上 下
111 / 111
その言葉は、費やした全てに報いる sideシホ

シホの秘密

しおりを挟む
 わたしのお母さんは色々なことを頑張っていて忙しすぎて、わたしと一緒にいられる時間はとっても少ない。でもね、一年に三日だけ、一日中わたしと一緒にいてくれる日があるの。


 わたしと、お母さんの誕生日。それと今日、二月二十日。亡くなったわたしのお父さんの誕生日。

 その三日間だけは、わたしとお母さんは王宮じゃなくて、お父さんが生きていた頃に借りていた宿のお部屋で寝泊まりするって決まってるの。宿のおじいちゃんはこの三日間だけはその部屋に、他のお客さんを絶対に泊めないで、わたし達のために空けておいてくれる。

 お父さんが大好きだった食堂のご飯を食べて、街をお散歩する。

 そして……宿に帰る前に、街の入口に行って、門から外へ出る。ちょっとだけ歩くと、お父さんの眠る石碑がある。


 わたしとお母さんは一緒に並んで、お父さんの石碑の前で目を閉じて手を合わせた。わたしはこの後やらなきゃいけないことがあるので、たいていいっつもお母さんより先に目を開けて、お母さんのお祈りが終わるのを待ってるの。

 今日もいつもと同じそんな感じだったから、目を開けたお母さんがわたしの顔を見て、にっこり笑う。

「それじゃあ、今日もお父さんとお話ししようか」

「うん」

 わたしは頷いて、お父さんの石碑を見ながら、話し始める。




「お父さん。今日はお誕生日、おめでとう。

こんなこと言ったらお父さんは嫌だなって思うかもしれないけど、わたしね。お父さんがそばにいなくて、会えなくて寂しいなって、あんまり思わないんだ。

グランティスの街でお父さんを知ってる人達に会うと、いっつも言われるの。

『シホちゃんはお父さんの分も、幸せになってね』って。

これってお父さんが生きている間に、いっぱいい~っぱい頑張ったからだよね。お父さんに会えなくなって十年も経っても、お父さんを忘れてない人やお父さんのことが好きな人達がこんなにいるなんて、すごいって思う。

お父さんのおかげで、わたしに幸せになって欲しいって応援してくれる人が、この街にはた~くさんいるんだよ。


だからシホはね、お父さんに会いたいっていうよりも、いっつもこう思ってるの。

お父さん、大好き。って」




 大切にしたい人に本当に伝えたいことは、心の中で思ってるだけじゃなくて、ちゃんと言葉にして言ってあげて。


 お母さんはいつもそう言うから、わたしはお父さんの眠る場所に来る時、お祈りするだけじゃなくてちゃんと声に出してお話しするの。



「シホの言う通りね……わたくしの気持ちも、十年経ってもあの頃と何も変わらない。お父さんを愛しているし、シホのことが大好きよ」



 ここにいる時だけはシホとしか言われないと、お父さんとわたしのどっちなのかがわかりにくくて困っちゃうなぁ。これだけはお母さんには絶対に言っちゃダメだよねって思うから、心の中だけでこっそり伝えてる。


 お父さんとわたしだけの秘密だよ?
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

証拠はなにもないので、慰謝料は請求しません。安心して二人で幸せになってください。

ふまさ
恋愛
 アデルの婚約者、セドリック。アデルの幼なじみ、ダーラ。二人がアデルの目の前で口付けを交わす。  そして。 「このままアデルが死ねば、きっとなんの障害もなく、きみと一緒になれるのに」  セドリックの台詞に、ダーラが「……セドリック様」と、熱っぽい眼差しを向ける。 「軽蔑したかい?」 「いいえ、いいえ。あたし、同じことを思っていました。だってこのまま、例え意識を取り戻さなくても、アデルが生きていたら、セドリック様はずっと縛られたままなんじゃないかって……」 「流石にずっとこのままじゃ、それはないと思うけど。でもやっぱり、死んでくれた方が世間体もいいしって、考えてしまうよね」 「そう、ですね。でもあたしたち、酷いこと言ってません?」 「かもね。でも、きみの前で嘘はつきたくないから。その必要もないし」 「ですね」  クスクス。クスクス。  二人が愉快そうに笑い合う。  傍に立つアデルは、顔面蒼白なまま、膝から崩れ落ちた。

【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ
恋愛
 第二王子レイナルドはその見た目から酷く恐れられていた。人を信じられなくなってしまった彼の婚約者になったのは……。 ※恋愛小説大賞エントリー作品です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...