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第4章

第4章:ルイシーとストラディゴス2(別視点:回想)

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 当時まだ1●歳だった彼は、身も心も引き裂かれた私を犯し、さらいました。

 彼の名はストラディゴス。
 私が悪魔に見えていた傭兵達の仲間でした。

 端正な顔立ちをした巨人族の青年で、当時は髭はまだ生えておらず、下の毛も生え揃っていないような半人前の傭兵でした。



 さらわれた私は、彼と合わせて六人の巨人が使う狭いテントに連れ込まれました。
 一人の巨人でも私は十分以上に絶望をしていたのに、五人も増えたと私は絶望には底が無い事を思い知ります。

 ですが私は、ストラディゴスと二人の巨人によって身体を洗われ、傷の手当てをされました。

 一人はエピティリアと言い、ストラディゴスにとって妹の様な存在で、ストラディゴスの最初の仲間の一人でした。
 もう一人は、シリアンと言い、彼はストラディゴスにとって兄弟の様な存在で、やはり最初の仲間の一人でした。

 二人はストラディゴスに頼まれ、彼が留守の時は私の看病もしてくれました。
 エピティリアとは、今でも良い友人です。



 しかし、当時の私にはそんな未来、知る由もありません。

 自分がこれから先どうなるのかだけが不安で、ストラディゴスに食事を与えられ、看病されている間も生きた心地はしませんでした。

 私は、毎日、毎日、毎日、ストラディゴスに再び犯される事を恐れながらも、逃げる事も出来ません。

 逃げようとしているのが見つかれば、殺されるでしょう。
 当時、三百人近くいたフォルサ傭兵団のテントから、誰にも見つからずに逃げるのが無理なんて、●歳の時にだってちゃんとわかります。

 それに、逃げて、その後どうすれば良いのか考えると、私は行動を起こせませんでした。
 どこにあるのかも分からない故郷の村を目指しても、家族は誰一人、私の帰りを待ってはいないのですから。

 自分の傷が治れば、また犯されると思って、粘膜に張った白いかさぶたを剥がして傷口を自分で広げた事もありました。

 でも、ストラディゴスは私の傷を毎日、包帯の交換の時に、しっかりと見るんです。

 傷を自分で広げているのがバレた時は、殺されると思いました。

 ですが、彼は私に対して怒らず、黙って傷に軟膏を塗って手当だけすると、傷口を触れない様に両手にも包帯を巻いたんです。

 私は傷が治ったらストラディゴスは私の事を犯す気で、傷が治るのを待っていると思っていました。



 * * *



 さらわれてから、数週間後。

 私は、ついに傷が治り、包帯を取られました。
 もちろん、ストラディゴスにです。

 彼は、私の毛も生えていないあそこを指で触って、傷が塞がっているのを確認すると、この時、初めてちゃんとした服をくれました。

 パンツ?
 幼い時に、パンツなんてありませんよ。

 それまでも、私は包帯をパンツの様に巻かれているだけで、そもそも何も着ていませんでしたし。



 ブカブカの大きな服を着た時は、それだけで少し生き返った様な気がしたものです。



 それからも、毎日、毎日、夜になると私のとなりで眠るストラディゴスが、いつ再び犯しに来るのか、本性を表すのかと怯えながら過ごしました。

 だって、そのために私は彼にさらわれたのですから。



 ですが、彼は一向に手を出してきませんでした。

 来る日も来る日も、一緒に食事をして、寝るだけの日々。

 その時、彼は私を嫁にでも貰うのか、自分のモノを私が受け入れられる様に育つまで待っているのだと思っていました。

 傭兵や盗賊が、さらった異性を恋人や結婚相手に選ぶのなんて常識ですから、きっと彼もそうなのだろうと。

 常識に従うのは簡単です。
 でも、素直に従えるかは別でした。



 彼は、私をそうしたくてさらっただけの盗人では無いのです。
 家族を殺した悪魔達の、仲間なんですから。

 身体の傷が癒えても、心の傷は開いたままでした。

 夜寝ていれば、家族の生首の前で代わる代わる犯される夢を見ましたし、収納に閉じ込められたまま血に溺れる夢も見ました。

 そんな思いを私にさせた奴らを許せる筈も無く、と言って、その時の私には悪魔達を頼らずに生きる術もありません。



 親の仇と寝食を共にしていて、私の心はすり減っていきました。

 家族全員を殺し、目の前でお母さんを犯して殺した悪魔達に媚びて余生を死ぬまで生きる事に、どんな価値を見出せるでしょうか?

 自殺を考えた事は何度もあります。

 ストラディゴスを殺そうと考えた事も、何度もありました。
 彼が仇じゃない確信が無いのに、彼を特別扱い出来る訳が無いじゃないですか。

 でも、どちらも出来ませんでした。

 死にたくなかったから。

 一人で生きるのが怖かったから。



 * * *



 最初の変化のきっかけは、食事でした。
 餌付けと言っても良いかもしれません。

 彼が、私のお腹が鳴った時に、自分の分を分けてくれたんです。

 ストラディゴスが生命線の私にとって、彼から与えられる物が全てです。
 他の傭兵達は、私には近づきもしませんでした。

 私は、彼から貰えるものは、何でも貰いました。
 その頃は、今にして思えば、私は彼の愛玩動物の様な存在だったと思います。
 親の仇かもしれない不信感はあるんですけど、彼だけが私の世界でした。

 威嚇して近づいては、結局は餌を与えられる惨めな生物です。

 エピティリアは怪我が治ってからも世話こそしてくれましたが、私に情が移るのを嫌がったんだと思います。
 その当時は距離があり、彼女はストラディゴスの頼みだから私の面倒を見てくれていただけでした。



 そんな状態が続いていると、嫌でも、ちゃんと誰に従うのが得なのか分かってくるんです。

 親の仇かもしれなくても、故郷を襲った悪魔の一人かもしれなくても、ストラディゴスに気に入られようと自然に身体が動くんです。

 彼の手から直接ご飯を食べたり、一緒に眠る時にも、寄り添って寝たり、最初は、そうやって距離が近づいていきました。



 * * *



 それからすぐ後。
 私が●●歳の時、彼が戦場で大けがをして帰ってきたんです。

 私は、傷の手当てをされる彼を見て、彼が生きる事を願いました。

 飼い主がいなくなったら、ペットはどうなるか。
 私は、彼無しには生きられません。

 それから何日もストラディゴスの看病をして、包帯を代えたり、傷口を縫ったり、少しずつ手当の仕方を彼で学んでいきました。

 しばらくすると、ストラディゴスの手当ては私の仕事になったんです。

 不思議なんですけど、悪魔達に家族を殺されて、犯されて、さらわれて来たのに、彼の手当てをしている時だけは気が楽になって、変な言い方ですけど、傷の手当てをするのが嬉しかったんです。

 そんな場所でも、自分の仕事があって、居場所があると人は安心するのだなと幼いながらに思いました。



 でも、もっと不思議なんですけどね。
 そんな生活を送っていると、段々とストラディゴスが怪我をしないで帰ってくる事を願う様になってくるんです。

 私自身、最初は信じたくありませんでした。
 彼は、私の家族の仇かもしれないんです。

 そんな相手を好きになったなんて、死んだときに家族に顔向けできません。
 家族を殺した悪魔の仲間になってしまったら、先祖の恥。
 きっと、天国に行っても家族は私を迎えてくれないでしょう。

 それよりも、悪魔なんですから、地獄に落ちるだけかもしれませんけど。



 それでも、私は彼と寝食を共にして過ごす日々が、好きになり始めていた気持ちに嘘は付けませんでした。
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