107 / 111
あなたが守ってくれた未来
貴方との約束Ⅱ
しおりを挟む
三月二十日。シホの、初めての月命日。わたくしは彼の埋葬された場所へ向かいました。
シホが埋葬された直後はとりあえずの目印として十字架を立ててありましたが、この一か月の間に王家はきちんと建碑しました。彼の名前だけではなく、傀儡竜であったこと。グランティスの未来のために、最後に命を捧げて戦い抜いた記録を文章にして刻みました。
わたくし達の世界の千年間に、傀儡竜は何人も生まれて、歴史の影でひっそりと亡くなってきました。太陽竜に安楽死された者もあれば、謂れなき神罰を受けて苦しむことを回避するため、自ら二十年目を迎えない選択をしたり。同様に、その境遇を憐れんだ第三者が手にかけたり。
傀儡竜という存在が確かにいたのだと、正式な記録として後世まで伝え残したのは、我が国を除いて他にはありませんでした。
「あなたは……オーデン?」
「ああ……ヒメサマ、か」
石碑には、先客がいました。ロムパイア使いの剣闘士、オーデンです。
「シホはたまに、いっしょにあそんでくれたんだ。おれはこきょうをおいだされて、このくににともだちがいないんだろって」
オレも、似たような立場だからな。そう言ってオーデンを誘って、頻繁にご飯をご一緒したのだそうです。似たような立場というのは事実かもですが、社交的なシホはこの国の友人がたくさん出来たはずです。その上でなお、オーデンを気遣える人柄だったのですね。
こうして直に会話したのは数年振りですが、あの時よりも少し、話し口が聞き取りやすくなっている気がします。
「シホのおかげで、けんとうしのなかまともふつうにはなせるようになった。このくにに
いてもさびしいと、おもうひがなくなった。だから、これからも、けんとうしをつづけていくんだ」
「ええ。わたくしも、いつかあなたと同じ剣闘士として戦えるようになる日を目指して、頑張りますからね」
「けんとうしどうしになったら、ヒメサマがあいてでも、てかげんはしない。シホとやくそく、したからな」
わたくしとの対戦の時に「わざとまけてやってもいいぞ」と言ったという話を聞きつけたシホは、オーデンに忠告してくださったのだそうです。「レナはいつか、絶対に剣闘士になるはずだ。そうなった時には試合であたった時、手加減してやるなんて言うなよ? そういうのは逆に、レナに対して失礼なんだからな」って。……そうなった時には、自分がオーデンにそれを伝えられる状況にないかもしれないから。先々の話であると承知で、苦言を呈しておいた。
いつの日か、わたくしがそこに辿り着けると信じて……。
シホが埋葬された直後はとりあえずの目印として十字架を立ててありましたが、この一か月の間に王家はきちんと建碑しました。彼の名前だけではなく、傀儡竜であったこと。グランティスの未来のために、最後に命を捧げて戦い抜いた記録を文章にして刻みました。
わたくし達の世界の千年間に、傀儡竜は何人も生まれて、歴史の影でひっそりと亡くなってきました。太陽竜に安楽死された者もあれば、謂れなき神罰を受けて苦しむことを回避するため、自ら二十年目を迎えない選択をしたり。同様に、その境遇を憐れんだ第三者が手にかけたり。
傀儡竜という存在が確かにいたのだと、正式な記録として後世まで伝え残したのは、我が国を除いて他にはありませんでした。
「あなたは……オーデン?」
「ああ……ヒメサマ、か」
石碑には、先客がいました。ロムパイア使いの剣闘士、オーデンです。
「シホはたまに、いっしょにあそんでくれたんだ。おれはこきょうをおいだされて、このくににともだちがいないんだろって」
オレも、似たような立場だからな。そう言ってオーデンを誘って、頻繁にご飯をご一緒したのだそうです。似たような立場というのは事実かもですが、社交的なシホはこの国の友人がたくさん出来たはずです。その上でなお、オーデンを気遣える人柄だったのですね。
こうして直に会話したのは数年振りですが、あの時よりも少し、話し口が聞き取りやすくなっている気がします。
「シホのおかげで、けんとうしのなかまともふつうにはなせるようになった。このくにに
いてもさびしいと、おもうひがなくなった。だから、これからも、けんとうしをつづけていくんだ」
「ええ。わたくしも、いつかあなたと同じ剣闘士として戦えるようになる日を目指して、頑張りますからね」
「けんとうしどうしになったら、ヒメサマがあいてでも、てかげんはしない。シホとやくそく、したからな」
わたくしとの対戦の時に「わざとまけてやってもいいぞ」と言ったという話を聞きつけたシホは、オーデンに忠告してくださったのだそうです。「レナはいつか、絶対に剣闘士になるはずだ。そうなった時には試合であたった時、手加減してやるなんて言うなよ? そういうのは逆に、レナに対して失礼なんだからな」って。……そうなった時には、自分がオーデンにそれを伝えられる状況にないかもしれないから。先々の話であると承知で、苦言を呈しておいた。
いつの日か、わたくしがそこに辿り着けると信じて……。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる