 でもきっかけは、ストラディゴスです。

 彼は時々、夜にうなされていました。
 私は、戦場の夢でも見ているのだろうと、ずっと思っていました。

 でも、彼は寝言で誰かに謝っているんです。

 誰に謝っているのか。

 ついに、ある晩に聞き取る事が出来て、私は驚きました。



「……ルイシー……俺の……せいだ……」


 彼は、ずっと夢の中で私に謝っていました。



 私を犯した事を、彼はずっと気にしていたんです。

 私の家族を仲間が殺した事も、止められなかった事を、ずっと悔やんでいたんです。

 私が誰にも心を開かない事も、気に病んでいました。



 あの出来事を止められる筈も無いのに、一人悔やんでいた彼は、私を抱かなかっただけではありませんでした。
 あの日以来、誰も抱けなくなっていたんです。



 私は、そんな彼が仇では無い事を、私を犯した他の悪魔とは違う事を知った時、ようやく救われた気がしました。
 ストラディゴスは、純粋に、あの時に取り得る手段を使って、身を削って助けてくれたと思えたんです。

 私は、涙が止まりませんでした。



 だから、夢の中で泣いている彼を、起こしたんです。

「ありがとう……」

 私が泣きながら、何に礼を言っているのか彼は分かりませんでした。

「……ルイシー……? どう、したんだ?」

「……許すから……もう……泣かないで、ください……」

 私は、彼に口づけをしました。
 二人共、生まれて初めてしたキスでした。

 たどたどしく、震える唇を重ねるだけのキス。

 でも、それで十分でした。

 私はストラディゴスを愛する決意をし、ストラディゴスは呪いが解けた様に私のキスで不能だったのが回復したんです。



 その時、まだ私はストラディゴスと出会ってから二年も経っていませんでした。
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