魔法剣の姫は、まもなく散る猛き花を愛しました。

sohko3

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その言葉は、費やした全てに報いる sideシホ

シホの秘密

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 わたしのお母さんは色々なことを頑張っていて忙しすぎて、わたしと一緒にいられる時間はとっても少ない。でもね、一年に三日だけ、一日中わたしと一緒にいてくれる日があるの。


 わたしと、お母さんの誕生日。それと今日、二月二十日。亡くなったわたしのお父さんの誕生日。

 その三日間だけは、わたしとお母さんは王宮じゃなくて、お父さんが生きていた頃に借りていた宿のお部屋で寝泊まりするって決まってるの。宿のおじいちゃんはこの三日間だけはその部屋に、他のお客さんを絶対に泊めないで、わたし達のために空けておいてくれる。

 お父さんが大好きだった食堂のご飯を食べて、街をお散歩する。

 そして……宿に帰る前に、街の入口に行って、門から外へ出る。ちょっとだけ歩くと、お父さんの眠る石碑がある。


 わたしとお母さんは一緒に並んで、お父さんの石碑の前で目を閉じて手を合わせた。わたしはこの後やらなきゃいけないことがあるので、たいていいっつもお母さんより先に目を開けて、お母さんのお祈りが終わるのを待ってるの。

 今日もいつもと同じそんな感じだったから、目を開けたお母さんがわたしの顔を見て、にっこり笑う。

「それじゃあ、今日もお父さんとお話ししようか」

「うん」

 わたしは頷いて、お父さんの石碑を見ながら、話し始める。




「お父さん。今日はお誕生日、おめでとう。

こんなこと言ったらお父さんは嫌だなって思うかもしれないけど、わたしね。お父さんがそばにいなくて、会えなくて寂しいなって、あんまり思わないんだ。

グランティスの街でお父さんを知ってる人達に会うと、いっつも言われるの。

『シホちゃんはお父さんの分も、幸せになってね』って。

これってお父さんが生きている間に、いっぱいい~っぱい頑張ったからだよね。お父さんに会えなくなって十年も経っても、お父さんを忘れてない人やお父さんのことが好きな人達がこんなにいるなんて、すごいって思う。

お父さんのおかげで、わたしに幸せになって欲しいって応援してくれる人が、この街にはた~くさんいるんだよ。


だからシホはね、お父さんに会いたいっていうよりも、いっつもこう思ってるの。

お父さん、大好き。って」




 大切にしたい人に本当に伝えたいことは、心の中で思ってるだけじゃなくて、ちゃんと言葉にして言ってあげて。


 お母さんはいつもそう言うから、わたしはお父さんの眠る場所に来る時、お祈りするだけじゃなくてちゃんと声に出してお話しするの。



「シホの言う通りね……わたくしの気持ちも、十年経ってもあの頃と何も変わらない。お父さんを愛しているし、シホのことが大好きよ」



 ここにいる時だけはシホとしか言われないと、お父さんとわたしのどっちなのかがわかりにくくて困っちゃうなぁ。これだけはお母さんには絶対に言っちゃダメだよねって思うから、心の中だけでこっそり伝えてる。


 お父さんとわたしだけの秘密だよ?
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