さよならトイトイ~魔法のおもちゃ屋さん~

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ここは魔法のおもちゃ屋さん

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 午前九時の開店時間を控えた、ちょうど一時間前。ぼくは毎日、決まってその時間に目が覚める。

 ぼくには上掛けが必要ないから、真っ白なクッションだけ敷いた木製の寝台の上で寝ている。横になったままの視界の先にはガラス製の大きな両開きの扉がある。大金もなければ盗まれるような貴重品だって、この店にはない。だから無防備なガラスの扉だけで、防犯対策は特にない。

 むしろ、ここに置いてある自作品が「盗人が狙うような価値ある作品」と認められる日が来たとしたら、店主は泣いて喜ぶかもしれないなぁ。いつでもお待ちしていますよ、盗人さん。

 冗談はさておき、今日も店主は開店時間まで起きて来そうにない。今は制作の追い込み時期で、昨晩も遅くまで作業をしていたから。ここはいつも通り、ぼくだけで静かに開店準備を進めようと思って起き上がる。

 子供の工作用に売られていた薄めの木の板を組み合わせて、トンカントンカン、釘と金槌でぼくの家は作られた。ぼくがこうやって正式に動き出す前にあらかじめ用意してくれたものだから、その工程は知らないんで、ただの想像。

 塗装はあえてしないで、自然な木目の風味だけ味わえるようにしてくれた。全体的に焼いたバタートーストを思わせる色あいの、見た目も住み心地も大好きな、ぼくだけのお城。ぼくの体は温かさなんてわからないんだから、もののたとえってやつだね。

 身支度を整えていたところで、ガラス扉をコンコン叩く、見慣れた女性の姿が見えた。ご存じの通り、時刻はまだ朝八時。開店まであと一時間もあるんだけど、そういえば今日は木曜日だったか。

「ひらけ~、ゴマ!」

 細々とした開店準備くらいは出来るけど、ぼくの小さなこの体では、人間の為の大きなドアを開けることは出来ない。だから店主は、ぼくが決まった言葉を告げるとドアを開けられるように魔法を仕掛けておいてくれてるんだ。こんな風に、自分がきちんと毎日起きていさえすれば必要のない機能ではあるんだけどね。

「おはよー、オシモトさん」
「トイトイおはよう! ごめんねぇ、今日も開店前にお邪魔して」

 彼女は当店の常連さんで、リオ・オシモトさん。毎週木曜日だけはお昼以降の出勤で、どうしても早朝から作業をしたいからと開店一時間前からやって来るんだ。

「こっちこそ。来てくれるってわかってるのに、今週もまだ店主が寝たまんまなんて、ごめんなさい」
「いいのよぉ。聖夜まであとひと月もないでしょう? 今はいっちばん忙しい時期じゃないの」
「そう。毎日てんてこ舞いで」
「そうよね。でも、おかげでこの街のみんなは毎年良い思い出を貰ってるんだもの」

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