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あなたが守ってくれた未来

また、会おうね

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「うん……シホりんはね、最後まで諦めないで、頑張って戦ったよ。それにね。姫様に一番大事なことを言わなかったって、後悔してた」

「後悔……大事な、こと?」

 ぐずぐずと鼻水を啜りながら、トイトイの肩を掴んで引き離します。顔を見ながら話したくなったから。

「ぼくが伝えたかったのは、『姫様にちゃんと、言ってあげれば良かった』って、後悔してたことだけ。ぼくから教えるのはダメなんだ。姫様がこれから、一生を生き抜いてね。いつかぼく達と同じ『影の世界』に来た時に、シホりんは自分でその言葉を伝えたいんだって」

「いつか……また、会える? シホにも、トイトイにも……」

「うん! 残念だけど、影の世界から姫様の世界は見えないんだ。だからいつかまた会えたら、姫様が生きている間、どんなことをしてきたのか。ぼくとシホりんに話してよ。ぼく、その時が来るのを楽しみにしてるから」

「うん……わかった。わたくしも、楽しみにしてるね。そんな日が来ることを」

「シホりんはね、生きてる二十年で頑張りすぎて疲れちゃったから、姫様がこっちに来るまでは眠っていたいんだって」

「トイトイ……わたくしがこちらに来るまで、シホを見守ってあげて。お願いね」

「まかせて! ぼくね、昔の姫レノ様も、今の姫レナ様も、ずっとず~っと、大好きだよ」

「わたくしも……ね、トイトイ……」



 眠りながらもずっと、泣いていたのでしょうか。目覚めると、瞼は重たくて、水分は欠乏していて、体調は劣悪なままです。

 ですが……心の方は。深い深い悲しみの霧が、晴れているかのようでした。すっきり爽快、とはもちろん言いません。最愛の人を喪った悲しみがそう簡単に癒えるはずもありません。

 ただ……夢の中とは違って、わたくしの中には確かな、愛し子の存在があります。お腹を撫でながら、思いました。この子と一緒に、頑張って生きていこう。いつかまた、最愛の彼らに会えた時。楽しい一生でしたよと、誇らしい報告が出来るように。
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